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釣行記

釣行レポート

2015年5月10日

休日のバス釣り

 バックウォーター側から北方に目を向けると、ダムの堰堤が一目瞭然である。門入ダムはその程度の規模しかない。ワンドの数も少なく、ダム湖特有の入り組んだ水系を持たないこともロケーション的魅力に欠ける一要因である。
 その一方で、門入ダムは水域の規模に似合わず、その堰堤は巨大であり、堰堤の頂部はバリカーで封鎖されてはいるが、もしマイカーでの行き来が許されるならば、一般道並みの速度で危なげなく走行できるだけの広さが確保されており、楽に対岸へと移動することができる。今でも、行こうと思えば、徒歩なら対岸まで釣り場の移動が可能である。
 この頂部の通路のなかほどからダムの外側を見おろすと、ぞっとするくらいの高さである。
それを考えに入れて、どのくらい深いかと想像しつつダム湖側を見おろすと、水は枯葉の成分が溶け出たかのようにやや茶色味を帯びているせいか、水が澄んでいるわりにその底を窺い知ることはできない。仕掛けを落としてみたこともないので、いまだ正確な水深はわからないが、ダムの案内板をみれば書いてあるのかもしれなかった。ただ、私はダム湖オタクではなく釣り好きなオヤジにすぎないから、そんなものはあってもわざわざ近づいていって読もうとは思わないし、実際読んだこともない。

その門入ダムへ、先日の日曜日に、ブラックバスを釣りに出かけた。
休日は陸からも湖上からも多くのバサーがルアーをまるで弾丸のように撃ちまくってバスを狙うので、人気の高い釣り場はなおのこと釣りにくい。わざわざそんな日を選んで出かけていかなくても平日に出かけられる身分なのだから、なにも好んで玉砕の憂き目を見にいくこともあるまい。そうバス釣りの経験豊富な釣り仲間は口をそろえて忠告するが、人間いつどうなるか一寸先は闇なので、そんな悠長に構えてもいられない。
「明日死んでも悔いの残らぬ生き方を!」と試しに声を張りあげてみたら、みんなやれやれという表情に俯いて黙ってしまった。

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東屋のある小岬付近も好ポイント

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これから荒食いをして益々体格がよくなるという

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四月中旬に来たときはバスの気配はなかった

 思い立ったら行くしかない。
 だから、来てしまった。
 午前中は用があったので、午後からの釣りとなった。
 まだ太陽は山の向こうに隠れてはおらず、陽ざしが襟から露出した首に痛く感じられた。
 釣り仲間の予想どおりに、湖水には釣りのボートが三艇、水辺へと容易に近づける場所にはバス狙いのほかヘラブナ釣りを楽しむ人の姿も認められた。
 ダムサイト側の公衆トイレを完備した駐車場に車を乗り入れ、道具の用意を済ませると、私は散歩がてら歩いて主だった釣り場を見てまわった。初心者の私には未知の部分の多い釣りだけに、他人の釣りを見るだけでも参考になるし、それはそれでどうして楽しい。
 ヘラブナ釣り師がうちこむ練り餌に寄った小魚をつけ狙ってバスが集まって来るのか、同じエリアに悶着が起きない程度の距離をあけて、バサーとヘラ師が共に湖水に向かっている姿をよく見かけたが、それにしても、陸からもボートからも狙われるのでは、バスもたまったものではない。バスに生まれてこなくてつくづくよかったと胸をなでおろした。
 何カ所かまわってみたが、プラグを投げている者は一人もいなかった。みんな若く、今風な格好をして、ワームでねちねちやっていた。
 ボートの人らは沖から樹の枝が覆い被さる岸際に向かってルアーを投げていた。何を投げているのかまでは判然としないが、たしかにプラグ系のルアーで釣っているようだった。
 私もプラグ系で釣りたかった。できれば小魚そっくりのミノーでまんまとバスを騙してやりたい、そう思った。
 つい先日、激戦区の府中ダムで、ワームで狙う若者たちを尻目に、「大人はこれですよ」とばかりにラパラのミノーを投げて良型のバスを釣ったものだから、今回もひょっとして釣れるかもしれないなどと虫のいいことを思ってミノーにこだわろうと決めたわけだが、いかんせん、釣りよい場所には必ず先行者がいた。
 仕方ないので、駐車場所までもどって、ベイトタックルから仕掛けを扱いやすいスピニングタックルに持ち替えて、ダムサイト付近のドン深のポイントを雑木のあいだから今いちど覗いてみると、到着して早々確認したときにいた先行者の姿はすでになかった。
「さんざん叩かれた後に入っても、難しいだろうな」
 そう思わないでもなかったが、折角だから釣ってみることにした。雑木の下の踏みつけ道を、膝に草を分けつつ転ばないよう用心しながら、コンクリートブロッグを継いで築いた高い足場の場所へと降りた私は、眼下の湖水を注意深く見降ろした。ブロック護岸は湖水までの高さが五メートルほど、降りた場所から十数メートルの間は横に移動が可能である。それでも、幅が四十センチほどと狭いため、落水しないよう注意が必要だ。ブロック護岸の両側は切り立っており、沖側へと張り出した崖縁は地層がむき出しだった。
 すでに、時間的な関係で陽は射さず、水は暗く底を窺い知ることはできなかった。足元を覗くと深みを泳ぐ魚がいたが、大きい鯉だった。
 一瞬、ドキッとさせられたが、鯉とわかって落胆した。
 ところが、私が降りた反対側の崖下の水面に波紋が静かにひろがって、おやっと思ってそちらに目をやると、そこにも魚の姿があった。鯉かとよく目を凝らして見ると、バスだった。しかも、良型のバスが、その大きなバスの近くに四尾、五尾と溜まっていた。
 俄然、私はヤル気が出た。
 すぐに小魚を模した精巧な作りのミノーで勝負に出たかったが、サイズがいいのでついつい欲に目がくらんで、釣りたい気持ちが勝った。
 もうそうなると自分の大好きな、信頼しきっている、あのルアーを投げるしか手はない、そう思い直して、ピーナッツⅡを仕掛けの先にセットした。
 切り立つ岸際へと投げて、巻きにかかる。足場が高いので、ゆっくりリールを巻くと、さほど深く潜る心配はなかった。ちょうどいい深さを泳ぐピーナッツⅡが私の釣り座からバッチリ確認できた。
 ところが、何度やっても、逃げもしないが一向に食いつくそぶりも見せない。仕方ないので、やはり最初の計画どおりに細身のミノーに交換した。
 これは、パニッシュといって、私が本流で鱒を釣るのによく使うミノーである。
 私は同じように岸際に投げて手前の水中をうろつくバスの方へとミノーをゆっくり泳がせてみた。すると、集まっていたなかの一尾が私のあやつるミノーに興味をそそられたか、見に近づいて来た。食い気満々というふうには見えなかったが悪くない兆候である。
 あんのじょう最接近したときバスの動きが止まった。
「またかよ」と思わず声に出た。
 元居た場所へともどっていくバスを見送りながら落胆もひとしおだった。
 興味は示す。さほど、警戒しているようでもない。ただ、口を使わないだけである
 なにか打開策があるはずだ。私は頭を痛めながらも考えた。
 バックのなかを探すと、いちばん番手の細い糸オモリが見つかった。
「これだ! こいつをフックに巻いて、水面と平行の姿勢を保ったまま、ゆっくり、沈むとも沈まぬともわからぬぐらい、ごくゆっくり沈ませれば、あるいは」
 これは名案だ、と思われた。
 糸オモリの量を加減しながら何度か試してみた。気に入るまでには少し手間取ったが、やっと、理想の状態にこぎつけることができた。
 いちばん手前側のバスが、上目づかいにその辺を行ったり来たりしている。水面を気にしているようだ。少しはヤル気が出てきたようにも見えた。
 そのバスの近くへと仕掛けを投げてみると、泳ぎ寄っていた。浮力調整をしたミノーは水平姿勢を保ったまま水面下数十センチの深さに自分の意思でとどまっているように見えた。仕掛けを意図的に横方向へと張るような気持ちでいると、自然にそうなった。
 バスがスーッと寄って来た。さらに間合いを詰めて来た。
 私は息を殺し、その様子を見守った。
 ダメかと思ったが、その瞬間にバスが大きな口をあけたのが見えた。暗い湖水に雑木の影が色濃く落ちている辺りでバスがミノーを捕えた。
 足場が高いせいか、たいして暴れない。足元まで寄せられたとき、軽く水を脱いで躍りあがったバスは、すぐまたおとなしくなってしまった。
 仕掛けを上から引っ張ると、顔だけ水面から出したバスと目と目が合った。
「なにするねん」とバスは不愉快そうだった。
 おそらく、ほんとうに不愉快だったろう。
 それはそうだ。自分の身に置き換えてみたら、すぐにわかる。
 しかし、問題はバスの機嫌ではなかった。
 私は細身の軽いミノーを投げやすいようにとスピニングタックルで臨んだわけだが、抜きあげるにはラインが細すぎた。ユニチカのシルバースレッドS.A.R.8lbは強力なバス用ラインだが、それでも強引に抜きあげて大丈夫なサイズのバスではなかった。
「おい、こら。ほんま、なにするね」とバスは水面に顔をのぞかせたまま、大きな口をあけて、先ほどにも増して機嫌が悪そうだ。
 いつ怒りが爆発して暴れ出さないともかぎらない。
 足場は高い。玉網はない。ラインは細い。
 私は途方にくれた。
 困ったときは、落ち着いて考えるべし。なにか名案が浮かぶはずだ。そう自分に言い聞かせながら頭を働かせていると、その甲斐あってか、ひらめいた。
 私はバッグのなかから、ショックリーダーに使おうと用意していたアイガースーパーⅢの4号を見つけ出した。仕掛けが緩んでバスが逃げないよう気を配りながら、私はその先に金属製のメタルワサビーを素早く結ぶと、自分の足元に大きな口をあけて水面から顔を出しているバスめがけて、蜘蛛の糸よろしく、ゆっくり慎重に降ろしていった。
 一度目は失敗した。
 しかし、次また試みた私は、バスの大きな口のなかへと見事にメタルワサビーを落とし込むことに成功した。丈夫なトリプルフックが、バスの口をガッツリととらえた。私は水汲みバケツのロープを手繰る要領で、バスをどうにかこうにかひっぱりあげた。
 なかなかに見映えのするいいサイズのバスだった。
 足元に降ろすと、水面に顔を覗かせていたときとは打って変わって暴れた。
 まずい。水に落としてしまっては元も子もない。
 釣りあげたバスを大事に手に持ち、私は後もどりして道路まで出た。そして、すぐ南側の岸辺へとゆるやかな傾斜をくだっていくと、ヘラブナを釣っている老人の少し右側の草地の上にバスをそっと寝かせた。
 もうバスは暴れなかった。息が切れそうなのだろう。
 私は、バスの口の端を持って、渚の水にそのまま浸けた。バスはみるみる生気をとりもどした。

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ラインはシルバースレッド・SAR

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用意したタックル

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使用したミノーはスミスのパニッシュ

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初心者の筆者には嬉しいサイズだ

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橋の奥が小さなワンドになっておりバスがよく居る

 さて、いよいよ記念撮影である。
 今年になって釣ったなかでも大きい部類に入るバスを手にポーズを決めると、その重さが腕に堪えた。
 釣れたのはこれ一尾だけだったが、弄した策が見事的中しての一尾だけに、嬉しさもひとしおだった。
「休日のバスも悪くないぜ!」
そう思った。

【今回の使用タックル、ライン】

ロッド : ノリーズ ロードランナー ボイス HB680LS
リール : ダイワ トーナメントZ2500C
ライン : ユニチ  シルバースレッドS.A.R. 8lb

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