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釣行記

釣行レポート

2015年2月19日

二月のアマゴ

 舞いくる雪が互いに光を投げ合うせいで、色の飛んだように見える遠い景色の奥に、分厚い雪をいただく山峰がどっしりと控えていた。それが、私の目に、どっと迫って来た。ところどころ色濃く翳って見えるのは山あいの渓谷で、それは荒く駈けくだるような勢いをもって映るのだが、そのなかのいくつかは割りと釣り歩くにも苦もなくやれる場所の少なくないことを私は経験から知っているので、雪が溶けて若葉の気持ちいい桜の季節になったら、今年もぜひ出かけてみようなどという気分になった。
 左の奥につづく山なみに、しばしば目を向け、そういうことを考えながら、私は目的地へと車を走らせていた。
 すると、フロントガラス越しの景色がなんだかうんと明るんで来て、対向車さえうきうきと心はずませ走っているように見えてきた。
 ようするに釣りバカなのである。
 じつをいうと、そのようなバカだから、今朝は早起きをして書きものを予定していた分だけ済ませて、割りと早めに家を出た。二月解禁は愛媛だけなので、むろん行き先は愛媛の渓流ということになるわけだが、釣り仲間の一人が、「S渓谷の下のほうで、行くたびに釣果がある。雪のない辺りで、滑落など危険の心配もまずない。大きいのは稀だが、そんなのはこの時期まだサビが落ちてなくてつまらないし、やっぱ、目を洗われるような朱点の冴えた品のいいアマゴが一番だ。半日もやれば三十は釣れるよ」と連絡してくれたので、ちょっと出かけてみる気になったというわけだ。
 彼は餌釣り師だから、滅多に一緒には釣らないが、親切にもホットな情報を惜しげもなく連絡してくるので、こちらもフライやルアーで釣果に恵まれたときには、どこそこの沢が釣れているよとか言って知らせてやる。釣果三十尾は餌釣りだからだろうが、そうはいっても、二月は愛媛以外釣りが許可されていないので、地元で釣り場に明るい彼からの情報は大変にありがたい。山岳の渓流ならルアーの好期はまだ少し先かとも思われるが、まあ、行けと進めてくれるのだからルアーでも釣れるにちがいない。

 今日は、今季初めての渓流釣りなので、アマゴの顔を見られたら、もうそれで満足だ。欲張らずに、のんびり竿を出して、写真を数枚押さえたら、さっさと引きあげよう。そういう心づもりで車を走らせやって来た。
 教えてもらった林道脇に車を止めて、さっそく釣りの準備に取りかかる。
 規模の大きな渓流ではないので、ロッドはUMFウエダSTS-501MN-Siという短めのものを用意してきた。リールはユニチカシルバースレッドトラウトクリア4lbを75m分巻けるラインキャパシティがあればどれでもよかったが、ロッドが軽量なので重たいリールではバランスが取れない。そこで、ダイワイグジスト2004をあらかじめリールシートにセットしてやって来た。
 ラインをガイドに通し終えると、「さて、ルアーは何を結ぼうか」となって、私はウエストバッグからスプーンをたくさん入れたケースを取り出して蓋をあけた。まだ流れの冷たい早春のころは、ミノーよりもスプーンがよく釣れる。そういう声をよく聞くが、日当たりのよい傾斜の緩やかな大場所がつづく流れでは、バルサー材を削って作った性能のよいミノーで表層を探っていくと、おもしろいようにアマゴが食いついてくることも少なくない。雪代の流入の少ない澄んだ流れなら、ミノーに襲いかかって来たアマゴが水中で反転するときに放つ光を目にすることもたやすいだろう。私はサングラスをかけない主義だから水中の様子をうかがい知るには不利だが、それでもちょいちょいそのような光景を目にするといささかなりとも心が躍る。
 じっさい、今回の釣行でも、渓へ降りてまもなくそのような幸運を授かった。しかも、やや奥行きのある、流れに厚みの出た落ち込みに近い方の流れの筋に、小粒のスプーンを沈めて手前へと引いてくると、私の立ち位置からそう遠くないところでバイトがあった。最初、コツンと小さなアタリが来た。しかし、注意力を欠いていたせいでアワセのタイミングを逃してしまった。次にアタリが来たときは、アタリの直後にギラッと水中で反転するアマゴが光って見えたので、落ち着いてしっかりアワセを入れることができた。
 ロッドが綺麗な弧を描いて撓った。グイグイとよく引く。おおっと思った。かなり大きいと踏んで、しめしめと思いながら、慎重にやり取りしたが、自分も岸寄りに居場所を移し、その岸近くまで寄せてみると、その闘いぶりとは裏腹に大したサイズではなかったのが予想外ではあったけれども、今期初のアマゴである。しかも、写真を撮ろうと岸辺に寝かせてみると、あるはずの朱点がない。すると、四国にはふつう棲息しないヤマメであろうか。きれいな魚体で、成魚放流とはちがうようなので、放流以前の稚魚の段階でもうすでに養殖場の水に混じって泳いでいたのかもしれない。そうとも考えられなくはないが、真相はどうだか知れたものではない。
「これならミノーで狙っても簡単に釣れそうだな」と私は釣った本命の今期第一号を水にもどしてやったあとで、そう思った。
 しかし、私はそのままスプーンを使って釣ることにした。早春の景色には、どうしたってスプーンが似合うような気がする。なぜなら昔からそのようにして来たからだである。思えばもうずいぶん長く渓流釣りに親しんできた。
 同じ流れの、もっと落ち込みに近い側で、今度は朱点のきれいなアマゴが私の投げたスプーンに食いついた。サイズは最初のより少し小さいが、今度こそ朱点をちりばめたアマゴであった。

 午前十一時過ぎに到着して、もう一時間ほど釣り歩いてみたわけだが、出だしが好調だっただけに、いまだ三尾しか手に出来ていない現状には少々不満であった。それに、同じ愛媛でも今期は瀬戸内海側へと流れくだる渓流はどこも減水気味と聞いているが、ここは打って変わって流れに勢いがある。雄々しい景観はいかにも頼もしいが、ときに荒い岩場の岸を奥へ奥へと向かって攻めのぼるのが、今期初釣行の体のなまった私にはいささか億劫に思えたりもした。それに、アタリがめっきり来なくなってしまったのも不満であった。
 そこで、見るからによさそうにない場所は飛ばして、急ぎ急ぎ釣る作戦に変更した。先のわからない釣り場だけに、どれくらいのペースで釣り歩くべきか迷ったが、釣果を欲張らなければ、あっという間に林道へ出られる終点の場所まで来てしまったとしても、それほど悔いは残るまい。
「数も、サイズも、まあいいや。とりあえず顔は見た」
 おまけに、ヤマメかもしれない朱点のないきれいな魚体にもめぐり会えたのだ。欲を言っては罰が当たるだろう。
 と、そのとき、頭上にガサッという音がして、木の屑枯葉の屑が少し舞い落ちて来た。よくよく見ると岩場の上の山林の薄暗がりのなかからこちらの様子を窺う目と目が合った。ふさふさとあったかそうな自前の毛皮をまとった猿である。さきほどから暗い雲が絶えて陽が顔を覗かせているが、冬の陰気な山暮らしに午後の陽ざしは猿にとってもいちばんのこころの御馳走だったろう。岩に出て、日光浴と洒落込んでいたのに、思いがけず現れた釣り師の私は招かれざる客というわけか。それで、慌てて上へと駆けあがったにちがいない。猿の降らせた木屑枯葉の屑は、まさかその嫌がらせではあるまいが、一瞬、はっとさせられたのは事実である。
「この野郎。脅かしやがって!」
 そういう顔で私は猿を見あげた。猿は同じ場所を動かずに、こちらの様子を相変わらず窺っていた。体格のよい成人の若い猿であった。

 猿をやり過ごして、終点へとたどり着くまでのあいだは悪くなかった。猿の奢りかどうかは不明だが、猿に出会ってから俄かに運気が上昇して、水生昆虫のハッチもまるでない様子なのに、水面に近い層でアマゴが度々私のあやつるスプーンを捕えた。もう片手の指に余る数の小ぶりなアマゴが私の手に落ちていた。
「次こそ!」
 そう念じつつ私は流れの表情をみて仕掛けを投げ込んでは、大物への期待を膨らませた。少し欲が出たのだ。が、その期待もむなしく、ついに私はその大物の顔を拝むことは最後までできなかった。
 だが、予感はあったのだ。たびたび胸騒ぎがした。
 大物!たしかに、それを期待させるだけのいい眺めの渓相であった。
 それが、全行程を釣りきっての私の感想だ。
 もう半月もすればカゲロウが春の光のなかを舞って、ここの流れも賑やかになることだろう。流下する水生昆虫のハッチに合わせて、ライズするアマゴをあちらこちらで目にできるにちがいない。
 渓流本番も、もう間近というわけである。

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使用したライン

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スプーンはノリーズ鱒玄人を多用

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奥ゆきのある緩やかな流れ。いかのも釣れそう

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本命を無事キャッチ!

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今期初の魚はヤマメだろうか。朱点がなかった

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流れ込みに近い側でアマゴがヒット

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今回はこのサイズが大きい方だった

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綺麗なアマゴが釣れた

【今回の使用タックル、ライン】

ロッド : ウエダ STS-501MN-Si
リール : ダイワ ニューイグジスト2004
ライン : ユニチカ シルバースレッド トラウトクリアー4lb

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