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釣行記

釣行レポート

2013年3月24日

本を持って鱒釣りへ

読まねばならぬ本、好きで読みたい本など、いろいろであるが、鱒釣りに出かけるとき、まず本は必ずと言ってよいくらい持っていく。読むか読まぬか、それはその時々の気分次第だが、とりあえず車には乗せていく。渓流釣りへは持っていかないが、本流の鱒釣りなら普通に持って行って読む。春の日差しのもと、河原の石に腰かけて読むこともある。あるいは風の日の午後ならば土埃が舞いあがったりするので車内で読むこともある。どんな場合でも、どこで読んでも、川辺で本を読むのは悪くない。活字を目に追うスピードが遅いので、一度にたくさんは読めないから、時間を盗んで少しずつ読むわけだが、野鳥のさえずりや流れの音の響く河畔で読む本は、また格別である。
今日は、井伏鱒二の『釣師・釣場』を持って来た。この本は大変面白く、文中の随所にユーモアのセンスがきらりと光って、平明な文章でありながら情景や人物の描写のその闊達さからまるで映像を観ているような錯覚さえおぼえる。何回読んでも色褪せることがない。もう何十回読んだかわからない。今日持って来たのは、たぶん初代から数えて三冊目の文庫本である。一冊はどこかに置き忘れ、もう一冊は誰かに譲った。そして、手持ちのこの一冊も随分くたびれて来たので、もう一冊予備に買っておいてもよいかと思うが、最近物忘れが深刻で、ついつい忘れて買いそびれている。
ほんとうに面白い本なので、もっと詳しくこの本の話をしてみたいが、本の話ばかりしていると、「またかよ。早く釣りの話を書けよ。もうほんとうに」と私の原稿に毎度まいど目を通してくれているユニチカテグス発売元である日紅商事の冨士川さんに愚痴られそうだ。だからというわけではないが、まあ、井伏鱒二の釣りの文章はとにかく面白いので機会があればぜひともみなさん読んでみてください、とだけ最後に伝えてこの話はよすことにしたい。

では、そろそろ釣りの話をしよう。
3月24日(日)は、自由になる時間がごく少なくて、昼食後にようやく車で川へと向かうことができた。釣り場までは1時間余りで着くのだが、15時には納竿しないと今度は夕方以降の用事をこなすことができない。なにもこんな慌ただしい思いをして釣りに行かなくてもよさそうなものだが、根っからの川好きだから、まあ仕方ないだろう。
アメリカのフライフィッシャーマンであるノーマン・マックリーンの書いた自伝的小説をもとにずいぶん前に映画化されて全米で大ヒットした作品に『リバー・ランズ・スルー・イット』があるが、そのラストシーンで、年老いた彼がフライロッドを手に川で鱒を釣っているシーンが印象的であった。彼は、こうつぶやく。「私は川のとりこだ」と。
吉野川の大きな流れを前に、私は何度彼をまねてこの言葉をつぶやいたかしれない。おそらくそれはマクリーンにとってのモンタナ州ブラックフット川が私にとっての徳島県吉野川であるからなのであろう。
そして、私は今日もこの大きな吉野川の流れに鱒を求めてやって来た。今回は、池田ダムの少し下流で竿を出してみることにする。二つの瀬がそそぐ広大な淵を北岸側からルアーで攻める。まずは手始めに誰もが目を付けるはずの流れ込み付近をスプーンで広く探ってみたがアタリはなかった。底が見えないので、どれくらいの深さかわからぬが、白昼の晴天下では、鱒が紫外線を嫌って幽暗の水の深みに息をひそめているのかもしれなかった。流れ込み付近は表層の流れが複雑で、重く、速いことが、スプーンで広く探ってみた結果よくわかった。いつもより減水気味だが、流れは見た目よりも強いというわけだ。ここはひとつ深く潜るタイプのミノーでその下の緩い流れを攻めてみよう。複雑な流れの下の、おそらくは単調であろういくぶん緩やかな流れの層を探る。
私は、スプーンをケースのなかにもどして、別のケースからスミスDDパニッシュのサスペンドタイプを取り出してセットした。サスペンドだから水中を漂いながらも放っておけばゆっくり沈む。このルアーを使うのは久しぶりであった。
私は普段なら、まずスプーンか普通のミノーで釣ってみてダメなら、あっさり見切って釣り場を変える。つまり、車で別のポイントへと移動するのだが、今回のように時間に余裕がないときはそう言ってばかりもいられない。いろいろな手を講じて鱒をものにするほか仕方がないのである。
もし、ディープダイバーで攻めてみてダメならノリーズのメタルワサビーを使って縦の攻めで鱒に口を使わせることも選択肢の一つとして念頭に置いておかなくてはなるまい。
私はできるだけ早く鱒を釣りあげたかった。
だから、私はルアーをディープダイバーに変えてからも流れ込み付近に的を絞ってずいぶん熱心に探りを入れた。まずはタダ巻きで引いてみる。チョンチョンと竿先を動かして誘ってみるのも悪くないだろうと思い、それも試してみた。ただただ流れに任せて漂わせてみるのも良い手だ。沈むタイプのルアーのばあい流れに乗せてほったらかしておくやり方でも鱒は食ってくるのである。少し上流側へキャストしたのち、目の前を通過したルアーが下流側へと流れていく。沈むとも浮かぶともなくどっちつかずの状態で流れに揉まれながら下流へと流されていくわけだが、このあいだに行うことと言ってはラインスラッグをリールに巻き取るのと、竿の先を流れ漂うルアーの動きに合わせて下流側に徐々に移行するくらいのものである。
「おっ!」と私は言ってアワセをくれた。
そして、のけぞった。
ほったらかし釣法で、ほんとうに鱒がヒットしたのだ。
「深場だと信じてディープダイバーでと思ってその通り実行したのに、うまくやったつもりだったのに、熱心にやってみたのに、けっきょく食ってきたのは最初に当たってみた上層の流れだった。そんなのスプーンでも、普通のシンキングミノーでもやれることなのに、わざわざディープダイバーでなくったってよかったじゃないか。でも、まあ、結局はこんなもんなんだよなぁ」
だから鱒釣りは面白いともいえるのではあるが。
「ならば、最初から素直に食えよな」と私は愚痴を言ってみた。
そうは言っても、意外に早く鱒が釣れたので、私は内心ほっとした。
それにしても、風が絶えてしまってから、水の照りかえしがきつく感じられる。首のあたりがじっとり汗ばんだ。暑がりの私は鱒の釣れた安堵感も手伝ってか、すでに釣りをする気持ちが失せてしまっていた。
私は据わるのに手頃な木陰の石をみつけて、そこに腰をおろした。
そして、飲み物を少し口にしたあと、本をひらいて読みはじめた。さきにも述べた井伏鱒二著『釣師・釣場』である。この本は短編集で、どれを読むのも勝手だが、せっかく川へ来たのだから今日の気分に似つかわしい作品をと思って、「甲州のヤマメ」を読むことにした。そのあと、六月解禁のアユの友釣りを思って「長良川の鮎」も読みたかったが、そうこうしているうちにそろそろ帰路に着く時刻となったので、私は帰り支度をはじめた。
水辺を歩いて車まで帰る途中、笹鳴きが聞こえた。幼いウグイスのつたないその鳴きぶりがなんとも愛らしかった。
私は車へともどる途中、さっきまで釣りをしていた流れのほうを何度かふり返った。鱒がルアーに果敢に挑みかかって来たあの流れを目にすると鱒とやりあったあの手応えがその都度ありありと甦って私のこころを高ぶらせた。
最後にふり返ったとき、淵のなかで魚が跳ねた。魚は全身を水から躍りあがらせて、その白銀の身を宙にさらした。見誤るはずもない。その輝きはまぎれもなく鱒であった。
私は胸が高鳴った。
そして、最後に流れから離れて土手のほうへと向かう前に、いまいちど私は鱒をものにした流れ込み付近をふり返ってみた。
西に傾きかけた陽に輝きながら、流れは変わらずそこを流れていた。まるで何事もなかったかのように、滔滔と、そして静かに。
私は水辺に立ったまま呟いてみた。
「私は川のとりこだ」
そう、まさに川のとりこなのである。

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本流の主役であるナイロンは6lbが基本。写真右はアイキャッチ 6lb、左はトラウトクリアー6lb

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沈むタイプのミノーは多用な攻めが可能

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本流にはカワゲラなど大型の水生昆虫も少なくない

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河原にはスミレがたくさん咲いていた

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水辺の読書もいいもんだ

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いい型の鱒が釣れた

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流れの筋が消える辺りから下流側はドン深である

【今回の使用タックル&ライン】

ロッド : UMFウエダ STS-74MN-Si BORON
リール : ダイワ ニュー イグジスト2004
ライン : ユニチカ シルバースレッドトラウトクリアー 6lb

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