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釣行記

釣行レポート

2018年7月19日~8月19日

サマー・ナイト・チニング考察

 頭にコガネムシでも止まったかと思った。
 咄嗟に手でつかみ取り、投げ打とうとすると、それより先に手のひらを刺された。
 そいつは確かに私の視覚の端っこをかすめて飛び去った。いったい何奴だ。そんな疑問を抱くまもなく蜂のたぐいにちがいないとすぐわかった。痛みを誰にも打ち明けられずにいると手のひらが余計にうずいた。
 私はひとり、外に居た。散歩をしていた。
 いつものように畑の前を通りがかると、近所のおばちゃんが手間暇かけて育てた収穫物を惜しげもなくわけてくれた。共同で畑を借りて野菜をつくっているおばちゃん達は近所の人ばかりで、私の顔を見ると折角だから持っていけと言う。それを見越して常よりスーパーの買い物袋をポケットにねじ込んで散歩に出かけるよう心がけているが、そのときはずいぶん用意のよいことだと自分でもちょっと照れてしまった。
 その貰った野菜でふくらんだ袋を手に提げて歩いているとき、頭に何か止まったなと感じ、手をやった。そしたら、チクリとやられた。刺された個所に小さな心臓ができたかと思うほど、ズッキン、ズッキン、痛んだ。その部分が脈を打って、それを鼓動のように感じるのだった。
 釣り竿が握れるかと心配したが、それも五分もしないうちになんともなくなった。
 きっと、番付からすると下位に属するところの採るに足らぬ輩だったのにちがいない。
「まったく、横綱のスズメバチや関脇のアシナガバチでなくてよかった。やれやれ、命拾いしたぜ」
 ほんとうに命拾いというか、釣りに大事な手のひらをダメにせず済んで胸を撫で下ろしていると、ユニチカのF氏が、「先達て送ったサンプルのPEライン、使い心地はどう?」と電話で訊いて来た。
 私は次のような趣旨の返答をした。
(まだ試していない。今夜早くにチニングに出かけるので、そのとき試してみる。ジグヘッドにワームをセットしてボトムを釣る、いわゆる「底ズルズル」については、多く雑誌に書かれてあることの他に付け加えねばならぬことなどはなく、ましてや特筆すべき新発見などこれっぽっちもなかったので、今後はミノーを用いた釣りに心血をそそぐつもりだ。ワームに関してもミノー同様に底よりは中層を狙う感じでいろいろ試してみたいと考えている。どのくらい釣果の見込めるものかはわからないが、送ってもらったサンプル品のPE0.4号は、もう既にテストを始めて長いPE0.2号共々、この中層を工夫して釣るという釣法で、おおむね夜のチヌを狙う目的に今後は用いていきたい。)
そして、今夜がその初日だ。
まっ、この先夏いっぱい秋口くらいまでは、このような計画に基づき夜のチニングを研究してみるつもりだが、気にムラの多い筆者なので、チヌ以外に興味をそそる魚種が現れたばあい、その意志を貫き通せるかどうか全く自信がない。
 それでも、なるべく浮気はしないで、専念するつもりでいるので、読者のみなさんも少しくらいは期待してよいのではないか。まるで他人事みたいだが、真面目にレポートする気構えでいるので、どうぞよろしく!
 では、さっそく本題に入らせていただく。

 まず、道具についてだが、世間にはチニング専用のタックルが多く出まわっているそうなので、始めてみようと思われる方で小遣いに余裕のある方は釣具店で購入するとよいだろう。
 私は店頭でわざわざ手に取って確かめたことはないが、ロッドの長さやアクションについては想像がつく。だから、それらしいエギングロッドやシーバスロッドで代用している。要するにロッドについては出費なしというわけだ。
 むろん、チニングは水深の浅い場所でおこなうことが多いので、ウェーディングの釣りをやらないという手はないが、これから考察してみようとしている私のスタイルにおいては立ち込んでまでチヌを狙う気はない。まぁ、長靴を履いても追いつかないような場所では実践しないと決めている。
 このような理由から、ロッドは長めを使い、足場の高い場所からやるばあいでも釣りやすさという点に問題が生じないよう配慮した。
 用いたロッドやリールについては、まとめて最後に記載しておくのでご覧いただくとして、今回もまた前回の日中のチニング同様、サンプルのPEラインをテストする目的から釣行する建前となっているために、読者のみなさんには買って使っていただくということができない。なので、すでに市販されている弊社の製品のなかからチニングに向いているライン、リーダーを私なりに紹介しておきたい。
 たとえば、キャスラインエギングスーパーPEⅢWH0.4号キャスラインエギングリーダーⅡ1.75号か2号というのがワームでチヌを狙うばあいには最適だろう。しかし、私はワーム以上にミノーを多用するので、リーダーについてはフロロよりもナイロンを好む。なので、スタークU2 2号を多用する。ミノーの特性、狙うのが浅場であることなど併せて考えてみるに、やはりナイロンリーダーの使用を念頭に置かぬわけにはいかない。まぁ、器用な人はテクニックでどうとでもするだろうから、気にならないならフロロのリーダーを用いてもよい。

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ラインはPE0.2号0.4号(プロト)

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現行商品ならこの組み合わせがお勧め

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橋脚が絡むフィールドは釣り師の宝だ!

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まるで水族館だが、これだけ見えても容易には釣れない

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ジグヘッドリグで中層を探っているとガッンと来た!

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チヌのほか、たまにキビレも釣れる

 県内で釣れるのは本家クロダイキチヌ。しかし、いちおう香川も広い意味では関西圏なので、それらしくクロダイチヌと呼び、キチヌはキビレと呼ぶことにする。
 この二種類についてだが、県内で釣れる多くはチヌであり、キビレは釣れても小さいのがふつうである。たとえば徳島市内や徳島県南のような大型のキビレには滅多なことではお目にかかれない。
 写真を見ればわかるように釣り場というのは浅い場所が多い。潮が澄んでいるときは日中なら容易に魚影を確認できたりもする。チヌのほかにボラも少なくない。とくに夜間はボラが頻繁にちょうかいを出して来て閉口させられることがままあった。
 潮が動く時間帯はとくに架橋があるならその橋脚付近が好釣り場となる。むろん、それ以外にも見逃してはならぬエリアが多く存在するが、それについてもこのあと随時紹介してみたい。

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筆者と相性の良いワーム

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リールは中型、小型を使用する

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河口近くの海岸もチニングに適している場所は少なくない

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陽ざしに焼かれながらチニングを楽しむヤング。脱帽です

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ボートでストラクチャーをタイトに狙えば釣果も上がる

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ワームもミノーも日中に動きをチェックしておこう

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高浮力のワームは中層をじっくり探れるメリットがある

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ミノー系のワームで中層をスローに狙った結果だ

 まず、経験を積むほどに、気になったのは河口域の浅瀬に多い中洲である。これについては前回日中のチニングについてレポートを書いたとき既に触れてあるので割愛するが、夜間にやるにあたって気になったのが干潮時に現れる干潟である。これについてもこのあと記述することになるだろうから、ここではざっと書くに留め置くが、要するに干潮時に海水が残っている場所を見ておくか見ておかないかで釣果に差が出そうだという見方ができる。何が言いたいか。チヌは潮が差して来たとき、干潟だった場所にいち早くやって来て、餌を探すようで、ルアーを見つけると果敢にアタックしてくることが少なくない。夜間はミノーもワームも関係なくこのような場所でのヒットが多い。時合ともなると連発することもある。
 逆に潮が引いていくときも、真っ先に浅くなるのは干潮時刻に干あがってしまっていた場所である。ここも潮が引いて浅くなるころにチヌの活性があがる傾向にあるようだ。当然、潮が引きすぎて泳ぐのが困難になるまで長居をすると命取りにならないともかぎらないので早々に退却を余儀なくされるはずだが、一方で背鰭が出てしまうほど水深が浅くなっても未練がましく去ろうとしないチヌをわりと目にするというのもまた事実である。

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リーダーは状況次第で12lbまで使用

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ワームはジグヘッドにセットして使うことが多い

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暗くなるとアタリが頻発。ワームからミノーに交換した

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ワームで中層をゆっくりトレースし仕留めた

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ミノーを扱うようにワームを中層に泳がせ手にした

 まず、ワームについて述べるが、干上がってしまう場所ほど潮が低い時にチヌのバイトが多い傾向にあるのは先に述べたとおりである。チヌは自分の体高ほどの水深があれば餌を探しにやって来る。このばあいワームは浮力が高く小魚っぽいシルエットのもの、あるいはそのシルエットがテナガエビを彷彿とさせるタイプが、私のばあいは相性がいい。いずれも細長い形状だが、細長ければよいというものかどうかは現段階では判然としない。この件については、今後、長い時間をかけて実践のなかから割り出していくしかない。
 これらお気に入りのワームを使って表層を狙っていく。むろん、表層という表現は正しいともかぎらない。水深五メートルなら水面下十五センチは表層だが、水深三十センチなら中層と呼んでいい。要はゆっくりじっくり誘っても沈みすぎないタイプを採用するというわけだが、これら高浮力のワームを軽めのジグヘッドと組み合わせて用いると浅場においても意図するとおりの釣り方が可能となる。
 このばあい、タダ巻きがよいばあい、細かくアクションを付けて誘う方がよいばあい、底につかないよう潮任せにただよわせておくのがよいばあい等、どういう釣り方が功を奏するかはケースバイケースである。それ以前に状況次第ではワームよりもミノーに反応がよいということも考えられる。しかし、あまりにも浅い場所では、引くと自発的に潜行するミノーはワームと比較してみたばあい扱いにくい。底のガサガサした浅い場所では根掛りしないともかぎらない。そのことも考慮してワームをジグヘッドにセットする方法を採用しているわけだが、いろいろ試してみた結果ジグヘッドリグのほうが他の仕掛けと比較したばあいチヌの反応が明らかによいこともワームを多用する理由となっている。
 干潟は牡蠣の付着した石がゴロゴロしている個所も多く、リーダーはフロロカーボンを多用する。12lbまで太くすることがある。基本的に太くするほどリーダーの全長を短く切り詰める。ボトムを釣る底ズルなら太さ長さは問題にしないが、海中をふわふわ漂わせる感じの釣り方に主眼を置くばあいはリーダーに神経をある程度使うのは止むを得ない。
 むろん、ナイロンリーダーを用いるのも一つの手である。むしろ、そのほうがミノーを扱うばあい同様、誘うという一点のみにかぎってはワームを用いたばあいにおいても理に適っているといえよう。

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夕暮れはチヌの活性があがりやすい

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中層引きに大型連発!

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良型のチヌ3尾は鰻釣りの爺さんに進呈した

 しかし、釣りというのは全体のバランスを考慮しつつ仕掛け一つといえども組まれなくてはならない。せっかく魚を掛けたとしても、捕るのに精いっぱいの強度の仕掛けと余裕のある仕掛けでは、その後の闘い方がちがってくる。なので、一概に魚に口を使わせやすいのがナイロンリーダーだとそのとき感じたとしても、トータル的に考えてみてデメリットが増すと思ったばあいには迷わず再考すべきなのである。

 魚影が濃いからと言って、よく釣れるということにはならない。
 たとえば、高松市内を流れる香東川は日中に釣り場を覗いてみると多くのチヌを容易に確認することができる。夏場は堰の付近に揉みあうほどのチヌが泳いでいる光景に圧倒されることがしばしばある。なぜ河川内にチヌが押し寄せるのかについては諸説ある。
 年々夏の海水温が高くなり、弱った高齢のチヌが河川内へとやって来る。川から酸素の多い真水が堰を越えて海へと落ちつづける付近は塩分濃度も下がるが水温も下がるため過ごしやすい。真水の混じる海水は塩分が薄く、それが体に付いた寄生虫を落とすのに効果を発揮する。すなわち、ときに足の踏み場もないほどやって来る大きなチヌは病気がちであるか体力の落ちた年寄りが多く、そのため図体はデカイが引きの弱い、皮膚に問題を抱えた魚体が多い。すると、たまに口を使ってくれるこれらのチヌは入院中の患者みたいなもので、われわれは静養に、あるいは療養に訪れたチヌを釣って喜んでいるとも取れなくない。
 また、じっさいどうなのかを私は判断しかねるが、この病弱そうなタイプのチヌが絶命すると、全体に鱗が白っぽくなり、ところどころ黄色みを帯びてくる。これは人間の黄疸と同じで、人間と酷似した理由から病気が発症するものと考えられている。
 今述べた説明は、デーブ鎌田の受け売りにすぎないが、おおむね頷くに値するように思われる。ただ、彼にしても断言するには学術的に研究が足りていない、確証はないと言っており、素人考えで私が知ったかぶりをしても始まらない。
 この香東川の西側に本津川が流れているが、似たような河川にもかかわらずチヌの魚影は香東川にくらべるとさほど多くない。なのに、香東川よりもチヌの食いつきがよく、時合にはアタリも多く、釣果をものにしやすい。その多くは餌を求めて海からさして来るのであり、そういうチヌはヤル気満々な上に元気なチヌが多いのでヒットすると半端なく引く。
 つまり、釣り味がよい。しかし、わりに魚体が美しく元気そうに見えるこのチヌも多くは死ぬとまるで血の気の引いた人間の顔みたいに白っぽくなり、腹の辺りや鰭が黄に変色しやすい。お世辞にもきれいな黄色ではない。どこか病的だ。しかも、これは河川とは全く縁の切れている海のチヌには起こりにくい症状だ。河口域に多く見られる特色の一つだといえよう。
 このチヌを食べてみると海のチヌとなんら味にちがいはない。じゅうぶん美味しいと聞く。ある日の夜にウナギを釣りに来たじいさんと釣り場で話し込んだことがある。じいさんは長年にわたってこのチヌを食べているが腹を壊したことはないそうだ。私が釣ったチヌを逃がしているのを見て、「逃がすなら貰えないか」と言って来た。もちろん、さしあげることに問題はない。さっそく、貰ってもらうと、次また釣れた。この夜はどういうものか餌釣りのじいさんにはアタリもないのに、ルアー釣りの私はチヌを連発させた。私はチヌを釣ったり釣り逃がしたりしたが、大きなチヌだけでも五匹釣りあげた。うち三匹をじいさんに贈呈した。

 梅雨が明けて夏本番を迎えると小型のチヌがよく釣れるようになった。河口域にうろつく手のひら級のチヌを目にした私は、さっそく小型のミノーを仕掛けにセットして投げた。直撃すると逃げていかないともかぎらないので、流れを利用して思いどおりに仕掛けを送り込んでいくことで釣果に結びつけようという魂胆である。チヌから離れた場所にキャストして、流れにミノーを横切らせながら、流れに頭を向けて定位するチヌの前方へと仕掛けを送りつける。御馳走のミノーを目にしたチヌが無関心でいられるわけはない。しかも、当日のチヌはその動きのよさから食欲旺盛であると判断できた。
その日、すでに大型のチヌを連発させていた私は、小型のチヌも釣ってやろうとたくらみを持って臨んだ。年端もいかぬ小僧のチヌなど取るに足らぬと最初は軽んじていたが、どうしてこいつが思うように食っては来ない。
そうか、日中は厳しいのかもしれない。小型のミノーで小型のチヌを狙っていた昔は夜間に出かけていた。むろん、アタリすらなくボウズで帰宅したこともあったが、そのころでも夜ならまあまあ釣れた。今のように大型のチヌが群で河口域に入って来ることはなかったので小型のチヌが主流であったが、ときに中型のチヌがサプライズで口を使ってくれたものだ。

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なんでもないような中洲だがチヌがよく着く

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ショッピングモールの灯りを頼りに仕掛けを所在を確認しながら釣る

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時合の読みにくいチヌに、「釣れんなぁ」と困惑するミキカツさん

 そして、或る夜のこと。
「それならお手のものさ」とミキカツさんが言った。
 話を持ちかけられて、嬉しそうだった。いつ出かけるかと問い返されて、「では明日にでも」ということになったが、声にも表情にも自信がみなぎっていた。
 ところが、いざ出かけてみると、勝手を知った釣り場であると聞いていたにもかかわらず、描いた青写真どおりに事は運ばなかった。
 釣り場は高松市内の本津川、夜は対岸にショッピングモールの灯りが照って川面がほのかに明るい。その川面は生体反応に満ちていた。あちこちでボイルが見られた。あからさまなボイルの多くはシーバスにちがいないが、チヌが水面を割って出ることもあった。
 ミキカツさんは、私が話を持ちかける前に本津川で大型のチヌを既にものにしていた。そのときはまだ小型のチヌがさして来てなかった。それから数週間が過ぎ、良太が本津川を訪れたときには小型のチヌキビレがたくさん釣れた。その話を耳にした私は、「では、出かけてみようじゃないか!」と一緒に出撃してくれる同士を募った。
 私はこの釣り場に明るくないので、時合についてはミキカツさんに頼るしかなかった。日中の引き底の時間帯に下調べに来たので川底の地形は頭に入っている。干潮時刻は底の多くが干潟だった。なので、満ちはじめてしばらく経たないと釣りにならない。潮が低い時間帯にチヌの食いが立つ傾向にあるのはすでにわかっているので、それに合わせて出かけたが、セオリーどおりにいくのかは不明であった。
「五分満ちくらいがよく食うよ。ほんとうは引き潮がいい。でも、それだと今回は時間的に遅くなり過ぎる。年寄りは早く帰って寝ないと」
 もっともな話である。
 べつに、やることと言っては、ただ投げて巻くだけである。投げてゆっくり巻く。当然ながら、投げてゆっくり巻くだけでチヌが口を使ってくれるだろうポジションに立ち位置を決めてやるわけだが、ミキカツさんも私も川にトラウトを釣りに行くので流れを読む目は養われている。

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細身のミノーにアタリが頻発した

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この夜、尾崎はこれしか釣れなかった

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待望のチヌ。「小さいけど、やったよ」と安堵の笑顔を見せた

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結局、チビばかり。「今夜はこのくらいにしとくか!」

 そうこうしていると、尾崎晴之が様子を見にやって来た。尾崎が顔をみせてから俄かに食いが立った。ミキカツさんが夏らしいサイズのチヌを釣った。銀ピカできれいだった。見に来た尾崎がそれを見て竿を出した。見に来ただけと言っていたくせになぜか道具を車に積んでいた。問い詰めはしなかったが、道理に合わぬような気がしないでもない。まあいいか。この野郎、いい加減にしやがれ! と腹のなかで悪態をついた。すると、その尾崎の竿が曲がるともなく曲がって、いや、曲がるまではいかなかったが、さっそくシーバスをヒットさせてしまった。ほら見ろ、罰が当たったと私は内心可笑しくて仕方なかったが、「よく食わせたなぁ、逆に凄くない?」と、ひとまず褒めてからあまりに小さすぎるシーバスを手にした写真を撮らせてもらった。
「なんか、いいように使われそうな、嫌な予感がするがなぁ」と、こぼしながらも尾崎は照れ笑いを隠せなかった。
 その後、私にもチヌが釣れた。
 ミキカツさんのよりもひとまわり大きかったので自慢げに言うと、「低レベルの争いはよしましょう」と尾崎にたしなめられた。その尾崎は口だけ絶好調で、その夜、チヌの顔を拝むことはなかった。当然である。様子を見に来ていい目をされてはたまらない。
 それでも、夏の小型のチヌは夜に狙ったほうが効率がよいとわかって自信がついた。今は昔とちがって大型中型が増えたので、同じ仕掛けというわけにはいかないが、それでも仕掛けの組み方がまるで変わってくるわけではない。大型のチヌに備えてラインやリーダーの強度を少し上げるだけである。それが、先に記したPE0.4号、リーダーは2号くらいというやつで、リーダーの太さや長さはミノーの動きを左右するので、むろん、そのことを考慮して最終的に仕掛けを組み上げる。
 ミノーは、写真の二種類以外にも試したが、全般にレポートに取りあげるのは写真のフローティングミノーで釣ったチヌのみとしたい。ジャクソンのアスリート(トラウト用)7cm、スミスのパニッシュ(トラウト用)7cmとも現行モデルとは仕様が異なるが、私はトラウトフィッシャーマンでもあるので新旧様々のトラウトミノーをたくさん持っている。なので、惜しげもなく使うのであるが、この二種類に限定して説明するならリーダーはナイロンの1.5号程度が妥当だと思われる。まぁ、太くても2号まで、それ以上は考えに入れない。
 ワームに変更するばあいは、リーダーごと交換する。先に述べたとおり12lbまで太くすることがある。これは原則的に中層を釣るのだと言っても、まったく底を探らないというわけでもない。底が荒ければリーダーを太くして当然である。

 後日、また行ってみようと思った。
 ミキカツさんを誘った。すると、その夜はサグリ釣りでメバルグレを狙いに行くという。仕方ないので一人で出かけた。
 まずは前回ミキカツさん、尾崎、私の三人で釣りをした付近を重点的に探っていく。釣り方は一緒である。細身のミノーを投げて、巻く。投げて、ゆっくり巻くだけ。まだ潮が低かったので底の盛りあがった場所にミノーをトレースすると底に当たって釣りにくかった。竿の先を高めにしてミノーが潜り過ぎないよう配慮しながらやってはみたが、アタリがないのでは仕方ない。今度は掘れて溝になっている場所をねらった。これは、けっこうアタリを拾うことができた。さっそくキビレの小さいのが一つ釣れた。チヌらしいのがヒットして、バレた。時合かもしれなかった。溝が走る辺りには流れのヨレがはっきり見てとれたので三分割で狙ってみる。流れに平行に溝がつづいているので、岸から釣るばあいには溝に仕掛けをクロスさせるようキャストすることになるのはもう既に述べた。その後、じっくりミノーを引いて来るかたちをとる。川岸を横方向に移動しながら溝の向こうへとミノーをキャストし、溝を横切らす戦法で臨んだ。少し遣り甲斐を欠くのは溝の幅が狭く長い距離誘うというわけにはいかないことだった。その掘れている場所においては、たとえば溝の両側の肩にチヌは着きやすいと考えられた。かけあがりの傾斜角がほどほどに緩く、ほどほどに長ければ誘って口を使わせるチャンスが増す。傾きが急で、ごく短ければ、その溝に沿って長く引けるならいいが、クロスで釣るのには魅力的だとはいえない。いっぽうチヌの方でも捕食範囲に入ったミノーがその場から出ていくまでに、食うか、やめるかを、いち早く判断しなければどちらにしても捕えきれない。追従してくる気ならべつだが、干潮からの上げ潮でその場に着いているチヌは、むろん、その場所に何らかの魅力を感じていち早くやって来たのであろうから、みすみす餌場を他のチヌに明け渡す結果となってしまうかもしれない行動に出るとは思えなかった。
 なので、最初三か所と決めてやり始めたのを、じっさいは五か所ほどクロスに攻めて、それでもし釣れなければ次の手を打つ算段であった。釣れたのは作戦が的中したからかもしれないし、僥倖に過ぎなかったのかもしれないが、まぁ、結果よければすべてよしである。 じっさい小さいながらチヌが釣れた。ミノーを用いたタダ巻きで溝の部分を狙って釣れた。気分をよくした私は、「タダ巻きも悪くないぜ」と内心そう思い、心のなかで小さくガッツポーズをした。

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今回も複数のチヌをキャッチ。小さいがキビレも釣れた

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小さいが久々のご対面。キビレは珍しい

 私は機嫌がよかった。小さいながらチヌに加えてキビレも釣れたので満足してそろそろ帰ろうと思った。ところが、満潮前にもかかわらず潮が河口方向へと流れ始めると、潮目がくっきり出て、私は興味をそそられた。対岸寄りにシーバスのボイルが頻発した。営業を終えたショッピングモールはすでに消灯して、川面は暗く、その様子を目に確かめることはできないが、捕食音から察するにシーバスがベイトを食っているにちがいなかった。
 私の岸の側近くにもベイトは少なからず群れていたが、どうもシーバスは対岸側で遅い晩餐に舌鼓を打っているらしかった。
「好都合さ」と私は言った。
 チヌを狙ってみて釣れたのがシーバスでは、たとえランカーサイズでも外道ということで素直には喜べない。
 それはともかく、シーバスが対岸側で食事をしているあいだこちらの側では私のやりたい放題である。片づけかけた道具を手に岸辺に立つと、私は投げて届く範囲内の水面を注意深く観察した。
 やはり、こちら側にもベイトがいる。小さいが、広く散らばって思うままに泳いでいるようだ。
 すぐ岸近くにもベイトは確認できた。ベイトの数が目に見えて増えたように思う。
 すかさず、岸寄りに投げた。流れを利用してさらに岸近くへ仕掛けを寄せてからゆっくりリールのハンドルをまわしはじめた。するとアタリが来て、何かが食いついた。しかし、すぐ逃げられてしまったので、今度は対岸に向かって遠投した。そこは底が隆起して盆地のようになっている平場で、干潟が潮に浸され始めるとその周りに真っ先にチヌが餌を求めてさしてきそうな一級ポイントのように私には思われた。
 その只中にミノーを投げ落し、ゆっくりタダ巻きしていると、前アタリが来た。オッと思うまもなく今度はしっかり食いついたが、対戦相手はこれまでにない力強い引きをみせて無暗に走りまわった。ドラグが悲鳴をあげ、スプールからラインが剥ぎ取られていく。今日一番のサイズであることはまちがいなかった。慎重にやり取りをし、足元まで寄せ、玉網ですくい取った。

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まあまあのチヌがミノーを捕えた。まだ若いせいかよく引いた

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瀬戸内でおなじみのチヌ。ミノーで釣ると格別だ

 その後、潮が落ち着くと潮目が消えて、アタリが遠のいた。ボイルもなくなった。ミキカツさんの言うように、本格的に潮が下げ出すとパラダイス化するのかもしれないが、そろそろ日付が変わろうとする時間帯に独りで釣りをしているなんて何だかバカらしい。そう思いはじめると、ほんとうにバカバカしくなって、今度こそ竿を納めることにした。

 新しいジャンルの釣りに手を染めるときは、その魚種に通用するかぎりタダ巻きから始める。タダ巻きというと軽く見られがちだが、手の内を変えずに攻めきって対戦相手を負かすには緻密な計算と注意が必要だ。潮の流れ、水深、地形、風向き、足場の高さ、立ち位置などを考慮しながら仕掛けていく姿勢が重要となる。
 昔からタダ巻きは手の感触が頼りだとも言われる。
 とくに、ミノーを用いるばあいは手元に来る感触には細心の注意が必要だ。ミノーにはリップが付いており、リップが潮をとらえて泳ぐその感触が仕掛けを通して手元にありありと伝わってくる。前アタリすらないのに、すぐ傍に対戦相手の魚が居て、いつ食いついてやろうかと狙っている姿がありありと実感できる、そういうことすら確かにあるのだ。そんなときは、今日の自分はイケてると心底うれしく思う。
 考える前に、変わる状況に対して、体が勝手に動いて手段を講じてくれる。脳よりも体が先に動いて好結果に結び付く手法をとるというわけだが、このくらいまでやり込むとタダ巻きの釣りも意味を持つようになる。
 メバル、然り。
 シーバス、然り。
 秋の夜のアオリイカ然りである。
 そして、このたびはチヌも然りである、と、まぁ、そう胸を張れるくらいまでやりこんでみたいと思い、こうして近くの釣り場へと足しげく通っているわけだが、まだまだ新米の域をでない。
 さて、今後の展開や如何に! と、まぁ、そんなところである。

 お次は、タダ巻きではない、べつの攻め方について少し記述してみることにする。

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ラインはサンプル品のPE0.4号(2種類試している)

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チニングで人気の河口域は白鳥が飛来することでも有名

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中層を、ゆっくりタダ巻きしてものにした

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その時その時で食うパターンが異なる。チヌは気まぐれだ

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やったぜ!

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誘って止め、潮任せに放置してたら食いついた

 その日の私はタダ巻きですでにチヌを釣りあげていた。サイズは夏らしい小型と、それよりも少し大きいサイズ。とりあえず釣れたので、少しちがう試みにも挑戦してみようと考えて、ミノーをフローティングからスローシンキングモデルに交換(フローティングミノーの腹部にシール式のオモリを適量ハサミで切り取って貼り付けたもの)。明らかに流れの筋が夜目にもはっきり見てとれたので、その付近を探ろうとキャストした。それも、やや上流側に投げて、リールを勢いよく巻いてみた。と、ミノーが潜行していく感触が手元にありありと伝わって来た。そのまま巻く手を休め仕掛けを張らず緩めずの状態にキープ、あとは潮任せにただよわせるだけである。すると、アタリが来て、どうやらチヌが水中のミノーに襲いかかったようだと知れた。このチヌは余裕を持って取り込めた。
 その後も、これは使えるぞと直感したばあいにのみ試しつづけて今日に至っているが、釣れるときありダメなときありである。しかし、やり込むことで今少し精度を上げることが叶うなら、この方法においても効率よくチヌに口を使わせることができるのではないか。
 なので、タダ巻き同様、今後も試行錯誤をつづけていきたいと思っている。

 さて。
 また或る夜は、河野さんも参戦してのチニングとなった。河野さんといえば高松にも出店していたレジャックスという釣り具チェーンの四国で一番偉い人物だったが、現在は釣り具のタイムで仕事をしており、爺さんになった今も変わらず釣りが大好きで、海に川に魚を求めて出かけて行く現役バリバリのスーパーシニアである。ミキカツさん同様、見た目は若作りだが、孫に釣りに連れて行けとせがまれる年齢なので、じっさい爺さんもいいところである。にもかかわらず、この夜も、「僕らのせいでチニングをやる連中の平均年齢がうーんとあがって申し訳ないねえ」などと言っては居合わせた連中を笑わせていた。
 もちろん、そのなかにミキカツさんもいた。それなら写真がないのはなぜかと不審がられる読者もおられるかもしれないが、要するに「今夜は釣らなきゃここに居ないも同然だから、話題にものぼらないぜ!」ということでボウズの者は話題にあげてもらえないのである。最初からそういう取り決めで釣りを開始した。
 なので、ボウズの釣り師に用はない。(笑)
 要するに、お払い箱というわけである。
 弘法も筆の誤り、という。
 猿も木から落ちる、という。
「ミキカツも滑ってレポートに載らず、か」ミキカツさん自身、自分で嘆いてみせても誰も同情しない。
 じっさい、冷ややかな視線を浴びせるばかりで、慰めも励ましもしなかった。
「ちぇっ、非道な奴らだ」とミキカツさんは私たちに聞こえる声で恨みごとを言った。
 その非情とも思えるミキカツさんへのひどい仕打ちが祟ってか、この夜は釣り始めからしばらくのあいだ誰にもアタリがなかった。もっとも最初は和気藹藹とやっていたのだから、この時点で祟りも罰もあったものではないが、さかのぼって考えてみると、予兆のようなものだったのかもしれなかった。とにかく、人を蔑んでみても何もいいことがないと思い知らされた。
 そんな中、私がいいサイズのチヌを釣った。そして、そのあと小さなチヌを抜きあげようとして取り逃がした。潮がいい感じに流れていたにもかかわらず、その後はアタリが遠のいた。
 しかし、河野さんは、「あっ、当たった!」と舌打ちしながら乗せあぐねているようだ。同じコースを何度かトレースするもヒットにはつながらなかった。もうよすかと見ていたら、この若づくりの爺さんもなかなかしつこい。それが功を奏したか、その後何度目かのチャレンジで、ついにはヒットに持ち込んだ。
 ところがどうも引きがおかしい。
 なんと、やり取りの一部始終を見ていた私の前で夜の闇に宙吊りにされたのはチヌではなくて大きなウナギであった。ウナギは釣れたのではなくて腹に鈎が掛っていた。でも、たびたびアタリがあったのは食いに来ていたのにちがいない。そう河野さんは分析した。おそらくそうだろうと私も思った。
 結果から先に述べると、まぁ、ミキカツさん同様、尾崎晴之もこの夜はボウズで納竿している。
 しかし、彼もしつこかった。
「執拗さを誇示しない釣り師など居ると思うか?」と問われれば、成績を残す野郎はたしかにしつこい。

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何度もバイトがあって、鰻とは是如何に!?

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チヌよりも尾崎が来ている防虫ウェアが気になった

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この夜、筆者はこいつのみ。しかもアタリも一回だけだった

 じつは、河野さんがウナギを仕留めたときは午前様になっていた。午前様なら日付が変わっている。それなら、河野さんのウナギが撮影対象になるのなら、今日中にチヌを釣ればそれはそれでボウズではないという論が立っても何ら不思議はない。どうも尾崎自身そう考えているらしかった。そこまで考えてやるのかと思っていたら、昼間は畑仕事に大いに励み、夜になると鍬を竿に持ち替えて、「いざ出陣じゃ!」とばかりにチニングに出かけた。そして尾崎は、私の居る前で見事チヌを仕留めてみせたのだった。
「そんなのダメに決まっているだろ!」と文句を言ってやりたかったが、釣ったチヌより彼の着ている防虫ウェアが私には気になっていたので、どうやって手に入れたか聞き出したくて、大目に見てやることにした。なんでもネットで購入したそうで、価格も三千円程度だったという。尾崎は農作業を終えて着のみ着のまま釣り場へと顔を出した。そして、今度こそチヌを釣りあげた。それ自体は立派なことである。なので、
「あっぱれじゃ!」と当然ながら褒めてやりたい。
 しかし、私は褒めることよりも気になった。
 彼の着ている防虫ウェアが、気になって仕方がなかったのである。

 ここしばらくチヌの活性は高いとも低いとも取れる。仲間と連れ立って出かければ誰かにチヌが釣れる。
 しかも、ナイスサイズのチヌが多い。釣った者は病みつきになって、また出かける。釣れなかった者は悔しい気持ちから出かけずにはいられなくなって、つい出撃してしまう。ヤクザな話だが釣り師の性なので仕方ない。
「おまえ、どうしようもない奴だな」とヤクザな尾崎に私は言った。
「お互い様です」と尾崎が答えた。
 そして、この日の夜も尾崎は例の防虫ウェアを着て来た。
「もうそろそろメルカリに出展したらどうだ?」と私は彼を冷やかした。
「なんだかタツノオトシゴのT シャツの二の舞になりそうで」
「バカ言うな。俺は買わない!」と私は言った。
「はいはい。自分じゃ買えないもの」
「だから、おまえに買ってもらう」
「なんですか、それ。落語ですか?」
 私はインターネットで物品を購入することがない。だが、インターネットで物をよく買ってはもらう。インターネット通販に興味はないが、欲しいものは欲しいから身近に売っている店がないなら頼んで買ってもらうしかない。家族一族友人後輩の別もなく、「これ、買っておいてくれ」と気兼ねもせずにすぐ頼む。
 なにはともあれ、尾崎の防虫ウェアが気になった。欲しいというよりもその効果のほどが気になるのだ。
 ちなみに、私は虫よけスプレーを携行している。それでもって虫刺され防止に努めている。しかし、それが体に全く害を及ぼさないとは思えない。無機性剤主流の百年前ならともかく、有機合成薬物の殺虫材が使われ出して既に久しい。これは第二次世界大戦中に敵兵を殲滅する目的から開発が進んだようだが、その殺傷能力を試すのに虫も多く使われたと聞く。戦争は終わったが、その実力を知る製薬会社はその殺人薬剤を捨てるのはじつに惜しいと考え、虫に効くなら殺虫剤として売れば儲かると思い直した。そして、環境への影響も考えずに気前よく製造して売りまくった。もちろん人間にも効果覿面というのでは売れるはずもないので、殺傷力はうんと抑えられた。それで、どうなったか。そして、今後、近い将来どうなるのだろうか。私には事の次第は量りかねる。おそらく専門知識豊富な学者どもにもわからないだろう。環境ホルモン云々などと声を大にしてマスメディアも取り上げはするが、核の問題同様、合成薬物伝搬においても現段階ではどうすることもできないでいる。今後どうなるかも浄化の手立てもないままに今日まで来た。今後も、解決の持ち越しはつづくにちがいない。だから、余計に怖いとも言えるわけだ。
 私は人が悪いから、容易に他人の言うことを信じない。ある程度信じたとしても鵜呑みにはしない。自分自身すら疑いながら生きている。だから、基本的に医薬品は使用しない。やむを得ず使用するばあいは、「おれはこの薬をのんで寿命を縮めても一切文句は言わん!」と声に出して言ってから服用する。ワクチンも使用しない。予防接種はしないと決めている。インフルエンザは栄養のあるものを食べて、よく休むことで治癒する。あんなものは血統が異なるだけで風邪の菌の親戚にすぎない。もし、予防接種を怠けて不幸にも落命したとしても運命だと思って諦める。そう決めている。
 そうでなくても、いずれ、もれなく、人は死ぬ。この歳まで生きたのだから、早いだの遅いだのと言ったところで、もうどうだってかまわない。(笑)
 話が脱線してしまったが、この夜は尾崎だけおいしい目をした。彼だけ大きいチヌを仕留めた。

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ゲーリーヤマモト・イモは効果抜群

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アタリはあると言っていた尾崎に漸くチヌがヒット

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なんだかんだ言っても釣れると嬉しい。疲れも吹っ飛ぶ!とか

 このチヌ。誰にヒットするかわからないとはいえ、次回は是非とも私にランカーサイズが釣れてくれることを期待したい。
 大いに期待したいものである。

 八月上旬は猛烈な暑さで、夜間も気温の高い日がつづいた。そのせいもあって夕涼みがてら釣りに出かけることが多かった。海辺は町なかよりも少しばかり涼しいにちがいない、そう考えてのことであった。
 猛烈な暑さの日中はともかく、夜は平日でも釣り師を多く見かけた。ウナギを狙う高齢者、シーバスチヌをルアーで狙う若者、べつに示し合わせたわけでもないのにうちの連中ともばったり釣り場で出会ってしまうということが何度かあった。
 当然、釣り場が手狭となる。このままでは窮屈な釣りを強いられそうだった。そんなとき、デーブ鎌田が、彼のとっておきの穴場をいくつか私に教えてくれた。
 そのなかの一つに本津川や香東川よりも規模は小さいけれど、チニングをよく知るためのエッセンスの豊富に盛り込まれた河川があって、それはほんとうに誰かが設計したのでないなら神様の洒落た計らいとしか言いようのない魅力に満ちた釣り場で、とくに尾崎は自宅からそう遠くないこともあって、そこを知ってより以後はけっこう通っている。
 その釣り場へ、今回は尾崎晴之と私が現地集合で出かけてみた。
 尾崎は、私に先行して出かけ、もう既にランカーサイズ40㎝くらいのと、30cmくらいのを釣っており、しかもミノーでやっつけたと彼から聞いていたので、俄然、私はヤル気満々で出かけていった。
 くどいようだが、細身のミノーを用いたスローリトリーブに徹する攻めをバカのひとつ覚えのように来る日も来る日も実践している私たちである。なので、すでに先に述べたことのほか特筆に値する新メソッドも何もあったものではないが、この釣り場はストラクチャーに絡む流れの変化が容易に確認でき、しかも時間の推移の中での変化が妙に複雑で、したがって攻めには細心の注意が必要だと気を引き締めさせられた。
 この時点では、日中に川底の状況を丁寧に見て歩いたわけではなかったので、地形と目の前の潮の流れ方から判断して自分の立ち位置、仕掛けを投げ入れる角度、竿の構え方、リールの巻き加減など少なからず配慮することが必要だった。
 その後、何度か通ううちにこの釣り場の癖もだいぶわかって来た。日中に入念な川底の地形調査もおこなった。干潟に棲むカニや貝についても観察を怠らなかった。そのせいばかりではないだろうが、けっこう釣果を上げられるようになった。

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夜間の浅場ではミノーが大活躍

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ミノーを使うとシーバスのバイトが増え、ちょっと悩ましい

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干潮時に干潟となる浅場が狙い目となる

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夜も気温が下がらず、とにかく暑かった

 この河口域にチヌが多いのが餌の豊かさからなのか、デーブ鎌田の言うように骨休めにやって来ているのかは判断しかねるが、おそらくその両方だろう。数が多いと言っても、たとえば香東川の比ではない。規模の違いを考慮に入れても本津川の比でも、やはりない。それでも、干潮時に底の様子を見ておいて、そのあと潮が満ちて来たときにここで餌を食うにちがいないと思われる場所をミノーやワームで探ってみると高い確率でヒットする。ヒットしないまでもアタリが来る。そういうことがよくある。あるいは、ほどほどに潮が引いて、これ以上引くと泳げなくなるという少し前には、いいサイズのチヌが駆け込みでヒットしやすい。
これこそが八月下旬までの私の感想であり、その後、九月へとつながっていくのである。
 とにかく、チニング修行中の私にとってこの河川ほど勉強になる好釣り場も少ない。こういう釣り場を少しずつでいいから増やしていきたいものだ。

 これまで話してきた内容からも明らかなように、日中に引き底の状態を目に焼き付けておくことが大事である。私のように少々ボケが入りかけた年齢の者は、引き底から順に時間経過を追うかたちに写真を撮っておき、事あるごとに再確認するのもよい手立てだといえよう。
 その道の人に訊くと、シーバスを効率よく釣るには潮が引いても干潟とならない場所を明確に記憶しておくことが求められるそうだ。つまり、シーバスは満ちて来ると川底の溝を通って遡上する。あるいは、その通り道でベイトを捕食しがちだということにちがいない。それが溝ならどこでもいいのか、溝の両肩でのヒット率が高いのか、あるいは真ん中辺りが狙い目なのか、それは私には知る由もない。ただ、シーバスがそうなら、おそらくチヌもそうであろうという察しがつくというのもありがちな考え方だろう。
 しかし、チヌの餌場はシーバスのそれと重なり合うとしても、それ以上に干潮時に干潟となる場所に注意の目を向けぬわけにはいかない。むろん、こういう場所にはシオマネキやクモガニ、小型の巻き貝等が多く生息している。ゴカイのたぐいも砂泥のなかに隠れて暮らしている。アナジャコの仲間も少なくない。干潟が現れると砂泥の表面にたくさんのカニや貝を目にする。潮が満ちて来ると小型のカニは巣穴に入って休むのかもしれないし、巻き貝も砂泥に潜ってしまうのかもしれない。それでも、潮がさしはじめて間もないころはいくらか海底を漁るとチヌの大好物であるこれらの餌がわりと容易く捕食出来るのかもしれない。なぜなら、チヌは潮が満ちはじめると自分の体高分ほどの水深しかない浅場にかまわずやって来て餌をつけ狙う。じっさいチヌが餌を口にしているところを私は目撃してはいないが、いま述べたような想像が現実に私たちの知らないところで起こっていても不思議はない。
このような場所では、潮が高くなるとチヌのルアーへの反応が極端に悪くなりがちである。また、潮が引き始めて水深が浅くなると、チヌが再び餌を求めて集まりだす。これは、干潟に生息するチヌの餌がチヌの食いやすいかたちでチヌの前に姿を現すからだと想像できるが、じっさいのところいかがなものか。

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バス用のワームも効果が高い

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中波止の左右と手前の干潟は満ちて来るとチヌが寄りやすいだろう

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干潮時に干あがる場所は満ちて来るとチヌの餌場となる

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干潟の住人シオマネキやクモガニはチヌの餌となりやすいだろう

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干潟が潮で浸されだす。暗くなると楽しみだ

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プチセイゴがヒット。どちらがルアーだか・・・

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底ズルは手堅いと知ってはいるが、リフト&ボトムステイでキャッチ

 私は先に述べたような傾向を気に止めておくよう常から心がけているが、餌が捕りやすくてチヌが群れて来るのかどうかに関してはそれほど重要視していない。じつは、これは釣り師の目線からすれば当然のことである。なぜそうなるのかというところまで学者であれば探求せずにはいられまい。
 しかし、釣り師は食わせる確率の最も高い方法を見つけ出し、釣果をあげればそれでよい。これこそが経験知であり、途中の事実をすっ飛ばしても釣り師の側が勝利すれば目的は達成されるわけだ。
「こういうばあい、こういう場所に目をつけ、こういう手立てをこうじてやりさえすれば理由の全容が明らかでないにしろ、ひとまず魚を手にすることができる。どうだかはともかく、とにかく釣った者勝ちである」というのが身も蓋もない話だが釣りの現場の現実であり、その実績の積み重ねがあったればこそ、「あいつは凄い!」と同好の士から認められるわけである。
 むろん、釣果一点張りでは味がない。それは承知しているが、ここぞというときに釣って見せないようでは舐められる。この辺りの兼ね合いが難しいところでもある。
 チニングについては、まだまだ経験不足で、これからも勉強しなくてはならないし、課題も山積みである。
 今回は八月十九日までの写真を使ってレポートを取りまとめたが、それ以後も実践を怠ることなく九月下旬の現在もまだ研究をつづけている。
 むろん、やらねばならない釣りが他にもあるので、チニングにかかりっきりとはいかないが、今後も地道に釣り場に赴く所存である。
 これから深まりゆく秋に向けて、どのような展開を見せるのか。冬場でもじゅうぶんやれるのか。どうも真冬は釣果を見込めそうにないと思うが、そうであってもやってみないことには答えは出ない。
 ここにも現場主義という釣りの難しく面倒臭い一面が顔を覗かせるのであるが、文句を言っている暇はない。
 やるしか手はないのである。

[追記]
 ルアーばかりではなくてフライでもチヌは釣れる。徳島の釣り仲間は太平洋側の河口域でキビレを狙うことが多いが、マラブーストリーマーとシュリンプ系の小型フライがあれば何とかなると言っている。フライは意図的に浮力の高いものから小さくて沈みやすいものまで自在に制作することが可能なためルアーとは異なるアプローチで攻めることができ、場合によってはルアーを凌ぐ釣果を手にすることさえ夢ではない。
 水面に浮かべて使うフローティングラインを用いることも浅くて流れのある場所を釣るにあたっては大きな武器となる。

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シュリンプパターンも効果が高い

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ミノー系はフィッシュイーター全般に通用する

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日中にこのサイズは嬉しい!

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夜間なら小型が連発することも

 個人的にはフライでチヌを狙うことにさほど興味はないが、たとえば水のきれいな徳島の那賀川で大型のキビレを釣ってみたいとはかねてより思っていて、時間的余裕からそのチャンスを何度か得た今季ではあったのだが、これも大雨や台風の影響ですべてがダメになってしまった。

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フライが大きいと高番手のタックルが必要になる

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長きにわたりメバルを釣って来たがチヌにも効く

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遠投は必要ないので中番手のタックルでじゅうぶん捕れる

 これから先はキビレを釣るためだけに徳島県南へと足を運ぶ時間的余裕はまずなさそうだ。
 なので、残念だが、また来年を楽しみに待つしかない。
 まぁ、人生の八割以上は待つことであるという名言もある。
 あまり気を病まず、気長に待つことにしたい。

【今日の使用タックル】

ロッド : (ウエダ)
       プラッギングスペシャル ボロン932 FX-Ti
       プラッギングスペシャル ボロン892 FX-Ti
       ソルティープラッガー 862(初期型)
       ソルティープラッガー 862(後期型)
      (ノリーズ)
       フラットフィッシュプログラム サンドウェーブ74
      (ブリーデン)
       グラマーロックフィッシュTX78M
       グラマーロックフィッシュTX70M
      (メジャークラフト)
       スカイロード862E

リール : (ダイワ)
       セルテートCT2500VⅡAA
       ルビアス1003

ライン、
リーダー: (ユニチカ)
       アジ、メバル用スーパーPE0.4号(プロト)
       アジ、メバル用スーパーPE0.2号(プロト)
       キャスラインエギングリーダーⅡ2号
       スタークU2 1.5号、2号

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