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釣行記

釣行レポート

2011年7月29日

深淵余談

7月29日(金)にミキカツさんと深淵にアマゴを釣りに行った話を少し前に書いた。たしか、午後2時くらいから沢へ降りて釣りを開始したと書いたと思う。あれには余談があって、じつは予定通りならもう少し早い時間に沢へと降りていたはずなのだ。
「あっ、行き過ぎた」とミキカツさんが運転席で声をあげたときには駐車場所をすでに通り過ぎて、もっとずっと山頂に近いところを走っていた。山道はおおむね沢に沿う一本道で、山頂とは標高約1,400メートルの落合峠である。
「道は狭いしUターンするのも面倒だろ。10キロあるなしだから、久しぶりにこの先の峠まで涼みに行こう」
「悪いな。うっかりしていたよ」
烏帽子山の登山口を過ぎて、さらに登りの道を奥へと向うと、キャタピラを履いたトラックがのろのろと前方に動くのが見えた。道のひろまった場所には、このトラックのほかに土木会社の社用車らしきバンが駐車していた。みるとトラックの荷台に乗った二人の若者が大きな鋏をふるって頭上の枝を切り落とそうと頑張っているところであった。道路上にバサッと切られた枝が落ちると少し歳を食った2人が素早く動いて道ばたへと寄せていく。見ているよりもなかなか大変で根気のいる労働であると思われたが、皆一様に表情が明るく和気あいあいと楽しそうに作業にいそしんでいる。ほんとうに皆いきいきと働いていた。
「山の暮らしは町にくらべて不自由なことも少なくないだろうけど、ああいう笑顔に出会うと悪くないなと思うね。むしろ、羨ましい」
「おっと、意見が初めて合ったね。俺もそう思ってみてたんだ。そういえば大人ばかりか山の子供もまたいい笑顔を見せるよな。きちんと挨拶するし、受け答えだってはきはきしてるし、気持ちがいい」
作業の邪魔にならないように少し手前で車を停めて待っていると、作業が一区切りついたところでトラックを道の端いっぱいまでよけてくれ、道を半ば塞いでいる枝を急いで取り除いてくれた。それもいやいや行うのではない。むしろ、待たせてもうしわけない、すまないといった気持がきびきびした動きと心のこもったお辞儀などから、こちらにひしひし伝わってくる。
すぐ横を通過するときミキカツさんはスピードをよりいっそう落としてお辞儀をした。私も同じようにお辞儀をした。
しばらくのあいだ木洩れ日のなかを車は進んでいったが、いつか頭上の青葉が絶えて夏の青空が顔をみせはじめた。

そこからもう少し行ったところで、
「おい、見ろよ。あそこ」と三木さんが声を弾ませた。
それは、釣り場と山頂とのちょうど中間くらいだろうか、いや、もう少し山頂寄りだろう、ちょうど崖を這いのぼって来た沢が道と交差する地点であった。
その沢というのは、むろん、深淵の最源流部。その流れが細く、道の下を暗渠となってくぐり抜けていく。
「急にブレーキを踏むなよ。熊でも出たか?」
「いや。ほら、あそこに咲いてるだろ、アジサイ。この時期に咲いているのは珍しいな」  ミキカツさんは、山側のようやく車一台駐車できるスペースに車を寄せて停めると、車を降りて山あいを涼しげにくだって来る小さな沢の脇に配られた白いヤマアジサイの花に目をみはった。
私もつられて外へ出てみた。そして、崖っぷちから滝のように谷底へと落ちくだる沢の流れを道から覗き込んだ。まるで水は大落下をたのしむかのようにいきいき休むことなく落ちつづける。

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沢の涼気を受けて冴え冴えと咲くヤマアジサイの白花。

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ようこそ!わが庭園へ。

ミキカツさんは、依然、山アジサイに見とれていた。
「なんとも涼しげないい眺めだ。じっさい、相当涼しいし、山の緑と岩と流れとアジサイと、配置が絶妙だよ。まるで庭園の一景のようだ。庭師があしらったかのような風情がある」
「そいつは光栄だな。そう褒められちゃ、くすぐったいぜ。」
「なにがよ?」
「だから、俺なのよ」
「なにが?」
「庭師よ」
「あんたが?」
「そうそう」
「あんたが、か?」
「そうだよ」と私は言った。「俺が別の場所から掘って来て移したのよ」
「ほんとに?」
「ほんとうよ」
「ほんとにほんと?」
「ああ、ほんとにほんとうさ」
この沢筋は春が遅い。そして夏が涼しい。秋が早く、冬の厳しさはひとしおだ。水温は一年を通して低く、それは釣りのとき水にウェーダーの脚を浸してみるとすぐにわかる。
「でも、このヤマアジサイをご存じないということは、あんたもしかして峠まで登ったことないんじゃないの?」
私が訊くと、
「昔、若いころに峠を越えて落合川沿いを祖谷川まで下ったことがあるが、未舗装のがたがた道で車が腹をすらないかと冷や汗かいたよ。だから景色を眺める余裕なんてこれっぽっちもなかった」
「たしかにひどい道だった。昔は」
「しかし、うまく植えたもんだな」
「ただ、移植しただけさ。あとは勝手に株が増えて、数年後にこうなった」
私たちが冷涼な沢のほとりで休んでいると、上から土木の道具を積んだ軽トラックが降りて来て、「こんにちは。峠を見に行くのかね」と訊いてきた。
相当年配の人のよさそうな山の男で、助手席の男も同じ年格好の爺さんであった。ひとりは林業組合の帽子をかぶっていたが、首にタオルを巻いた助手席の爺さんは膝に同じような帽子を載せていた。
「そうです」と私は言った。「あそこは熊笹がじつに見事ですね。風がとおるといい音がする。小雨のときもいい音がする。何が咲いていますか?」
「今年は遅いねえ。冬が厳しかったから、咲くものも咲かないねえ。アジサイ、ホタルブクロ、トラノオ、そのくらいかねえ」
爺さんは笑顔で親身になって教えてくれた。
もう峠も間近というところまで来て、道が大きくカーブする山側の急斜面にアジサイが咲いていた。それから、もう少し先にもアジサイが咲いていたが、どちらも山の萼アジサイではなくて、庭先でよく見かける玉アジサイであった。ブルーとピンクと二色咲いていた。
そこからどれほども進まないうちに雑木の林が原っぱに変貌した。びっしりと茂った熊笹の原である。頭上に遮るものが何もないせいで、いっそう空が近く明るく感じられた。
熊笹の原も明るかった。
そして、大気も同様に明るく感じられたが、それは夏の日差しのせいなどではなく、目には見えない空気の粒子ひとつぶひとつぶの発する光によって均一に保たれているように見えた。
「気分が清々するな」
「うん。よく照るのに汗すらかかない。まったく、ここは極楽だな」
岩場の裏を覗いてみると、ホタルブクロが咲いていた。みると岩の窪みにたまったわずかの苔に覆われた土に根を張っている。丈がごく低く、葉が小さくて、花は一輪のみであった。

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岩に張りつくように咲くホタルブクロ。

「何見てるの?」
「ほら、これ」
「ああ、さっき爺さんに教わった花」
「草姿がピカイチだね」
「うん。素晴らしい」
「南国のカクテルよろしく綺麗な色をしているな」
「うん。ほんといい色出してる」
さっき爺さんらはトラノオも咲いていると私たちに教えてくれたが、しかし、トラノオだけはどこをどう探しても見当たらなかった。いちめん緑の熊笹のなかに、その白い穂の花は、べつに目を凝らして探さなくても容易に見つかるはずである。なのに、とうとう私たちはそこを去るまで一株のトラノオすら見つけだすことはできなかった。
不思議といえば不思議である。

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落合峠の岩山。例年なら四国には自生しないとされている高山植物のタカネシュロソウが咲く。

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タカネシュロソウ。四国では滅多に目にしない。

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タカネシュロソウの苗を鉢に植えて育ててみたら咲いた。鉢が浅いため花も少なく草姿も小ぶりだ。

「どうも解せないな。こればかりは」とミキカツさんが首をかしげて言った。
「たしかに、トラノオと言ったよな、爺さん」
「ああ、言ったよ。たしかに聞いた」
私は道端の小石を拾って熊笹のなかへと投げ込んだ。すると、あてずっぽうに投げたにもかかわらず、小石の落ちた辺りから赤とんぼが夏の空へと舞いあがった。
「海抜1400メートル上空の赤とんぼだ」
「まるで飛行機なみだな」
「飛行機よりも、ずっとエコで偉いや」
「うん。偉い、偉い」
私たちはもうしばらくこの山頂の野原でのんびりしていたかった。しかし、私たちには別の目的があったので、むろん、のんびりなんかしてはいられない。
私たちは車へともどると、アマゴを釣るために来た道を沢のほうへと引き返していった。

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深淵の尺アマゴ。電気を流して密漁する奴がいなかった頃は普通に釣れたものだった。

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深淵は吉野川水系屈指の美渓として名高い。

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力みなぎる流れと美しい景観が釣り師を魅了する。

【今回の使用タックル】

ロッド : ウエダ STS-56Si
      ダイワ シルバークリークX506T-ULFS
リール : ダイワ ダイワ ニューセルテート1003
      カルディアキックス2004
ライン : ユニチカ シルバースレッドアイキャッチPEマークス 4lb
リーダー : ユニチカ シルバースレッドトラウトリーダーFC 4lb

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