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釣行記

釣行レポート

2014年9月1日

長柄ダムのブラックバス

 田所さんと長柄ダムへブラックバスを釣りに出かけた。
 午前中は雨が降ったりやんだりして、約束どおり午後から釣りに行けるかどうか少し不安にならないでもなかったが、待ち合わせ場所のJUMP高松店へ到着したときには、もうすでに雨はあがっていた。
 近年、外来魚であるブラックバスを駆除するために池の水を干あげたり、釣ったブラックバスの移動を法律で厳しく制限したりした結果、その数が激減したと聞く。もともと少ない大型に加え、とくに中クラスが減って、これが釣果を減らせる大きな要因となっているそうだ。そこで、
「あの噂は本当ですか?」と田所さんに訊いてみた。
 すると、田所さんが、こう言った。
「うーん、どうでしょう?たしかにそういう条件の悪さから釣りにくくなってはいるでしょうけれど、でも、全くダメということは考えにくい。それは、まあ、ないと思います」
「それなら、ちょっと出かけてみませんか?」
「いいですね。ぜひ行きましょう」
 こんな調子で、とんとん拍子に話が進んでいった。

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エノコログサも野原で見ると風情がある

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長柄ダム湖畔に多いゴマダラカミキリ

 JUMP高松店を出発するころには、もう空はすっかり晴れていた。外へ出ると暑さのせいで首の辺りがじっとりと汗ばんで鬱陶しい。陽ざしが刺すように痛かった。
「大きいのを頼みますよ」と釣り場へ向かう車のなかで私は田所さんに言った。
 それは掛け値なしの本心だった。数は釣れなくてもいいから、ランカーサイズを仕留めてほしい。そして、願わくは自分も大きな本命のブラックバスをルアーで釣ってみたい。
 そして、その大きなブラックバスを手に、田所さんとお互い写真を撮り合えたなら、どんなにか嬉しいだろう。
 ところが、いざ釣り場に到着してみると、思い描いていたのとは正反対の状況が私たちを待ちうけていた。
 ダムの堰堤の上から湖水を見おろしながら田所さんが言った。
「今年の夏は雨ばかり降っているので、まさかこれほど減水しているとは思いませんでした。どうもあてがはずれちゃいましたね。おまけに、ひどく濁っているし、いちめんアオコだらけとは。こりゃあ、心してかからないと地獄を見ますよ」
 アオコは藻の一種だそうであるが、きっと藻の仲間のうちでも原始的な部類だろう。
「なんか、ラインが緑色に染まりそうで嫌ですね」と私は水面を覆うアオコを見て言った。
「ええ。アオコもそうですが、やはり釣れそうな雰囲気ではないですね、この辺は」
「どうします?」
「移動しましょう」
「どこへ行きます?」
「流れ込み近くがいいでしょう。大きなバックウォーターが二つあるけど、さて、どっちが釣れるかな」
「でも、アオコに濁りじゃ、踏んだり蹴ったりだなあ」
「底の方は逆に透明度が高いかもしれないですよ。ターンオーバーを起こしている可能性が高いので。時期が時期ですし」
 さっそく移動する。
 管理事務所や休憩所のあるダムサイト側から、湖水を眼下に望みながら奥へ進むと、不安になるほど道が狭くなった。そんなことにはかまわずに、どんどん目的地をめざして田所さんは愛車のパジェロを走らせつづけた。暗い雑木林のなかをどれくらいの距離走ったろうか。土砂が路肩に少し落ち溜まっている辺りをやり過ごして、そこから少し先へと進んだところに、車を回すのにもじゅうぶん余裕のある広さの駐車スペースが右手に姿を現わした。右の眼下にひろがっていた湖水が、雑木林にさえぎられた、その直後のことだった。
「さあ、到着しましたよ。では、様子を見に行きますか」と田所さんが私を促して言った。
 車から外へ出ると、どこからともなくアブが群れ飛んで来て、道具の準備をする私たちにしつこくつきまとった。藪蚊も少なくなかった。田所さんの虫よけローションを借りて事なきを得たが、アブは私たちが歩き始めてからのちも、少しのあいだうるさくあとを追って来た。茶色の腹をした大きなアブだった。

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中央奥で水域が左右に分かれる。それぞれが流れ込みを持つ

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ダムの水位が1m高ければ大型が期待できるそうだ

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ダムの公園のトイレ。清潔に保たれていた

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野外水道と東屋もあるダム公園

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山の斜面に咲くヤブラン

 竹や雑木に覆われた山の斜面は傾斜がきつく、釣り場へと降りる道はどこにもないように思われた。
 すると、田所さんが言った。
「この向こう側に神社へくだる踏みつけ道があります。その小さな神社の横を通って、さらに石段を降りていくと釣り場です。流れのある河川部は澄んでいますが、これまでの経験上、この時期に大型の本命を手にしたことは一度もないのであきらめた方が無難でしょう。少し水深が深くて、葦の折れ屑や流木が水面を覆っている付近が狙い目でしょうか。そういうカバーの下に大型が隠れていることが多いです。先ほど話したように、アオコと濁りで決してきれいな水とも見えないでしょうが、川水の流入による攪拌で酸素量も増えますし、狙うべきポイントとしては有望だと思います。降りたら、右側です。とにかく、やってみましょう」
 釣り場へ着くと、予想どおり水面は濁っていた。アオコも少なくなかった。
 ロケーションよくないなぁと思って辺りを見まわしていると、「これ使ってみて」と背後で田所さんの声がした。
 渡されたのはワームではなくて小型のクランクベイトであった。水面直下をゆっくりタダ巻きで狙うのに適しているというので、水の澄んだ浅い流れ込みの水辺に立って、対岸ぎりぎりへとそのルアーを投げてみた。水面に青葉の影の映る対岸側は、こちら側よりも少し深いようで、葦の折れ屑が集まって出来たカバーの下には大きなバスがひそんでいそうだった。その水面を覆うカバーの端ぎりぎりにルアーをゆっくり泳がせて二度三度誘ってみたが何の反応もない。
 葦の折れ屑で出来たカバーは釣りをする私の足元付近にも何カ所かあった。その浮き島のようなカバーとカバーが寄りあうなかに水面が溝のように細長く顔を覗かせているところに目が行った。その数メートルの距離を田所さんに教わったとおり、ゆっくりタダ巻きしてみたら、水の深みからブラックバスが忍び寄ってきて、ひょっとするとガブッと食いついて来るかもしれない。そう思ってやってみたが、予想に反してアタリすらなかった。
 ところが、そのあと予期せぬことが起こった。仕掛けを回収する間際になって目と鼻の先で水面が炸裂したのだ。
 私が仕掛けを回収しようとするのと、ブラックバスがルアーを捕えて水中に引きずり込もうとするのと、その両方の間が合った。手元にものすごいショックが来た。水辺は今朝の雨に湿った土がむき出し状態で水辺に向かって急傾斜している。そのわずかなくぼみに足をあずけて仕掛けをあやつっていた私はバランスを崩してあやうく水に落ちそうになった。
 それを見ていた田所さんが、惜しかったね、気を抜かないように言ったでしょ、落ちなくてよかったね、と言って笑った。
「デカかったよ」と私は悔しさをぶちまけた。
「それに食いつくのは大きいのが多いから」と田所さんが言った。
 田所さんは私よりも奥側の川幅が少し広くなったダム湖の入り口付近で重量のある大きなワームを投げていた。
 その後、私は河川部の上流へと移動して、小さいながらも本命のブラックバスをどうにかこうにか釣りあげた。そして、そのあと小さいのを釣り落とした。
 流れのある水のきれいな河川部にはオイカワが群れていたが大きなブラックバスは確認できなかった。

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筆者が使用したライン

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河川部を歩いて偵察してまわる

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河川部はベイトの小魚が多く期待大

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奥の流れ込み付近に3尾のブラックバスを発見

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淵へとかけさがっていく傾斜部に居たバスが食いついた

 ダム湖の入り口付近へもどってみると、同じ場所で田所さんがワームを投げていた。重量のあるワームを仕掛け任せに沈めていき、沈みきったら少し誘いあげて、また自然に底まで落とすという釣り方で、本命のブラックバスを釣ろうと頑張っている。
「アタリはあるけど、ショートバイトだね。仕掛けを送っても、すぐに気づいて離してしまう」と傍で様子を窺う私に田所さんが説明した。
「どうなれば釣れるの?」と私は訊いた。
「ワームが水中を漂うようにわずかな流れに押されてカバーの下へとうまく潜り込めば、きっと、食いつくと思う。そう思って何度もやっているのだけれど。それと対岸すれすれの大きな石の右側がえぐれて深くなっているのが見えるでしょ。あそこにも大きいのがひそんでいます。ワームがうまくその辺りに落ちると水面がもやもやっとして、そこにブラックバスがまちがいなく居ると、すぐに察しがつきました」
「ものに出来そうですか?」と私が訊くと、「それが、どうにも食いつかない」と田所さんはワームを別のタイプに交換しながら忌々しそうに言った。
 大きなブラックバスが、田所さんのワームに食いついたのは、その少し後だった。
 ドバミミズみたいに長くて大きいワームをオフセットフックにセットして、右手にひろがるカバーの浮き島の上に投げ落す。そして、葦の折れ屑の上をチョンチョンと手前側へとワームをセットした仕掛けを躍らせながら、その下にひそむブラックバスの積極的に誘いはじめた。
「オフセットフックって効果大ですね。根掛りしにくいし、こうして難なく障害物もかわせて」と私は田所さんの釣り方に感心しながら言った。
 すると、そう私が言い終わらぬうちに、「おっ、下に来た!」と田所さんが語気を強めて身構えた。
 ワームを躍らせている辺りの葦の折れ屑が揺れうごき、ときに微かに盛りあがるようなあんばいだ。どうやら、カバーのすぐ下にブラックバスが居るらしい。田所さんは、私よりも先にそれに気づいて声を発したのだった。
 すると、まもなく地雷が炸裂するような勢いでカバーが裂けて水しぶきがあがった。少し仕掛けを送り込んだあと、田所さんは余裕を持って鋭いアワセを入れた。竿を立てて素早くリールを巻く。対戦相手のブラックバスをカバーから引きずり出すまで田所さんはその手をゆるめなかった。
 水面にアオコの浮く方へと引っ張り出されたブラックバスは、やがて水面を割って荒々しく跳ねあがった。二度、三度、ブラックバスは水を脱いで宙へと躍りあがった。
 水面を離れたブラックバスは「く」の字を描いて頂点へ達すると、「へ」の字、「し」の字を描いて、最後は腹から水面へと落ちた。それが、まるでコマ送りされる映像のように、私の目に印象深く映った。
 ブラックバスを無事とりこんだあとで、その話をすると、「それって、異常だよ。精神が分裂してない? そんな風に見えたなんて」と田所さんはまるで心理学者のようなことを言った。
「右の目と左の目と、ぜんぜんちがう世界を見ているクライアントが稀に居るそうですが、それにくらべれば、どうってことないと思います」
「なに、それ?」
「さあ、統合失調症の一例じゃないですかね」
「もし、そんな見え方をしたら、ちょっと想像もつかないけれど、もしそうなら気が変になりやしないだろうか」
「だって、変も変でないも、もうじゅうぶん変でしょ、それって」
 田所さんがブラックバスを手にした写真を何枚か撮るうちに、自分もこんな大きい奴を是非とも釣りたいものだと強く考えるようになった。
 田所さんは釣ったブラックバスを水にもどしてやると、こんどは色のちがうワームを同じ仕掛けにセットして、対岸すれすれに据わる大きな石の周辺を、少しずつ投げ落す位置をずらしながら、ねちっこく攻めはじめた。その数分後。石の腹にぶつかったワームが、そのまま水面へと落ち、いくらか沈んだであろうと思われるそのとき、水から出ているラインに微かな変化が生じた。
「食った!」と田所さんが小さく叫んだ。
 ゆっくり仕掛けがカバーのある側へと引かれていく。それが近くで見ている私の目にもはっきりわかった。相当送り込んでから、しっかりアワセを入れた。
 釣れたのは最初の奴と同じくらいの大きなブラックバスだった。

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カバーを叩いて食いつかせた文句なしの1尾

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大物を水際へと寄せる田所さん

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徹底したストラクチャー狙いが功を奏し、2尾目をキャッチした

 「もういいでしょ。あとは任せましたよ」と田所さんが言った。
 田所さんはもう少し奥側の水深が深くなっている辺りを狙うようにと私に指示した。
「奥って、ダム湖の深場へと掛け下がっていく、あの辺りですか?」
「そう、あの辺り」
「ワームがいいですかね?」
「そうですね。アンダーショットリグがいいでしょう。ナイロンからPEラインに変更したようですから。4lbですか。それならリーダーは6lbでいいです。リーダー部分にフック直接結んでやるといいですよ。それにワームをセットする。その方が誘いかけたときにこちらの意志がそのまま余すところなく仕掛けの動きに反映されます。だから、枝素はいりません。ワームはこのくらい大きい方がいいでしょう」
 言われるままに仕掛けを組んで釣ってみる。向こう岸に仕掛けを着地させてから仕掛けをひき寄せてワームを渚の水のなかへ落とし込む。まるで岸から何か食えそうな生き物が水に入って来たようにブラックバスに思ってもらえたならシメシメというわけだが、さてそんなふうにまんまとうまくいくだろうか。その後、オモリを岸辺に残したまま竿を小刻みに上下させて水のなかのワームだけを活き活き躍らせていると、コツン、ググッというふうなアタリが手元にはっきり伝わって来た。
「ゆるめて」と田所さんが言った。
 仕掛けをゆるめると、さらに岸際を横方向へと持っていくので、オモリが仕掛けに引かれて水に没した。仕掛けをじゅうぶん送り込んでからアワセを入れた。対岸付近でヒットしたので、こちらへ寄って来るまでに相当暴れまわったが、やり取りのおもしろさのわりにサイズは小さかった。
「フライで釣るのと大ちがい、よく引くね」と私は言った。
「フライラインは重いでしょ。暴れてもダイレクトに手元に引きが伝わりにくい。それに比べるとルアーはラインが細いから」
 その後、ほぼ同じ場所で、もう一尾、同じサイズのブラックバスが釣れた。
 スクールは同サイズの群れでまわっていることが多いそうで、そう聞くと、やはり田所さんが二尾の大物を仕留めた河川部の終わり付近がよさそうに思えてきた。
 しかし、そちらへ移動してからのち相当ねばってみたけれど、田所さんが見事な本命を仕留めたその場所ではただの一尾も手にすることはできなかった。
「もう、やる気がないか、どこかへ移動して、もぬけの殻になってしまったようですね」と田所さんが言った。
「もうダメですか?」
「ダメなようですね」
「じゃあ、そろそろやめましょう」
 私たちは神社の石段を登りきると、本宮の横を通って、ふたたび来たときと同じ雑木林のなかに続く踏みつけ道をゆっくりとした足取りでたどっていった。そのとき気づいたのだが、ダムができる前は石段の下側に集落があって、神社は山の中腹から人々の営みを見守っていたのにちがいない。 「ですから、ダムに呑まれてしまった。そういうことでしょ」
「そうですね。集落もろとも」と私は言った。
「だから、いま歩いているこの細道は神社へくだる裏参道というわけです」
「今日は勉強になりました。おもしろかったです」と私は言った。
「なあに、魚の大きい小さいは時の運ですから、次回は是非とも迫力満点の大物をやっつけてください。今日の僕のよりも、ずっと大きいのを」
「がんばります」
「きっと、また、ご一緒しましょう」
「はい。ぜひ」

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こうしてルアーで釣るのは初めて。小さいがよく引いた

 私たちは来た道とは別の林道を抜けて、本線国道への連絡道である広域農免道路へと出た。助手席の窓を半分ほど落とすと、夕暮れの風が心地よく感じられた。もう夏が終わろうとしている、辺りをめぐる秋あかねの群れを眺めながら、私は独りそう思った。

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田所さんが使用したライン

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使用したクランクベイトとワーム

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次回は私も必ずやこんな大物を仕留めたいものだ

【田所さんのタックル、ライン】

ロッド : ダイコー ブルーダーMH63

リール : ダイワ セルテート2500

ライン : ユニチカ シルバースレッドS.A.R6lb

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