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釣行記

釣行レポート

2011年7月23日

吉野川源流行

若いころは、道が狭く、高速道路がなかったので、5時間くらいかけて出かけていた。
しかし、現在では愛媛県の伊予西条インターで高速道路を降りて、加茂川に沿って車を走らせ、寒風山トンネルを抜けて高知県入りすると、吉野川の源流まではもうそう遠くはない。
「昔からすると所要時間半分強というのはうれしいな。ずいぶん近くなった」
「うん。それに道自体よくなったしね」
「そのぶん釣りに行く人も多くなったのでは?」
そう言って話に割り込んできたのは今岡秀之こと秀ちゃんであるが、もういまとなっては年に2度ほどしか釣りに行かないので、その辺の事情は定かではない。ただ、行くたびによく釣れるので、場荒れしてしまったという感じはまったくしない。ただ、魚のサイズが一昔前に比較して小ぶりになった感じはする。と、言うより尺を超すサイズになかなかお目にかかれなくなった。しっかり脚力を酷使することで釣果を稼ごうという気持ちがあるのなら別だが、車から降りてたいして歩かずに入れる沢ではアマゴもイワナも魚体の小型化が顕著である。
今回、私たちがルアーフィッシングを楽しんだ白猪谷キャンプ場付近の本流筋や支流筋でも、それは何ら変わらない。
「しっかりしたいい流れじゃないですか。大きいのが出そうだな」
渓流に架かる橋のなかほどから流れを眺めて秀ちゃんは明るい表情をみせたが、長年ここへ通う者ならそのような期待はこれっぽっちも抱かないだろう。
しかし、私は、「そうだな。出るといいな。大きいの」とひとまず答えておくことにした。
それにしても、秀ちゃんはヤル気満々のようである。車から降りるとすぐにウェーダーを履いて仕掛けの準備を始めた。しかも、田所さんの2倍くらいの速さで、てきぱきと組みあげていくのだ。
私はその一部始終を、缶コーヒーを飲みながらはたから見ていた。
「橋の袂から遊歩道伝いに釣っていけばよいのでしたっけ。川通しにいけなくなるといちど遊歩道に出てから、さらに奥へ奥へと釣っていく。いやあ、それにしてもいい流れだなあ」
秀ちゃんは自分の言いたいことだけ私たちに告げると、さっさと目的の沢のほうへと行ってしまった。
「やれやれ。秀ちゃんったら」
田所さんと私は、そんなせっかちで抜け目のない秀ちゃんの背中をあきれ顔で見送った。
「さてさて」と田所さんが言った。
「さてさて」と私が言った。「どうしますかな」
「私は、支流の名野川を少し釣ってみようと思うのですが」
「うん。少し増水気味だからね。こういうときの名野川は、もちろん悪くないよ」
「ですよね。私もそう聞いている」
「どちらも大きな沢だから、楽しみだ。ただ、蝮に噛まれないように気をつけて」
「えっ、蝮が出るの?」
「そりゃあ、いつどこでばったり会わぬともかぎらない」
「たしか、蝮は最初に跨いだ釣り師に腹を立てて、ちょうどそのあとから歩いてきた奴が跨ごうとすると股間に噛みつくのだっけ」と田所さんが言った。
「冗談じゃないですぞ。ほんとに噛まれたら一巻の終わりだ」
蝮は沢付近にも少なくない。蛇というと草が深く繁った場所を警戒する人が案外多いようだが、そのような場所ではそう滅多に出くわさない。蝮は適度に湿度があって、草が、ぽそっ、ぽそっ、という程度に生えた明るい場所を好む。単独でいることもあるし、群でいることもある。あまりたくさん蝮がつるんでいるばあいは、ときに異臭が立つ。何とも生臭い危険なにおいが辺りに漂う。蝮をとって生計を立てている人ならこういう場所に目をつけて、一匹見つけるとそれを先が股になった棒きれで押さえつけて鳴かせる。いじめると蝮がどういう声で鳴くのか私はその声を聞いたことはないが、そうすると仲間がぞろぞろ睨みをきかせて集まって来るのだそうだ。そこを手慣れた蝮捕りの名人は次から次へと捕まえて袋のなかに入れていく。するといっぺんに片づいて、ごっそり儲かる。
「蝮は赤よりも黒のほうが、相当気性が荒いらしいな。黒は人に出くわすと逃げずに飛びかかってくるそうだよ。追いかけてくるそうだ。あんた、逃げ足に自信ある?」
「・・・・・」
「どうよ?」
「そういう、あんたは?」
「走って逃げだすのは、どうってことないが、反射神経に問題ありかな。もう年だからねえ。不意をつかれたらかわせない」
「同じく!」
バカなことを言い合っている間にも秀ちゃんは沢沿いの遊歩道をずんずんずんずん進んでいく。仕掛けの準備を済ませて橋の上へ行ってみると、沢のほとりの岩の陰から流れの様子をうかがう秀ちゃんの姿が上流にあった。
「ずいぶん真剣だな」
「釣る気満々ですな」
「ここからだと遠いけど、一枚写しておくかな」
「一枚といわず、たくさん撮ってあげてくださいよ」
「服を脱いで、派手なパンツだけになって、『はい、はい、はい!おらっ、いくぞぉ!』ってか」
「それって今売出し中の、あのカメラマンじゃあないの」
そんなことはどうでもよいが、あまりに眺めがよかったので、それに点景としての秀ちゃんもなかなかいい絵になっていたので、何枚か撮影した。
その後、田所さんは名野川へ降りて行った。私は沢の分岐点に位置するキャンプ場の炊事場の木の椅子に腰かけてしばらく休んだ。
私は二人が釣りをする写真を何枚か欲しかったが、二手に分かれた彼らをいっぺんに撮ることはできない。
仕方がないので、イワナかアマゴを1尾釣るまで田所さんについて行くことにした。
すると、釣りはじめて間もなく、勢いのある瀬の脇の緩い場所で水面がはじけた。夏陽にしぶきがきらめいた。
「水面直下で食ってきたよ」と忙しそうにリールを巻きながら田所さんが言った。
「いいところに決まったと思ったら、やっぱりいたね、イワナ」と私はカメラを構えながら、それに答えた。

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「とりあえず釣れました」と田所さん。釣れてホッとしたようだ。

私は、あと何枚か釣っている姿を撮影すると、「じゃあね」と田所さんに告げて、その場を辞した。
遊歩道を歩いていると、しきりに野鳥の声がした。鳴き声から何鳥かを判別できるほど私は野鳥に詳しくないが、それでも数種類の声が入り混じっているようだということだけはまちがいないようだった。
普段、秀ちゃんは粘るタイプだから、まだそう遠くまで行ってはいないだろうと高をくくっていたら、どうしてなかなか追いつけない。しっかりとした流れのこれはと思う大場所ばかりを追いかけて、上流へ上流へと足を延ばしていったのだろう。
やっと追いついてみると、秀ちゃんはすでに何尾かイワナを釣りあげていた。しかし、どれも小ぶりで気が乗らないらしく、「もっと大きいのが釣れたらお願いします」と言って私の撮影の申し出に応じてはくれない。
退屈だから私も釣ることにした。

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岩かげから流れをうかがう秀ちゃん。

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吉野川の源流域。さて、秀ちゃんがどこにいるか、わかるかな。

すると、何の気なしに投げた私のファーストキャストに良型のイワナが出た。いくらなんでも第一投目はまずいと思って、私はそっとその良型の本命を水に戻そうとした。すると、私に先行して釣っていた秀ちゃんがふり向いて目ざとくそれを見とがめた。
「いいサイズじゃないですか。しかも、そこは僕が今さっき歩いて通ったところですよね。じゃぶじゃぶと歩いた場所です。それなのに釣るなんて、ちょっとへこむな」
「いや。そのう、何の気なしにね。・・・・・」
「ああ、そうですか。何の気なしに、ね」

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アップクロスで反転流を狙う筆者。

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沢の轟くなかで、ちっぽけな人間の声など頼りないと思ったが、どうして秀ちゃんの声は思いのほか私の鼓膜を強く打ちすえた。
「ほら、秀ちゃん。あそこを見なよ」
私は、気をそらそうと、いまライズした場所を指さして言った。
「ん?」
「あそこよ。ほら、ピシャッと、また跳ねた」
都合いいことに、同じ場所でくり返しライズしている。
「どこ?」
「あの大きな沈み石のすぐ前。流も緩いし、そっち側からアップクロスにキャストして、表層をスプーンで棒引きすればいっぺんで食いつくと思う。アマゴだな、きっと」
秀ちゃんの目がぎらぎらしてきた。痛いほど裸の好事家のあの目である。普段、紳士的な態度で定評のあるこの男にして、この目である。
やれやれと私は思った。・・・・・見ているうちに嫌気がさしてくるのは、他人のなかに自分をみてしまうせいだろうか。
「あっ、出た」
秀ちゃんにもライズする魚が見えたようだ。
「ほらね」と私はすかさず早く釣るよう勧めた。
私は、少し離れて秀ちゃんが釣るのを見ていた。リールのベールを返してから、なかなかキャストに移らないのは、いつもの慎重さから来るのか、それともよほど緊張しているためか、それは容易にははかれない。
やがて、秀ちゃんは釣りを中断してルアーを交換しはじめた。表層を楽にひける形と重さのスプーンに変更しようとしている。そうしたからといって、より確実にヒットに持ち込める確証はないが、いろいろ試すのが釣りの一つの楽しみであるのはまちがいない。
「ラッシュ黒ゴギ1.7gと見た」
そばに寄るなり私がそう言うと、
「鱒玄人は、どの大きさのものも、よく釣れますからね」
そう答えながら秀ちゃんはルアーのリングを通したスイベルを指できちんと閉じた。
ふたたびキャストの態勢をとる。
私は定位置まで戻り、いままさにキャストしようとする秀ちゃんの背中を見守った。
今回は秀ちゃんも田所さんも、ラインはユニチカシルバースレッドトラウトクリアー4lbである。ナイロンラインは釣りたいタナをキープしながら自在に釣るのに適している。フロロほどではないが高比重だから一定の層を難なくトレースすることができる。
この日、私はPEラインを使用したが、PEはナイロンにくらべて引く層がどうしてもうわずりがちである。それでも流れを横から釣るばあい、その流れの筋をはずさずに長い距離誘いつづけられるというメリットもある。比重の軽いPEは空中に容易にラインを張ることができるので、水流の干渉を受けるのは水中にあるリーダー部分だけである。加えて、ほとんど伸びちぢみしないPEなら細かな誘いも釣り手の意のままに行うことができる。
ナイロンか、PEか。

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今回使用したライン。

それは、水況をみて決めるが、しっかり使いくらべてみて、その両方の特性を体に覚え込ませることが何よりも大切である。
流れの上に張り出した樹の枝が少し気がかりだったが、秀ちゃんはその枝の下側をかすめるように上手にキャストした。
このとき、空中でラインがピンと張るように指でラインの出を加減しながら落とすべきところへとルアーを落とす配慮も同時に怠らなかった。
「やるじゃない」と私は心のなかで褒めた。
やるでしょ!と秀ちゃんの背中がそれに応じるかのようである。
その背中の自信が、私には頼もしく思われた。
それから間もなく、
「フィッシュ・オン!」と秀ちゃんが揚々声をあげた。
ヒット!でも、来た!でもない。
フィッシュ・オン!である。
秀ちゃんがのけぞる。あとずさりする。石に足をとられて転びそうになる。ロッドが弧を描いて撓る。ラインが水を切り裂いて右へ、左へ、底へ、上へと走った。
それでも、秀ちゃんは動じない。慌てないのである。私からは秀ちゃんの背中が邪魔をして足元へと引き寄せられた魚がアマゴなのかイワナなのかよくわからなかった。
「アマゴか?引きからするとアマゴのようだけど」と私は背後から秀ちゃんに声をかけた。
どうやら無事に岸へと魚をずりあげたのだろう、その肩の荷が下りたという表情で秀ちゃんは顔だけこっちに向けてうなずいた。
見ると、大きさはさほどでもないが、精悍な顔つきの体高のある見映えのいいアマゴであった。
秀ちゃんは、アマゴイワナを釣りあげたり釣り落としたりしながら、その後もさらに上流を目指して釣りあがっていった。
「いい沢ですね、ここは」と秀ちゃんは釣れるたびに同じ言葉をただただくり返した。
陽が山の向こうに隠れてしまうと辺りが急に薄暗くなった。
山の日暮れは早い。
もう野鳥のさえずりは聞こえなかった。

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樹のなかの薄暗い流れでヒットしたアマゴ。面構えが野性的だ。

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筆者も本命をキャッチ。サイズはイマイチだが。

「もうじゅうぶん楽しんだかい。そろそろ引きかえさないと車にたどり着く前に暗くなってしまう」
私は頃合いをみて秀ちゃんにそう言った。
「ああ、ほんとだ。釣りをしていると、あっという間に時間が過ぎますね、いつものことだけど」と秀ちゃんはいつになく満足げな表情をみせた。
「今季最高の釣果じゃないの?」と私は祝福半分揶揄半分の声で言って、秀ちゃんの肩をぽんと叩いた。
秀ちゃんは肯定も否定もせず、ただにやにやしていたが、やがてこう言った。
「田所さん、釣れたでしょうか?」
「なあに、心配には及ばないさ」
私たちは沢から道へ出るために対岸へと流れのなかを渡っていった。
そして、木なかの踏みつけ道を辿って林道へと出た。

【今回の使用タックル】

ロッド : ウエダ STS-56Siなど
リール : ダイワ セルテート1003など
ライン : ユニチカ シルバースレッドシルバースレッドトラウトクリアー 4lb
       ユニチカ シルバースレッドシルバースレッドアイキャッチPEマークス 4lb
リーダー : ユニチカ シルバースレッドトラウトリーダーFC 4lb

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