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釣行記

釣行レポート

2015年3月8日

良型は身近を泳ぐ

 人が多く分け入ってはいかないだろう山奥へと釣りに行けば大物に出会えるのではないか。そんなふうに考える人が少なくないようだ。釣りあがるのも困難な山の奥の沢なら、釣り人もほとんど行かないから、目を見張るようなサイズのアマゴが釣れると思い込んでしまうらしい。
 しかし、そういう場所は餌となる水生昆虫や小魚が決して多くはなく、共食いも辞さない厳しい環境であるばあいが多く、たとえ尺を超すサイズまで育ったとしても、大きさのわりにほっそりとして迫力に欠ける魚体が多い。それには、餌の事情以外にも水域の規模の小ささが原因してもいるらしい。広い水域を活発に泳ぎまわるアマゴのほうが運動量も多く、しっかりしたボディに育つようだ。そういう本流域は標高の低い温暖な場所を流れているため山岳渓流に比べ春が早く冬が遅い。むろん、大きな流れには餌となる小魚も多い。水生昆虫の羽化も源流部とは比較にならない。ヒゲナガカワトビケラ、モンカゲロウなど大型の水生昆虫も量的に半端ではない。運動量が多く、そのエネルギー源の水生昆虫や小魚にも事欠かぬとなれば立派に育って当然だ。
 このような理由から、大物は人を寄せつけぬような山奥の沢にではなく、里の町近くを流れる大きな川にこそ多く棲むのである。
 たとえば徳島県を流れる吉野川の本流域には大型のアマゴが数多く生息している。その多くは銀化しており、パーマークの消えた幅広の魚体には鮮やかな朱点のみを残す。
 私や私の釣り仲間は本流に棲むこのアマゴのことを「鱒」と呼んでいる。川筋の漁師のなかには「川鱒」と呼ぶ者もあるが、私たちは単に鱒と呼ぶのである。

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徳島県吉野川本流の鱒

 同じ本流でも、流程が比較的短い愛媛県東部の燧灘へとくだる河川では、たとえゆったりした流れであっても、パーマークと朱点のうつくしいアマゴがわりと多い。渓流と同じきれいなアマゴでありながら、サイズはうんとよいのである。
 そういう上出来の美しさと型のよさを併せ持つアマゴを是非釣りたいものだと思って、いま最も旬の釣り場を探してみた。今期は雨が多いわりに水量が少ない本流河川も少なくないと聞いていたので、念のため当地の仲間に当たってみた。

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カラーラインは仕掛けが見やすくて重宝する

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良型がミノーを捕えた

 教えられたとおりに訪れてみると、なるほど雨がこのところ周期的に降っているだけあって水量に勢いがある。しかも雪代による濁りの影響の皆無とも見える澄んだ流れはさほど冷たそうにも感じられない。さすがに聞きしに勝る本流である。早春でありながら、もうすでに春本番の流れに見える。
 午後ということもあって、大型のカゲロウが川面を滑るように流されていく光景に何度か出会った。
「こいつは悪くないな」と私は目を細めた。
 自然と頬が緩んだ。
ひろく見渡す目の端にもライズは確認できなかったが、水生昆虫の流下が見込まれる状況に、「こいつはいける」と思わせる根拠を見出して、まだ仕掛けも入れていないのにどこか安心してしまっている自分がいるのだった。
 予感は的中した。
 奥ゆきのあるいい感じの流れを三分割して、瀬尻の側から順に探っていくと、流れ込みに近い方の流れの筋が消えかかる辺りに私のあやつるスプーンが泳ぎくだって来たとき、ひったくるような気味のよいアタリが手元にじかに来た。
 ガツンと来たのを、よっしゃ! とばかりに合わせた。
 竿をのすような強い引きに、心が躍った。
 流れ込みの深みへ逃げ込もうと、アマゴは渾身の力をふり絞って抵抗した。
 しかし、私はもとより良型を仕留めるべくやって来ており、そういう心持ちであったから、やり取りにも余裕があった。
 うまくあしらいながら、自分の側へと注意しながら静かに寄せて、一気に河原へとずりあげた。
 それは、たしか五回投げてダメで、六回目にようやくヒットした。
「よしよし」と私は河原の石の上にもんどりうって暴れるアマゴを手に押さえながら言った。
 気持ちが逸った。
 悪くない流れなので、少し休ませれば次のアマゴを狙うことも可能に思えた。
 そのとおり。間を置いてから攻めてみると、また食いついた。きれいなアマゴだ。奥の落ち込みの流れにルアーを打ち込んで、そのまま底へ向かう流れに乗せて沈めていく。根掛りしないようラインを張り気味にしておいたので、ほぼ底の流れに入ったのが手元の感触からよくわかった。
 また、きれいなアマゴが釣れた。しかし最初のほど大きくはない。二尾目と似たような大きさである。
 このあと、しばらくのあいだ上流へと釣り歩いてみたが、最初の一尾をうわまわるサイズのアマゴを手にすることはできなかった。

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使用したミノー

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本流らしい幅広のアマゴをキャッチした

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このサイズなら文句はない

 その後、喫茶店でコーヒーを飲んだあと、帰りに行き慣れた渓流の下流域へと足を運んでみた。今年はサイズのいいアマゴが二月の解禁当初から数多く釣れているという。そう話してくれたのも情報をくれた当地の釣り仲間であった。
 ここは私も何度も来てルアーでもフライでも釣果をあげているので、これといってアドバイスは必要ないが、堰堤下の溜まりに例年のような良型は少なく、ちょうど大型のカゲロウが流下する午後に、少し厚みのある瀬のテールエンドを、軽めのルアーで攻めると食いつきがよいとのことだった。
 それなら、フライで釣る方が簡単に釣果にありつけるとも考えたが、あくまでもカラーラインを試す目的で来ている。
 釣り仲間からの情報を信じて、しっかりした流れの瀬尻に的を絞って数カ所当たってみた。
 最初の瀬では普通のサイズが一尾。次の瀬でもきれいなアマゴがヒットしたが、やはり小ぶりであった。そして、いくつかの小流れをパスしてたどり着いた、枯れた萱のなかのゆったりとした流れを下流側から眺めていると、流速のやや落ち着きをみせはじめる瀬のなかほどにライズするアマゴがいた。アマゴは、やや位置を変えながら、ライズをくり返していた。見るかぎり水面にヨットの帆のように羽化したての羽根を立てて流れくだる水生昆虫は認められない。おそらく水面直下で口を使っているのだろう。ニンフやピューパの流下があるにちがいなかった。その捕食の余韻として水面が乱れ、私の目がそれをライズと見て取った。そういうことにちがいなかった。
 河原が広いので、斜め横にまわって、小さめのスプーンをアップクロスに投げて、できるだけ余ったラインを空中に保持できるようロッドを立て気味にして、あまり沈めないよう心がけながら、チョンチョンとロッドの先で軽く誘いながら様子を見ていると、あるときアタリが来た。気のない、コツンという、小さなアタリであった。
 次また同じように少しだけ位置をずらして攻めると、今度は向こうアワセにアマゴが食って来て、落ち込みの方へと走った。ロッドの先が、お辞儀した。足を止めさせようとロッドを引き絞ると、強い抵抗を見せた。なかなかこっちを向かない。
 それでも、なお強く引き絞ると、私の立つ側の岸寄りへと、流れのなかのアマゴはじわじわ居場所を移しはじめた。
 その辺りは反転した流れが上流方向へとゆっくり流れている場所だ。その反転流に乗ると、アマゴは上流に頭を向けて泳ぐはずで、それなら仕掛けを後ろに引いて泳ぐことになるから、アマゴにとって不利だといえる。
 そのとおりになって、こちらは余裕のやり取りとなった。ずりあげて、河原の石が囲う小さな水溜りのなかに引きずり入れて、私はひとつ息をついた。
 悪くないサイズのアマゴだ。しかも、体高がある。顔が厳つく古参の武将の風格だ。
特別大きくはないが、この規模の河川でこのサイズなら納得できる。

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良型のきれいなアマゴが出た

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今回もカラーラインで釣果を得た

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本流には良型が多くひそむ

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大型のカゲロウをよく見かけた

 空は曇っていた。
 ここへ着いた当初は、雲間にときおり覗く陽ざしを見たが、のちに雲がひろく出た。
 風が動けば少し冷えそうな時刻だが、嬉しいことに風はなかった。
 その後、堰堤下の流れで小ぶりなアマゴを二尾追加したところで夕暮れになった。
 すでに三月の声を聞いているとはいえ、冷たい流れのほとりで過ごすには、気に添わない時刻である。
 腹も減ったことだし、もう釣りはよすことにした。

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本流に似つかわしいサイズが出た

【今回の使用タックル、ライン】

ロッド : シマノ カーディフ エクスリードHKS59UL/F
リール : シマノ ツインパワーC2000HGS
ライン : ユニチカ シルバースレッドアランチャ4lb

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