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釣行記

釣行レポート

2015年5月31日

ちょいと午後からイワナ釣り

1

 男爵を訪ねていくと、事務所にはおらず、修理場で車をいじっていた。
 顔見知りの運転手がトラックの手入れをしていた。洗車中の者もいた。日曜なので、あまり動きはなく、全体にのんびりした雰囲気だ。
 運転手は各自トラックを割り振られているので、愛車の手入れに余念がない。べつに休日にわざわざ出勤してトラックを洗わなくてはならない決まりはないが、根っからの車好きが多いから大体いつもこうなってしまう。
「綺麗にするなあ。まるで新車みたいやね」
 私が感心して言うと、
「そう褒められると、なんか嬉しいなあ」
 手入れの手を止めて運転手が言った。
 愛車の大型トラックにややもたれかかるようにして、こちらを見る彼の表情からも、根っからの車好きであることが伝わってくる(ざっと洗って手入れして三時間。念入りにやるなら半日かかるそうだ)。

2

「ちょっと待っていてくれ。すぐ済むから」と男爵が修理中の車の下から半身を起して私に言った。
 あいさつ代わりにあげた手が油で黒かった。スキンヘッドの額も刷毛でひと刷きしたように同じ色に汚れていた。
 さっそく先日の渓流釣りのロケのことを訊くので、話して聞かせると、男爵は修理用の工具を慣れた手つきで扱いながら耳を傾けた。
「いつもは、もっと大きいよな。あそこは」と男爵が言った。
「渇水に近い減水で、あれじゃ良型のオンパレードとはいかないさ」
「そうか」
「でも、まあ、急遽、持ちあがった話だから、他に適当な釣り場が思い浮かばなかった」
「それでも、どうにか絵になったと先方が言うなら、まあ、よかったじゃないか」
 釣り師、女の子、ロケ隊、それにユニチカの担当者が同行して、総勢七人。これだけの人間が、浅く澄んだ流れの沢をいちどに遡行するわけだからイワナやアマゴがびくついてなかなかルアーを捕えに出てこないのも仕方ない。そう自分に言い聞かせても、やはり釣れた魚のサイズには不満が残った。
「二時間余りで、数的には、まあ、あんなもんだろうけど、サイズがね」と私は言った。
 男爵は、車の下から出て立つと、両手を高々と上げて伸びをし、額の汗を作業着の袖で拭った。

3

 冷房の効いた部屋に来ると、釣りビジョンで真鯛釣りの話をしていた。伝統的な釣り具と釣法で大型の真鯛を船から狙うのがおもしろいのだという。それに凝っている釣り師の熱のこもったトークが興味深かったので、しばらく黙って観ていた。
 そうこうするうち、不意に釣りに行きたくなった。
「男爵。渓流釣りに行かないか」と誘ってみた。
「行ってもいいが、突然どうした?」
「よし、行こう!」
 壁の時計に目をやると、正午過ぎだった。
 途中、どこかで腹ごしらえをして、徳島の渓流へ行くことに決まった。
「あんたか、俺か、どっちかくたばっちまったら、もう一緒に遊べないぜ」
「何言ってやがる。まだ六十にもならないのに、俺たち」
 そう言って男爵は笑ったが、明日のことはわからない。
「まっ、それでも、元気な方だよな、俺たち」と男爵が言った。
「・・・・・」
「一昨日、ロケで高知へ行って、今日は昼から徳島へ。渓流三昧じゃないか」
「何が言いたい」
「俺もよく遊ぶが、誰かさんだって元気によく遊ぶってこと」
「まあな」
 いつも乗せてもらってばかりで悪いから、今日は私の運転で釣り場へと向かった。
 日曜で、どこの店も混み合って、落ち着いて食べられそうもないので、途中、スーパーマーケットに立ち寄って出来あいの弁当とお茶を買った。

4

釣り場までは約九十キロ。
 午後四時を過ぎての入渓となった。
 釣りの支度を整えて、沢へ降りると、降りてきた反対側の山林のどこかでキジの威勢のよい声が聞こえた。つがいの諍いか、雄同士の争いか、判断しかねるが、いずれにせよ騒々しいかぎりだ。
「熊でも出れば、しゃんとするのに」と私は言った。
「いるのか? このへん」
「ツキノワグマがね。五十キロの縄張りの範囲内だ」
「出たらどうする?」
「投げとばしてやれ」
 降りた場所から釣りあがって、竿を納めた場所から山林のなかを抜けて林道へと出て、そこから歩いて車までもどる。行程二時間余りの釣りのはじまりである。
 私は竿のガイドに仕掛けを通さず、しばらく男爵の釣る後をついて歩いた。
釣りに熱中していると、魚が釣れた流ればかりが記憶に残って、あんまり風景に注意の目が行き届かないものだが、こうして竿を手に歩いていると、来慣れた沢の晩春の光景にも少なからず発見がある。
 たとえば、流れを堰くように据わる大岩の日陰の側に、すでにギボウシの葉が青かった。山奥の沢に多い種なので、園芸種のギボウシのように見事な花が茎に群れて立ち咲きに咲くわけではないが、咲けば趣がある。うなだれ気味の花は地味に白く、ともすれば見過ごしがちだが、それでいて長く印象に残る。栄養の関係か、この沢のギボウシはべつの沢の同じものとくらべて、やや小ぶりである。花はもう少し先だが、葉のみずみずしさが見目にも快かった。
「やった!」
 声のする方に目をやると、男爵が竿を曲げていた。必死の形相でリールを巻いている。
 もとの顔が顔だけに、そんなに怖い形相で必死になるなよと言いたいが、当人にすればそれどころではないらしい。
「大きそうじゃないか」と声をかけたが、男爵の耳には届かないようだった。
「逃がさないのか」
イワナをぶら提げてもどって来たドヤ顔の男爵に皮肉っぽく訊くと、
「どうして? 悪くないサイズだろ」
「まあな」
「もちろん、塩焼きでいただくさ」
 その後も、男爵は順調に釣果を伸ばしていった。
 陽が照って、陽ざしが心地よかった。

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奥の流れの落ち込み付近を狙う男爵

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男爵はイワナをそつなく釣りあげてみせた

 イワナがルアーを捕えに出てくるのは、どういうものか樹の葉が影を落とす側の暗い流れだった。日陰の側で、悪くないサイズのイワナが次々躍り出た。
 男爵は鱒玄人という重量2gのスプーンをタダ巻きして、順調にイワナを釣りあげた。
「桜の花びらみたいだな」
「桜は遠に終わったけどな」
 男爵は桜の花びらみたいな色とかたちのスプーンを手に眺めながら、感慨深げにそう言った。
 山の向こうに太陽が隠れ、少し肌寒くなって来たころ、私も釣りに参加した。奥行きのある浅い瀬の流れ込み付近に小型のミノーを遠投して、軽く誘いかけると、一発でイワナが釣れた。いや、釣りあげてみるとアマゴであった。アマゴの後に、またsが釣れた。男爵はイワナばかりだったので、「(アマゴばかり)連発とは珍しいな」と私に近づきざまに言った。
「やってみろよ。ほぼ同じ場所で出たぜ」
 そう勧めて、試しに男爵に釣らせてみたが、その後はアタリもなかった。
 それからのちは、代わる代わるポイントを攻めて歩いたが、予定のコースを釣りきるまでに活かしビクの中身が相当重たくなった。

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シルバースレッドアイキャッチ4lbを使用

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この男。よく働き、よく遊ぶ

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釣ったイワナは男爵が持って帰った

「ぜんぶ持って帰るのか?」と私は男爵に訊いてみた。
「小さいのは逃がしてやるさ」
「ロケのおねえちゃんはぜんぶ持って帰ったぜ」
「じゃあ、猫貴子ちゃんと呼ばせてもらおう。よほど魚好きみたいだな。そもそもペルビーってどういう意味だ?」
「彼女、骨盤体操のインストラクターもやっていて、骨盤という意味だそうだ」
「骨盤貴子ちゃんか」
「バカにすると塩焼きにされるぜ」
「貴子ちゃんに?」
「そう、貴子ちゃんに」
 林道に出るまでの山林のなかは、すでに薄暗かった。ふり返ると杉の木立の合間に覗く沢は明るく、空も同様に明るかった。
 林道が近づくにつれ、登りの傾斜がややきつくなった。遠く下の方から沢の流れがかすかに聞こえていた。
「よく遊んだな」と林道へ出て開口一番男爵が言った。
 右に同じの心境であった。

【今回の使用タックル、ライン】

ロッド  : ウエダ STS-501MN-Si
リール  : ダイワ セルテート1003
ライン  : ユニチカ シルバースレッドトラウトクリアー 2.5lb
リーダー : ユニチカ シルバースレッドトラウトリーダーFC 4lb

ロッド  : シマ カーディフ エクスリードHKS59UL/F
リール  : シマノ ツインパワーC2000HGS
ライン  : ユニチカ  シルバースレッドアイキャッチ 4lb

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