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釣行記

釣行レポート

2015年3月2日

ド派手なラインでアマゴを狙う

 釣り談議のなかで、ラインのカラーが話題となった。
 たとえば、ユニチカ・シルバースレッドアイキャッチのナイロンを使用したばあいの問題点である。このどぎつい黄色いラインの先にルアーを結んで仕掛けをあやつると、あまりに視認性がよすぎて、鱒が必要以上に警戒心を抱きはしないかという懸念であった。
 渓流における年輩の釣り仲間の多くは餌釣り師だが、常々私が「(ラインの)色なんか関係ねえ!」と断言口調で語るのを聞いて、自分なりに想像力を働かせてくれて、「まあ、そうだよな」と納得してくれているみたいなのだが、そのまた知り合いのルアーフィッシングを嗜む若い世代が、このことについて少なからず疑問を持っているようだと教えてくれた。
 じつは、そのような不信感を抱いているルアーフィッシャーマンが私の知り合いにも何人かいる。やはり、若い層に多い。

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切り立つ岩盤下の淵も狙い目

 そこで、今回は、もう若いとは誰も言わない五十歳を間近にして、いまだになおも<ラインのカラーが気になってしょうがない症候群>の完治をみない徳島県在住のKと一緒に白川谷川へとマイカーで向かった。もちろん、クリアーラインとカラーラインで魚の食いにどの程度差が出るかを調べるためである。
 出かけたのは、渓流解禁二日目の三月二日の朝遅くのことである。
 白川谷川は吉野川の一支流で、規模的にはどうということはないが、吉野川本流に沿う国道から白川谷川に並走する林道へと折れて、そのまま奥へと車を進めていくと、四キロほどで釣り場に着く。本腰を入れて釣りをするには少し物足りないと言えなくもないが、何かを試したくてちょっと出かけるにはもってこいの便利さだ。

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シルバースレッドアイキャッチ

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仕掛けを組む筆者

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模様に趣のある青い石が多い

 解禁日はあいにくの雨で、しかし、それは早春のやさしい雨であったらしく、とくに餌でアマゴを狙うには悪くない条件となった。だから、「昨日は大いに賑わった」と様子を聞きに入った最寄りの雑貨店の店主が目尻を下げて言うので、Kと私は「場荒れしているんじゃないか?」と互いに目と目で心配し合った。

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このサイズが3尾釣れた

 様子を見ようと、私たちは上流へと車を走らせた。
 春まだ早い今頃は源流に近くなるほど魚体も錆びて、ルアーの追いもイマイチよくないだろう。そうにちがいないから、中下流域に的を絞りたいところだが、さて、その肝心の釣り場に空きがあるかどうかが問題だった。いかにも釣れそうな渓相を呈していても、魚が均一に配られているわけではない。やはり、よく釣れるエリアというのがおのずと決まってくる。通い慣れた渓流なら、渓相に自然の外力による大幅な作り変えでも起こらぬかぎりは、そこを叩けばまずまちがいなく毎年無難な釣果が望める。むろん、一番川を攻めての話ではあるが、早朝に餌釣り師が探り歩いた後でも、手を変えて釣れば、つまりルアーやフライで上手に攻めれば、それなりに楽しめるものだ。

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石の向こう側の流れを探る

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緩い流れの瀬尻でアマゴがヒット!

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アマゴを手に受ける筆者

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きれいなアマゴが釣れた

 どこも名だたるポイントにおいては必ず餌釣り師の姿を見た。道から流れが近いため、平日の月曜でも、地元の人や定年退職組が、危なげなく気軽に釣り歩けるとあって、中流域に集中しているようであった。彼らは、この時間帯なら、むろん二番川を釣っている。これだけ賑わっているのだから、当然夜明けから釣りをスタートさせた一番川の釣り師がいたはずである。
 もし、ここで時を待って竿を出すとすれば、私たちは三番川ということになる。本物の美味しい餌でアマゴの鼻面をくすぐる餌釣りのあとを、早春のころは不利だとされるルアーで釣るのだから、それでは結果は見えている。
「けれども、ここまで来たら、やらないわけにはいかないな」
「そうだな」
「バカだとわかっていてもね」
「釣りバカだからな」
 Kはシルバースレッドトラウトクリアー4lb、私はシルバースレッドアイキャッチ(ナイロン)4lbを使って釣る。
 製材会社のそばの橋から上流は、大きな石がごろごろして見目にも荒い渓相だが、いちど釣りはじめると道から流れまでの距離が遠くなるので、上流へ向かうかぎり1キロくらいは歩かないといけない。
 橋のなかほどから上流を眺めると、見える範囲には釣り師がいなかった。もうここしかないなということでKと意見が一致した。
 製材会社の敷地内を歩かせてもらって、敷地のはずれから流れのほとりまで降りていった。
 正午を少し過ぎていた。
 釣り場の半分ほどは陽ざしを受け、残りは山林のせいで翳っていた。
 私たちは日陰のなかに素敵な流れを認めると、そちらを慎重に攻めた。
 釣りはじめてしばらくはアタリすらなかった。それだけならよいが、河原に釣り師の足跡が目についた。今日のものか、昨日のものか、それは判別しかねた。どちらにしても、昨日解禁なので、昨日今日の足跡にはちがいない。それは、確かなことだった。
 Kと私は、やれやれというふうに顔を見合せた。
 ところが、その直後、Kのロッドの曲がるのを私の目が捕えた。Kは私の左側前方の流れをミノーで攻めていた。岩が流れを遮蔽するせいで、どのようにヒットさせたかは判然としないが、Kの軽快なやり取りにKの気持ちが映えるようで、私は黙って彼の後姿を石の頭に飛び乗って注意深く眺めた。
 いいサイズのアマゴであることはまちがいなかった。ところが不運にもKは待望の本命を取り逃がしてしまう。空中のラインがふけて、ロッドが一本のただの棒と化すところを私は見てしまった。
 駆け寄ると、気落ちする様子もなく、「浮かせたはいいが、暴れられて鈎がはずれた。悪くないサイズだったよ」と彼はふり向きざまに言った。
 それからしばらくすると、今度は私の仕掛けにアマゴが食いついた。まあまあのサイズのアマゴである。Kのこともあるので慎重にやり取りした。
「やるじゃないか」
 石の上に落ちて暴れるアマゴを取り押さえようとしている私の頭上からK の声が降って来た。
 このとき、まだKも私も余裕があった。Kが釣り落としたあと、私が釣りあげた。まだ終点までは先が長かった。大きな堰堤の前後に広い淵があって、その前後は魚影が比較的濃い。私たちは、そのことをじゅうぶん承知で、そこへたどり着くまでに何尾か拾えたら儲けものだとくらいにしか考えてはいなかった。河原の踏み跡からも期待できる状況にないと判断してもいた。
「悪くない」と私は言った。
「その黄色いラインも、な」とKは私の手元をちらっと見た。
 二人は笑顔でうなずき合った。
 ところが、目当ての堰堤の前後を釣りきったあと、Kも私も顔色がなかった。
 どういうわけかアタリもなかった。流れのなかを走る魚の影も見なかったし、その気配すら感じられなかった。
 その後も、苦戦を強いられた。
 そして、終点までもう少しという場所まで来ても、Kにはアタリすらなかった。
 私は、一尾のアマゴをキャッチした後も、アタリが三回あった。そして二尾のアマゴを追加した。計三尾のアマゴを結果として私は手にしたわけだ。
「これではっきりしたな」とKが言った。
「女神の気まぐれの恐ろしさが」と私はおどけてみせた。
「そのド派手な黄色いラインのたいしたものだってことが。だよ」
「でも、たった三尾だ」
「おれはボウズだ」
「もし、俺がクリアーなラインでやったら十尾釣れたかもしれないな」
 「何こきやがる」
「冗談。冗談だよ」
 どうやら幸運の女神には誰も逆らえないらしい。
 女神にふられたKは、「厄を落とさなくては」と苦々しげにそう言って、帰りに夕食を奢ってくれた。
 こんど一緒に釣るときは、お互いいい釣りをしたいものだ。
 Kはいい奴だから、これは私の本心である。
 では、みなさんも、よい釣りを!

【今回の使用タックル、ライン】

ロッド : ウエダ STS-501MN-Si
リール : ダイワ ニューイグジスト2004
ライン : ユニチカ  シルバースレッドアイキャッチ(ナイロン)4lb

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