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釣行記

釣行レポート

2011年7月2日

大渓流を釣る

祖谷川は吉野川水系きっての暴れ川である。たとえば、高知県嶺北漁協管轄の南大王川なども大雨に見舞われると相当暴れるが、川の規模という点からみて祖谷川(流域面積36.6㎢)の比ではない。
この祖谷川本流へ田所幸則氏とルアーフィッシングに出かけてみた。

今年は春先からまとまった雨がよく降って、そのたびごとに祖谷川は激流と化したが、この釣行の数日前にも増水の懸念される雨が降ったばかりであった。
「まともに釣りをさせてもらえるのかなぁ」と田所氏が不安そうな顔で訊いた。
私たちは、香川県側から猪ノ鼻峠を越えて阿波池田へと下り、そこから吉野川に沿って大歩危方面へと国道を急いでいた。このとき、眼下にみおろす吉野川の本流は相当増水して、濁りもきつかったので、田所氏が心配するのも無理はなかった。
「全然、問題なかったそうだよ」と私は答えた。
じつは昨日、私の知り合いの餌釣り師がアマゴのいい型を十ほど釣ったと知らせてきた。釣り場は落合の集落付近で、少し増水していたが普通に竿を出せたそうだ。
その餌釣り師は徳島在住の腕利きで、小さいのも数に入れると20尾以上キャッチしたと言っていた。あまり人を褒めることもしないかわりに大きな法螺を吹くこともない真摯な中年男である。

西祖谷のかずら橋から10キロほど上流の谷道川との合流点付近まで登って来ると、その餌釣り師のいうとおり、水は澄んで流れも平水に近い状態であった。
私たちは、路肩に車を止めると、さっそく釣りの支度をして、山の斜面を流れのほとりまで降りていった。
「釣れそうだね、ここは」と田所さんが目を輝かせて言った。
「ひろく流れが澄んで気分が清々する」と私は言った。
「出そうだね、大きいの」と田所氏が声を弾ませた。
「さあ、それはどうかなぁ。陽がよく当たっているし、見たところライズもない」
さっき道から覗いたときの印象と川のほとりに立ってみての印象に大きなちがいはなかったが、いかんせん魚がうわずっていそうな気配がまるでなかった。試しに、ここはと思う一級ポイントばかりを田所氏と手分けして釣ってみたが、やはり思ったとおり大きいのが全く出ない。釣れるのも小ぶりならルアーを追って来るのも似たようなサイズばかりであった。
「どうする?」と私は田所氏に訊いた。
ここから上流へ向かって釣りあがっていくと、四国電力の発電用の大きな堰堤がある。そこまで行き着くとこのコースも一区切りとなるが、魚影の決して薄い釣り場ではないので塩焼きにちょうどいいサイズなら何尾か手にすることができるだろう。
すると、田所氏が言った。
「焼いて食べると美味しいサイズも悪くないけど、大きいのが釣りたいな、釣らせてよ、大きいの」
私たちはすぐさま移動することも考えたが、せっかく降りてきたのだから支流の谷道川も少しのぞいてみることにした。さっそく分岐点から奥へと釣り歩いてみたが、樹木が陽射しを遮るせいで本流とはちがいとても涼しい。それに、水量が豊かで水深もじゅうぶんである。ただ、渓が狭いため二人で釣るには少々難がある。そこで、私は竿を出さずに田所氏の後について歩くことにした。

しかし、正確なキャストと誘いをくり返しながら釣りあがったにもかかわらず、ついに田所氏の期待に添えるようないい型のアマゴに出会うことはできなかった。



私たちは、さらに奥の釣り場をめざして車を走らせた。もちろん、この先も名頃の集落の少し手前辺りまで、谷は深く、押しの強い流れの大場所がつづく。
私たちはときどき車を降りて、その勇壮な流れを見おろした。
その都度、田所氏は目を輝かせて、「この辺、降りて釣りできるの?」とか、「どこから降りればいいの?」とか訊いてきたが、私ははっきり答えなかった。
むろん、降りようと思えば降りていけないことはない。しかし、梅雨のさなかの今は、天候が急転していつ雨が降りだすかわからない。じっさい、山の天気は移ろいやすいものだ。
この付近は降り出すと、「バケツをひっくり返したように降る」といわれるほど激しい雨が一時のうちに集中して降る厄介な場所でもあるのだ。もしそうなると川はみるみる水位をあげて、あっという間に退路を断たれてしまいかねない。下手を打つと流れにのまれ一巻の終わりである。
じっさい、事故の少なくない難所の多い川だ。
「じゃあ、今日も心してかからないとね」と田所氏は真顔になった。
いま向かっている場所は、その付近では流れがおとなしく、流れのほとりへも近づきやすい。釣り歩くのもわりと楽である。しかし、そうはいっても水量豊かな大場所つづきの大渓流にちがいはない。

山の向こうに陽射しが隠れてしまうにはまだ少し時間があった。
「山に陽が隠れたら、そのときがチャンスだな」と私は言った。
私の話に田所氏の表情がぱっと明るくなった。
むろん、本当の話である。
増水がおさまりかけて間もない水の澄み際だから、泣き尺サイズなら何尾かルアーに食いつかないともかぎらない。田所氏は釣りの腕前は確かだし、小さな規模の渓流ではこれまでにも多くのアマゴを手にしてきているので、その点有望なのはまちがいない。
私は幸運の女神に心のなかで手を合わせた。



落合の集落を過ぎると、そろそろ目的地である。
私たちは路肩に車を止めて、杉のなかの踏みつけ道を流れのほとりへと降りていった。
その流れを前に、田所氏が言った。
「なんか道から眺めるより、流が広くて、速いね。それに深くて底が見えないところも多い。いつもと勝手がちがうな。すごいね、ここは。さっき降りた谷道よりも数段釣るのが難しそうだ」
「最初のうちはね。でもすぐに慣れるさ」と私は田所氏の気持ちを和らげようとして言った。
じっさい、ここの釣り場は、この付近としては比較的流れがおとなしいといえる。ちょっと気持ちが落ち着いて、目が慣れてくると、田所氏くらいの腕前になると、どうってことないはずだ。

しかし、いざ釣りはじめると、「いま相当大きいのがルアーの後を追って来たよ! もう心臓が止まるかと思った。でも、なぜ食いつかなかったのだろう。あいつ、目の色を変えてチェイスしてきたのに。まちがいなくヤル気満々だった。それなのに、なぜだ? 誘いかたがまずいのか? むしろ誘わずタダ巻きのほうがよかったのか? それとも通すコースが悪かったのか? その全部なのかな」と考えるほど疑問がわいてくるらしく、田所氏はたびたび浮かぬ顔で私をふり返っては首をかしげた。
私は、田所氏が釣るのを少し離れた所から見ていたが、どうも大きくて強い流れに圧倒されているみたいである。
ひとつのポイントを釣り終えたところで、
「トゥイッチはその手を緩めるとダメだというよね」と田所氏が私に訊いた。
「そんなこともないよ」と私は答えた。
「だって雑誌とかネットにはそう書いてあるよ。大物はみんなそうだって」
「そんなことないよ。瞬間的に止めると、バクッと食いつくこともある。むろん、反転して帰ってしまうこともあるけど、食いつくときには食いつくよ」
「でも、あまりに大きいのが追って来て、面喰って、ピタッと手が止まってしまったことがあったけど、食わなかった」
「だから、いろいろだよ。誰もアマゴと話をした者はいないし、第一アマゴは口を利きやしない。誰が何を語ったところで、すべては憶測にすぎないんだ。あとは経験値から割り出した確率を元に一席ぶっているにすぎないんだから、まあ、あまり気にしない方がいい。スプーンやスピナーよりもバルサーなど木製のミノーで釣れる魚のほうが断然デカイ!って、あれもどうかと思うね」
「そういうけど、今日は、スプーンとかスピナーとか、全然使わないじゃない」
「まあ、今日は、八割方カメラマンだもの。わざわざあれこれルアーを交換したりはしないさ」
「でも、食う時は食うか」
「そう。数釣りならともかく、一発大物狙いっていうのは運と偶然が味方してくれるかどうかだからね。むろん、努力を惜しんでいては運もへったくれもあったものじゃないが、まあ、肩の力を抜いて楽にやるといいよ」
田所氏は、ルアーをミノーからスプーンに交換した。何グラムか聞きもらしたが、ノリーズの鱒玄人という私も好きなシルバーカラーのスプーンである。
「このスプーン、いい働きをしそうだな。それはそうと、大きいの、小さいの、同じように追って来るのに食いつくのは決まって精彩を欠くチビばかり。ねえ、どうしてだろ?」
「さあ、どうしてだろうね」
「そうだな。魚の気持ちなんかわかりゃしないものね」
「そうそう。それだけわかっていれば、大丈夫。鬼に鉄棒だ」
「それを言うなら、カナボウでしょ」

私は、くるりと踵を返すと、うしろ向きのまま田所氏に軽く手を振って、そのまま上流へと歩き出した。
水の流れを膝に押して上へ上へと歩くのはなかなか骨が折れた。
それでも、私はかまわずにどんどん水を分けて進んでいった。
すると、小さな堰堤を踏み越えたそのすぐ上手に、幅と奥行きのある適度な流速の魅力的な流れが右寄りにみえた。私はアップストリームで釣りたかったので流れを渡って向こう岸へ上がった。そこから岩に身を隠すように先へと進み、岩の陰から上流へ向けてミノーを投げた。流れのなかほどに沈む石の周囲があやしいと思って、その上流側へとキャストしたのだが、やはりその石の前に定位してアマゴは流れて来る餌を待っていたようだ。表層で食ってきたので、ヒット後にくるくるまわって口からフックをはずそうともがく姿がはっきり見て取れた。私は流れに負けまいとがむしゃらにリールを巻いた。ラインのテンションが緩むとまずいことになると思ったからだ。
まあ、逃げられてもどうってことないが、どうせ逃がすならこの手でリリースしたかった。
釣りあげてみると25cmかもう少し大きいくらいのよく肥えた綺麗なアマゴであった。
「もう今日は、これで満足だ」
私は田所氏がやって来るのを待った。
そして、田所氏が堰堤を越えてくる姿を目にしたとき、やけにうれしそうだな、いいことあったにちがいない、と私はそう感じた。
近づいて来るなり、「釣れた?」と田所氏が訊いてきた。
「ああ」と答えると、「こっちも釣らせていただきました、かなり大きいの」と田所氏は晴れやかな顔で私をみた。
やれやれというふうに手頃な石に腰をおろすと、田所氏はクリールの口から手を入れて大事そうに獲物を取り出してみせた。それはたしかに威風堂々たる大きなアマゴであった。
「尺はないけど立派だね」と私は大いに誉めた。
「ありがとう」
田所氏は照れて頭を掻いた。
「粘れば、もっと大きいのが釣れるかもしれないよ」と私は期待を持たせるような発言をしたが、まんざら冗談でもなかった。

じっさい、二人ともとくに用もなかったので、この先夕暮れまでじっくり本気になって釣ってみてもよかったのだ。陽が落ちて薄暗くなると、それだけ大物の期待も高まる。
「どうする?」と私はたずねた。
「そっちは?」と田所氏が言った。
私は自分のリールを指さして、「もうとっくに店仕舞しちゃった。でも、その気があるならこの先の大堰堤までやるといい。まだ時間はじゅうぶんあるからさ」
「いや。もういいよ。ルアーをはずしたのなら、俺もよすよ」
どうやら見映えのする本命一尾が相当嬉しかったらしい。いつもの貪欲さはかけらもなかった。
こんど来るときは念願の尺アマゴをぜひとも手にしてほしいものだ。



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大物の到来を予感させる強くて広い流れ。魅力的だ!

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ポイントにルアーが届かないなどやむを得ないばあい以外ウェーディングは慎む。

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ポイントが遠く届かないときも必要以上に立ちこまない。

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岸に張り出した岩の向こう側を釣るため立ちこむ。必要なければウェーディングしない方がよい。

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対岸の岩盤に沿う流れで良型のアマゴがヒットした。

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広くて強い流れに棲む魚らしく、うっすらと銀毛している。

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大きな流れに棲む魚はきりっとしたいい面をしている。

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支流の大場所を釣る田所氏。

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大きな流れには良型がひそむ。

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体高のある祖谷川本流のアマゴ。

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良型の本命を手に思わず笑みがこぼれる田所氏。

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祖谷川のアマゴ。良型とレギュラーサイズ。

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大渓流のアマゴらしいプロポーション。強い流れのなかでルアーを捕えた。

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光量の少ない早朝にキャッチした良型。早起きして来た甲斐があった。

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渓流ではナイロンラインが主流。信頼できる出来るラインで臨みたい。

【今回の使用タックル】

ロッド : ウエダ STS-56Si
リール : ダイワ セルテート1003
ライン : ユニチカ シルバースレッドトラウトクリアー 4lb

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