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釣行記

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2011年9月28日

カスバートソニーと秋アオリ (1)

カスバートソニーはデンドロビウム属に名を連ねる着生蘭の仲間である。自生地はニューギニア島の海抜二千五百メートルから三千メートル付近の高地。いくら熱帯といってもこのくらい高い場所では気温は大してあがらない。日中で、二十五度程度。人間にとっては過ごしよい気温である。ところが、夜になると一変して十度くらいまでさがる。これが、一年中毎日くり返される。
しかも、この一帯は雲霧林なので、時間が来ると霧が湧き、加えて雨が多く年間の日照量は極めて少ない。湿度は八十パーセントに達する。
このことを知るならば、季節の移り変わりの激しい四季のはっきりした日本での栽培がどれほど難しいか、誰にでもすぐにわかるだろう。(ただし、日本は南北に細長いので、少し気を配ってやれば東北、北海道の緑地なら繁殖も旺盛で、花を咲かせることもそれほど難しくない。)

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横からみたカスバートソニーの花。

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七月上旬、つぼみが膨らんできた。

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七月下旬の開花株。

では、何が一番栽培常ネックとなるのか。それはもう今更説明するまでもなく、夏の温度が高すぎる。そして、冬場に乾燥しすぎる。もっとも、冬でなくとも湿度は不足しがちで、しかし、これは水やりと株全体へのこまめな霧吹きで補うことができる。
こういう低温性の蘭をひと括りにしてクールタイプと呼ぶが、草姿が小ぶりで花の色の綺麗な種が多いこと愛好家のあいだで非常に人気が高い。
そして、そんな栽培が困難だとされるクールタイプの愛好家に重宝がられているのが、総ガラス張りの飲み物用の冷蔵庫がある。私が子供のころは、たまに銭湯へゆくと、湯上りに番台のそばに据えてあるその冷蔵庫からラムネやコーヒー牛乳や森永マミーをとりだして、ごくごく喉を鳴らしながら飲んだものだ。食料品店でも普通に見かける。これを愛好家はストッカーと呼ぶが、あれの中古品を手に入れて、温度と湿度をタイマーで調節できるように改良して、空気が滞留しないように小型の扇風機を取り付ければ遜色ない。あとは光だが、全面ガラス張りだから、光量の調節はどうにでもなる。
あるとき、私の育てている開花中のカスバートソニーを手に取って、男爵こと三木一正が私に向ってこんな憎まれ口を叩いた。
「しかし、まあ、世のなかには物好きがいるものだ。気候にあうものを選んで栽培すれば、そこまで手間暇かけなくてもすむって話じゃないか。それをどうだ、この熱の入れようは。そんな時間があるなら、俺なら釣りに行くな。うちの嫁さんなんかは無理せず育てやすいものだけ育てているぜ。話は変わるが、大体、蘭の好きな野郎は女も好きだと聞くな」
それはそうかもしれないが、あながちまちがいではないかもしれないが、濡れ着にだとも思わないが、それなら釣り好きだって似たようなものではないか。
ちなみに、わが家では数々の植物を栽培しているが、その半分以上は蘭である。それも、地面にほかの草花と同じように生えている地生蘭にくらべ、樹上や岩にへばりついて生活している着生蘭の割合がとても高い。花屋でなじみの蘭にコチョウランがあるが、あれも本来樹上に育つ着生種であり、贈答用に水苔で化粧鉢に植えこまれた姿は本来あるべき姿ではないが、わが家の着生蘭の多くもそれ同様に水苔を用いて素焼きの鉢に植えてある。あるいは、プラスチックの鉢に植えてある。
これを、樹の枝や軒下、あるいは室内に吊るして置くと、光、水、温度、この三点を種類ごとにしっかり管理して育ててやりさえすれば、勝手に育って株が増え、花を咲かせてくれる。
むろん、最適な環境を与えてやれないのなら、若干肥料を必要とするばあいも出てくるが、用土の水苔を定期的に新しいものに植え替えてやってさえいれば着生種の多くは無肥料でもじゅうぶん株が増えて花を咲かせるものだ。とくに原種の着生蘭はその傾向が強い。
ちなみに、わが家には熱帯の低地に自生する蘭が少しだけある。熱帯や温帯の山地に産する蘭ならけっこう多い。それに、クールタイプのカスバートソニーなども育てている。
しかし、わが家には温室もなければ、温度を低く保つためのストッカー(冷蔵庫)もない。まったくない。これは本当の話だ。
「嘘つけ! それでは育つはずがない。第一枯れてしまうだろ」と知り合いの愛好家らははなから疑ってかかるのだが、そのような設備は本当に一切持ち合わせてはいないのである。
それでも、まあ、身のまわりにあるものをうまく活用して、ない知恵を絞って工夫を凝らし、金もかけずにどうにか育てている。
たとえば、クールタイプ随一のあこがれの的であるカスバートソニーは、白に近いクリーム色、赤、中心に近い部分が赤で全体的にはオレンジ色をしたもの、この三種類を育てているが、六月中旬に花が終わって、それから一か月ほどしてクリーム色のものだけが再び開花した。
このカスバートソニーにかぎらず、蘭は昆虫に受粉を助けてもらっているが、高地の、雨と霧の日が多い環境下では花を咲かせて待っても頼みの綱の昆虫がやって来ることはめったにないだろう。だから、小さな株によく目につく鮮やかな色の大きな花を咲かせて根気強く昆虫の飛来を待つようになった。

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二月から五月まで咲いていた白い花。

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派奈色の多いカスバートソニー。同時に咲くと鮮やか。

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目を惹く赤は人気のカラー。

写真のクリーム色の二つの花は、もうわが家の玄関先で二か月以上は咲いている。むろん、次々に咲きかわっての二か月ではない。同じ花が、もう二か月も咲いているのである。たぶん、あと二か月くらいは楽に咲きつづけるだろう。うまく育てないと花を咲かせるどころかすぐに株が枯れて消えてなくなってしまうといわれているカスバートソニーだが、前にも述べたようにちょっとした工夫を施すことで、暖地の西日本の日本家屋の玄関先がニューギニア島の高地と似通った環境になるのである。
なお、このカスバートソニー、開花時期は不定期で、咲くと長いが花が終わると今度いつまた蕾をつけるかはわからない。
そして、いま西日本で花を咲かせているのは、おそらく数株、ひょっとすると数株にも満たないかもしれない。

では、そろそろアオリイカの話に移ろう。
周知のとおり、秋の新子のアオリイカはせいぜい甲寸が十五センチ前後、大きいと思われるものでも二十センチ程度である。むろん、秋も深まりを見せはじめると、稀に五百ミリリットルのペットボトルくらいもある大きなアオリイカが釣れることもなくはないが、もし釣れたら相当ラッキーだと思ってよい。
秋の新子のアオリイカは、夜になると底の荒い浅場にあんがい多く集まって来る。そういう場所は日中なら底の岩礁が透けて見えるほどの浅瀬である。こういう場所は自分よりも大きな外敵から身を隠しつつ同時に小魚などの餌を待ち伏せることができるので、アオリイカにとっては大変都合がよいようだ。
近くに外灯が照っているなら、その周辺は好ポイントとなるばあいが少なくない。
潮も、全く流れないような場所はまずダメだが、ゆっくりでも流れておりさえすれば有望だといえよう。
とにかく、秋は浅場をねらう。くどいようだが、潮の流れのある底の荒い浅場がイチオシである。
こういう場所は、まずふつうの釣り人が竿を出すことは稀なので、秋の新子のアオリイカが接岸しておりさえすれば大釣りも夢ではない。
釣り方は、ズル引きなので、浮力調整をしてないエギをゆっくり引いてくると、底の荒い浅場だから根がかりが絶えない。これを、まったく根がりしないようにするのは簡単だが、底からかけ離れた表層を通したのではエギを抱きに来ないばあいも少なくないから、やたらとオモリをカットして軽くすればいいというものでもない。しかし、軽くなりすぎても何ら問題が生じることもまたないので、恐がらずにニッパでカットして軽くしてみるとよい。軽くなりすぎたら糸オモリを足して調節すればいいだけのことである。
シーズン当初は、コロッケサイズと呼ばれる小型が多いので2.5号を使用するが、秋の盛期には少し型がよくなって来るので3号、3.5号を多用するようになる。
このころから私はユニチカのエギS2を使用する頻度がぐんと高くなってくる。とくに潮の速い浅場ではそうだ。発売元からすれば、精緻に仕上げたエギを勝手にチューニングされるのは本意に反するかもしれないが、これもまたオモリを軽くして使用する。私が好んで使うのは、ノーマルの3号、シャロータイプの3.5号。カラーはべつにこだわらないが、下地は昔からよいとされて来た赤テープを好んで使うようにしている。むろん、他の色の下地でも釣れるのでゲン担ぎみたいなところもなくはないが、とりあえず赤テープは外せない下地だ。
ノーマルもシャローも、4.5ミリ径、3ミリ径のドリルで穴をふたつあけて少々浮力を持たせてやる。これが基本だ。

硬質発泡素材のエギは吸水しないので、浮力に大きな変化をもたらさないため、いちど調整すると釣っているあいだに重くなってエギを通す層が深くなるといったような心配がまるでない。
むろん、潮の速さが変わればエギの通る層もおのずと変わるが、手前の方まで引いて来ても全然底に接触しないようでは調整の利いたよいエギだとはいえない。もし潮が速くなりすぎて軽いエギでは浮いてしまうようなら糸オモリを巻いて重くするか、調整してないエギに交換するとよいだろう。
もっとも違和感なくアオリイカが抱きつくのは、たとえばリトリーブ中に底の石の頭に軽く衝突した際に少し跳ねあがるようなぐあいに動いて、その後、その場に漂うように少しのあいだとどまるといった感じのエギである。だから、私たちズル引き派の釣り師は、そのような動きをするようにエギを調整することに心を砕くわけだ。
それとエギの姿勢だが、これはもう仕掛けを巻くのをやめたとき、散歩中の車海老が海中で休んでいるふうに見えるのがよいのであり、頭を下にまっさかさまに海底へと落ちていくのはよくない。
なお、全傘タイプは底の根や藻などを引っかけやすくなるので、カンナの下側の針はすべて切り取っておく。ズル引き釣りには半傘タイプのエギがよい。
むろん、これはあくまでも夜の浅場でエギングを楽しむための釣法であり、水深のある場所では夜間においても日中同様にシャクリ釣りも行う。ただし、これは上層にズル引きでエギを通してみても反応がないばあいに行うのであって、海面に近い層で積極的にエギを抱いてくるようならば、わざわざ時間をかけて底の方を釣ることもない。表層に近い層にアオリイカが多くいるかどうかの決め手はベイトがうわずっているかどうかであるから、釣り場に着いたらやみくもに釣りを開始したりせずに海の様子にちょっと気を配るよう心がけよう。
もし、ベイトが海面近くに群れているようならオモリを軽くしたエギでまずは表層をズル引きしてみるとよいだろう。運が良ければ連続ヒットも夢ではない。
なお、細工してないエギでシャクリ釣りを行うばあいも、糸鳴りがするほど強くしゃくることは避けて、できるだけ静かに釣る方が夜間は得策であるといえる。
ここで私がよく行く香川県中部と東部、それに県境を越えてすぐの鳴門市北灘町の海岸線についての釣況に少し触れておくと、今年はほかの魚がそうであるようにアオリイカも成長が遅いようだ。これは冬が寒くて、春の気温も例年に比べて低く推移し、水温の上昇もひと潮、ふた潮遅れがちとなってしまったのが要因だとされているが、他にも原因があるかもしれない。

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浜はこのような小磯の岩場によって分断されている。

とにかく、去年と比べ、小ぶりなものが多いのは事実だ。数は少ないとは思わないが、全体的にアオリイカの型が小さい。そのせいかどうかわからないが、大きなエギを使うと抱きがよくない。
しかも、昨夜は頻繁にアタリも来て数もあがったのに、今夜は何ともさっぱりダメといったぐあいに、釣果に天国と地獄ほどの差が生まれるというのが今季のひとつの特徴となっている。潮次第、天候次第、人の出ぐあい等で、こういうことはちょくちょく起こりうることだが、それにしても潮も天候もなにもかも前夜と別段変わりはないのに釣果に大きな差がつくというのは何とも歯がゆいものだ。
それも、たびたびこういうことが起こると、やりきれない。
こういうアタリもないような夜は海岸線を移動しながら足で稼いでいくしかないが、足を棒にして歩くに見合うだけの釣果があがるわけではないから、やはり意気消沈してしまう。
九月二十七日の夕方に男爵こと三木一正の運送屋の待機所の畳の間でごろ寝をしていると、荷物の手配のひと段落した男爵が事務所からもどって来て、「ゆうべは、大きいのばっかりやったで。胴が二十センチ、それが四つや。牧も、葛西も、うちの若い衆も、大きいのをやっつけとったわ。小ぶりなのを入れたら、十はくだらんのとちがうかな。今晩、行くな?」と誘うので、「行く!」と即答したものの、さて、車に道具が乗っていない。
それでもカメラだけは積んであったので、釣れたら写真を撮ってやろうと思って出かけた。滝伸介も誘おうと思い、連絡すると、伸ちゃんはまだ会社にいて、しかも帰宅早々ステーキを焼けと女房に命じられているとかで、晩飯を食ってからでないと出られないという。やれやれ、料理が上手な亭主もなかなかつらいものだな、と一緒に来た牧くんと話していると、「ほな、伸ちゃんが来るまでに、二、三バイやっつけて悔しがらせてやろうかの」と海辺でエギを選んでいた男爵が横顔のまま軽口を叩いた。このときは、みんな昨夜の素敵な余韻が尾を引いていて声も表情も明るかったが、それから一時間ほどして伸ちゃんが合流するころには、誰もが極端に口を重くした。
仲間から電話が来て、牧くんは、「一日ちがうとこうも釣れんものかなあ。厳しいもんやで、ソルトウォーターフィッシングちゅうのは、ほんまに」なんて少々投げやりな様子で携帯に向かって声を荒げていた。
ちょうど九時ころで、昨夜も同じころに大きいのが釣れたからもう三十分もすれば大そう素敵なジェット噴射引きが堪能できるにちがいないと男爵は調子づくのであったが、誰一人としてそれに賛同する者はいなかった。
おまけに風がよからぬ方向から時折強く吹いて、ラインがふけるのでアタリが取りづらい。
けっきょく、その後も男爵が期待するような景気のいい釣りにはならぬまま、満潮時刻を迎えてしまった。
「ゆうべはあんなにうわずったのに」と男爵が言った。
「こういうことって多くないっすか?」と牧くんが言った。
すると、伸ちゃんが、少し考えてからこう言った。
「たしかに。しかも俺は釣れない日ばかりを選んで来ているみたいや。なにも悪いことしてないがなあ」
「ステーキをわざわざ焼いてから来た。じゅうぶん家族サービスしている。そう言いたいのやろ?」
「もちろん」
「そいつはおかしいなあ」と男爵が横から話に割り込んできた。
「どうおかしいの?」と伸ちゃんが言った。
「伸ちゃん、花、好きか?」
「花?」
「とくに蘭の花」
「蘭?どうして俺が・・・、長尾さんでもあるまいし」
「いや。ちょっと好きかなと思ってさ」
「嫌いじゃないけど、べつにそれほどには」
私がクスッと笑ったもので、男爵も釣られて笑った。
「なにがおかしいの?」と伸ちゃんが訝しげに私たちを窺い見るので、男爵と私はおかしくなって、また笑った。
外灯のあかりのせいで、ほどよく陰影のついた伸ちゃんの顔が、いつにも増して神経質そうに私の目に映った。
「そんな、しかめっ面じゃ、イカに嫌われるぜ」
私がそう揶揄すると、
「もう、じゅうぶん、嫌われてます!」と伸ちゃんはいっそう苦々しげな表情をした。
たしかに、嫌われている。
けっきょく、この日の夜は男爵がかろうじてコロッケサイズをひとつ釣りあげただけで、あとの者は皆手ぶらで家路につくことになった。
男爵と牧くんは、道具を片づけながら、「明日も来ようぜ」と言い合っていたが、伸ちゃんは大きなため息をつくと黙って車に乗り込んだ。
竿を出さなかった私は、気軽さからお決まりの文句を、皆に聞こえるように言った。
「まっ、こういう日もあるさ」

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よく肥えた秋アオリに思わず笑みがこぼれる

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投げたら、ゆっくりと巻く。夜の浅瀬のエギングは、このくり返しである。

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このサイズを釣っても、苦虫をかみつぶしたような表情の滝伸介。少しは笑えよな。

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本命を手にした筆者。このくらいが食べておいしい。

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浜から届く範囲に接岸しておれば、短時間でもこのくらいは釣れる。

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