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釣行記

釣行レポート

2011年6月下旬

夏沢を楽しむ

いよいよ、待ちに待った源流釣りの季節がやってきた。 四国は山国なので、鱒の棲む川が数えきれないほどあって、なかでもアマゴ釣りは非常に人気が高く、餌、ルアー、フライ、テンカラなど釣り方を問わず楽しむ人が多くいる。
それにひきかえ、イワナはどうかというと、近年ゲームフィッシングが盛んに行われるようになってからもイワナが生息していることをまだ知らない釣り師が意外と多く、ごく一部の釣り師の楽しみの種になっているにすぎない。
このイワナ、根が食いしん坊なため誰にでもわりと容易に釣れるが、森のなかを流れる沢というのは、ときに樹木の青葉が流れのすぐ上まで覆いかぶさるように迫っていたり、枯れた枝が沈んでいたりして、けっこう攻めるのに難儀させられる。
しかも、地形の関係上、そういつも釣るのに都合よいポジションが確保できるわけではないので、窮屈な体勢からのキャストを強いられる場面がつづいたりすると、毎度のことながら気持ちがいらついて、どうにも釣りが大雑把になりがちである。
加えて、ヘツリ、高巻きをくり返し難所をいくつもやりすごしながらの源流遡行は春の渓流の何倍も体力を消耗するし、なにより常に危険との隣合わせである。
そうすると当然のことながら、服装や装備は誰しも可能なかぎり身軽にして釣りに臨みたく思うわけで、じつは、かくいう私も、これには大いに気を使ってきた。
むろん、通い慣れた沢であるという前提があっての話だが、この写真のような身軽な格好で私は大体いつも夏場は釣りを楽しんでいる。
最近の沢登り専用の衣類は吸水性がゼロで、伸縮性のある生地が肌にフィットして動きやすく、専用のシューズは濡れた岩場におけるグリップ力に優れており安全性がすこぶる高い。
たとえば、ウェーダーを履いて釣りあがるのとでは、その動きやすさ、体力の消耗度などまるでちがって、それはもうただただ目をみはるばかりである。
そして、濡れてもちっとも不快でないのが、沢好きの私には何よりもうれしい。  このほか、最近は持ち物を濡らすことなく持ち運べる防水性の高い収納袋が多く出まわるようになったおかげで沢の遡行がずいぶん楽になった。カメラについても軽量で小型の防水性に優れた製品が手ごろな価格で入手できるようになって、源流での撮影がずいぶん楽になった。写りの点ではレンズ径の大きな一眼レフには及ばないけれど、携帯しやすく丈夫で水に濡れても問題なしというのが何とも魅力的だ。
こうなると、もうあとは鱒たちが、こちらの投げた仕掛けに首尾よく食いついてくれるかどうかだけだが、それはもう「神のみが知る」である。
その、夏が今年もやって来た。
では、沢好きのみなさん、この夏も、よい釣りを!

木隠れの沢のイワナ

いけるところまで車で行き、そこで車を乗り捨てた。
そこから道程は一変して過酷を極めることになる。
私たちは木なかの林業用作業道をゆっくり歩き、藪をこぎ、小尾根伝いに沢へ降り、沢を渡って杉のしずくする山の傾斜を緩やかな足取りで奥へと向かう。
ふたたび私たちは藪をこいで進むはめとなった。雑木の林は緑が濃い。
やがて、藪が尽き、苔むす岩が顔を見せはじめるようになると、水の響が耳を甘やかすように聞こえはじめた。
するとようやく私たちは沢が二つに枝分かれするところまでやって来たのであった。
私たちは左の沢を右から大きく高巻いて上の流れに出た。
もともと大きな沢ではないが、去年訪れたときよりも一見して流れがおとなしいのは、やはり梅雨場に雨が少なかったせいだろうか。
「一年ぶりだな」と同行の造田行哲が感慨深げに言った。
「ああ、また舞いもどってきた」と私は息を整えながら答えた。
気温二十度、水温十二度。木隠れの沢は、薄暗く、ひんやりとしている。
私たちは休憩がてら、苔むす岩に腰かけ、釣りの支度にとりかかった。

良型を夢見て、さらに奥へ

釣りはじめてまもなく、造田行哲の投げたブラックハンピーパラシュートの12番に小さなイワナがとびついた。
私の投げたガバナーという名のウエットフライの10番にも、造田と同じくらいのイワナが食いついた。
その後も、イワナは飽きない程度に釣れてくるが、一向にサイズアップする気配がない。
ためしに岩の陰からこっそりと上の流れを覗いてみると、釣れるのとちっとも変り映えのしない小ぶりなイワナたちが、澄んだ流れの浅い底を、さっとよぎり過ぎるばかりであった。
「ここまで来て、これじゃどうしようもないな」
私たちはうつろに顔を見合わせた。
奥へゆくほど、沢はいよいよ落差が大きくなって、ピンポイントの釣りを余儀なくされる。
たっぷりと水をたたえた素敵な淵も全くないとは言えないが、減水のせいか、活況を呈しているとはお世辞にもいえない。
「俺はしばらく見学しているから、どんどん投げていいよ」と私はうんざりして言った。
造田のロッドは先調子の7フィート半の3番、小さなスポットを叩いてあがるのには最適である。まわりの樹の枝をかわして釣るため、彼は極度にリーダーを短くしていた。9フィートのリーダーのバット部を2フィートほど切り詰めた先に、いまはブラックアントパラシュートの14番を結んで無心に釣っている。
私は少し後方から釣りをする彼を見ていた。

もう三十分もすぎたろうか。
と、そのとき、投げ終わったばかりの造田のロッドがにわかに起きて、彼の上半身が大きく後方にのけぞった。
「やった!」と造田は、こちらに顔を向けて言った。
ロッドがきれいな弧を描いて撓っている。
そこは少しばかり奥行きのあるゆったりとした流れで、イワナは流れの尻のほうに出て餌が流れて来るのを待ち構えていたようだ。アワセをくれると、かまわず奥の落ち込みの方へと走った。
イワナという魚はなかなかの力自慢で、小さな流れのなかでも剛力を発揮してロッドをのし、釣り人を狂喜させる。
「いい型のようじゃないか」と私は言いながら駆け寄ったが、まだしぶとくイワナは流れの中をかけまわっていた。
「やつ、フライにすうーっと忍び寄ってきて、呑むように食ったよ。沈んでから合わせた」
造田の解説どおり、ランディングしてみると、フライはイワナの口の奥のほうにがっちりとかかっていた。
源流では、必ずしもフライを流れの筋に乗せて流す必要はない。奥行きのある場所ならともかく、小さなスポットを狙うときは、むしろその脇の緩い流れやほとんど流れのないところ、あるいは反転流に乗せて、できるだけ長くフライを水面に放置してやるように仕向けるとよい。
さっきまでとはうってかわって造田行哲は饒舌になっていた。良型のイワナ一尾に気をよくしたらしい。彼はつづけて言った。
「浮かべておいて出なければ、もう一度投げなおす。イワナは執拗に何回も投げていると、そのうち食ってくることが少なくないからね。臆病なくせに貪欲だから、きっと我慢しきれなくなっちゃうんだよな」
「そう、食いしん坊だから」
「源流のイワナって、どこか間が抜けていてかわいいところがある」
間抜けと造田に揶揄され気を悪くしたのか、むっくとイワナは身を起こした。水がなくてもイワナは平気で起きなおっていられるばかりか、匍匐前進の芸当までやってのける。
流れに自力で這い戻ろうとするイワナを、私たちは無理矢理引きとめて、記念写真を撮った。
造田の釣った本日第一号の良型は、25cmもあったろうか。

私も釣りを再開した。
ロッドはグラス製のしなやかな7フィートで6フィートのリーダーの先にグレートセッジ10番を結んでいる。リードフライだけでドロッパーはつけていない。
岩の陰から覗くと、流れをはさんだ向こう側のゆったりとした淀みに、やや浅くサスペンドして動かないイワナが二尾見えた。ロッドを構えると、鰭を動かし敏感に反応した。
私はしばらく様子を見てみることにした。
イワナたちはときどき水面まで浮かんできて、何かを食べているようであった。薄暗い水の上を黒いゴマ粒ほどのミッジが群れ飛んでいる。
「あれを食っているのかも」と傍らの造田が小声で言った。
私は手前の流れの筋にラインが触れないよう、投げたあとロッドティップを高く構え、イワナが食いつくのを待った。いっさい操作はせずに沈みにくいタイプのグレートセッジが素敵な姿勢を保ったまま、ゆっくり、ごくゆっくり沈んでいくのをただただ見守っていた。
フライは前側にいるイワナの少し前方に落ちた。
前の魚がゆらりと揺れた。
後ろのが、すうーっと前へ来ようとした。
慌てた前の魚が考えなしにフライに食いついた。
さっき造田が釣ったのと同じくらいの大きさである。
「俺のよりも少し大きいな」と造田は言った。
それにしても今年のイワナはよく肥えている。とても減水の夏の沢で細々と日々の糧を求めて暮らしているふうには見えない。

それから後も私たちは飽きない程度にコンディションのいいイワナをかわるがわる釣ることができた。
「もう少し水況がよければなあ」と造田は尺アップが出ないのが不服そうであるが、それは高望みというものだろう。
それからもう三十分ばかり夏の午後の沢を釣り歩いてみた。
その途中には、去年30cmオーバーが出た、あの小淵があった。
その前後にも素敵なスポットが目白押しである。私たちはそこでも満足のいくサイズのイワナを数尾釣ることができた。
よく釣れるので、もう少し釣りたいと思ったが、いよいよ流れは心細げに細ってきた。これ以上の遡行は時間の無駄のような気がする。
私たちは、きっぱりと釣りを終えることにした。
「釣れてホッとしたよ。ここまで来て、もしボウズだったら帰りがつらい」と造田は言って表情をゆるませたが、私も同感であった。
夕立の気配はなかったが、私たちは早足に沢を逆にたどって車まで戻った。




釣行レポート

ペンタックスの防水カメラでセルフモード撮影した一枚。一眼レフでないのに画質は悪くない。

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水に濡れた手でさわっても、沢に浸かっても、安心な防水デジタルカメラ。源流必携の優れ物だ。セルフモード撮影に欠かせない三脚はミニタイプが携帯に便利。

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剣山系には美しい沢が多い。釣りと景色と楽しみも二倍だ。

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渓流域、源流域で使うミノーは50mm程度。バルサーなどウッド製を多用する。ただし、プラスチック製品がとくに劣るというわけではない。あくまでも嗜好の問題である

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初めて入った沢で釣れた小ぶりなイワナ。誰かがこっそり隠したのにちがいない。沢に長年親しんでいるうちに鼻が効くようになり、居そうかどうか、だいたい見当がつくようになった。「あの沢がくさいぞ」なんてね。

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剣山系の沢。ネイティブなトラウトを求めて、さらに源流を奥へとめざす。

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サイズはたいしたことないが、いい面構えをした源流のアマゴ。水しぶきがかかる場所での撮影も防水カメラなら楽勝だ!

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夏の沢のイワナ。フライで釣るのも味わいがある。

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夏の小さな沢ではスプーンは小型の出番が多い。

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渓流ではナイロンをメインに、PEとフロロカーボンリーダーの組み合わせも多用する。信頼性の高いシルバースレッドシリーズなら強気で鱒と渡り合える。

【今回の使用タックル】

ライン : ユニチカ シルバースレッドトラウトクリアー 4lb
       ユニチカ シルバースレッドトラウトリーダーFC
       ユニチカ シルバースレッドアイキャッチPEマークス

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