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釣行記

釣行レポート

釣りの周辺

2014年7月13日

たいして釣れなくても

 むろんのこと、雑誌の取材で見ごたえじゅうぶんの写真を押さえる必要があるときは釣れてくれないと弱るけれど、まったくのプライベートの釣りでは、最近、そこまで釣果にこだわることはあまりなくなった。
 そりゃぁ、誰か見ている前で大物を釣りあげて、「まっ、こんなものさ」と落ち着いた様子で魚の口から鈎をはずしてみせたらどんなに痛快だろう、そう思わないでもないが、しかし、そういうことはもうさんざんやってきた。
 このところ体調がイマイチなせいもあってか、釣果云々よりも釣りができることそれ自体が嬉しくて仕方ない。
 むろん、大物が食いついたりたくさん釣れたりするのに越したことはないが、体の調子と相談しながら今後も釣りに出かけていくつもりだ。
 たとえ、たいして釣れなくても。

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「おっさん下手糞やな」とフナムシが憎まれ口を叩いて去っていく

 話は変わるが、釣りをするのは心に傷があるからだそうである。ただ、釣り人自身はそのことに気がついていない。このような文章を昔、何かの本で読んだことがある。
 でも、考えるとすぐわかるように、心に傷を負わない人間なんかいるはずがないわけで、そうすると釣り人はもれなく心に傷のある人間なわけで、それどころか釣りをしない人間でさえも心に傷を抱えて生きている。そう考えると、なんだか冗談みたいでアホらしくならなくもないが、釣り場に来て魚を相手にしていると、心がときはなたれていくように感じるのもまた事実である。仕掛けが絡んだり、魚を捕り逃がしたり、アタリすらなくてイライラしているときでさえ、心底もううんざりとはならない。釣れなくて、もう二度と釣りになど来るものかと頭に来ているときですら、また来ることを自分自身わかりきって愚痴を吐いている。
 そう。じれったいのが、これまた楽しいのである。
 明日の釣りを思うだけで、前夜に釣りの支度をしながら、もうわくわくうきうき楽しくて仕方がない。
 もうこうなると、心の傷もへったくれもあったものではないから、もう到底釣りに行かずにはすまされない。
 まあ、まずそういうことのようである。
 それで、今回は夏のシロギスをねらって大内町の山田海岸へ出かけてみた。朝から陽が照って、暑くてたまらなかったが、それでも小さなキスが10尾ほど釣れて意外と楽しかった。むろん、運動がてらちょっと出かけてみたにすぎないが、この程度の釣りでも心が嬉しがるのだから、これはもう釣りバカだと診断されても仕方がないだろう。
 自分でもそう思っている次第である。

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今回はユニチカナイトゲームTHEメバル4lbを使用

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山田海岸の西の波止で夏鱚をねらうも・・・・・

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半日やって釣れたのはピンギスが10尾ほど

【今回のタックル、ライン】

ロッド : ノリーズ スローリトリーブ80

リール : ダイワ カルディアキックス2004

ライン : ユニチカ ナイトゲームTHEメバル4lb

ハリス : ユニチカ アイガーⅢスーパー0.8号

2014年7月15日

志度海釣り公園跡

 夕刻、会社の方へ顔を出してみると、男爵は大型トラックの運転手と倉庫前で立ち話をしていたが、冷房の効いた部屋へ私を招き入れるなり、何かいい話はないかと訊いた。今日はもう用らしい用もないので、近場で夕涼みがてらメバルでも狙ってみようかと考えていたところだという。
 時期が時期だけに胸躍るような釣果は期待薄だが、そうかと言ってまったくあてがないわけでもなかったので、とりあえず出かけてみようということになった。
 私は自分の車に道具を積んで来なかったので、カメラだけ持って男爵の車の助手席に座った。
 会社を出たのは外が暗くなるころ、途中、屋島西町の藤本つり具店に餌のゴカイを買いに寄った。その後、国道沿いのうどん屋で腹ごしらえをすませてから目的地の志度海釣り公園跡へと向かった。
 車が鴨部川の交差点を左折し、川沿いを北へと走りはじめて少し経ったとき、「最近、物騒な事件が多いな」と男爵が唐突に言った。
 あやうく私はそれを聞き漏らすところであった。
「えっ、あんたの顔が物騒かって?」
「ち、ちがうわい。物騒な事件や。交際を断られた男が彼女の自宅に押しかけて、めった刺しにして殺したとか、そういうやつや」
「ああ」と私は気のなさそうに答えた。
 ちょっと考え事をしている間に、男爵はラジオで事件のあらましを耳にしたらしかった。  
 男爵はトレーラー免許も取得している運転のプロだから、ハンドルさばきに無駄がない。バックをしたり、切りかえしたり、コーナーを曲がるときも、その運転技術の高さについつい見とれてしまいそうになる。
 男爵が語ってくれたニュースの件には触れずに、「俺は、ちょっと前に時代劇を観たよ」と私はコーラーをひとくち飲んでから言った。
「時代劇?」
「そう、時代劇」
 私はテレビをあまり観ないほうなので、何という番組かタイトルまでは憶えていないが、たしか、吉原の遊郭の総元締めの旦那に雇われている若い浪人者の侍が、奉行所に訴えても始末のつかぬ郭内のいざこざを、その凄い剣の腕前でもって秘密裏に解決してしまうといったふうな筋書きであった。この活きのいい浪人に身をやつした若侍、表向きは夫婦で何やら稼業を営んでいるらしいのだが、途中から観はじめたので、その辺の事情はよくわからない。ただ、晴朗で一本気な若い主人公も、吉原の使用人の若いどの男たちも、血気盛んながらなかなかどうして人情に篤い。
 あるとき、その若い衆のなかの一人に年配の男が、おまえもそろそろ身をかためてよい年齢だが、どんな娘が好きかと訊ねた。
「ところが、その野郎が、虫のいいことばっかり抜かすのよ」と私は観たままを男爵に話して聞かせた。
「ほう、どんな?」と男爵は煙草を口にくわえたまま言った。
「おれの好みの女というのは、気だてがよくて、器量よしで、色が白くて、やりくり上手で、料理もうまい、それから俺のことを立ててくれて・・・・・とか、まあ、いろいろとね」
「言わせておけ。言うのはタダや」
「ところが、その野郎、最後の段になって、そういう娘が好みではあるが、それよりなにより俺に惚れてなくちゃいけませんやね、なんてことを言う。これには、ぐっときたね。ああいう時代のああいう場所でのことだから、何か事が起こったら女房を守るのも命懸けだよ。それには、惚れてくれてなきゃ命は張れねえ、一緒に世間を渡っちゃいけない。そういうことらしい。裏を返せば、一目惚れでも相手にその気がないなら、そんなのはしょうがねえって気風よ。さっぱりして、いい男ぶりの若者じゃないか。それはそうと、こいつ、いい脚本書くなって思ったね。誰が筋を書いたか知らないけど」
「そんな気持のいい若い者ばかりなら、ああいう残念な事件は起きっこないのに。そういうことか?」
「そうは言ってない。いつの時代にも常軌を逸した奴はいるからね」
 車は大串半島の先端付近へと近づきつつあった。道路は半島の山の頂上近くを走っており、もうそろそろ分かれ道にさしかかるころだ。右へ折れて蛇行した急な下り坂を道なりにくだっていくと、志度海釣り公園跡の駐車場にたどり着く。
 閉園してもうずいぶん経つため、未舗装の駐車場は草がほこり、窪みに雨水が相当溜まっていた。男爵はそれを上手によけて、海岸へとつづく細い下り道のすぐ手前まで車を寄せた。

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男爵はサグリ釣りを楽しんだ波止が対岸にみえる

 もう日は暮れきって、細道をくだるにはライトの灯りが欠かせなかった。海岸の砂浜に出ても、やはり真っ暗だった。風はなく、海はひろく凪いで、空は星がまばらだった。梅雨のこの時期にしては涼しかった。
 男爵は、石積みの波止の先端付近に道具を運び終えると、さっそくサグリ釣り仕掛けの準備に取りかかった。道糸は、ユニチカ・アイガーⅢスーパー1.2号を5mほど。先端にメバル鈎の9号を結ぶ。先端の鈎から少し離した位置にセットするガン玉はBを使用した。そこからさらに1mほど上に枝素を取り付ける。枝素の鈎は先端に結んだ鈎と同じメバル用の9号である。枝素から更に30cmくらい離してケミホタル25mmをセットする。緑色に発光するケミホタルは、暗闇でも仕掛けが今どこにあるのかを容易に知ることができ、その微妙な動きから手元に感じないアタリを視覚的に先取りすることが可能なため、アワセのタイミングが取りやすい。
 男爵は波止の先端付近のコンクリートブロックの上から仕掛けを沖に向けて振り込んだ。
 潮は左から右へと流れている。潮流はかなり速かった。
 釣り始めてまもなく、男爵のメバル竿が綺麗な弧を描いて撓った。ためにかかると糸が小気味よい音を立て、仕掛けが横走りした。
「いきなり良型か。幸先がいいではないか」
「グレかもしれん。悪くないサイズだ」
 ところが、しばしのやり取りの後に男爵が手にしたのは、2尾のメバルであった。枝素のほうに18cmくらいのメバルが食いつき、先端の鈎に20cm級の良型が食らいついていた。
「かなり待って、待って、送り込んで合わせたから、すっかり鈎を呑んでやがる」
「せめて小さい方はリリースしてやりたいって顔だが、残念だったな。どうやら2尾ともお持ち帰りだ」
「ああ。2尾とも煮付けやね」
 その後も、男爵は沖に振り込んで手前側へと仕掛けを寄せてみたり、波止ぎわに沿って仕掛けを横に動かしたり、あるいは一旦底に沈めた仕掛けをわずかに浮かせたり、また沈めたりというぐあいに、じっくり丁寧に付近を探っていた。
 入れ食いのときは上の鈎と下の鈎と両方にメバルやカサゴが食ってきた。しかし、よく釣れるわりに20cm級のメバルの数は少なかった。それでも、じゅうぶん煮付けになるサイズが次第にクーラーボックスのなかを賑やかにした。
「これで、尺くらいのグレが3つも釣れたら言うことないけどな」と男爵が言った。
 まったく、グレは釣れなかった。

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仕掛けはナイロン、フロロを状況に応じて使い分けている

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クーラーは持ち運びよい小型が便利

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このサイズなら文句なし!と男爵

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男爵は暗がりでも仕掛けを組むのが早い

 すると、それからしばらく経って、波止のなかほどでエギングを楽しんでいた谷くんの仕掛けにアオリイカがヒットした。3.5号のエギを沖へと投げて、沈めてから軽くしゃくっていると、ドスンという重みがいきなり手元に応えた。無理に寄せようとするとリールのスプールが逆転して、ラインが吐き出されていく。もう勝負がついたかと思う展開に事が運んでいるようで、勝負の行方はどっちともつかぬ感をみせはじめていた。
 それでも、かまわずにロッドを曲げて仕掛けを引き絞る強気のやり取りに、アオリイカの方が音をあげはじめた。それが、暗がりながら感じとして私にはっきりわかった。
海面へと浮かされて、足元へと寄せられながら、息を荒げはするものの、もうアオリイカには戦う力がどれほども残っていないようだった。頃あいを見て谷くんの連れの若者が手際よくギャフをかけて波止の上へと引きあげた。巨大ではないが、いいサイズの親イカである。さっそく、写真を撮らせてもらった。谷くんたちとは一緒にやって来たわけではなくて、その夜は偶然来合わせたにすぎなかったが、男爵も谷くんも来た甲斐があったというものだ。

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基本的なラインとリーダー

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岩場も親、新子を問わずアオリイカがよく釣れる

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この夜はゆっくりシャクリあげる釣り方がよかった

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谷くんはナイトエギングで親アオリを仕留めた

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大串半島は秋アオリの好釣り場でもある

 その後も、男爵はサグリ釣りでメバルやカサゴをたくさん釣りあげた。谷くんたちは波止から岩場へと場所を移してアオリイカを狙いつづけた。
 しかし、残念ながらその後はパッとしないままに終了のときを迎えたようである。
 私たちは、明日の仕事に支障をきたさないよう日付が変わる前に道具を車に積み込んで、さっさと釣り場を後にした。

 これは本文とは関係ない話だが、今期は9月下旬の現在、秋の新子のアオリイカのサイズが例年になく小さく、釣果もパッとしない。海釣り公園跡のある大串半島でも状況は似たり寄ったりだ。ただ、人で混み合う漁港の波止や岸壁から釣るのに比べると、潮通しのよい岩場から狙うほうがサイズ、数とも少しはましなようなので、やはり半島部の地磯に今期は熱い視線が注がれることになるだろう。
 なお、今年は気温が低く推移しているので秋が短く冬の訪れが早いと予測される。なので、もう少し大きくなってから出かけようなどと悠長なことを言っていては大きく育たないうちにシーズンが終了してしまうことだってあり得ぬこととはいえない。むしろ、その公算が高いのではないか。
 いつ腰をあげるか。それは個人の判断に任せるほかないが、腰のあげ時の難しいのが今期の特徴だともいえるだろう

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海釣り公園跡は足場がよく岩場へ降りるのも楽である

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岩場はアオリイカがよく釣れる

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秋アオリをキャッチした筆者。今期は小ぶりなものが多い

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エギS2にヒットした秋アオリ

【今回のタックル、ライン】

竿     : がまかつ がまメバル一波Ⅱ 中硬530 

道糸・枝素 : ユニチカ アイガーⅢスーパー1.2号

鈎     : がまかつ メバル専用(金)9号など

オモリ   : ガン玉B
目印    : ルミカ ケミホタルミニ25

2014年7月26日

満天の星

 私は学生時代には実習船で、北太平洋、南太平洋、インド洋などへ航海実習に出かけていたが、洋上は夜に月が出ないときは三百六十度真っ暗闇で、空も暗幕を張ったように暗いから、眼に痛いほど星が輝いて見えた。当直の夜など、ブリッジから外へ出て夜空を仰ぐと、星は間近に、少し遠くに、また、その奥に、それよりもうんと奥深くに、というぐあいに層を成して輝いて、そうすると実際には暗くて見えないのだけれど、そこに澄んだ水の川がたしかに流れているような、そんな不思議な感覚にとらわれてしまうのであった。
 当時、私は二十歳前後の青年で、怖いもの知らずでもあったから、どれだけ海が時化ても胸が躍りこそすれ、命が危ないと思ったことなどついぞなかった。が、それでもたった一度だけ、もうダメかと思って観念しかかったことがじつはある。
 あれは、どの航海だったか、もう今となっては記憶を辿るすべもないが、当直でブリッジ内の右舷側で見張りをしていたとき船体がこれまでに経験したことのないほど大きく右に傾いた。私は咄嗟に手すりを捕まえて横壁に身をあずける格好で転ばないよう身の安全をはかったが、そのとき窓からサイドデッキを見越して荒ぶる海が間近に迫った。そのまま転覆してもおかしくなかった。その後も、船は大きく左右に揺れつづけた。
 じつは、このとき、エンジンが故障して航行不能の状態になったのだ。つまり、私は状況をありありと見て判断できるブリッジというひのき舞台に居て、実際その最悪ともいうべき事態に遭遇したのであった。洋上では台風が発生しても、その進路から自力でちがう方角へと走って逃れれば危険な目にあうこともないわけだが、今回ばかりはそれができずに逆に台風に呑みこまれてしまった。まさに文字通り船体は木の葉のように荒波に揉まれ為す術もなかった。やがて、船はほんとうの意味で台風に呑み込まれる事態となった。生きた心地がしなかった。エンジンさえ復活してくれたなら、船を風に立て直すことができ、もしそのまま風に向かって耐え凌ぐことができたなら、じわじわと船足を進めて時化から脱することができるのであるが、その日はそのままむなしくも夜を迎えた。
「とんだことになった。もし沈んだら、新聞に大きく載るだろう。テレビにも出るだろう。船員、教官のみならず、俺たち多くの実習生が乗り組んでいるのだ。ちょっと凄いことになるぞ」
 私は、当直を終え船室にもどってからも、ぼんやりとそんなことを考えていた。もうそのときは、昼間の恐れはすっかり影をひそめ、ほんとうに死ぬかも知れぬというのに不思議と恐怖感はなくなっていた。蚕棚のような狭い二段のベッドの上側に休んでいると、丸窓は絶えず波に洗われて、ときに海のなかに没してしまうことがあった。
 それから、どのくらい時間が経ったか、修理完了の一報が船内電話を通じてエンジンルームからブリッジへと伝えられた。私は、船室にいて突然のエンジン音を聞いた。いつものうるさい、しかし、それは規則正しく脈打つわが船の心臓の頼もしい鼓動であった。エンジンが息を吹き返したのだ。
 深夜、当直のためブリッジにのぼっていくと、もう船は時化から逃れて、洗われたように澄んだ夜空に、これまで見たこともない数の星が光りまたたいていた。星は大きさも明るさも色さえもまちまちで、天球を埋め尽くすほど、しかも、幾層にも重なりあいながら無限の奥底へとつづいているのであった。
 あれこそが満点の星ならば、私はそれ以後五十半ばのこの年齢になるまで、満天の星というものを一度たりとも眺めたことがない。
 そう思うほどに、迫力満点の星のさざめきであった。

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六分儀を使って現在位置を測定する若き日の筆者

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船内食堂でくつろぐ

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はえ縄にかかった大型のカジキ

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船を潮任せにしておくと、シイラが寄って来たので釣った

 こうして昔のことを書いていると、ついついいろんな出来事が思い出されて、東サモアに寄港した日のことがいま記憶にのぼってきた。船がパゴパゴ湾の港に寄港して少し経ったころだ。晴れた空がにわかに掻き曇り猛烈なスコールが来た。次の日も同じような天気で、午後にスコールが降った。
 東サモアは、当然ながら島国なので、周りが海だから魚介類が豊富で、また、肉体労働が主な稼ぎ口であるから、男性の多くはひきしまった体をしているように思われがちだが、実際はそうでもなくて相撲取り級の大男も少なくない。主食がタロイモだから、とくに女性はある年齢を過ぎると、華奢な娘のころが嘘みたいに、肥りだしたりもする。
 男性は、筋肉質の締まった体をした上背もさほどない人と、よく肥えた大男と両方いた。寄港したその日に、港でトラックの荷台にドラム缶を山のように積みあげていた二人の男は、目を見張るほどの巨漢で、地べたから空のドラム缶を軽々持ち上げて、荷台に載せる作業を休むことなく続けていたが、腕が丸太のようにごつかった。
 その次の日は、朝遅くにバスで海岸の浜辺へと向かい、現地の人が楽器に合わせ踊ったり歌ったりしていると浅瀬にサメが寄って来るというショーを見物したのち(ほんとうにサメが泳ぎ寄ってきた)、島でもっとも有名な教会をガイドの案内で訪れた。驚くことに島には教会がたくさんある。面積、人口のどちらに対する割合からしても、その数は異常と思えるほど多く、おそらく世界一であろう。入港する際、島の山の斜面の建造物の多くがこの教会であると教官から説明を受けたときは、正直驚きを隠せないほどだった。
 私たちが案内された教会は、たいそう立派な作りの大きな教会で、五十年か百年か、それ以上の長い年月を費やして完成させた第一級の自慢の建造物なのだそうだ。
 寄港中は、こうした観光や、燃料および食糧の補給、当直以外の時間は自由に出歩くことが許されていたため誰もが開放感に満ちた日々を送ることができた。だから、私たちは飲み食いのためレストランを訪れたり土産を買うために露店を冷やかして歩いたりした。
 私はバナナ畑で農作業を手伝っている年頃の娘と仲良くなっていたので、その畑に出かけて熟れたバナナを捥いで食べたり、単語を並べただけの英語で会話を試みたりして有意義な時間を過ごしていたが、その娘に自分が日本から来たことや実習船でやってきたことを説明するのにも、ずいぶんと骨が折れたものだ。
 年齢は十七か十八、あるいは十九くらいだと思った。訊いたら答えたろうが、国もちがうし訊いていいものかどうか迷ったことをよく憶えている。
 彼女は私のカメラで自分を撮って欲しいとせがんだ。どこからか木製の脚立みたいな代物を持って来て、そこへカメラを置けと身ぶり手ぶりで言うので、セルフタイマーを使って二人一緒の写真も撮った。フィルムが終わると、私はポケットから未使用のフィルムを取り出して、入れ替えた。そして、撮り終えたフィルムを彼女にプレゼントした。そのあと、ふたたび同じように、もういちどヤシの木のところで二人一緒の写真を撮った。
 あれから三十五年ほど年月が流れたけれど、元気にしているだろうか。きっと、いいお母さんになっているにちがいない。島は結婚も早そうだから、すでに大きな孫が何人もいるかも知れぬ。
 彼女にあげたフィルムに二人はいったいどんなふうに写っていたろうか。そして、彼女は今でもそれを大事に手元に残しているだろうか。
 私と同じように、こんなふうにアルバムに綴じたりして。

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寄港地ではパスポートなしで気ままな観光が楽しめる

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どの国でも「日本人か?」と訊かれる。当時、日本は金持だったから

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バナナ畑のお嬢さん。気だてがよく可愛い子だった

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下級生たちとシンガポールの中心街にて

2014年7月31日

コーヒーゼリー、大内ダムの珍事

 とても美味しいコーヒーゼリーを頂戴した。製造卸元が取引先のレストランやカフェから注文をもらって、そのぶんだけ手間暇かけてお中元用に手作りしているらしく、いっさい一般市販はされていないそうだ。
 あまりに美味しいので、お裾分けしようと考えているところに、たまたま田所さんが来合わせたので、「これ、食べてみて。めちゃうまいから」と言って付属のフレッシュミルクも一緒にさしあげた。
 すると、田所さんがあとになって、「ねえ、あれ、まだあるなら、もう一袋ちょうだい」と真面目な顔でねだってきた。
「残念だけど、もうないよ。もし、また貰えるとしても来年だね」
「雑味がなくて、美味しかった。こんなにうまいコーヒーゼリーがあったのかと思って感激したよ」
「うん。時間と労力を惜しまず、一生懸命作るんだろうね、きっと」
「コーヒーゼリーなんて、どれも似たようなものでしょ、ふつうは。おまけにパッとしないビニールの小袋に詰めてあるじゃない。軽く見すぎた」
「俺もそう」
「しかし、いろんなところからいろんな物をよく貰うなぁ、あんた」
「貧乏で、いつも腹を空かせている、そんな風に見えるからじゃないかな」
「よくいうよ」
「そういえば、ユニチカの担当の人もこんな美味しいのは、今まで食べたことないって絶賛していたな」
「ところで、コーヒーゼリーの注文の話だけど、俺たちはダメなの?」
「店が事前予約するときに混ぜてもらって一緒に注文できないかってこと?」
「うん、そういうこと。でも、まっ、いいか。そんな面倒なことしなくても、来年またその子から貰ってくれれば」
「おいおい、調子のいいこと言うなよ」
「いいじゃないか。愚痴のひとつも聞いてやれば、また持って来るだろうよ」
「あんたが聞いてやれよ」
「俺は気が短いから。五分と聞いちゃいられないよ。女の愚痴など」
「そんなの、黙って聞いてりゃいいだけさ」
「ところで、ユニチカの担当の人、もう帰ったの?」と田所さんが私に訊いた。
「広島へ寄って帰阪するってさ。金曜に大阪へもどって、土曜は出社すると聞いているよ」
「働き者だね」
「あっ、そうそう。ユニチカメバル用ラインのナイトゲーム.ザ.メバルPEの絵が変わるそうだよ」。
「絵って?」
「パッケージのデザインが新しくなるらしい。庵治で少し前に俺が釣った大きなメバルを送ったら、それが迫力満点なので写真を撮って採用したそうだ」
「そいつは楽しみだな」と田所さんが言った。
「うん。あとは出来てのお楽しみってとこかな」
「それはそうと、いま何か釣れてない? いい話聞かないようだけど」
 そう訊く田所さんの気持ちが、私には痛いほどわかった。
「海はパッとしないね」
「川は?」
「さあね」
 体調がよくないので流されるといけないからという理由で川へは行かせてもらえないので、意識して目を向けないようにしているので、頼られても大したアドバイスはできない。

 書き物に時間を費やしているうちに十日が過ぎた。
 今日は七月末日。朝起きてみたら気分がよかったので釣りに行くことにした。朝食を遅くに取ったので、遠くへ行くのは面倒だし、大内ダムにブラックバスでも狙いに行こう、そう思ってフライの道具を車に積み込んで、予定どおりさっそく出かけていった。

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マイカーで釣り場へと向かう。釣れたらいいなぁ〜

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ジャスの『パリの地下鉄』を聴きながら大内ダムへと向かった

 朝から晴れて暑かった。
 ダムの管理事務所のそばにある駐車場に車を乗りつけて、公園の下の枯れた葦が茫々と群立つ水辺へと足を運んでみると、先行者の若者二人がルアーでブラックバスをねらっていた。ハードルアーでねらっている方の若者が釣り開始後まもなく本命のブラックバスをヒットさせたが惜しくも取り逃がしてしまったと、ワームで釣っている若者が教えてくれた。その後は二人ともアタリすらないそうだ。しばらく釣る様子を見学させてもらったが、やっぱりどちらともアタリが来ないので、私はここでの釣りを断念して対岸側に当たる流れ込みに近い方の岸へと車で移動することを心のうちに決めた。
 到着後に様子を見るため少し歩いてみたが、こちら側の水辺では、誰も釣りをしていなかった。
 車を止めた所からスロープを降りていくと東屋が涼しげな陰を作っているのが見えた。
 東屋の近くは水辺にはびこる草の丈が低く、釣りをするのにもってこいの条件だった。なんといっても、フライラインを後方にじゅうぶん伸ばせるだけのバックスペースがあって、楽に遠投できそうなのが嬉しい。
 午前十一時過ぎ、釣りはじめてまもなく小さなブラックバスが釣れた。あまりに可愛らしいサイズなので水辺でフックをはずして水にもどしてやった。その後もアタリはちょいちょいあった。横に移動しながら、ラインを投げ、手繰り、手繰りきると、また投げて誘いをかけた。すると、底に近い層でブラックバスの小さいのが、また食いついた。日差しが強いので、光を嫌って藻や底の物陰にひそんでいるにちがいないブラックバスに口を使わせるため、ゆっくり沈むタイプのラインを使っていたが、それはまちがいではなかったようだ。それにしても、釣れたはいいが、サイズがあまりにしょぼすぎる。このままでは埒があきそうにないので、移動するか、釣り方を考えるか、どちらにしようかと私は考えはじめた。
 すると、右方向のやや沖に水から頭を出している杭のすぐそばで大きそうな魚が水面を割って出た。それは、すっかり水を脱いで躍りあがるというでもなく、横走りするわけでもなく、水面もしくは水面直下の微細な水生昆虫でもむさぼり食っているようなおとなしさである。目を凝らして観察していると、ときどき尾鰭の一部が水面を割って現れた。魚は二尾、もしくはそれ以上がもみ合うようにして群れ、狭い範囲を移動しながら先にも述べたとおり無心に何か食べているようだった。
「もう少し近づいて来たならば、フライを魚の鼻面にうまく届けることができそうだぞ」
 私はそう考えて、そのときを辛抱強く待つことにした。
 すると、ラッキーなことに五分くらいたつと、水面直下の魚が私の立つ水辺の方へと徐々に近づいて来て、ついにフライを投げたらまちがいなく届く距離まで接近してきた。
「失敗したら、次またチャンスはないかもしれない」
 私は慎重に狙いを定めてフライをキャストした。
「よっしゃぁ」
 そして、それはフライがもじっている魚のすぐ手前へと、こちらのもくろみどおりに静かに着水した直後のことだった。
 ラインのスラッグを取って、ラインを手繰りはじめたときにはもうすでに魚がフライを捕えていた。足は速くないが、ずっしりと重たい。ロッドを立ててラインをかまわずに手繰りに手繰るも、底へ向かう気はないらしく、表層を右へ左へとゆっくり、しかし、やはりその鈍重な引きは思いのほか強かった。
 もしヒットしたのがブラックバスなら水面を一度ならず割って跳ねあがっていても不思議はない。まちがいなくブラックバスではないと思った。魚は姿を見せぬまま足元近くまで寄って来た。ユニチカ・アイガーⅢスーパー1.2号をティペット代わりに使用していたので底の障害物に引っ掛からないかぎり強度的に見てもファイト中に切られる心配はまずなかった。
 とり込む寸前まで来て、魚は最後の抵抗をみせ沖へと力強い走りをみせた。手繰ったフライラインを少しばかり奪い取られた格好だ。それでも、私は手を緩めずに、慌てず騒がず強気のやり取りで臨んだ。
 ついに、魚が水面に姿を見せるときが来た。
「なんだ、こいつ!」
 横向きに浮かんだ魚を見て、私は思わず声をあげた。
 なんと、ヘラブナである。しかも、ずいぶん大きい。
「ヘラブナが水生昆虫か何かを食べに水面へと上がって来ていたなんて、思いもしなかったぜ」
 私は独りごとを言った。
 たしか、ヘラブナはそういうものを水面に出てまで口にしないはずである。それが定説のはずである。それとも、それは私の勘違いか。
 しかし、あの様子からして、水面の餌を無心に食っていたのは、まずまちがいないことだった。
 しかも、私が投げたフライまでも躊躇なく口にした。
 私は、思わず声に出して笑ってしまった。笑わずにはいられなかった。
「こりゃあ、いいや」

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けっこう歩く釣りなので健康にもよい

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葦が枯れて立つ浅瀬をチェックするルアーマン

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湖畔の東屋で仕掛けを組む

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マドラーミノー。ブラックバスに効果の高いフライだ

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あちらこちらで水面が炸裂。バスが小魚を追っているらしい

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フライはラインを投げているだけで楽しい

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おっ、来た!

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なんと、水面へ出ていたのはヘラブナだった!

 しかし、私はあまりにバカになって笑いすぎたようだ。そのバカ騒ぎに閉口したのか、その後、アタリが遠のいた。
 それにしても日差しがきつく、暑い。
 ちょっと体もしんどくなって来たので、そのあと少しだけ釣って、早々に引き揚げることにした。

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ティペット(ハリス)にはアイガーⅢスーパー1.2号を使用した

【今回のタックル、ライン】

ロッド   : オービスPM10-709

リール  : オービス#7/8

ライン  : ティーズSW#7F、SW#7S(タイプ1)

リーダー : サセックス1X9ft

ティペット: ユニチカ アイガーⅢスーパー1.2号

2014年8月8日

鉄板焼きレストランよしはら

 津田町の鉄板焼きレストランよしはらへランチを食べに出かけた。よしはらは海に近い国道沿いにあって、牛ステーキが美味しいと評判だ。昼食どきだけランチセットをやっている。
 私は牛肉も嫌いではないが、いつも若鶏の腿肉を焼いてもらって、その味に舌鼓を打ってよろこんでいる。ほんとうに美味しい。
 席はカウンターとテーブルとがあって、私はいつもカウンターの椅子に腰かけて料理ができあがるのを待つようにしている。肉は目の前の鉄板でシェフが直々に焼いて出してくれる。シェフは洋食の料理人が頭に載せるのと同じコック帽を被り、コックさんの着る白い上着に身をまとい、無駄のない手さばきで注文の肉を注文の順に焼きあげていく。すべて調理はこのカウンターの前の大きな鉄板でシェフ自らがおこなう。焼きあがると店の女の子が小さな鉄板に盛りつけてテーブル席へと運んでいく。
 店にはもう一人女の子がいて、レジで勘定を受け取ったり料理を運んだり、奥の厨房でご飯やみそ汁の用意をしたり洗い物をしたりと、この日も忙しく立ち働いていた。
「まっすぐ来ていますね、台風」とシェフが私に言った。
「ええ。大きいみたいで心配です」
 シェフは焼きあがった若鶏の腿肉の塊をナイフで切り分けて脇に寄せると、肉とは別に野菜をさっと炒めて特製ソースをからめた。そして、ハンカチを半分にしたくらいの大きさのアルミホイルを鉄板に敷くと、その上に炒めた野菜と鶏肉とを一緒に盛りつけた。
「お待たせしました。どうぞ。ご飯をおかわりなさるときはお申しつけください」
 シェフはいつもどおりのことをいつもと変わらぬ口調で私に言った。
 カウンターの客は私だけだった。
 私は、この日はじめてシェフから、ご飯は自家米を炊いて出していると聞かされた。
 それから、この辺りは水源が地下水なので夏場のこともあるし雨は欲しいが、畑が水浸しになるほど降ると植えつけたばかりの野菜の苗がダメになって困る農家が出ないともかぎらないから、台風の雨もほどほどにしてほしいものだ、そう心配そうな顔をして言った。
「同感です。高知や徳島ではすでに先週末の大雨で地盤が緩んでしまっていますからね。山沿いはとくに注意が必要でしょう。土砂崩れもそうですし、河川の氾濫も気がかりです」
「釣りはダメですか」とシェフが訊いた
「ええ。ダメですね。少なくともアユは絶望的です。水位が平常にもどって、濁りがとれたら太陽の光が底まで届いて石に苔も元どおり生えくるでしょうが、それだって落ちアユに間に合うかどうか。できれば逸れてほしいですが、どうも今回は四国に上陸しそうな勢いですし、無事にやり過ごせたとしても、次また台風に見舞われない保障などどこにもありませんからね」
「台風に道と昔から申しますから」
「はい」
「今年は当たり年ですかね」
「もう水は足りているし、そうでないことを願うしかありません」
 ランチセットの若鶏の腿肉はハーフサイズなので、育ち盛り食い盛りの若い人には少し物足りないかもしれない。しかし、私にはちょうどいい量である。若鶏の鉄板焼きセットには、前菜のサラダ、ご飯、漬物、みそ汁がついているし、先に述べたとおりご飯のおかわりは自由である。
 客が減ると、シェフや女の子たちは奥へとさがってしまった。
 奥では食器の触れ合う音や水を流す音が聞こえていたが、私がご飯のおかわりを頼むと、「はい、かしこまりました」とほぼ同時に女の子たち二人が答えた。
 シェフが何かを言い、女の子たちが笑った。

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座り心地いいカウンター席の椅子

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サラダは奥から女の子が運んでくる

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シェフが目の前で肉を焼いて出してくれる

 私は味わいながらゆっくり食べた。鉄板の余熱が料理を冷まさずにいてくれるので、時間をかけて食べてもおいしかった。
 もう今は客といってはテーブル席の一組のみとなっていた。
 私は店のなかを今更のように見まわすうち、さみしい気持ちにとらわれた。美味しいものを食べながら、なぜ心さみしいのだろう。
 私は料理を食べ終わると携帯電話をひらいて今朝来たメールをもう一度読みなおしてみた。
「ねえ、飲みに来ない? おいでよ」
 液晶の文字はそれだけ告げて短く終わっていた。読み返してみて初めて足を運ぶ気になった。
 勘定をすませて店を出ると、降りを強めた雨のせいで、道路が白っぽく見えた。

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国道へ出るといっそう雨脚が強まった

[追記]
よしはらへランチを食べに出かける二日前のこと。私は朝遅く、用事で鳴門市を訪れた。マイカーを走らせ一時間半ほどの道のりを遥々出かけていくのだから、用事を済ませたあとは是非とも釣りをしたいものだと家を出る前から考えていた。潮汐表では正午過ぎころから潮がよくなる。満ち潮が動き始めてちょうど二時間が経過するころだ。用事に思いのほか時間を使ったので、時合のことも考えて昼食はサンドイッチと牛乳をコンビニで買って車のなかですませた。釣り場は大毛島の地磯。当日は地域によって天候がまちまちで、雷雨に見舞われた地区もあったと後に聞いたが、私が降りた地磯は晴れたり曇ったりの天気が釣りを終了するまでつづいた。白昼二時間ほどの釣りだから、シーバスを一つか二つものにできたら御の字だろうと思い、それなら釣ったらすぐに海へともどしてやるつもりでいたので、道具と数本のミノーだけを持って岩場伝いに釣り場へと向かった。ところが釣りはじめてしばらくすると、沖へ投げたミノーが湧きあがる潮に揉まれてバランスを崩したように思われたまさにそのとき、手元に確かなアタリが来て、なんとマダイが釣れた。カメラを持って降りなかったことに、このとき初めて気づいたが、悔やんでみたところであとの祭りであった。ちょうどいい深さの潮だまりが岩場に出来ていたので、そこに釣ったマダイを横たえた。そして、次また仕掛けを沖めがけて投げ込んだ。すると、間もなくまたアタリが来て、またもやマダイが食いついた。しかし、このマダイは足元近くまで寄せて来たとき、フックの掛かりどころがよくなかったようで惜しくも取り逃がしてしまった。最初のよりも大きそうだった。ラインは、ユニチカ・シルバースレッドソルトウォーターⅡ12lb。いつも使う8lbよりも強いので安心して強気のやり取りに打って出たのがこのときにかぎっていうとまずかったようだ。私は、もうあと一つか二つ、マダイでもシーバスでもかまわないからものにしたかった。けれども、いくら仕掛けを投げてもアタリすら来ない。風がやむと、暑さもひとしおだった。そこで、釣ろうと思えばまだ少し時間的に余裕はあったが、今回は早めに納竿することにした。

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使用したライン

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釣り場からもどって写した一枚。悪くないサイズだ

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日中なのでリアルなカラーを多用した

【今回のタックル、ライン】

ロッド   : ウエダ シューティングシャフト962HS-Ti

リール  : ダイワ セルテートハイパーカスタム3000

ライン  : ユニチカ シルバースレッドソルトウォーターⅡ12lb

リーダー : ユニチカ シルバースレッドショックリーダー20lb

2014年8月10日

酔うほど無口に

 物語はこういうふうに書き進められていった。なにか人ごとみたいな言い方だが、むろん私が構想を練った作品ののっけの部分である。

「今日は半日かけて絵をみてまわりました。エル・グレコの『受胎告知』がとくに凄くて、ずいぶん長くその前に居ました。絵葉書を買ったので便りを書く気になりました。ふと思ったのですが、君にはキラッと光るものがある。今日、絵をみているとき、なぜだかふとそう思いました」と彼女は言った。
「なんだい、それ?」と私は訊いた。
「あら、忘れた? でも、エル・グレコが最高で、なぜ葉書がミロなのかしら」
「俺?」
 彼女はうなずいた。
「まさか。でも、感心だよ。そんなに長いセリフ、すらすら言えて」
「バカばっかり」と彼女は言って笑った。
 たしかに、あの絵には神秘をまとった言い知れぬ魅力があった。ほかの多くの宗教画をよそに、その絵の前だけ人だかりができていた。あれは大学生活最後の年の夏だった。絵葉書を買ったこともよく憶えている。なのに、その絵葉書で彼女に便りを出した記憶だけがトンと抜け落ちてしまっていた。
 私は黙って酒ができるのを待った。彼女は大粒の氷を入れたグラスにウイスキーをそそぎ、冷えたソーダを足して、軽くステアした。
 ソーダの細かな泡が、グラスのなかを、上へ上へと次々浮かびあがっていく。この様子から、戦後、ウイスキー・ソーダのことをハイボールと呼ぶようになった。
「当時は砂糖を入れて飲む女性が多かったみたいだけど、わたし、甘ったるいのは好きじゃないわ」
「しかし、ちょっとしたバーだな。ここは」と私は部屋を見まわして言った。
 キッチンの棚には洋酒の壜が並んでいた。カクテルに使う道具やグラスの類もまとめてあった。
「もし時間に余裕が出来たら、わたしシェイクの仕方とか本格的に習おうと思うの。じかにグラスでつくるお酒ばかりじゃ芸がないもの」
「それなら、バーカウンターもこしらえなくちゃ」
「そうね。そうするわ」
 彼女は、向こうの部屋へと立っていき、絵葉書を手にもどってきた。
「若いな、字が。たしかに俺の筆跡のようだけど」
「ようだけどじゃなくて、あなたの字よ」と彼女は念を押すように言った。
 私は宛名書きを読み、裏面のミロの絵を眺めた。
 その日は雨で、美術館は空いていて、白のブラウスに黒のスカートという装いのスタッフばかりが目についた。彼女たちは椅子に静かに腰かけて、館内の様子を見張るともなく見張っていた。
「倉敷の伯父さんの家へ遊びに行ったとき、絵を見た記念に買ったのさ。でも、一々憶えてないね、誰に出したかまでは」
「キラッと光るものってなにかしら。それが、ずっと気になって仕方なかった。今でも気になって、こうしてときどき読み返すわ」
「いい絵だ」と私は葉書の絵を褒めた。
「そうね、童心躍るって感じの絵だわ」
「大学生活最後の夏。君は二浪して二年下だっけ」
「バカ言わないの。もともと二つ年下です」
「冗談だよ。でも、まさか俺を追って、のこのこ上京してくるなんて思ってもみなかったぜ」
「あなたって、ほんと、調子いい人ね。それとも、もう酔った? わたしが恋していたのは数学。数学よ」
「そうだ、思い出した。そいつだ。杓子定規で融通のきかない、頭でっかちな奴。ずっとそいつに首っ丈だったっけ。それがまたどうして」
「ねえ、キラッと光るものって?」と彼女は訊いた。
「だから、憶えてないって。絵葉書は買った。七枚買った。でも、出した相手も、何を書いたかも、全然。だって、もう二十年近くも前の話じゃないか」
「酔っぱらっちゃったかしら」と彼女は言った。
 彼女自身か、私のことか、察しかねた。
「どうかな」
「じゃあ、酔ってないかも。なにか歌う?」
 彼女は言ったが、カラオケらしきものは見当たらなかった。
「赤いぜ。目の縁が」
「そう?」
「頬も」
 彼女はうなずいた。
「でも、お酒は好きよ」
「なあ」と私は言った。
「なあに?」
「いや、ちょっと思っただけさ」
「なんのこと?」
「もし、好きになっちまったらどうなるのかと思ってさ。会ってカウンセリングをつづけるうち、君がクライエントを、逆に患者が君をでもいいけど、もしそうなったらどうするのかって」
 私は答えを待つ表情で、彼女を眺めた。
「もちろん、打ち切るわよ」と彼女はきっぱり答えた。「誰か信用のおける先生に引き継いでもらうわ」
 そのとき彼女の携帯電話が鳴った。しかし、彼女は出ようとはしなかった。鳴りやんでからメッセージを確認した。
「誰?」と私は訊いた。
「患者さん。明日の午後、面談可能かって」
「明日は、君。休みだろ」
「ええ」
 彼女は肩をすくめて見せた。
「たいへんだな、君も」
「ここは日本だから、ある程度しょうがないわ」
「日本人だけってこと?」
 彼女はうなずいた。
「お国柄にもよるだろうけど、欧米では決められた日以外に会うなんてこと、まずないわね。電話も稀にしかしてこない。それより何の話しだっけ?」
「だから、あったかどうかってこと」
 彼女はグラスの汗をぬぐった指でテーブルの上に渦巻き模様を描きはじめた。伏した睫毛に目元が翳ると、さびしげに見えた。
「感じのいい人ってけっこういるものよ。でも、それだけのことだわ」と彼女は言った。
「そうかなあ。どうしてなかなか君は色っぽいし」
「あら、ただの眼鏡かけたおばさんだわ」
 ふだん、彼女は赤縁の蔓まで赤い眼鏡をかけている。とある学習センタービルのロビーで偶然再開した日の午後も眼鏡をかけていた。
「眼鏡じゃごまかせないさ」
「好きな相手の気持ちが知りたくて、うずうずしている女友達なら心当たりあるけどね」
「そんなの、その子が相手に直接訊けばいいさ。それとも、君はなんでもお見通しってわけか?」
「バカね。そんなはずないでしょ。ついこのあいだのことよ」
「君には守秘義務ってものがあるだろ」
「わたしの女友達の話だから、あなたが聞いても問題ないわ」
 彼女の口調が蓮っ葉なのは、酔いのせいかとも思ったが、あんがいそうでもなさそうだ。
「相手の気持ちを君に分析させようってわけだ」
「他人の気持ちなんかわかるものじゃないわ」
「じっくり鑑定しないとね」
「それでも、わからない」
「そんなら先生ってなんだ」
「他人の心のうちなんてわからない。自分の気持ちがどうなっていくのかだってわからないもの。でも、わからないとわかっているから」
「この仕事をつづけていける、か」
 彼女はうなずいた。その視線の先にテーブルの渦巻き模様が消え残っていた。いまだ感情的になっているのがわかった。
「その子のおもう人とわたし、面識があって」と彼女が言った。
「双方を知っているなら、少しはアドバイスできそうじゃないか。そのう、その子の友達としてってことだけど」
「相手はペットショップの店長さん。彼女、犬を飼っていて、よく相談しに行くみたい」
「犬にかこつけて、か」
「でも、そういう気持ちって、すぐわかっちゃうでしょ。どう思う?」
「まんざらじゃないなら悪い気はしない。つき合うかどうかは別にしてもね。そうでないなら、ちょっと重いな。おっぱらおうにも相手は客だし、無碍には扱えないし。でも、それだって、俺自身に当て嵌めて考えるからそうなのであって、そいつを商売に活かそうと思えばいくらだってうまくできそうじゃないか。そういうしたたか者が世の中にはけっこういるよ。軽く受け流していればそのうち諦めてくれるだろうって考え方もある」
「気まじめそうよ、その店長さん」
 どうやら彼女の女友達だけが熱をあげているらしい。
「なんとかその子に言ってやりゃあいいじゃないか」
「そうもいかないわ」
「じゃあどうする、放っておくか」
「さあ」と彼女は言った。「でも、執拗に過ぎると思うわ。病気とまでは言わないけど」
 なぜそう思うのか。惚れたら最後というではないか。恋につける薬なし!
「なあ、何か聴こうぜ」
 話題を変えたくて、私は言った。
「ノラの新譜があるわ」と彼女は勿体つけて言った。「聴く?」
「もちろん」
 ノラ・ジョーンズなら悪くない。
「バカみたいだわ、わたし」と彼女は言った。
「なんだい、藪から棒に」
「だって、こうして飲んでいても、ずけずけ言ってばかりじゃない。わたし」
「ふだん、話を聞かされてばかりいるせいだろ。べつに気にしちゃいないさ」
 もう一杯どう、と彼女が訊いた。
「じゃあ、もう一杯!」と私は答えた。

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グラスのなかを無数の泡がのぼっていく

 ここまで書いてから、一度読み返してみた。すぐ読み返したので、うまく書けているかどうかよくわからなかった。こういうばあい少しのあいだ放っておいて、そのあと一日二日経てから落ち着いてゆっくり読み返すと客観視できていいのにちがいない。
 そんなことを思っているところに、電話が鳴った。
「たいしたことなかったわね、台風」と声が言った。
「高潮には、ひやひやしたがね」と私は答えた。
「ねえ、メール見たでしょ?」
「ああ」
「なぜ返事をよこさないの?」
「忘れていた」
 私は、とぼけて言った。
「ずいぶん、ご無沙汰だわ」
「呼ばれなければいかないさ」
「呼ばないでもいらっしゃいよ」
「いけずやわぁ、か」
 ママは、京都の出で、某老舗問屋の二女だが、東京で今と似たような店を出していたことがあると、以前、花見の席で聞いたことがある。
「今、書いた原稿を読み直していたところだ。吹き返しの風がときおり強く吹いて、うるさくて気が散るよ」
 私は一昨日の昼、よしはらのシェフと台風の話をしたときのことを思い出した。シェフは植えつけたばかりの野菜の苗のことを心配していたが、おそらくあの降りようでは助からなかったろう。
「ねえ、今夜、いらっしゃいよ」とママが言った。
 私は夕食のあと自宅を出た。
 いつものようにドアを押して店に入ると、ママのほかに、面識のない女の子が二人、すでに席について待っていた。
 奥の席で会社帰りらしい一組がよろしくやっていたが、ほかに客はいなかった。話しぶりから禿げた中年の男がどうも上司であるらしかった。その男が女の子の耳元でなにやら囁いた。
「まあ、ほんとうに」と女の子は真顔になった。
 この女の子に私は見覚えがなかったが、それよりも男が何を語って女の子を真顔にしたのだろうと、そちらの方に興味が動いた。
 気にするほどに、私はそちらの席のほうを見ないようにした。
「写真と少し感じがちがうわね」と同席の女の子が私を見て言った。
「ほんとうに」と別の子がその女の子に答えた。
「・・・・・・」 
 自己紹介が終わると、彼女たちは気さくに話しはじめた。
 飲み物の用意ができたところでママが言った。
「聞きたい事あるなら今のうちよ。この人、酔うとどうにかなっちゃうから」
「どうにか、って?」と唇のプルルンとした女の子が訊いた。
「飲むと、そのう、飲むほど口が重くなるんです。途中からはまるでダメで、まるっきりしゃべらない」
「えっ、嘘!」と別の女の子が言った。
「あんなたくさんいろいろ書いていらっしゃるのに」と唇のプルルンとしたほうの子が興味ありげに身を乗り出して来た。
「いっぱいお話聞かせてください」と別の子が語尾も明るく言った。
 乾杯のとき、私だけ烏龍茶であった。むろん、ママが気を利かせたのである。
「ねえ、なにか歌ったら」とママが私に言った。
「オーケー、わかった」と言って、私はマイクを受け取った。
「この人、作詞も作曲もやるくせして、あまり歌が上手じゃないの」
 いちおう客で来ているのだから、その言い草はないだろうとちょっぴり腹が立ったが、言い返すのも大人気ないと思って黙っておいた。
 私が歌って席にもどって来ると、唇のプルルンとした女の子が、「あのう、お願いがあるんですけど」と私の顔をまじまじと見て言った。
 カラオケのマイクは奥の席へとまわされて、若い方の部下らしい一人がウルフルズの『ガッツだぜ』を歌いはじめた。
 すると、その女の子がつづけて私に言った。
「そのバンダナ、とってみませんか?」
 どの釣りの写真もバンダナか帽子で頭を隠しているからだろう。
 私は答えに困った。
 「そんなの、ほかのおじさんと変わりないわよ。」とママが冗談めかして言ったので、私の頭髪に女の子たちはいっそう強い関心を持ったようだ。
 そんなのはお安い御用だが、待てよと思った。ここで見せては儲からない。
 こう考えた私は、「あのね。ママの言うとおり、かなり(禿が)来てはいるけど、まあ、ユニチカのホームページにそのうち載るからさ。気にかけておいて」と答えた。
 どうやら、買ったばかりのタブレットを自慢したいママが彼女たちに私の記事を検索して披露したのが事の発端らしかった。ママは釣りに興味はないが、ヨーロッパの文学に詳しく、相当な読書家でもあるから私の書く物もたいてい読んでいて、ときに鋭い突っ込みを入れてくる。反論の余地もないほど手厳しく斬り込んでくることも少なくなかった。
「でも、ネットに載せたら最後、世界じゅうに薄毛が知れ渡ることになるわよ」とママが可笑しそうに言った。
 そんなの多寡が知れている、と内心思ったが、それでも、ママの言うとおりだと考えなおして、ちょっぴり気持ちが落ち込んだ。 
「ハイボールが飲みたいな」と私は言った。
「悪くないわね」とママが答えた。
「ブルー・ハワイもいいな。夏だし」と私は図に乗って言った。
「それならハナちゃんとこへ行かなくちゃね」
「元気かな、ハナ」
「元気よ」
「ギムレットには早すぎる!」と私は言った。
「いいえ。ちっとも早くないわ」とママが言った。
「じゃあ、ブルー・ハワイは?」
「ええ、早くないわよ。あなた烏龍茶で悪酔いした?」
「おう。もう、へべれけよ」
 女の子たちは、よその店のホステスで、ママとは親子ほど年が離れているが、明朗快活でありながらこれっぽっちも出しゃばったところのない性格のいい子たちだった。
 その後、いつになく私はペースと量を考えながら飲みつづけ、談笑もし、場をしらけさせないよう心がけた。
 けれども、最後の最後には口が重くなって、普段となんら変わらぬ幕引きを見たようである。
 後日、ママからそう聞かされた。
 合掌!

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夏はトロピカルなカクテルで語り合いたい

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徹夜明けへろへろ顔の筆者です。髪は減る一方

 話は変わるが、去年のちょうど今ごろ、徳島県鳴門市でキスが釣れているという話を聞きつけ出かけてみたことがあった。ところが、潮もまずまずで入れ食いになってもおかしくない状況なのに、小さなキスがほんの少ししか釣れない。おまけに暑くて汗が目に入るし、砂に足をとられて歩きにくいし、とにかくそんなこんなでふてくされていると、そこへルアー釣りの好きな青年が海の様子を見にやって来て、ここからそう遠くない漁港の波止でカマスが釣れていると教えてくれた。
 ダメ元の気持ちで出向いてみると、到着後しばらくしてから小型のミノーでほんとうにカマスが入れ食いになった。まだ明るいうちの入れ食いだから、時合はすぐに去ってしまい、じきにダメになってしまったが、思わぬ拾いものに、心嬉しく思ったものだ。
 そのカマスが丸一年ぶりに、やはり鳴門の播磨灘で数尾ではあるが釣れた。

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使用したラインとリーダー

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日暮前のせいだろうか、深い層でのヒットが多かった(H25.8.23)

 カマスは一夜干しにして食べると大変おいしい。香川、徳島では馴染み薄の感の強い魚だが、九州ではフライで日中に狙うと五十尾、百尾の大釣りをすることも珍しくないようだ。聞くところによると、福岡市沖の何とかいう島の港で数年前に、それをうわまわる数のカマスが釣れたという。
 なお、このフライのカマス釣りは、水野雅章の得意とするところで、食いが立つと鈎を三つ結べば三尾のカマスがいっぺんに食いつくと言っていた。
 細かな鋭い歯からして獰猛そうな面構えをしているが、どうやら見た目どおり食いしん坊な魚のようである。

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フライなら昼間から入れ食いになることも(福岡県にて)

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今年も鳴門方面でカマスが釣れ始めた(H26.8.22)

【今回のタックル、ライン】

ロッド   : ノリーズ スローリトリーブSR710F

リール  : ダイワ カルディアキックス2004

ライン  : ユニチカ ナイトゲームTHEメバルスーパーPE 4lb(0.3号)

リーダー : ユニチカ アイガーⅢスーパー1.2号

2014年8月16日

かいつぶり

 けさは、まず起きてから短い散文を書いたのち、ある誌上に載せた私の短歌に対する評文に目を通した。東洋という姓名の人が次の歌に論評を寄せていた。

 あらぬ方にかいつぶりひとつ浮かび来て父母在らぬ世の光浴びたり

(評)
 父親を亡くされた直後の歌か。ぼんやりと池面を見ている作者。おもいもしなかった方角にかいつぶりが浮上したのだ。「父母在らぬ世の光」が心の虚ろを表現して秀逸。「あらぬ方」に浮上したかいつぶりは生命の転生を思わせ詩的であるが、「あらぬ」と「在らぬ」の掛け詞的な用法は少し気になるところではある。

 ごく短い詩形の短歌であっても、読む人によって、さまざまな解釈がなされるものだが、他人の評価は大して気にしない。語法のミスや技巧的な問題点についての有益な指摘なら、ありがたく受けて正すよう努めるし、また、今後の作品に活かせるよう心に留め置くこともしようが、それ以外は聞かなかったことにしてすませるようにしている。
「あらぬ」と「在らぬ」が掛け詞的というのは考え過ぎだろう。しかし、気になる人には気になるのかもしれない。
 それと、私は人の死を深刻に悲しむことがあまりなくて、人間必ず死ぬと思っているものだから、この東氏の評文のような、「ぼんやり」とか「心の虚ろ」とかいう心理状態で、この日、池のおもてを眺めていたのではなかった。
 ついさっき潜っていった小さな水鳥のかいつぶりが、少し経つと思いもよらぬ方角に浮かんできた。私は、あっと思った。そのことに心が動き、小さな感動とでもいうべきものをおぼえた。だが、それはもうただそれだけのことであった。「父母在らぬ世の光」という表現もそのとき自然に心に浮かんで来たまでのこと。いわば、自然に口をついて出た歌ということだ。
 思うに、母が死んだとき詠んだ歌の連作も評判が悪くなかったし、父のときもまずまずの評価だった。この手のエッセイ等に関しても同様に好意的な便りを何通かいただいた。
 これは短歌以外にもいえると思うのだが、肉親など身近な死を作品にしようとすると、どうしても思い入れが強くなり過ぎて、感情の移入の度合いが大いに増して、結果的に不出来に終わってしまう例が意外と少なくない。
 なお、「あらぬ方」は、むろん、「あらぬかた」と読む。短歌は韻律の文学でもあるので、リズムと読みは大切である。
 なお、このかいつぶりの歌を詠んだ池は高松市の郊外にある三谷三郎池。強固な堤の上は舗装した駐車場で、その傍らには金属製の巨大な龍が、これまた迫力のある大きな頭をもたげた格好で寝そべっている。材質は、鉄か、ステンレスか、ちょっと判定に苦しむが、その背は跨ったり横座りしたりできるので、子供を乗っけて記念撮影する親も少なくない。
 この寝そべる龍のすぐ下のブロックを継いだ土手を水辺まで降りていくと、以前は大きなブラックバスがよく釣れた。
 しかし、今は外来魚駆除のためか定期的に水を抜くので、相当ダメになって来ているそうだ。
 釣りをする若い子らの姿もめっきり減ってしまった。

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ティペット(ハリス)はナイロン、フロロを状況次第で使い分ける

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ラインはフローティング、シンキングを用意して万全を期す

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使用したフライ

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ロッドはオービスPM10-709を使用した

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雑木のなかを水辺に向かう

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池面を広く見渡せる場所で様子を窺う

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表層でアタリがないためシンキングラインに交換する

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水面を覆う青葉の下にバスがいたが、フライに反応しなかった。次へ行くか

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橋の下は好ポイントと言いきってよいだろう

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水道部にもバスは少なくない

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これしか釣れませんでした。スミマセン!

【今回のタックル、ライン】

ロッド  : オービスPM10-709

リール  : オービス#7/8

ライン  : ティーズSW#7F、SW#7S(タイプ1)

リーダー : サセックス1X9ft

ティペット: ユニチカ アイガーⅢスーパー1.2号
       ユニチカ スタークU2 1.5号

2014年8月21日

福の分け前

 ついさっき、コカコーラーを奢ってもらった。それも量たっぷりのペットボトルだ。私は冷房の効いた部屋で一人仕事をしているが、このコカコーラーは大汗をかいて飲むコカコーラーの倍も三倍も美味しく感じられた。
 買ってくれたのは出荷者ではなく、荷受けのアルバイトをしている年配のNさん。この人は市電の駅長を務めあげて退職後に、代々つづく農業をやりながら週の半分の日数を市場の荷受けに割いている。
 Nさんは、今日は出勤日であった。そのN さんが、コカコーラーを奢ってくれた。なんでも先日、手塩にかけて育てた飾り物用の大小のカボチャを競りにかけてもらったら、思いのほか高値で売れたという。その代金が、ついさっき手元に届いたのだ。
「それで、福は分けあうとまた大きな福を呼ぶとか言いますでしょ、嘘か真か。まあ、それはそれとして、これ飲んでください」とNさんはにこにこしながら私のところまでコカコーラーをわざわざ届けてくれた。
 こういうのは幸田露伴の説くところでは「分福」にあたるだろうか。
 こういう理由から福のお裾分けを頂戴できるなど、この世知辛い世の中、そうそうあることではない。
 これはもう素直に喜んでおくべき儲けものである。
 Nさんには心よりお礼申し上げたい。

 そのコカコーラーを飲んでいると、営業に出ている友人からチヌがたくさん釣れていると釣り場からナウな実況メールが届いた。
 今期は、夏チヌのダンゴ釣りというと大きいのは少なくて、手のひらサイズが主流であるが、それでも潮次第で入れ食いになることもある。
 七月中旬に私が雑誌の取材に出かけたときも小ぶりながらよく釣れた。
 八月の声を聞いてよりのちは、ミキカツさんがウキを用いないイカダ竿を使ったブッコミ釣りで、やはり小ぶりではなるが数的には悪くない成績を残している。釣り場は高松市内の弦打木材港の灯台のない方の波止。このほか本津川河口付近でも、ミキカツさんはよく竿を出しているそうだ。
 私が見物に立ち寄ったときも次々夏らしいサイズのチヌを釣りあげていた。
 今年は夏が涼しいので日中の釣りも大して苦にはならない。
 ぜひとも、また近いうちに出かけてみようと思っている。

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ユニチカGUA磯マークス2.5号。ウキを使ったダンゴ釣りに多用する

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ブッコミ釣りはフロロ、ナイロンのハリスを使って仕掛けを組む

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サシエを包むダンゴは配合物とその割合が人によってかなり異なる

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8月になって夏チヌの食いが活発に

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弦打木材港で夏チヌのダンゴ釣りを楽しむミキカツさん

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イカダ竿のブッコミ釣りに夏チヌがヒット

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内向きは流れが緩くウキを用いた釣りにも向いている

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今期の夏チヌはややサイズ的に小ぶりである

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左寄りにみえるのが弦打木材港

【今回の使用タックル】

竿   : イカダ竿2.1m
リール : 小型スピニングリール
道糸  : ライン
      ユニチカ ユーテックGAU磯マークス2.5号
      ユニチカ グンター1.2号
      ユニチカ スタークU2  1.2号
      ユニチカ アイガーⅢスーパー1.2号
釣り鈎 : チヌ鈎3号
オモリ : ガン玉B

2014年8月23日

取材のことなど

 生後八か月のころ大病をして危うく命を落としかけた。腸の重大疾患のためだ。手術をしなければ死ぬが仮にしたところで生存率は二割あるなしです、どうしますか?と医師に問われた父母は、藁にもすがる思いでお願いしますと頭を下げて頼んだそうだ。すると、どうせ助からないかもしれないから(むろん、医師がそんなことを言うわけがないから匂わせたというに過ぎないだろうが)ついでにすぐ近くにある盲腸もとっておきましょうと真面目な顔で医師が申し入れてきたそうだ。
 手術後、個室に入れられたが、次の日に右隣の赤ん坊が死んだ。また、その次の日には左隣の赤ん坊が死んだ。明日はわが子かと思って覚悟を決めて暗い気持ちでいたら、どうしてなかなか死なないではないか。それを喜んだ看護婦長が、もうそろそろお湿り程度なら水を与えてもよいと母に告げた。その指示通りに母は水を浸みこませたガーゼでかさかさに乾いた唇を湿らせたり、湿ったガーゼの端を乳がわりに吸わせたりして様子を見ていると、あとからあとから水を欲しがるので、いけないと思った母は乾いた方のガーゼの端を試しに口元へと持っていってみたところ、どうして吸おうとしない。それで、この子は相当に賢くて五感も優れているのではないかと勘違いしたそうだが、こうして世に抜きんでる立派な大人にならなかったというのが私自身も残念でならない。
 いのちを拾った私は、その後も病弱に育って、小学校では保健室と縁の切れぬ六年間であった。吐いたり熱を出したりで休むことも珍しくなかった。医師に言わせると後遺症のせいだということだった。それでも、自然のなかで遊ぶのが好きで、体調のいいときは虫捕りに出かけたり魚釣りをしたりして友達とよく外で遊んだものだ。そして、嘘みたいな話で恐縮だが、中学校に入った途端に今までの病弱はなんだったのというくらい元気になって、その後、ちょっとした病気や深刻ではない怪我で入院することはあったが、どうにかこうにか今もこうして人並みの生活を送っている。
 それでも、幼少期の病弱は精神に及ぼす影響も小さくないらしく、中学を卒業するころまでは神経質に過ぎるところがあった。医療機器の進歩の目ざましい現在とはちがって、触診が大きなウエイトを占めていた時代のことだから、医師がからだのあちこちにその指を伸ばして探るのが身体検査のときは普通であった。神経質な私は腹の筋肉が常に緊張しているせいで内臓を探ろうとしても医師の触診の指の歯の立つところではなかった。
「もっと力を抜いて」と言われても、できない相談だった。
 なぜ、こんな生い立ちめいたことをくどくど書かというと、先日、月刊レジャーフィッシング10月号の取材のために高松市庵治半島の鎌野漁港へサグリ釣りに出かけたとき、たくさん釣れたメバルのなかの一尾が、何を食ったらこんなに腹が膨れるのかというくらい腹パンで、ためしにその腹を指で押してみたら思いのほか硬くて、そうするとあのころ自分の腹もこんな調子だったろうかと、ふと思い出してしまったからである。

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取材地へ車で向かう筆者

 この夜、取材に協力してくれたのは、ミキカツさんこと三木勝利、男爵こと三木一正、尾崎晴之、それに男爵と仕事上つき合いのある漆原さんという女の人。男爵はこの人の御主人とも仲がよくて、そのような経緯から雑誌に是非とも写真を載せてほしいと私に言ってきた。男爵の頼みとあっては断るわけにもいかないので今回だけ特例ということで掲載した。
 しかし、当ホームページには残念ながら登場しない。基本、うちは雑誌の取材についても女人禁制で、例外は過去に数例しかない。
 ましてや当ホームページには婦女子の写真を載せたことはこれまで一度もないので、今後もそれで通したい。そう思って載せないことにした。そんなの平等の論理に反するではないかとおっしゃる方がおられるかもしれないが、大体、私は平等という言葉があまり好きではない。平等云々を言う前に、ほんとうのところ男女の仲などというものは歩み寄ることを前提とした協力関係の上に辛うじて成立しているのではないか。
 でも、まあ、言いはじめると、この手の話はきりがないから、この辺でよしておくこととしたい。

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仕掛けはナイロン、フロロのハリスを使用

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仕掛けを組む尾崎は今回が初めてのサグリ釣りだ

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神経を集中してアタリを待つ尾崎

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波止は足元付近を丹念に探る

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小型が2連でヒット。すぐにリリースした

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良型のメバルに大満足の尾崎

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今回はこのサイズのメバルがよくヒットした

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クーラーのなかが段々と賑やかになっていく

  なお、サグリ釣りのメバルであるが、その後も現在までわりとよく釣れている。潮次第で良型のグレもいっそう多く混じるようになった。
 まもなく始まるであろう秋の新子のアオリイカ共々、余すところなく楽しみたいものだ。  
 では、みなさん、よい釣りを!

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グレもこのサイズだと糸を鳴らしてよく暴れる

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このサイズのグレが連発した

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ミキカツさんは根魚をたくさん釣りあげた

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庵治半島のメバルは最高に美味しい

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餌はゴカイのほかにパワーイソメも使用した

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漁港の船溜まりも見逃せないポイントだ

【今回の使用タックル】

竿   : :がまかつ がまメバル一波Ⅱ 中硬530など
道糸  : ユニチカ スタークU2 1.5号
      ユニチカ アイガーⅢスーパー1.2号
釣り鈎 : がまかつ メバル専用(金)9号など
オモリ : ガン玉2号~B
目印  : ルミカ ケミホタルミニ25

2014年8月29日

いまだスランプ脱出ならず!

 ドリチスという蘭は花が小さいので二輪三輪では見映えに劣るが、十五もそれ以上も咲くと、なかなかどうして人の目を引く。うちでいま咲いているのは白花で、花びらの縁に黄の斑が入り、リップは黄と薄紫である。花は茎の下から上へと順に咲いていくが、涼しい室内で育てているので、まだしおれて落ちた花はなく、今朝は十八輪を数えるまでになった。蕾がまだ十ほど見えるので、今後が楽しみでもある。この花の勢いを借りて、なんとか私も今のスランプという悩ましい現状を脱したいものだ。と、いうのも、シーバスを釣りに行って最近はいい思いをさせてもらっていない。

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花が小ぶりで可憐なドリチス

 そもそもスランプの発端は七月下旬に高知県仁淀川河口へと遠征した時にさかのぼる。この日は遠出したにもかかわらず無残な結果となった。、夕暮れの気配が濃厚になってもサーファーたちがなかなか海からあがろうとしないので、その脇へ行ってかまわずミノーを投げてみたがヒラスズキもメッキも釣れず、ただ暑い思いをしただけだった。その後、夜になってから河口から少し河川側へ入った右岸でマルスズキのチビ助がひとつ釣れたが、あとはアタリすらなかった。

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筆者愛用のナイロンライン

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使用したミノー

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春野側から見た土佐海岸

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右岸から見た仁淀川河口

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河口右岸でいい波が立ちあがっていた

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いい波が浜へ寄せていた

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ロッドはウエダ、リールはダイワ、そしてラインはユニチカ

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夕刻、ルアータックルを手に浜を釣り歩く人がいた

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んー、こんなふうになるはずだったのだが.....

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150kmの道のりを来て、これ1尾。まあ、こういう日もあるさ

 これではいけないと思って、その後、鳴門の地磯へ男爵と二度ほど出かけたが、写真を撮って自慢できるようなサイズにはやはり出会えずじまいであった。
「こんなボウズ癖がつくと、あとあと尾を引いて困るぜ。どこか手堅く本命をものにできる場所はないかな」
 そうたまりかねて男爵に訊ねると、「台風の後の増水と濁りがやや落ち着いてきて屋島大橋下の河口がいい感じだ。なんなら明日にでも行ってみないか」とのこと。
 ところが、話に乗ってはみたものの、いい感じどころか釣れるのは朽ち折れた枯れ葦だの樹の枝だの、もうゴミばかりでお手あげ状態のまま納竿の憂き目を見た

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海側から見た屋島大橋

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仕掛けを組むりょーた

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キャストをくり返すも、釣れるのは藻、葦の屑ばかり

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アタリもないわい、と憂鬱げにリールを巻く男爵

 もうこうなったらしばらくはおとなしくしておくより仕方がない。そう思ってふてくされていたら、朝の雨が嘘のように晴れた8月22日の午後に釣り仲間が屋島沖の兜島付近から庵治沖にかけての海域でタイラバを使って真鯛をねらうというので一緒に出かけてみた。特別いい状況ではないが運がよければ少しは釣れるだろうというので、では少しだけ期待してみようと思って仕掛けを降ろして釣りはじめた。仕掛けが底に着いたらゆっくりリールを巻くだけなのだが、ひと流し終えて船を元の場所までのぼらせて、また流しはじめると三度目に降ろした仕掛けに真鯛が食いついて来た。
 この釣りに精通していない私は、何がどうなって食いついたのかよくわからないのだが、アタリが来てもかまわずに同じスピードで巻いていると、ググッと仕掛けが絞め込まれた。これは前もって支持されたとおりにやったわけで、私の腕前がいいわけでも何でもなかった。船を潮に対して上手に流すのは船頭の役目で、釣りがうまくいくのも台無しになるのも、八割方この操船の出来いかんにかかっている。要するに船頭の腕がよかったのである。
 これでは、釣ったとはいえない。しかも、シーバスではなくて真鯛である。
「シーバスも釣れるよ」と船着き場を発つとき船頭がいうので少しは期待していたのだが最後まで顔を拝むことはできなかった。
 夜は鳴門方面へ釣りに行く約束があるので、船を降りると船頭が飯を奢るというのも断って、早めに家路についた。

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ユニチカシルバースレッドショアゲームPE0.8号を使用した

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沖から見た屋島の長崎の鼻

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太田氏自作のタイラバ

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タイラバで釣れたマダイ

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太田氏はタイラバの名手。とにかくよく釣る

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こんな珍しい魚も釣れる

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もう少し東へ足を延ばすとマルアジが釣れるそうだ

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屋島沖から小豆島にかけての海域はマダイが多い

 昨夜(8月28日)、鳴門へ秋の新子のアオリイカがどのくらい大きく育っているかと思って様子を見に行った。夕方早くに、北灘の海岸線を車で見てまわると、大浦、粟田、櫛木の各漁港にエギングを楽しむ人の姿が数名ずつ見られた。海岸線のテトラから釣っている人も見かけた。岩場からやっている人もいた。話を聞いたそのうちの数名は少しではあるがクーラーのなかにアオリイカをキープしている人もいた。きれい好きの人はアオリイカの吐く墨で汚れないようにとの配慮から透明のジップバックに入れて氷の入ったクーラーのなかに入れていたが、サイズは大きいもので胴寸が石鹸より少し小さいくらいのサイズであった。数も3つほど、私が見たなかでは6つ釣っていた若者が一等賞であった。
 小鳴門海峡でも似たり寄ったりで、「今年は成長が遅いようです」とコメントをくれる人が少なくなかった。
 私も島田島の岩場に降りて様子見がてらエギを投げてみたが、石鹸大どころかアタリもなかった。釣果を得ている人は、小さな2号のエギを使っていたが、私が投げたのは3.5号であった。エギが大きいと小さなアオリイカはなかなか抱かないものだ。つまりそこまでまだ成長していないのだ。釣れなくて当然だ。そう自分に言い聞かせてみるが、もう一人の自分が、「そんな事あるものか、おまえが下手糞なのだ」と言い訳がましいことをいう自分に対して憎まれ口を叩いてくる。
 私は海面から顔を出した岩の上からアオリイカをねらっていたが、アタリもないのでエギを交換しようと思って地磯の岩場に置いたバッグの方へともどろうとした。すると、地磯と私の乗っかる岩の頭とのあいだの猫の額ほどの浅場に石鹸大ほどの小さなアオリイカが潮に揺られて遊んでいた。この野郎やろう、と私は思った。こんなチビイカすら俺をバカにしやがる、そう思うと少々腹が立った。このくらいのことで苛立つのも、きっとスランプのせいにちがいない。私は相当追い込まれた気持ちになっていた。
 その後、エギをミノーに付け替えて投げてみたら40cmくらいのセイゴが3連続ヒットして、なおのこと複雑な心境になった。
「オー神様。もっと光を! 巨大なシーバスを!」
 けれども、そんな願いもむなしく、この日も大物に出会うことは叶わなかった。

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こんな日はいつ来るのか。いまだスランプ脱しきれず!

 小鳴門海峡付近と香川県寄りの北灘の海岸線とでは潮の時間が2時間ほどちがう。北灘が、満潮時刻が、2時間ほど遅い。20時前なら満ちはじめて少し経つ時刻だから、 潮の動きさえ悪くなければワームで小アジくらい釣れるかもしれない。岸壁に外灯のある粟田漁港がいいかも。そう思って帰り道でもあるし寄ってみたら漁港内の凪いで静かな海面でピチャピチャという音がする。しばらく観察していると、暗い海面のあちらこちらでざわついた感じがみてとれる。小アジか小イワシだろう。いずれにしても何かに追われているようだ。
「メバルか、セイゴか」と私は思った。
 小型のペンシルをメバル用の道具を使って投げて誘ってみると、いきなりガツンと来て仕掛けが切れた。
「たいしたアタリじゃなかったがなあ」
 仕掛けを組み直して、さっきペンシルを持っていかれた辺りの海面を見まわしてみたが、気になる様子は見て取れなかった
 タダ巻きでは反応がよくないので、竿の先を動かしながら多少誘いを入れてみる。すると、いきなりひったくるようなアタリが来て、アワセを入れると途端にロッドが綺麗な弧を描いて撓った。引き味から足の速い魚だと知れた。しかし、重量感には乏しいようだ。
「あいつか?」と私は心の隅で思ってにんまりした。
 コンクリートの岸壁の上に抜きあげてみると、やっぱり一夜干しにすると美味しいカマスであった。
 時合は短く、釣れたのは4尾。当日(8月28日)は単独で出かけたので、セルフモードを使って帰りがけに何枚か写真を撮った。
 けっきょく、この日は昼の地磯のシーバスも、帰りに立ち寄った粟田漁港内でのカマス釣りも、結果的にはイマイチであった。
 いまだスランプ脱出ならず!
 そういうわけである。

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ユニチカナイトゲームTHEメバルスーパーPE 4lb(0.3号)、アイガーⅢスーパー1.2号を使用

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このサイズなら正直、うれしい!

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ペンシルに食いついたカマス

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数は出なかったが悪くないサイズだった

2014年9月10日

ツキ、あるいは運というもの

 女に熱をあげている最中の野郎を、釣りの取材には呼ばないことにしている。理由は簡単で、そういう野郎を使ってみても、こちらの期待に沿うようないい仕事は、まず、しないからである。女のことのほか頭にないのだから当然といえば当然だし、それで交友関係に問題が生じるということもないが、取材には〆切がある以上、甘く考えてばかりもいられない。
 ふだんから信頼している凄腕のベテランでもダメで、また、若い者ならなおのことよろしくない。
 それなら、身をきれいに保った気に迷いのない名人級なら安心して使えるかというと、そうはいかないところに苦労があり、また面白みがある。たとえば、運気下降の途にある名人よりも、ここ一番というとき目を見張るような働きをするのは、やはりツキのある野郎である。
 それは、長い目で見れば腕のいい達人にはかなわないが、短期決戦の取材では腕前のほどはまあまあでもツキのある者、運の向いている者を積極的に登用するよう心がけると、あんがい取材というのはうまくいくものだ。
 むろん、自然相手に絶対などということはあり得ないが。

 ところで、いま最も運のいい野郎、ツキのある野郎の筆頭は誰かというと、これはもう考えるまでもなくJUMP高松店勤務の穴吹くんだ。
 9月10日の昼頃、私が買い物に訪れてみると、穴吹くんは値札つけの終わった商品を棚に並べている最中だった。
 その彼が、私に嬉しそうに、こう言った。
「ちょっと前に男木島へエギングに行ったのですが、胴寸15cm級がぼちぼち釣れましたよ」 「そうか。やるじゃないか。今年の秋の新子はせいぜい10cm前後。稀に君がやっつけたサイズが混じるけど、まだ、この辺りの釣り場ではエギを抱かせて楽しめる状況にはないというのが実情だ。それからすると、君なんか、ほんと出来過ぎだよ」
「ありがとうございます」
「どうだ。今夜仕事が終わったら庵治へでもナイトエギングに出かけてみないか」
「ほんとですか。でも、ぼくは夜の浜でズル引き釣りをした経験など全くありませんから、うまくやれるか心配です」
「それは、君。日中にシャクリ釣りで、それだけやっつけたのなら、むろん、大丈夫だよ。なんといっても、君はついている。そのツキと運が味方してくれさえすれば百人力だ」
「それなら、お供します!」
 こんなふうに、話がとんとん拍子に進んでいった。

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瀬戸内海国立公園の庵治半島(鎌野の浜)

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産卵が遅かったのか? 圧倒的に小型が多い

 午後8時に仕事が終わるというので午後9時ころ、釣り場である鎌野の浜で待ち合わせて一緒に釣ることにした。
 私が到着すると、穴吹くんはもうすでに外灯で明るい砂浜の波打ち際に立って、エギを投げては巻き、投げては巻きしていた。
「釣れた?」と私が訊くと、「2度ほどアタリはありました」と残念そうに答えた。
「即アワセは禁物だと教えてあったろう」
「はい。でも、体が勝手に反応しちゃって。ドジを踏んでしまいました」
「反射神経抜群だな。若いから」
「今度はうまくやります」
「いいかい。ツキがある。運が向いている。それを忘れちゃいかん。それと、コツンと来ても、かまわずにひたすらゆっくり巻くことだ。次またアタリが来たら、今度は巻くのをやめて、しっかりアオリイカにエギを抱かせるようにしろ。潮が速ければ、仕掛けを送ってやるのも抱かせの間を演出するのにもってこいの方法だ。そのあとは止めて待ってさえいれば、エギを抱えて押さえ込むその重みが手元にありあり伝わってくる。しっかりガツンとアワセをくれてやるのはそのときだ。それまでは、じっくり待つ。抱くまでな。ここまでくれば、あとはもうこっちのものさ」
 その夜は、私たち以外に浜で釣りをしている者はいなかった。一生懸命やったところで、釣れるのは小さいものばかり。しかも、数があがらない。それどころか下手をするとボウズを食らうこともある厳しい現状に閉口して、みんな出足が鈍っているのにちがいない。
 そんなことを思っていると、私から少し離れて釣っていた穴吹くんが、腹から絞り出すような声をあげた。
「乗った!」と彼は確かにそう言ったようだ。
 しかし、その後、穴吹くんはこうも私に向って言った。「いや、藻かゴミですね。重たいだけです」
「また、しくじったか」と私は言って笑った。
 ロッドを曲げ、身をのけ反らせた穴吹くんの姿が、夜を横に透かして見えた。しかし、前とは少し様子がちがっている。よく見ると、その表情は硬かった。少し上気しているようにも見えた。
「あっ!」と彼は声をあげた。
 その一瞬後、悲鳴に似たドラグ音が夜の闇を震わすように響いた。リールのスプールからラインが剥ぎ取られていく。
 こいつはずいぶん大きいぞ、と思って見ていたら、いちど猛ダッシュをみせただけで、あとは素直に波打ち際まで寄せられてきた。風はなく、海は凪いでおり、取り込みに難儀するような状況にはなかったが、それでも浜の砂の上までずりあげるのには普段から釣り慣れしている穴吹くんの若さを持ってしてもかなりの力を要した。
「いやぁ、重たかったです。竿が折れるかと思いました」
「やったね。25cmは楽勝だ」
 計測してみると、胴寸27cmもあった。
 あとからやって来た田所さんと湯谷くんが、その大きさに目を丸くした。
「産卵に参加しなかった親イカだろうか?」と私は言った。
「大食漢の新子かも」と田所さんが言った。
「微妙なサイズですね。新子か親か」と釣りあげた本人の穴吹くんは声がうわずって、いまだ興奮冷めやらずといった様子だ。
 たぶん、親イカだろうということで一件落着した。
 じつは、ここ鎌野の浜では9月の声を聞いてよりこっち、穴吹くんが仕留めたのと同サイズのアオリイカが夜のズル引き釣りで3バイ釣れている。しかし、私が現場に居合わせなかったために、惜しくも写真を撮ることは叶わずにいた。
「まあ、こんなのは運が向いて来ている奴か、よっぽどツキのある奴にしかできない芸当だよ」と私は言って穴吹くんの手柄を褒めた。
「まったく、運とは恐ろしいものだ」と田所さんが言った。
 ところが、これに運を使い果たしたのか、その後、しばらく浜の暗がりを真面目に釣り歩いたにもかかわらず、穴吹くんも私たちも小さな新子ひとつものにすることはできなかった

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使用したラインとリーダー

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デカいアオリイカに大満足の穴吹くん

 どうやら今期の秋のアオリイカは出足がよくない。先のことは誰にもわからないが、どうも去年の今ごろと比較してサイズはうんと小さいし、数にしてもやはり去年の今時分の実績を下回る結果となっている。
 しかし、それが事実なのは疑う余地もないが、どれだけ条件がよくないとしても、今期のことは今期のうちにけりをつけずにすまされない。
 あまり気持ちを暗くせず、悪ければ悪いなりに楽しみたいものである。
 なお、この件に関しては、またの機会に詳しく書くつもりでいるので、今回はこのへんで筆を置くことにしたい。
 では、みなさん、よい釣りを!

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秋アオリに適したラインとリーダー

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庵治半島の秋は青物の回遊も少なくない。この日もなぶらが立っていた

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悪くないサイズの秋アオリ。エギS2にヒットした(H26.9.20)

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今期の秋アオリはこのサイズがまだ稀にしか釣れてない

【今回の使用タックル&ライン】

ライン : ユニチカ・キャスライン エギングスーパーPE 8 0.6号
      ユニチカ・キャスライン エギングリーダー50 2号

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