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釣行記

釣行レポート

2012年3月2日

アマゴ解禁(徳島県)第一弾は寒掛へ

京都の寺、庵、町家を見てまわりたいと思いながらもなかなか時間が作れないでいる。私が見物したいのは、主に庭で、枯山水、池泉庭園、坪庭などだが、中でも規模の大きな庭は山や川から持って来た色かたちのよい巨石をいくつもデンと据えて迫力あるたたずまいを造形してみせている。用いる石の種類や大きさは、依頼主や作庭家の好み、あるいは予算を睨んで決めるが、たとえばこれから滝を落とし、沢をくだらせてみようとするならば、清流、渓谷から青石や赤石を持ち込んで、それを見映えよく組みあげてみせる必要がある。
今回、私が徳島のアマゴ解禁初釣行に白羽の矢を立てた祖谷川の寒掛辺りには、この日本庭園に据えたら「さぞや、迫力満点だろうな!」と想像させるような巨岩巨石がごろごろしている。
3月1日(木)の解禁初日は仕事の都合でどうしても時間が取れなかったので、2日(金)の朝ゆっくり出かけて行った。早朝は餌釣り師が多いので、なにも混みあう時間帯に竿を出さなくたってよいと思って遅くに出かけて行ったのだ。
去年から寸断されたままの白井林道は今なお復旧のめどの立たないままなので、上流部の寒掛へは祖谷川に沿って道路を延々のぼっていくしか手はない。30分ほど余分に時間がかかってしまうが、まあ、道がよいぶん運転は楽である。途中、休憩を取ったり、吉野川本流を観察したりしながら、たっぷり時間をかけて目的地をめざした。
昼食は、祖谷そばを食べた。
この祖谷川沿いを行くほか、寒掛へ入渓する主なルートは、リフト乗り場のある剣山登山口までいったん登って祖谷川源流から寒掛まで降りて来る穴吹川沿いのルート、それと貞光川沿いのルートのふたつがある。
しかし、これらのルートは、山頂付近の見ノ越峠が凍結で閉鎖されているせいで通行不能である(このルートは原則3月いっぱいで通行制限が解除される)。

午後2時過ぎ、路肩のひろまったスペースに駐車して、山の傾斜を流れのほとりまで降りてみると、渓は相当減水していた。
これより、巨大堰堤のすぐ上から次の堰堤までのあいだを2時間ほどかけて釣りあがっていく。
「しかし、ここまで水が少ないと、あまり期待できそうにはないな」
私はそう愚痴をこぼしながらガイドにラインを通し、ルアーを結び、もう一度ひろく流れを見渡した。
降りた付近は広くて平らな河原で、そのなかを渓がゆったり流れくだっていくが、上流へと足を運ぶほどに前にも述べたように巨石巨岩が行く手を塞ぐようになる。
むろん、そうなると上流側の流れは岩に遮蔽されて容易にはうかがい知ることができない。せいぜい、いま自分が釣っているポイントのひとつ上手の瀬や淵が見えればいい方である。
この巨岩巨石が行く手を塞ぐ辺りまで釣りあがって来たとき、ようやくアタリが来た。それは、少し奥行きのある底が砂地の浅い瀬を釣っているときだった。底へと向かう落ち込みの流れに45mmのツインクルを投げて、間髪入れずにトゥィッチを開始すると、さっそくバイトしてきた。しかし、フッキングしなかったため、なおも誘いつづけていると、瀬尻まで追って来て食いついた。澄んだ水の厚みを透かしてアマゴがミノーを捕えるところがはっきり見えた。そのアマゴはミノーを追い抜きざまに反転して襲いかかって来た。食うのを見ながら落ち着いてアワセを入れたので、しっかりフッキングした。とくに大きくはないが早春のこの渓のレギュラーサイズである。手の指をひろげて、ざっと測ってみると、20cmほどだった(実寸22cm)。
私は、釣ったばかりのアマゴを魚籠に入れて泳がせた。底に防水布の水溜めの付いた川用の昔ながらの魚籠である。
「やっと釣れたぜ」と私は顔をほころばせた。

大きな青い岩を右から巻いて上の流れに出ると、ムクドリくらいの大きさの赤茶の鳥と目が合った。流れのなかに頭を出した石にとまっていたのはカワガラスである。私は思わず息を呑んだ。カワガラスと私の距離はせいぜい3mほど、彼は野生の俊敏さで素早く宙へ躍りあがると、落ち込みの上の切り立った大岩を易々と越えて上流へと姿を消した。
「うーん。いいサイズが出そうな流れだけどなあ」と私は少しがっかりしてため息をついた。
さっき、アマゴをキャッチした場所よりも大きいのがひそんでいそうな流れだった。落ち込みの左右に魅力的な巻き返しが見え、わりに深そうだ。手前のカケアガリより下流側は砂の底が白くはっきり見てとれた。しずかに見えて全体に流は押しが強い。しかも、しっかりした流れの筋と筋のあいだに魚が好んで餌を捕食するといわれる「食い波」ができている。
しかし、そこは私の姿に驚いたカワガラスが、慌てて逃げたあとの流れである。水の外の出来事だとはいえ、流れのなかのアマゴがそれに気づかずにいてくれるなどという虫のいい話があろうはずもなかった。
私は、少し待つことにした。
すると、私がフルーツ味のカロリーメイトを齧っているとき、さっきカワガラスが休んでいた石のすぐ上流側でアマゴがライズした。少し小ぶりだが何か流下物に反応して躍り出たようである。しかし、水面に水生昆虫のハッチは確認できないし、ここにたどり着くまで水生昆虫が飛んでいたり石に止まっていたりするのを見た記憶もない。
「記憶にありませんな」と私は昔の政治家の口真似をして言ってみた。
そして、昔の政治家は、よきにつけ悪しきにつけ、人間に味があったな、そう思った。
「わずかながらユスリカやアミカが水面近くを流下してくるのかもしれないぞ」と私は考えた。
それら水生昆虫のピューパに反応して食いに出てきたのではないのか。私はフライフィッシャーマンでもあるので、そのような考えを持った。
もうしばらく待ってみたが、水を割って出る魚の姿は確認できなかった。
アマゴが水面を意識しているのだとすれば、ごく軽く、ごく小さいスプーンを投げて水面直下を誘ってみたらどうだろう。
いい考えかもしれないな。ミノーよりは少しは確率が高いかも」
私はそう思ったが、今日はミノーだけを投げて遊ぶと決めて来たので、自分のルールに従うことにした。
食い波の筋に対して下流側からキャストした。波から逸れないよう誘いつづけた。水面に近い層にミノーを躍らせつづけたかったので、ロッドのティップの角度に気をつけながら誘いつづけていると、やがてアマゴがライズした場所近くまで私のあやつるミノーが流れくだって来た。私は息をつめた。だが、しかし何事も起こらない。
「なぜだ!」
私の期待もむなしく、ミノーはあっという間にポイントを通過してしまった。その後、数回投げてみたが、ダメ。
それどころか、魅力的に見えた巻き返しの流れにもアマゴは入っていなかった。
私は、さらに上流を目指して岩場を渡って行った。
踏みよさそうな岩には濡れた足跡がまだ残っていた。砂場にも踏み跡がたくさんあった。午前中に何人かの釣り人が遊んで行った証拠だ。それに混じって獣の足跡もあった。どれも小さいものだが、小さいながらに形や大きさがちがっていた。どれが何の足跡だか見当もつかないが、動物の足跡の多さにも私は春のおとずれを感じた。
すでに予定の半分以上を釣りあがっていた。
「こんなものさ」と私は言って口を尖らせた。
しょせん、2番川、3番川では、いい目はできないということか。のこのこ後からやって来ても、いい魚は残ってやしない!
「そういうことか」
ところが、このカワガラスと遭遇後は、何がどう運気上昇につながったのか、少し大きなポイントにミノーを投げて躍らせてみると、必ずバイトがあった。さっとミノーをかすめていくだけのこともあったし、手応えを送って来るコツッというアタリもあった。
「ファーストキャストは慎重にやれ!」の教えどおり、新しいポイントを釣るときは可能なかぎり正確にキャストするよう心がけた。投げ損なうと、釣果に影響が出る。
しかし、そうしてミスしないよう努めても容易に口を使わないのは、やはり先行者の多さが災いしてのことだろうか。それほど魚の記憶力はよくないし、賢くもないとは聞くが、野生の本能は記憶や賢明さよりも真っ先に全身でもって身の危険を察知するのかもしれなかった。
その後も、魚の影をよく目にしたが、メリハリのある誘いをそのままつづけて釣れたからといって、次も同じ手で釣れるということは少なかった。上流へキャスト後に、まったく誘わず糸フケだけをリールに巻き取っていき、食いそうな場所までミノーがくだって来たときに誘いを入れると澄んだ流れの底からさっと浮きあがって来て食いつくこともあった。ミノーをツインクルからブラウニーに交換してタダ巻きで食わせたこともある。横から釣れる場所では、下流側に流れたミノーがターンを開始し出すと同時にバイトしてきた。さっと魚の影がミノーをかすめたと思った次の瞬間手元に強烈なアタリが来た、そのような場面も数回あった。
とにかく、アタリが断然多くなったし、魚の影をみることも少なくなかった。ただし、釣れるアマゴは小ぶりなものが多かった。あの手この手で釣っても、魚籠のなかにアマゴは増えていかない。リリースサイズが多いのだ。それでも、フックの刺さりどころが悪くて瀕死の重傷を負ったアマゴもキープすると7尾のアマゴが私の手元に残った。
そうこうしているうちに今日のコースの終了地点である堰堤のコンクリート壁が荒い岩場の上に姿を現した。もうあと5カ所くらい釣ると堰堤の下の規模のそう大きくないプールに到達する。
「あそこは3年前、泣き尺を2尾も釣った縁起のいい場所だ」
私はワクワクドキドキしながら堰堤下のプールに近づいて行った。
しかし、そのプールを目前にして私は拍子抜けしてしまった。去年の大水で運ばれた土砂によって、プールは浅く、なお小さくなっていた。減水が、それに拍車をかけた。
「これでは、餌師がさっとひと流し、ふた流しすりゃ、勝負ありって感じだな」
数回投げてみたが、アタリすらない。
「ちえっ! 餌釣りの野郎ども、舐めるように仕掛けを入れやがったな」と私は悪たれをついて、その場に立ち尽くした。
じっとしていると、山の右斜面の朽ち樹のそばでこちらをうかがう者がいる。人かと思って、よく見ると、ニホンザルであった。目をそらさずにいると、あちらも目をそらさない。だが、猿と私のあいだには身の安全を確保するのにじゅうぶんすぎるほどの距離があった。
「最後は猿にみおろされるか。やれやれ。万事休すだな」
私はそう吐き捨てるように言うと、歯でリーダーを噛み切ってミノーをはずし、ウエストバッグのなかからケースを取り出して、そのなかにミノーをしまった。
そして、すっかり後片づけを終えると、かなり傾斜のきつい山の斜面を這うようにして渓流に沿う道まで出た。
空は相変わらず厚い雲に覆われていた。
日暮れ前の薄暗い山道を、私は足早に駐車場所へと向かった。
その途中、ビニールの袋に入れた魚籠のなかで、まだ生きているアマゴが、不意に暴れた。
私は、なお早足に先を急いだ。

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使用したラインとリーダー。

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使用したミノー。

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このサイズが多く果敢にバイトしてきた。もう少し大きければなあ。

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ラインはシルバースレッドアイキャッチPEマークスを使用した。

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系相に似合わず釣り場は空がひらけて明るい。

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寒掛地区は巨岩巨石がごろごろしている。

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家で食べるぶんだけキープした。

【今回の使用タックル】

ロッド : ウエダ STS-501MN-Si
リール : ダイワ ニューイグジスト2004
ライン : ユニチカ シルバースレッドアイキャッチPEマークス 4lb
リーダー : ユニチカ シルバースレッドトラウトリーダーFC 4lb

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