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釣行記

釣行レポート

2015年11月21日

寄り道

 昼遅くにオレンジジャムへ行った。ランチタイムをとっくに過ぎていたので客はいなかった。
 「何食べます?」とマスターが訊いた。
 「うーん。グリーンカレー」と私は答えた。
 だいたい、私はグリーンカレーかタイ風焼き飯しか頼まない。
 だから、マスターの訊き方も、どっちにしますかというニュアンスだった。
 私は二時間半ほど店にいて、サーフィンの話を一方的に聞かされたり、音楽の話をしたりして過ごしたが、マスターはシーバスフィッシングに目がないから、むろん、そっちの話でもお互い盛りあがった。
 聞くところによると、つい先日も店の近くの漁港で75㎝のよく肥えたシーバスを百円ショップで買ったミノーでやっつけたそうで、今年になって釣りあげたシーバスの半分以上が百均ミノーであると胸を張って自慢した。
 マスターは言った。
 「たしかに、大きい(百円ショップの)ミノーは浮力が高すぎて、ゆっくりリールを巻いたのではあまり潜らないので、腹側に板オモリを貼ったり、あるいはフックに糸オモリを適量巻きつけたりして調整しないと使いにくいけど、9㎝ならそのままでもじゅうぶんシーバスを誘惑するよ。泳がせてみると動きも悪くない。とくにいま使っているレッドヘッドの9㎝は期待以上の働きをしてくれる超お気に入りの勝負ルアーでね。こいつだけは無くしたくない」
 それはそうだろう。
 だいたい百均で真剣に品定めしてルアーを買うことなどあり得ない。
 見た目、百円にしては上出来だから、ちゃんと泳ぐか、まともに仕事をするか、ひとつ買って試してやれ。いや、どうせこの値段だ、三つまとめて買おう。釣れたら儲けものだ。
 まあ、そんな調子で購入した安物のルアーが予想外のいい働きをすればぞっこん惚れこんでしまうのも無理はない。それに、こういう手の話は仲間内でもあんがい好まれるので一石二鳥でもある。
 「まあ。ぜったい釣れるルアーと絶対に釣れないルアーは、この世に存在しないからね」
 私が水を向けると、マスターは働く手を休めることなく、「たしかに」とだけ言ってうなずいた。
 「それにしても、当たりも当たり、大当たりだからなくしたくないよ、そいつのことは。百円でも二千円でも、よく釣れるルアーもあればパッとしないルアーもある。第一、同じモデルを買って来ても、必ずしも同じ働きをするとはかぎらないからね。同じものでも微妙にちがう。何度もボケたように同じことを言って悪いけど、とにかく、そいつとは馬が合う。だから、漁港内で使うときなど、ドキドキするよ。船をもやってあるロープにすら必要以上に神経を遣う。海中にも縦横にロープって走っているでしょ。引っ掛けてなくさないかと、ひやひやしながら使っているよ」
 「価格分だけ働けと言ってもさぼる奴はたしかにいるし、その方が多いものね」
 「だから、いい相棒なのさ。そいつと俺」
 「で、そいつで仕留めたの?」
 「もちろん。今回もいい働きをしてくれたね。でも、竿がやわらかくラインが細かったから、無理はできないし、おまけに掛けてから玉網を用意してなかったことに気づいたよ。車のなかに積みっぱなしだってね」
 「それで?」
 「岸壁に、ポールスタンドがいくつか置いてあったんだ。土台がコンクリートで出来ていて、パイプが上向きに突き出ている。たぶん、そこに支柱を立てて、物干し竿をそいつに渡して、漁網を干すのに使うんだろ。そのパイプの穴に、竿の尻を突っ込んだら、うまく立った。そこで、リールのベールをフリーにして、シーバスを自由に泳がせておいて、その足で車にもどって急いで玉網を出して、いまいちどやり取りをして、寄せて、掬い取った」
 「そいつはうまいことやったな」と私は言って感心した。
 その後まもなく、マスターが注文のグリーンカレーをトレイに載せて運んで来た。すると、そのとき入口のドアが開いて、年寄り三人が入って来た。初めてみる顔ぶれだが、老女の一人が、「マスター。先日はありがとう」と礼を言ったので、常連客らしいと私は知った。
 このお礼を述べたお婆さんは、ついさっき話題にしていたシーバスの釣れた漁港のそばに住んでいて、しかも釣った翌日にそのシーバスをマスターから貰ったのだと私に話した。漁師町に暮らしてはいるが漁師の家系ではなく、だから好物の魚介類を貰うと嬉しくてたまらないとのことだった。
 そのお婆さんたちが帰ると、ほぼ入れ替わりに今度は三十代後半くらいの男女がやって来て、奥のテーブル席に着いた。この二人はもう入って来てすぐ常連客だと知れた。よく日に焼けていて、どうやらサーフィン仲間のようでもある。陽気で、歯切れよくしゃべり、屈託がなかった。
 ところが、そろそろサーフィンの話題に移るかとそれとなく様子を窺っていると、ミュージカルの話になったので意外な気がした。地元の劇団員の一人がマスターと男女の常連客との共通の友だちで、その人が出世して演出など手掛けるようになったので、マスターは公演のビラを引き受けた。それが、店のカウンターの上に平積みにして置いてあった。この話になるまで私はそれに気づかなかったが、どうせ注意してみないかぎりハワイや東南アジアの雑貨、布地、衣服、靴やアクセサリーにまぎれて目に止まりやしない。その多くは売り物だが、それらは体よく店の装飾を兼ねて、ラフに、しかし見映えよくいい塩梅に配置されている。そこに、私はマスターのセンスの良さを感じずにはいられなかった。
 そのミュージカルは地方巡業の一環で、きっとこの町のどこかのホールで公演されるのだろうが、ビラにろくに目を通そうともしない私には知る由もなかった。
 私は、常連の男女がコーヒーを飲みながらマスターと話に花を咲かせている最中に店を出た。

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河口ないの石積み護岸を海へ向かって釣り進む

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河口ないは浅いがベイト次第でシーバスが釣れる

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浜からは釣れなかったが、風が当たる日は連発することも

 そろそろ夕暮れが近かった。
 すぐに帰宅の途には就かず、私は店から十分足らずの距離にある鴨部川河口へと向かって車を走らせていた。
 「今日は七時くらいが満潮だから、夕方から竿を出せば大きいのが口を使ってくれるかもしれないよ。引きの潮が動き始めてからのちが勝負時。もちろん、ベイトが寄っていればの話だけどね」と私が店を出がけにマスターがそう耳打ちしてくれたので、ちょっとだけ竿を出してみようという気になったのだ。
 ところが、到着してみると、意外にもベイトフィッシュは多くなく、薄暗くなってからもシーバスが餌の小魚を追う様子はまるで見られなかった。
にもかかわらず、河口から海へと突き出た石積み波止の先端から釣りを始めた直後に、なんと早くもアタリが来た。
 「今のは確かにアタリだ。小魚が仕掛けに触れた感じとはまるでちがう」
 私はそう思った。
 そのままリールにラインを巻き取っていると、ふたたび小さなアタリが来た。かまわず巻きつづけていると、仕掛けを半分ほど回収したころ、シーバスが食いついた。アワセをくれて、仕掛けを引き絞ると、砂底の河口は遠浅なので、顎にフックを打ちこまれたシーバスは横方向に走るしかない。否応なしにそうなる。その上、産卵前のシーバスは食欲旺盛なため小魚を食って割りとよく肥えているから目方を踏む。そのため、その抵抗ぶりと言ったら半端ではない。
 この日は、満潮までに二尾のシーバスを手にしたが、二尾ともリールのスプールから何度かラインを引き出して大いに暴れた。
 沖の方でヒットした一尾はとくによく暴れ、何度か水を脱いで空中に躍り出ては頭を激しく振って口からルアーを外そうと懸命になった。
 使用したルアーは14㎝のフローティングミノー、ラインはユニチカ・シルバースレッドショアゲームPE0.8号、リーダーはユニチカ・シルバースレッドminiショックリーダーN20lbである。

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使用したラインとリーダー

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石積み波止の先端から沖を釣る

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基本どおりに投げてゆっくり巻く

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まあ、満足。悪くないサイズが揃った

 先にも述べたように浅い底は概ね砂地なので、リーダーが障害物に擦れて切れる可能性は低い。その点、気楽にやり取りすることができた。
 今回は、オレンジジャムのマスターの勧めで寄り道をしたかたちでの釣行なので長居はしなかったが、運よく二尾のシーバスを手中に収めることができ満足している。
 今期はこのところ連勝中で、何連勝中かも思い出せないが、そうは言っても、やはり釣れると嬉しさを隠せない。
 投げてゆっくり巻くだけの単純な釣りだが、本来、このように行くたびに容易に釣れる魚でもないので、自分にツキを感じないはずもなかった。が、しかし、そう言ってしまうと身も蓋もなくなってしまう。
だから、
「これが実力さ!」
 と、たまには生意気を言っておくとしよう。
 もし叶うなら、次回も同じように、実力さと威張りたいものだが、さてどうなりますことやら。
 では、みなさんも、よい釣りを!
 *[追記]
 鴨部川河口で二尾のシーバスを手にしての帰り道、寄り道のはしごをした。高松市内でシーバスを少しのあいだ狙ってみたのだ。むろん、準備万端で臨んだ釣りではないので、ウェーダーも持って来なかったし、スニーカー履きでは足場のよい岸壁か波止からでも釣るしか手はない。まだ引きの潮がじゅうぶん残っている時間帯だったので、市街地が目と鼻の先の人気薄の波止からジャクソンというメーカーのにょろにょろという棒みたいなルアーを使ってシーバスを狙った。

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小魚をたらく食っているせいか体の色つやも抜群

 このルアーは沈むタイプだが、リールを巻いて泳がせると、容易に海面近くまで浮いてくるので浅場の釣りにも持って来いである。リップもなく重いためか飛距離もじゅうぶん出せるので今回もスニーカー履きの私の強い味方となった。  釣りをしたのは三十分足らず。肥えた悪くないサイズの シーバスを首尾よく手にすることが出来たので、あっさり納竿した。

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いいサイズのシーバスが釣れた

【今回の使用タックル、ライン】

ロッド : メジャークラフト トリプルクロスTC-962PE
リール : ダイワ カルディアキックス2506
ライン : ユニチカ シルバースレッドショアゲームPE 0.8号
リーダー: ユニチカ シルバースレッドminiショックリーダーN 20lb

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