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釣行記

釣行レポート

2014年3月7日

早春の南大王川を釣る

 山林のなかを、細々とした踏みつけ道が、渓のほとりまでつづいている。山を手入れしやすいようにと林業従事者が便利なように切った、いわゆる杣道である。今はあまり聞かないが、昔は「杣」という言葉が使われていた。材木となる樹木の植わった山を杣山と言い、育てた木を切り出す人を杣人と呼んだ。杣は、「そま」と読む。樵と同義語ともとれるが、樵は自然林の中から必要な樹木を広く探して伐採することもする。むしろ、ニュアンス的にはそちらを生業としている印象が強い。だから、樵は猟師的なところがあり、杣人は山のお百姓さんともとれる。苗を植えて育てて伐る。そういうわけだ。
 3月7日(金)の正午前、車のなかで昼食を終え、そのジグザグに切った杣人のための道を私はルアーの道具を持ってくだっていった。野鳥のさえずりが聞こえた。互いを呼び合うというよりも危険を知らせる合図のような、どこか不安げな色の声だ。
「ヤッホー!」と野鳥に向けて私が声を発すると、相手はたちまち黙ってしまった。
 杉の木立のなかを、足元を確かめながら、なお慎重に歩みを進めていく。けれども、容易には流れへと近づけない。そのくらい渓は深かった。
 石にヌラの付着した滑りやすい渓流で大活躍のウェーダーも、杉の葉を敷き詰めた急な山の斜面をくだるときは、その信用が揺らいだ。じっさい、幾度か足を取られて転びそうになった。最初に転びそうになったとき、これはいけないと思って、杣人が枝を払ったあとそのまま始末をせずに残していった杉に枝を杖代わりにすることを思いついた。そして、そのとおり、手ごろな長さのものを拾って杖にした。
「もし、この先、猪にでも出くわしたら、すばやく面を打ちすえて、きっと一本取ってやろう。これでも剣道三段の腕前だ」
 えい!と杖を竹刀代わりに素振りして、調子のいいことを口にすると、またさえずりが、今度はずいぶん近くで聞こえた。
「なあ、おっちゃん、そ、それ、ほんまでっか?」と、さえずりは言っているように聞こえた。
「ほんまもなにも、釣り竿しか振ったことありまへん。エアーですがな」
「エアー?」
「そう。エアーギターの大会いうのがありますなあ」
「ああ、ギター、弾いている真似だけで、そのパフォーマンスのうまさを競うコンテスト」
「そや、それそれ。そやから、おっちゃんのは、エアー剣道三段の腕前や」
「そんな、アホな」
 杣道を半ばくだったころから、風が吹きはじめた。首の辺りがヒヤッとする。むろん、ウェーダーを履いてオイルジャケットを着ているので震えあがるほどの寒さではない。しかし、風は御免被りたいところだ。
 やがて、冷たく光る流れが木の間に見えた。渓の響きが次第にはっきり耳につきはじめ、風はなお強く吹いた。
 もう囀りは聞こえない。
 私は、ひとつ大きく息をして、杖を捨てた。

 渓流で釣りをしていると手が乾く。水と戯れているようなものなのに、なぜ手が乾くのか。それはともかく、手の指が乾くと細かな作業がしにくい。この点、冬の手荒れの心配のある時期にオイルジャケットを着ておけば、生地にしみ込ませてある油分の効果で潤いが保たれる。私はバウアーのオイルジャケットを二着持っていて、もうずいぶん長く着用しているが、川で釣りをするときは深く立ち込んでも濡れないよう着丈の短いタイプを着ることが多い。生地はコットンだが、オイルの効果で保温性が高く、雨風を通さない。そのくせ通気性がある。つまり、天然素材のゴアテックスである。効果が落ちたらオイルを表生地にしみ込ませれば復活する。丈夫に縫製されているので四十年、五十年は着られると老舗メーカー・バウアーの太鼓判つきである。オイルのにおいが鼻につくからと嫌う人も少なくないが、なにしろ英国王室御用達のバウアーなのだから、進んで着用するようにしたい。
 さて、今回の釣り場であるが、昨年、釣行記事を書いた場所のすぐ上流域であることを最初に明記しておく。渓に沿う林道を上流へと向かうと、やがて、梶ケ森へ行く道と鉢ケ森へ行く道に分かれる。この分岐点の手前は道幅が広く、片側に車を寄せれば駐車も楽々オーケーである。ここから上流へ向かって鉢ケ森へとつづく渓沿いの林道を少し進むと前述した渓への降り口である杣道が急斜面の山林のなかをジグザグにくだっていくのが目に追えるはずだ。それは、消え入りそうなほど頼りなく細い道である。その杣道をくだりきると大きな堰堤のすぐ上の流れのほとりに出た。そこから上流へと釣りあがるのも悪くはないが、堰堤下の大きなプールが気になって、私は下流側へと山の脇の踏みつけ道を辿っていった。
 到着早々、プールの下流側から、私は釣り場をひと眺めしてみた。大落下を楽しむように落ちかかる水が、堰堤下のコンクリートの廊下を流れ、その下のプールに白い泡を湧き立たせている辺りへ目がけて私はさっそくミノーを投げ込んだ。押しの強い流れと弱い流れ、あるいは向きのちがう流れが複雑に入り乱れるプールをきっちり釣りきろうと考えて、私はルアーを選んだ。それが、ダイワ・ドクターミノーだ。水深を考慮してシンキングタイプをチョイスした。少し時間をかけて、下流側から、斜め横から、というように、可能なかぎり距離と角度を変えて本命のアマゴを誘った。基本的にはタダ巻きである。なぜならタダ巻きで十分通用するミノーだからだ。すると、そのドクターミノーが沈み石の上に差しかかったと思われるころ、コツンとアタリがあった。かまわず巻いていると、今度はいきなり向こうアワセにアマゴが釣れた。しかし、このアマゴは取り込む寸前のところで逃げられてしまった。こうなると小さな流れなら万事休すというところだが、なにしろこのプールはバカでかい。ポジションを変えて、ちがう沈み石の周囲を狙ってみたら、またヒットして、今度はがっちりフッキングした。石の頭にミノーが当たって、その衝撃が手元に伝わる。その直後に今度は本命のアタリが来た。大きくはないが、この時期としてはサビの出てない綺麗なアマゴである。このあと、一通り釣り終わると、ミノーからスプーンに変えてみた。小さいが厚みと重さのあるタイプを選んで、流れに持っていかれないよう、じっくり底付近をトレースした。だが、スプーンでは1尾のアマゴも手にすることはできなかった。
 堰堤の上流は、萱が流れのほとりまで迫り、落差に乏しく、里川を思わせる。その奥行きのある流れの落ち込みの肩でアマゴがスプーンを捕えた。着水後にラインを張ったままフォールさせていると、反転流の流れのなかで、私の投げたスプーンをひったくっていった。いきなりの強い手応えに胸が躍った。遠くで掛けたので、じゅうぶん引き味を楽しめた。ところが、このアマゴ、岸辺に横たえて写真をまさに撮ろうというとき、まんまと跳ねてフックをはずし、元居た流れに逃げ帰ってしまった。 「この野郎!」と叫んだところであとの祭りである。
 その後は、アタリは何度か来たが、次の堰堤下の大きなプールまでの間でアマゴが私のルアーを捕えることはなかった。

 また、大きな次の堰堤が目の前に姿をあらわした。そのプールで、この日、魚影を私は初めて自分の目で確認することができた。プールの流れ出しのカケアガリの浅い場所にそのアマゴは鰭をかすかに動かし定位していた。底の砂利に光の綾が揺れていた。雲の切れ間から陽ざしが顔を覗かせ、下流側から覗くプールは逆光気味で水のなかはよく見えなかったが、流れ出しの浅場は適当な距離まで近づくと底までよく確認できた。
 そこに、アマゴがいた。20cmほどのアマゴである。
 しかし、べつに脅かしてもいないのに、あちらはこちらに気づいたようで上流の深みへと一目散に走って逃げた。少し間を置いてから、アマゴが消えた奥の深みへとスプーンを投げてみたがアタリすらない。そのまま広く当たってみたが1尾も釣りあげることはできなかった。その後、ミノーを投げて誘ってみたが、きびきび泳ぐミノーにじゃれついてくる魚影をいちど目にしただけで、ぷっつりと音沙汰も途絶えた。
「すこし休めたほうがいいかな」
 スプーンで攻め、ミノーで攻めた。攻めに攻めた。やはり、間を置いた方がいい。
釣り場は休めることでいくらか事態がよい方に動くことがないでもない。しかし、フライではよくあるそういうこともルアーでは確率的に落ちるようだ。そう感じていたからあまり期待はしていなかったが、間を置いたあと一回投げただけで結果が出た。ルアーはツインクルのシンキングタイプである。
 俄然、私はヤル気を出した。
 ところが、陽ざしが雲に閉ざされると、まもなく雪がちらつきはじめた。私はオーバーハングした崖のそばを通るとき、氷柱が下がっているのをみた。しぶきがかかって凍るせいで、萱やイバラが樹氷と化してしまった光景も何度か目の当たりにした。まだまだ渓は冬が去らない。
「こいつはやばいかも」と私は急に胸が騒いだ。
 車へ無事にもどるためには杉が天を指して立つ急な斜面を登らなくてはならない。それだけでも辛いのに、このうえ雪が積んだらと思うと、とても呑気に釣りなどしていられる心境ではなくなった。
私は気が急いた。
釣りに使える時間はじゅうぶん過ぎるほど残されていたが、それでもきっぱり釣りをよすことにした。
渓流は解禁したばかなのだ。あわてることなどこれっぽっちもなかった。
「この先は次回のお楽しみだ」
 私は、ひとりそう呟いて、渓の流れを後にした。

(追記)
 私は花粉症がひどく、杉や檜の花粉の飛散の多い3月、4月、年によっては5月いっぱい予防のマスクと症状を抑える飲み薬が手放せない。
 渓流へ釣りに行くというのは、むろん、わざわざ花粉にまみれに出かけるようなもので、クレイジーだと呆れられることしばしばだが、だからと言って尻込みしていたのではアマゴを狙うのにこの上ない好機をみすみす逃してしまうことになる。
 今回もマスクをして釣りをした。ずっとマスクをしたままでいたかったが、しかし、写真を撮るときは外さざるを得ないことが何度かあった。撮影に時間を食うと、そのぶん花粉を多く吸い込む。山は空気がきれいなせいか、空気中の花粉量が多いにもかかわらず症状が出にくい。これが、山を降りると悪化する。国道を車の列に加わって流れていると、目が痛痒くなり、鼻がむずむずしはじめる。鼻水が、くしゃみが、とまらない。
 ところが、今回は雪雲が迫ってくる状況のなか早めに釣りを切りあげたせいか、それとも、もともと飛散量が少なかったのかはわからないが、帰宅後も症状がわりと軽かった。
 これは、私にとっては幸いであった。
 ほんとうに儲けものであったと思う。

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渓流の定番、シルバースレッドトラウトクリアー4lb

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今回、最もアタリが多かったドクターミノー

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南大王川は堰堤の規模が大きく釣り応えがある

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オイルジャケットは暖かく、肌を乾燥から防ぐ

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奥ゆきのある流れの巻き返しでアマゴがヒット

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大堰堤がつづく区間は落差の少ない流れがつづく

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渓からのしぶきが草木に着氷し徐々に太るとこうなる

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渓のあちこちに見られた春を呼ぶふきのとう

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日当たりのよい岩場にマメヅタが咲いていた

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ミノーで2尾、スプーンで1尾釣れた

【今回の使用タックル&ライン】

ロッド : シマノ カーディフ・エクスリードHKS59UL/F
リール : シマノ ツインパワーC2000HGS
ライン : ユニチカ シルバースレッドトラウトクリアー4lb

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