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釣行記

釣行レポート

2016年2月17日

今回のルアチャンはもっこく池のニジマス

 一尾釣れたら御の字、二尾釣ったら相当腕がいいと褒めそやされる激シブ状況がつづいていた。鱒の活性があがらないのは厳寒期だから仕方ないが、それとはべつに三日も四日も強風吹きすさぶ悪天候がつづくなんて、いい加減勘弁してくれと不満を募らせている釣り師が大勢いたろう。私もそのうちの一人であった。
 ロケ当日も風が冷たかった。
 昼前に待ち合わせ場所に集まって、うどん屋で腹ごしらえをしてから、釣り場のもっこく池へと向かった。
 十三時ころ到着して、オープニングを撮っていると、釣り上手の若者が道具を手に南岸沿いを歩いていくのが見えた。常連のルアーマンである。
 その若者に少し遅れて、年配の餌釣り師が二人、フライマンが二人やって来たが、馴染みの顔ぶればかりであった。
 この餌釣り師のうちの一人と、先日、池の端で雑談をしたおり、強風云々に関係なくここのところ一週間ほどは惨憺たる結果に甘んじている、餌を変えたり仕掛けを工夫してみたり、いろいろやってはみたがけっきょく二尾しか釣れていない、アタリもその二回だけでまったくもって不本意だ、と表情も暗く話すのをみて私は竿を出すのをためらった。
 じっさい、ほかの釣り師からも、
 「置き竿三本で、一日粘って、餌釣り師がボウズを食らう状況ですよ。ほんと、もうがっかりです。あの二月の第一週の爆釣劇、あれはなんだったのでしょう」
 そんな愚痴っぽい声しか耳にすることができなかった。
 その二月上旬の好条件のときには、私もジャンプワールド今里店の高木くんと一緒に出かけていき、大変いい思いをした。
 それが、今こうして書いているとおり、その後、ひどいことになってしまった。
 まったく、<寒冷前線通過時の荒れた天気の日は炬燵の番でもしていろ!>という昔からの教えそのものの状況になってしまったというわけだ。

 オープニングを撮影した後、さっそく釣りの準備に取りかかる。
 ここで道具や仕掛けをざっと説明しておくと、ロッドはトラウト用、リールは小型のスピニングリール。ラインは風の影響も考慮して細めのユニチカ・シルバースレッドトラウトクリア3lbを使用した。リーダーはユニチカ・シルバースレッドトラウトリーダーFC6lbである。
 ラインをもう少し細くすることも考えたが、それでは70cmを超す大物がヒットしたときに切られてしまいかねない。いくら強風でやりにくいからといっても、これ以上細くするわけにはいかなかった。
 ルアーは、汎用性の高いとされるスプーンを用いた。重さは2~5gである。

 さて、このもっこく池。山側に小さな入江があるにはあるが、それ以外は出っ張りも窪みもない丸い池なので、風を受けない面でやれたらそれに越したことはないが、どういうものか風の影響を免れない側ばかりで鱒が釣れているという事実がある以上は、風を嫌ってばかりもいられない。
 それでも、当日にかぎっては風を受けにくい側のお立ち台付近で束の間ではあるが鱒のライズみられた。釣りはじめてまもなくのことだった。このエリアで釣りが成立するなら楽なものである。陽ざしが顔を覗かせることも少なくない日中なので、風さえ凌げればさほど寒くはなかった。
 しかし、しばらく粘ってみるも、一緒に竿を出す河原さゆりさんも私もアタリひとつ拾うことはできなかった。

 もっこく池は日の出から日の入りまでしか釣りをすることが認められていない。そのことを考えると無駄に時間を過ごせないのは明白だった。
 私たちはその場を見切って、少しでも釣れる可能性の高い南岸へと釣り場を移した。
 とにかく大きな池である。そして、水深は十メートルを超す。むろん、そんなのはルアーの届かない沖のほうの話だが、かといって遠投してやや水深のある場所を釣り探ることも少なくない。だから、面を意識するばあいも層を意識するばあいも、とにかく手返しよくひろく探っていく必要があった。
 河原さんには、そのことだけ注意して釣るよう伝えておいた。
 「沖へ投げたり、岸に対して斜めに投げたり、表層を引いたり、深く沈めてじっくり攻めたり・・・、とにかく鱒が見えないし、水面に出て水生昆虫などを探して食っている状況ではないので、数打って鱒の鼻面をルアーでもってくすぐってやるしか手はない。もし状況が好転するようなことがあれば、それに応じた釣り方に変えるよう指示を出すから、今はただ聞いたことを守って頑張ってくれ」
 つまりはそういうことだ。
 「コツンともしないですね」
 水辺で黙々と釣っていた河原さんがふと声を漏らした。
 少しずつ移動しながら、付近を探ってみたが、アタリもない。
 その後、あともどりして、阿讃山脈を水源に持つ野口ダムから水を引く水門の流れ込み付近にも仕掛けを入れてみたが、結果は同じであった。
 これは弱ったと私は思った。内心穏やかならず、である。まずいと思った。

 東岸で釣りをしていた先行者のルアーマンがその場を退いたので、河原さんと私は仕掛けを投げたり巻いたりしながら、そっちの方へと居場所を移していった。
 「あっ!」と河原さんが気を持たせるような声を発した。
 アタリがあったかと期待したが、底の傾斜部にルアーがぶつかっただけだった。
 あらかじめ私は彼女の仕掛けの先に小粒だが浮きあがりにくいタイプのスプーンを結んでおいた。スプーンというルアーは金属製なので根掛りしても容易に浮きあがることなどないだろうと思われがちだが、たとえばロッドを立て気味にしてリールを巻きさえすれば水面直下を引くことも容易だ。わりと浮きあがりやすい。だから水深のある釣り場を攻めるには、そのことを考慮して道具を扱う必要がある。
 どうせ釣りに熱中するうちに忘れるだろうと思って見ていると、
 「こんどは、我慢して、すぐに巻かずに、もっと沈めて・・・」
 そんなふうに声に出しながら、言われたとおりにやっている。
 女の子は寒がりが多いように思うが、その素振りも見せずアタリがなくても一生懸命投げたり巻いたりしていた。

 もっこく池の魚の多くはニジマスだが(アマゴを放した年もある)、コイ、ブラックバスも少なからずいる。厳寒のこの時期にブラックバスが食いつくとは思わないが、大きな鯉が群れで泳ぐ姿を目撃していたので、鯉でもいいから相手してくれたなら少しは気がまぎれるのに、と私は内心思ったりもした。
 その後も、アタリはなかった。
 無情にも時間だけが過ぎ去っていく。
 それでも河原さんはめげることなく、真面目にやっていた。
 「もっと沈めてから、ゆっくり巻いて・・・」
 そんなふうにあいかわらず声に出して、今は東岸の水の落とし口のある少し手前で向かい風をものともせずに持ち前の頑張りをみせて黙々と本命の鱒を誘っていた。
 みていると、ときどき仕掛けを底に引っ掛けてしまうことがあったので、底の方まで丁寧に探っていることがわかった。がっちり根掛りするほどの障害物が底に沈んでいるわけではないので、上手に外してやればルアーを失うことはまずないが、ほかにも根掛りを軽減しやすい理由として一本鈎をセットしたスプーンを使用していることも忘れてはならない。
 べつに一本鈎にしなくてはならない決まりはないが、多くの日本の管理釣り場がそうであるように、鱒を傷めないようにとの配慮から自発的にそうしている人がもっこく池においても少なくない。ミノーについても同様である。
 また、鱒がうっかり呑み込んでしまわないともかぎらないので、あえてワームを使わない釣り師が圧倒的に多い。

 鱒は、まんのう町の水利組合が、毎年晩秋のころ、主に広島の業者から買い付けて放流している。放流後は禁漁にして、一週間か二週間後に釣り大会が催され、その後、一般の釣り人に開放される(今期は釣り大会以後も一月末まで釣り禁止だった)。
 遊漁料金は必要ない。
 ブランド米のPR目的で鱒の放流を始めて既に二十年近くなる。
 要するに、「鱒が棲む冷たくきれいな水で育てた上等の米だよ」との宣伝目的から鱒を放流しているという次第だ。
 「七十センチを超す鱒も泳いでいるよ」
 そういうと、河原さんは目を丸くして聞いていた。
 表情がいっそう明るんで、ヤル気満々の体である。
 それにしても、一向に釣れない。水辺の誰一人として竿を曲げるものはなかった。
 いい加減、心が折れそうだった。
 餌釣りの二人が対岸に見えたが、動きがない。南岸のフライマン二人も弱った様子であった。
 ただ、河原さんだけ夢中になって仕掛けを動かしている。あいかわらず、たまに根掛りしていた。
 私は、彼女が比較的下の層を探っているとみて、それよりも浅い層を楽に引けるスプーンに交換してみた。しかし、どの深さに仕掛けを通しても相変わらず何の音沙汰もなかった。
 そんな最悪の状況にあっても、河原さんは集中力を切らさなかった。道具を扱いなれていないのは一目見ればわかるが、向かい風のなかどれだけアタリが来なくても、竿の先をだらしなくふらつかせることも、リールの巻き方がぞんざいになることもなかった。 
 そうまで頑張っているにもかかわらず、敗色は濃厚であった。釣りは人生と似て、努力、忍耐、根性の人でも運に恵まれなければ辛酸を舐めさせられることが普通にある。が、しかし、その運を引き寄せる最強のツールが努力、忍耐、根性といった汗臭い代物であるのも、またあやまりのない事実であろう。
 そして、このあと彼女が身をもって、それを証明してくれるとは正直私も思っていなかった。

 「あっ、来た!」
 その声にふり向くと、河原さんのトラウトロッドが綺麗な弧を描いて撓っていた。リールが悲鳴をあげている。勢いづく鱒は、さらに水中をひた走って、リールのスプールからラインをみるみる剥ぎ取っていった。
 「全然、寄ってこないですね。このまま三十分過ぎてしまったら、釣りあげないうちに番組が終わってしまいますねえ」
 彼女はおもしろいことを口にしたが、これは余裕なのか。それとも天然のアレなのか。いや、失礼!
 正直、河原さんは女傑に相違ない。ジャンヌダルクも真っ青だろう。
 まっ、あまり褒めると、図に乗るといけないから、この辺でよすが、それにしても釣りあげた魚を間近に見れば見るほど悪くないサイズのオスのニジマスであった。
 運よく回遊して来たといえばそれまでだし、誰に釣れてもよかったといえばそれもそうだが、もっというなら誰にも釣れなくて何ら不思議のない一尾を見事ものにしたのだから、天晴れというほかない。
 みんな男どもは釣る手を休めて、遠くからそのやり取りの一部始終をみていたにちがいない。水辺の誰もが彼女を羨んだことだろう。

 その後、この河原さんの一尾に弾みがついて少しは上向くかと期待したが、状況が好転することはついになかった。
 風が冷たさを増して来た。
 もう日暮れが近かった。
 それよりなによりエンディングを撮ることを考えるなら、そろそろやめないと光の加減もある。山は暗くなるのがどこにもまして早いものだ。
 しかし、ディレクターが、納竿を促すと、言葉では応じるものの、河原さんは一向にやめようとしなかった。水辺の男どもが誰一人釣れなかった鱒を見事にゲットしたのだから、心残りもないだろう。
 「そろそろあがろうぜ」と私は彼女に言った。
 釣りをやめたら急に寒さが身にしみた。
 いっそう風が冷たく感じられた。
 しかし、若い河原さんは、寒さが堪えないようにも見える。
 それどころか、彼女の闘志たるや見あげたもので、もういっぴき釣って長尾さんに参ったかぁ!と言いたかったけど、残念、アタリもありませんでした。と、そのような趣旨のことを屈託ない明るい声で面と向かって言われたときには、正直、一本取られた気がした。
 冗談っぽいところが微塵もなかったのは、本気でそう思っていた証拠だろう。
 もし、もう一尾、仮に望みどおり彼女が鱒をものにしていたら、さぞかし番組的にはおもしろさが増したであろう。
 それについては疑う余地もない。
 まさに、私の完敗であった。

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もっこく池、お立ち台でのオープニング

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寒波襲来で状況は厳しいけど、よろしくお願いします

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必ず守りましょう、その1

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その2

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寒波の影響か、釣り人も少ない

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狙うは70cmオーバー!

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だが、しかし

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なんの反応もなく…

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時間だけが…

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過ぎていく…

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……寒い

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!さゆりん、ついにヒット

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ようやく手にした50cm級

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あきらめずに頑張ったさゆりさんの勝利だね『ありがとうございます、次は師匠の番ですね!』・・・・・・・・・お、おぅ

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夕陽を眺めながら、ここでタイムアップ。って・・・『師匠???』

 条件さえ良ければ釣果も良好。

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二月上旬はこのサイズが入れ食いになることもあった(H28.2.3)

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今回は不発に終わったがこのサイズが釣れることも

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ミキカツさんもここでの釣り歴は長い

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雪の日でも条件次第で入れ食いに

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このくらいがレギュラーサイズだ

【今回の使用タックル、ライン】

ロッド : シマノ カーディフ エクスリードHKS59UL/F
      UMFウエダ STS-74MN-Si BORON
リール : シマノ ツインパワーC2000HGS
      ダイワ イグジスト2004
ライン : ユニチカ シルバースレッドトラウトクリアー 3lb
リーダー: ユニチカ シルバースレッドトラウトリーダーFC 6lb

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