2019年10月
野池巡礼
前から気になっていた野池に出かけて行った。
今期初のバス釣りは、この野池にしようと心に決めていた。
いつもは通り過ぎるばかりで、車から降りて様子を見るとはしなかった。用事のことで気が急いていたからだ。帰りは遅く、夜道に日は暮れないという諺は知っていても、既に真っ暗では余裕をこいて様子を見ようにも、そうしたところでどんなメリットがあるのかという気持ちしか持てなかった。なので、寄ることもなく帰宅していた。
それが、いよいよ春バス初釣行の差し迫ったある日、ようやく下見をする機会を得た。土手に立って見渡すと、農地に隣接する側は陽が丸当りで、しかもだらだらとただ浅いだけ。底に魅力的な障害物があるわけではないのでバスが回遊して来たとしてもそのまま行き過ぎてしまいそうに思えた。
それでも、春はスポーニングの時期である。産卵は日当りの好い浅場でおこなわれる。水のまだ冷たい時期なので陽ざしを頼りに水温が少しでも上がりやすい場所にバスも居心地のよさを求めて集まって来るのにちがいない。
道路脇から身を乗り出すように、そっと様子を伺うと、大きなバスとそれよりも少し小さなバスがゆったり鰭をそよがせていた。とにかく浅い。水は澄んでいる。バスから筆者は丸見えだろう。それでも、二匹ともそこから遠く泳ぎ去ろうとはしなかった。
すると、間もなく小さい方のバスと体格の似たバスがどこからともなくふらふら泳いできて最初から居た二匹のあいだに割って入ろうとした。一般的な考えからすると、この時点で異性の取り合いとなるところだが、三匹とも気を荒げる様子もない。混ざって平然と鰭をそよがせていた。
アンブッシュ6lbを使用した
トップに出ると、やはり嬉しい
見るかぎりひときわ白っぽく見えている底地丸出しの場所が産卵床にちがいなかった。
バスたちは、その付近をうろちょろするばかりで、何をするわけでもない。三匹が三匹とも何か目的があって、そこにとどまっているようには到底見えなかった。
しかし、筆者もバス釣りについてここ数年勉強を重ねて来たので、そこがバスの産卵場であること、産卵のために集まってきていることに気がつかないはずはなかった。 底にたまった落葉やゴミをどけて、きれいな状態に保っている。つまり、その部分だけ白っぽいのは、バスたちが清掃を念入りにおこなったという証なのだ。
「よし。釣りに来たら、まず、この辺を狙ってみよう」
そのとき筆者は、そう心に決めた。
しきりに野鳥のさえずりが聞こえていた。
風はなく、見渡すかぎり池のおもては鏡のようで、水面付近に生き物の気配は感じられなかった。
あらためて産卵床に目をやると、三匹のバスがのんびりその辺りを泳いでいるのが見えた。別段、変わった様子もなく、狭い範囲をぐるぐるまわっているだけだ。
筆者は、なかでもひときわ大きい一尾に目星をつけた。でっぷりとして、おそらく産卵前の雌だろう。
バス釣りの世界では産卵前の大型の雌をビッグママと呼ぶ。
釣行時には、ぜひそのビッグママを釣りあげたい。
三匹のうち最も大きいバスを目で追いながら、そのとき筆者は、心にそう強く誓った。
ロッドが軟らかいので細仕掛けで臨んだ臨んだ
その数日後、そのとき見たビッグママをものにしてやろうと、野池へ出かけていった。好天の午後で、陽ざしがとても心地よかった。里山には桜が咲き残っていた。ソメイヨシノではなく山の桜で、赤みを帯びた葉の方が、むしろ花よりも目をひいた。
見るかぎり水位に変化はみられず、目星をつけていた場所には相変わらずきれいに整えられた産卵床が澄んだ水を透かして見えた。
山の木々のどこかから野鳥のさえずりが聞こえた。すべてが下見に立ち寄った日そのままである。ただ少しだけ下見のときよりも気温が高いようだ。野鳥は何鳥だかさえずりを聞くだけではわかりかねるが、それに混じってウグイスがいい音色で鳴きだした。ウグイスという鳥は遠くで鳴いているように、あるいは近くでさえずっているように、と上手に鳴き分ける。そうすると一羽が二羽にも三羽にも聞こえる。囮で鮎を掛ける釣り名人の爺さんからそう教わった。それも、もうずいぶん昔の話である。
釣りの仕掛けを拵えながら聞くウグイスの声はアユ釣りの爺さんの話ほど芸が達者ではなく、一羽は一羽でしかなかった。それどころか、ときに鳴き損じをした。笹鳴きを卒業してまだ間のない山の合唱隊の新入生らしかった。
そうは言っても、やはり春はいい。
野池のほとりで釣りの準備をしていると、こころ解き放たれていく心地になる。
ただ、ちょっぴり残念なのは、例の産卵床付近にビッグママの姿が見えないことだった。中ぐらいのバスが一匹うろついているのみで、少々にぎわいに欠けた。
なんと言っても今期初のバス釣りなので、景気づけにデカバスを仕留めてまいあがりたかった。それでも、まぁ、中くらいのバスが見えている。それなら中くらいのそいつを釣ってうれしがろうではないか。
こういう産卵態勢をとるバスには、ふわふわした感じに仕掛けを動かして気を引くことが大切だと前々から聞いていた。ゆっくり水中をふわふわした感じで動くものにスポーニング期のバスは興味を示す。なので、くすぐるように鼻面に仕掛けを持っていって見せびらかしてやると、十中八九、口を使ってくれるはずだ。あるいはその辺りを周回するバスが産卵床に戻りきったとき、ゆっくり仕掛けのワームをピンポイントで落としてやると、ゴミか何かとまちがえて外に放り出そうと口を使うにちがいない。なぜならバスには手がないので産卵床に入って来た異物を外へ放り出すには口を使ってやるよりほかにやりようがないのである。
ほかにも、デーブ鎌田からとっておきの秘策を入手していたが、それはまたこんどじっくり試すことにした。
ぐずぐずしていないでとにかくやってみよう。前述したようなやり方でバスが釣れるかはわからないが、筆者にはちょっぴり自信があった。
ところが、得た知識と、その知識を実際用いてバスを釣るのとでは勝手がちがう。じっさい聞くのとやるのとでは大違いで、あんがい上手にやっているつもりでも微妙にちがっているのだろう、攻めれば攻めるほどバスは鬱陶しそうに筆者の仕掛けをひょいと避けてプイと横を向いてしまう。しつこく攻めつづけると、どこかへ行ってしまった。でも、待っていると、すぐまた戻って来る。
しめしめと思ってふたたび攻めはじめる。すると、それを嫌ってまたどこかへバスは泳ぎ去ってしまった。次また仕掛けを入れても同じことの繰り返しで、バスは一向に口を使おうとはしてくれない。
いくら教わったとおりやっても相手にされなかった。
先達のひとりに電話して当り罰を言うと、「まあまあ落ち着け」と宥められた。バスの目線よりもやや上を通せ。斜めに横切らせるといい。それでもダメなら・・・・
けっきょく、レクチャーどおりやってみたが、ぜんぜんうまくいかない。頑として口を使ってはくれないのだ。いっそのこと本当にどこかへ行ってくれたならあきらめもつくが、どこかへ行ってもすぐまたバスの奴、舞い戻って来るから始末に負えない。
とにかく、頭を冷やそうと思った。
そうだ。気分転換に少し土手を歩いて、散歩がてら様子を見てみよう。べつな場所でも浅場に出て来た産卵前のバスがいないともかぎらない。うまくするとビッグママに出会えるかもしれないではないか。
とにかく、いちどその場を離れる決断をした。
あるところまで歩いていくと、人工の土手が尽きて藪つづきとなった。土手の道は藪の後ろ側を通るため筆者の立ち位置から池の様子は殆んど見えなかった。藪には高さの秀でた雑木が数本混じっていた。
そこから少し先へ行くと雑木のあいだから池が見えた。
雑木が枝葉をひろげたその下は薄暗く、朽ち木が倒れ込んでいた。水面から顔をのぞかせているのはごくわずかにすぎず、大方は水中に没してしまっていた。
「デカバスが出そうな景色だな」
筆者は漠然と思った。
すると、そのとき言い当てたかのように魚影が動いた。
「バスだ!」
筆者は声を呑んだ。
しかも、俗にいうところのデカバスだった。
水中の朽ち木が影のように黒い。その大きなバスはその辺りを浮きも沈みもせず悠々と泳ぎまわった。
風もないのに切り立った岸辺から池へと小さい何かが転げ落ちた。
すると、すぐさまバスが水面に注意を向けた。飛びついて水を割るほどの本気さはみせなかったが、筆者はここに来てはじめてヤル気のあるバスを認めたような気がした。これは筆者からすると悪くない成り行きだった。
「ワームを沈めてふわふわ誘うよりも、トップの方が効きそうだ」
さっそく筆者は、手持ちのトップウォータープラグのなかから手ごろなものを選んで、仕掛けを結びかえた。
ところが結び終えて立ち上がると、バスはもうそこから姿を消してしまっていた。目を皿のようにして探してみるが見つからない。
「ちぇっ」
筆者はがっかりした。
ワームの仕掛けをそのまま投げたら、あるいは口を使ったかもしれないのに、なんて俺はドジな野郎だ!
そう悔やんでみたところで、あとの祭りである。
でも、せっかく仕掛けをやり変えたのだ。ダメ元で投げてみようじゃないか。そうわざと明るく自分で自分を励ますよう努ながら、キャストの機会をうかがった。
しかし、その場から投げたのでは投げにくいのも事実だった。そこで、少し先へ動いて、藪の絶えた場所から一段下の取っ掛かりへと降りてみた。このポジションからだと土手が壁となって背後を塞ぐため、朽ち樹の沈む辺りに仕掛けを投げようとするとサイドキャストでうまくやるしか手はなかった。しかも、覆い被さる雑木の枝葉に触れぬよう仕掛けを投げるには相応の正確なキャストが求められた。
「よし、やってみよう」
さっそく投げてみた。仕掛けがぐんぐん宙を這うように伸びていく。
しかし、筆者には些かだが気負いが生じていたようだ。強めに竿を振り抜いたことで勢い余った仕掛けがことのほか飛び過ぎて、池水へと傾く雑木の荒い幹にフックを食い込ませてしまった。これじゃあ樹の幹に仕掛けを止まらせているようなものである。
「おい、相棒。そんな所で休んでないで、早く池に落ちて仕事しろよ」
筆者は、いくら揺すっても樹の幹から離れないルアーに苛立った。
その後も、竿先を小刻みに動かして落とそうと試みるが、予想以上に鈎先が食いこんでいるらしく頑としてはずれなかった。
それでも、細かく揺すりつづけるうちに、あるときフックがはずれてルアーが水面へちゃぽんと落ちた。円を描いて波紋がひろがっていく。
すると、大きなバスらしき黒い影が水中をよぎっていくのが見えた。浮かびかけて、ためらい、そのまま向こうの物陰へと身をひそめたかのようだった。
一昨年、昨年と、筆者は他の野池で夏場にこういう経験を何度かした。こういうときバスは素知らぬふりをしながらも水面に浮かぶ物体をじつはよく吟味しているのかもしれなかった。
それを念頭に置いて、チョチョイと水面のルアーを動かしてみた。そうしておいてからしばらく放っておく。少し待って反応がなければ、同じようにまた誘ってみようと考えた。
すると、そうする前に何処からともなくバスが水面のルアーめがけて泳ぎ寄って来た。
ついさっき目にした大型のバスにちがいなかった。
「よし、食え。さぁ、食え!」
筆者は念じて言った。
バスに躊躇は見られなかった。そのまま水面まで浮いて来てルアーを頬張った。こういうばあい吐き出されては元も子もない。なので、すぐさまアワセを入れるのも悪くないように思われた。しかし、反転して沈んでいくのを目で確認してから確実に合わせるやり方を筆者は選択した。むろん、頭で考えてのことではなかったが咄嗟の判断がそうさせた。
アワセを入れた瞬間、重いと感じた。手応えじゅうぶんである。手ごわさを感じた。
しかし、危機感はない。力にものを言わせてみせるばかりで、バスにキレのよい動きは見られなかった。
それだけに、筆者は余裕の心地だった。細仕掛けだったが、タックルもまたそれ用の優れ物だったので、あわてず安心してやり取りできた。二度ほどラインを持っていかれたが、それも危機迫るほどのことではなかった。
頃合いを見て寄せにかかると、素直に応じた。手元まで寄せられてもあまり暴れなかった。
筆者は身をかがめ、手を精一杯のばしてバケツのようなその大きな口の端を捕まえると、水から一気に引き上げた。
「大きい!」
思っていたよりも、うんと大きかった。
仕掛けを幹に引っ掛けるという大失態がバスを引き寄せた。そのことがバスを手に入れた今は愉快にさえ思えた。痛快だった。釣れたバスは余裕のビッグワン。痛快で何が悪いという心境だった。
正真正銘のビッグママである。
今期初の釣行。今期初のトップウォータープラグ。しかも、初めて釣りをする野池でトップを投じた第一投目にランカーサイズのバスがヒットした。このことに筆者はたいへん気をよくした。
そこで、自慢がてらすぐさま先達らに写真を送信すると、スポーニングの最中と目される時期に大型のバスがそういう場所に居て、そういう食いつき方をするのは珍しいと言った。
どうだぁ、このド迫力!力!
「それにしても、デカイ!」
そう電話やメールで褒められると、滅多にないことなので素直うれしかった。
もうこれ以上立派なバスが食いつくとは思えなかったので、この日はこの一匹を釣りあげたところで納竿とした。
雲が厚く、小雨くらい降っても不思議ではない空模様だった。車を池のほとりに止めて様子をうかがっているとあんのじょう降り出した。霧雨に似た粒の細かい雨にフロントガラスが覆い尽くされてしまうと、極度に外が見づらくなった。
とっくに昼を過ぎていたが、薄暗いせいか、バスは浮き気味のようだった。ワンドの浅瀬が、その沖側へと深く落ちていく辺りで、二度、三度とボイルを目の当たりにした。バスにちがいなかった。
次第に雨は大粒となり、池のおもてを叩きはじめた。
すると、ボイルはやんでしまった。
私は水面を激しく叩く雨が恨めしかった。
減水、水は澄んでいる
途中、私は行きつけのコンビニでソーセージ入りのパンと缶コーヒーを買ってから釣り場へやって来た。私はそれを車のなかで食べ終えた。
すでに雨衣の必要を感じさせないほど雨は小ぶりになっていた。
「待った甲斐があったぜ」
道具の準備をしながら私は声に出して言った。
じっさい、車で雨がやむのを待っていたのは三十分ほどだろうか。
それでもぐずぐずしてはいられないという気分だった。
プラグが大好きなんです!
跳ねさせないよう慎重にやり取りする
私は巻き物の釣りが好きである。つまり、ワームでねちっこく攻めるよりプラグを投げて広く探っていくほうが性に合っている。なので、ワームの釣りが有利だと見ても、巻き物の釣りにこだわることも少なくない。まったく勝算がないならバカなまねはしないが、うまくやりさえすればバスを手にできるかもしれないと踏んだら少々のリスクは気にしない。是が非でもバスを釣ってみせなくてはならないプロとはちがい、道楽でやっているにすぎないので気楽なものだ。
私が釣ろうとしているワンドは数あるワンドのなかでも小さい方で、岸辺にはポンプ小屋があって、その傍らに階段を設けてある。この階段を降りて水ぎわまで近づくと、階段はさらにその先の池のなかまでつづいている。いくら目を凝らしてみても、深くてあるところより先は全く見とおせなかった。
水ぎわに立ってまっすぐプラグを投げて巻いてくると、ある辺りから硬い感触が直接手元に伝わって来るようになった。水のなかの階段にプラグが鼻をぶつけたのにちがいない。こういうとき巻く手を休めた直後にアタリが来てバスが釣れることがしばしばあった。今回も同じように投げて巻いていたら仕掛けが底に触れた。私は躊躇なく巻く手を止めた。すると、浮きあがろうとするプラグめがけてバスがバイトして来た。しかし、深いバイトは得られず、かすった程度に終わってしまった。何度か投げては巻き、巻いてはまた投げてみたが、結局アタリが一回来ただけでバスを手にすることはできなかった。
減水というのではないが、水位は微妙だった。決して満水に近いほど高くはなかった。
私は階段を諦めて、そこよりもワンドの奥手に当たる浅場に釣り座を移した。フルキャストして巻いて来ると、早い段階から仕掛けがボトムをノックした。突っかかる感じだった。底にぶつかるたびごとに、巻く手を緩める。あるいは、止める。すると、浮力のあるプラグは底を切って浮かびあがろうとするのだった。
このとき、アタリがよくあると前述したが、今回にかぎってはこちらの思惑どおりに事が運ぶことはなかった。
騙されちゃったね、お疲れ様
惚れ惚れするような体躯の春バスだ
さっとく、私はルアーを交換した。少し浅い層を引けるタイプに付け替えた。このプラグだが、投げ損ねて岸にぶち当ててしまったときにリップが欠けてしまった。もうずいぶん前のことだが、それをヤスリで削ってみたところ左右均等にうまく調整できたので捨てずに今も使っている。性能的には元の深さより浅く泳ぐようになってしまったが、しかし、手を加えてからのちもいい働きをしてくれるので、頼れる一軍ルアーとして常に持ち歩いている。
思いきり対岸の雑木林に向けて、そのプラグを投げてみたが、対岸は遥かに遠かった。それでも深い底から手前側へと急にかけあがって来るところよりも向こうまで投げることが出来たので期待しないわけにはいかなかった。
水中の急勾配にそのバスはへばりつくようにして、餌がやって来るのを辛抱強く待っていたのであろう。頭上を行き過ぎようとする何かの気配を決して見逃しはしなかった。それで俄かに待機モードから戦闘モードにスイッチが入れ替わったらしかった。
巻き始めてまもなくコツンとアタリが来た。かまわずに巻くと、向こうアワセに乗って来た。
「おおっ!」
私の口から声が漏れた。
もしこれがテレビの番組なら、「脳内のアドレナリンが一気に噴出した!」とか大袈裟に口上がなされる場面である。
じつは、そこまで興奮もしなければ慌てもしなかったが、こいつを逃すわけにはいかないと強く心に思ったのは確かである。
手応えはじゅうぶんだった。ルアーのフックがバスの大きな口のどこかをがっちり捕らえているのはまずまちがいなかった。バスのサイズも小さくはないと知れた。ランカーサイズかどうかはわからない。まだ水温の高くない時期だけにバスも冬の呪縛から完全に解き放たれているわけではないようだ。単に引き云々でサイズを言い当てるには少々難があった。
それでも、四十センチはありそうだった。体高の出たヨンマル超えなら絵になることまちがいなしである。
じっさい、やり取りしながらサイズが気になって、どう取り込もうかなどいっさい頭にはなかった。バスの出方に対して勝手に体が反応した。気持ちの面には余裕があった。
水際まで寄せて、そのまま岸へとずりあげ、素早くバスの太い胴体を上から押さえ込んだ。
アンブッシュ6lbを使用した
ワカサギを食って育つとこうなる
このすぐあと、二匹目のバスがヒットしたが不注意から取り逃がしてしまった。
アタリから察するに、一匹目と同クラスのバスだろう。どうやら掛かり方がよくなかったみたいで、やり取り中に鈎が外れて取り逃がしてしまった。
最初のバスに勝るとも劣らぬいい引きをみせてくれたのに残念である。
その後も、その付近を丹念に釣り探ってみたが、最後までバスを手にすることはできなかった。
先日、雨上がりのワンドで一時間ほど釣りをして四十センチくらいの肥えたバスを手にした私は俄然気をよくしてしまった。
それで、また神内池に出かけて行った。
仕上げなくてはならない書き物にもめどが立ったことから書くのを早めに切り上げて、家を出た。
池畔には昼前に到着したが、今回は雨の心配もなさそうだった。それどころか日差しが強くてうんざりしてしまいそうなくらいの晴天だ。
季節が季節なので暑くはなかったが、閉口した。
bでも、バスからすればどうだろう。水温の高くない時期だけに、陽の射す浅場はあんがい過ごしやすいのではあるまいか。
私の経験からすると、春のバスは曇りでも雨でも晴れでも、食いつくときは時間に関係なく口を使って来る。産卵前のバスは餌を求めて活発に動くようだ。夜中のことは知らないが、日中ならいつでもチャンスはあるといってよい。たしかに朝夕は狙いどきだが、昼間だって捨てたものではない。
もちろん、天候、季節、その日一日の微妙な水温や水色の変化を知ることが大切だという意見に私は反対しない。
それでも、やはり釣りというものはやってみないとわからないところがある。
なので、時間の許すかぎり、どんどんやってみるのがよい。
はちきれんばかりのボディに思わずうっとり
見つけて釣る。食う瞬間がたまらない
さて、釣り開始である。
これからバスを狙ってみようというその場所は水深が深く、底がどうなっているのか容易に窺い知ることはできなかった。が、しかし、段々になって底へと落ちていく、その二段目までは水がきれいなせいもあってよく見えた。上の段にそのバスは休んでいた。水深は1メートルほど、バスが休んでいる場所は乗用車が一台駐車できるくらいの広さである。バスは底に腹をつけるようにしてじっとしていた。べつにこちらを警戒するふうでもなかった。よく見ると鰭がわずかばかり動いて、まったくの無関心というわけでもないらしかったが、その場が居心地いいのかどこかへ泳ぎ去ってしまいそうにも見えなかった。
この池のバスはワカサギをたっぷり食って育つせいだろう、身のよく引き締まった体高のあるバスが多い。今から狙おうとしている眼下のバスも、惚れ惚れするようないい体格をしていた。
私のチョイスしたルアーはゆっくり沈むタイプ。やがて、狙いをつけて投げ込むと、バスの左前方に着底した。
そのまま少し様子を伺う。すると、バスは鰭をわずかにそよがせて、まんざらでもなさそうである。放置しておいても食うかもしれないと思ったが、ルアーにちょっかいを出してくるようなそぶりはこれっぽっちも見せなかった。もうあと一歩というところか。
ただ、ルアーのことが気になるらしかった。
試しに竿の先をちょいと動かせ、バスの気を引いてみる。ルアーが底を切って少しだけ浮きあがった。すると、底から浮きあがったルアーに、いきなりバスが突進した。あっと思ったときには、もう食いついていた。
大きくはないが小さくもない、コンディション抜群のきれいなバスだった。
「やったぁ~」
私は小さくガッツポーズをした。
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このくらいのバスでも引きは強烈!
尾崎晴之が、自分も参戦すると連絡して来た。夕方まではやれるという。
私も夕刻までに帰宅すれば問題なかったので、そのまま残ってバスを釣りながら尾崎を待つことにした。
長い時間、一つの池に固執し手バスを狙うのは久しぶりなので、釣果はともかく自分なりに納得して釣り場を後にしたかった。そこで、尾崎が到着するまでのあいだも手を抜くことなく釣果を伸ばせるよう自分なりに努力した。
しかし、その後はパッとしない結果に終わってしまった。
このところバスをよく連れてくる看板プラグたち
釣り師の性か、あと一投が、二投、三投に
オタマジャクシをイメージしたプラグにヒットした
もう来るはずの尾崎がまだ姿を見せない。そこで、あまりの釣れなさに嫌気がさした私は南東側に位置する堰堤付近を下見がてらぶらぶらしてみることにした。
堰堤は石積みの護岸が立派である。その東のほうに二人、若いバサーが陣取ってバスを狙っていた。そこはちょうど小さなワンドになっていて、いかにもバスが溜まりそうに見えた。鉄板系、ワーム系の釣りをしていたが、どちらも芳しくないようで、お互い交わす口数も少ないようだった。しばらくのあいだ土手の上から見ていたがアタリすら拾えない様子だった。一見していい場所であっても、ダメなときはやはりダメなようであった。
「やっぱり、あかんかぁ」
私は声を漏らしたが、時合になれば状況が一変して嘘みたいにほいほい釣れるということもある。ぜひ、二人にはいいバスを釣って帰ってもらいたかった。
しかし、こちらとしても他人の心配をしているばあいではなかった。釣り師は魚を釣ってなんぼである。 状況もよくない方へと傾いていっているようだし、ここはひとつ気を引き締め直してやらねばならなかった。
石で組んだ護岸は作りがしっかりしており、ところどころ階段を設けてあった。誰も釣りをしていなかったので、やってみようかと考えているところにヘラ釣りの爺さんが車を乗りつけて準備し始めた。
仕方がないので、階段は諦めて、石組み護岸の西の端のところで、ちょっと竿を出してみることにした。
護岸の西側はほぼ切り立った岩盤で、ちょっとした岬山になっている。足掛かりを得られそうな根岩は見当たらなかった。
岩盤のすぐ下は深く落ち込んでいて、その壁にバスがついていそうだった。
じつは先日、ここで五十センチ弱のバスが釣れている。尾崎晴之が単独でやって来て釣りあげた。
石組みの護岸の端っこに立って、岩盤にほぼ平行に仕掛けを投げて探ってみたがアタリはなかった。少しずつ角度をつけるようにして、沖方向へと投げる位置をずらしながら、投げては巻き、巻いてはまた投げてみたが、ノーバイトに終わってしまった。
「そうですかぁ。あきまへんか」
やって来る早々尾崎が言った。
まったく、呑気なものである。
「おまえが刈り取ったあとは草も生えやしない」
私は弱ったように言うと、わざとらしく溜息をついた。
「またそんな人聞きの悪い。たった一匹だけですよ、抜いたのは」
「草を刈るのも上手なら、バスを抜くのもお手の物ってわけか」
「そりゃあ、百姓ですから」
「百姓で、漁師もやって。いい気なものだ」
私は岩盤の岬の向こう側が気になった。
「あちら側から岸伝いに行くと、岩盤裏までたどり着けそうか?」
そう尾崎に訊ねると、わからないが行けそうに思うという。
「それには水位が高くないか?」
ふたたび訊ねると、「ぎりぎり行って行けないことはないでしょう」と尾崎は答えた。
ええ天気やなぁ、と尾崎晴之。悠長でんなぁ〜
ここぞという場所は念入りにチェックする
岩盤エリアは深い。さっそくルアーを交換する
じっさい、行って行けないことはなかった。樹の下をくぐり、草をかき分けて進まなくてはならないところもあるにはあったが、わりと楽にアクセスできた。
岩盤を背にし、青葉の陰に身を置いていると思いのほか涼しかった。しばらくはここから動きたくない心境だった。
私はすぐに釣りを開始することはせず、しばらくのあいだ尾崎が釣るのを見物していた。尾崎の立つところは足元から水深がいきなり深くなっているので横方向のみならず縦方向へもじっくり気を抜かずに探りを入れる必要があったが抜かりはないようだった。一つのルアーだけではカバーしきれないので、ときどきルアーを交換していた。
私の足元は水深が1メートルほど。その深さのまま私の身長一つ分ほど先まで岩盤の平底である。その先はドン深で、暗くて底は窺い知れなかった。
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いろんなルアーを試せるのもバス釣りの魅力
レンジを釣り分けながらバスとの出会いを待つ
私の足元の浅場とその向こうの深場のちょうど境にあたる岩盤のエッジに、沖から仕掛けを巻いて来るとちょうど鼻面をぶつけてくれそうなルアーはどれだろう。私はそのことばかり気になった。何度も同じように落ち込み際の岩盤のエッジに鼻面をぶつけさせていると、その音に興味を持ったバスが岩盤下の深みから浮いて来て、待ち伏せをし、次また通りがかったときガブッと食いついて来る。そういう知識を事前に得ていた私は、教科書通りいくものかどうか試してみたくてしょうがなかった。
「ほんとうかなぁ」
ケースのなかのルアーを指でいじりながら私は呟いた。
私は手ごろなリップの長さのクランクベイトを自分なりに選んで、沖へ向けて試しに投げてみた。さっそく巻いてみる。すると、どうだ。岩盤のエッジに見事その鼻面をぶつけてイレギュラーな動きをみせた。
「ほう。こういうことか。目で見て判断できるのって助かるな。勉強になる」
私はおもしろさも手伝って何度か同じようにやってみた。
沖側へ着水させて、速く泳がせると、ぐんぐん潜行して、ちょうど岩盤のエッジに沖方向からガツンと鼻面をぶつける。鼻面とはルアーのリップのことだが、リップはプラスチックで出来ているので、ぶつかるときにきっと水中でいい音を出しているにちがいなかった。水中は陸上よりも音の伝搬性に優れているのでバスの耳をくすぐらないはずはないと思われた。
バスに音を聞く耳があるのかどうか私は知らないが、感覚器である側線に対して何らかの訴えかけをしないはずはない。私はそこに期待した。
とにかく、バスが水の深みからその音を聞きつけて浮上してくる。あるいは回遊して来たバスが興味を持って様子を見に来る。そういうことでもあればバスをその気にさせて釣りあげるチャンスがひろがるというもの。そう信じて私は根気強く同じことをくり返した。
すると、七八回投げてみたところで、岩盤のエッジに鼻面をぶつけてバランスを崩したルアーに、悪くないサイズのバスがいきなり襲いかかってきた。
「ヒット!」と私は声を張りあげたようだった。
何事かと尾崎がこちらを見たときには、もう既に私はそのバスを足元の岸へとずりあげてしまっていた。三十五センチくらいの肥えたバスだった。私の足元でもんどりうって暴れるうちにフックが口からはずれた。バスはこれ幸いとばかりに尚も跳ねて水のなかへと逃げ帰った。
教科書通りのことが起こってしまった。もうこれには尾崎と私と、大いにはしゃいだ。すると、それからしばらくして同じことがまた起きた。釣れたバスのサイズも同じくらいだった。
「まさかさっきのバスじゃないよな?」
と冗談を言うと、
「そんなバカな!」と尾崎が笑った。
尾崎の足元へと暴れて跳ねた私のバスを尾崎が手で抑えつけた。フックはバスの口からすでにはずれていた。尾崎が写真を撮らなくていいかというそぶりでこちらを見たので、「逃がしてやってくれ」と私は尾崎に返事した。
しかし、胸がすくような思いに浸れたのもこのあたりまで。その後、バスからのバイトは遠のいてしまった。釣ろうと思えばまだ時間的にじゅうぶん余裕があったが、アタリすら来ないのでは仕方がない。
あまりに退屈なので頃合いをみて竿を納めた。
寄り合いが都合で流れてしまい、時間が出来た。
それで、高松道三木インター近くの野池にバスを釣りに出かけた。
昼間に尾崎晴之と神内池の南側の岩盤ポイントでバスを狙ったその日の夕刻である。
まさしく、「釣りバカにつける薬なし!」とはこのことであろう。
私はいったん降ろした道具をふたたび車に積み直し、自宅を出た。
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クランクベイトを丸呑み!
痩せているが長さはじゅうぶん。来てよかった!
結果から書こう。到着後どれほども経たないうちに私の投げたプラグにバスが食いついた。
でも、釣りあげてよく見ると痩せていたので、ちょっと済まないことをしたという気になった。
しかも、ルアーを丸呑みしてしまっている。
このバス。
「俺、とんでもないことしちまった!」と、大いに悔いているように見えるのは気のせいだろうか。
このうえは、何とか餌をたっぷり食べて健康な肥え方をしてもらいたい。そうして近い将来、私の投げたルアーにふたたび食いついて、今度こそ大暴れしてほしいものだ。
なので、ペンチを使って出来るかぎりダメージを与えないよう慎重にフックをはずしてやった。
そのうちバスは、私の手のなかでみるみる元気を取り戻していった。
そして、元居た水の深みへと自力で泳ぎ去った。
「また会おう!」
そう去りゆくバスの後ろ姿に声を投げかけてみたが聞えたかどうかはわからない。
でも、また会いたいものだ。
心からそう思った。
土手に咲く花々のなかに風変わりなタンポポを見つけた。花が白っぽい。花輪も付近のものに較べ、じっさい大きいように見えた。珍しかったので写真を撮った。
池は陽を浴び、風が動くとキラキラした。風がしずまると澄んだ水のなかにきょとんとして動じないバスがいた。その下にはそれより大きなバスが鰭をそよがしていた。上のバスと下のバスは互いに気にし合うこともなく、好き勝手ふるまっているようだ。下のバスはいくらか活発で、上のバスの下をくぐり抜けることもあった。どこかへ泳ぎ去るかと思うと、またもどってきて鰭をそよがせた。
私は下のバスを釣りたかった。下のバスが二まわりも大きかったからだ。
去年、覚えたばかりのジグヘッドワッキーを試してみると、あるいは釣れていたかもしれなかった。けれども、ワームは令和元年五月一日より使用を開始すると決めていたので持参してはいなかった。
令和元年始まりの日にきりよくワーム解禁というのも悪くないにちがいない。
たしかに、私にとってのワームはあくまで脇である。主役はプラグなので、五月一日にもしバスを釣る機会があるとすれば、迷いなくプラグを投げるであろう。
だけど、それだとワームが拗ねて機嫌を損ねるかもしれない。ワームは触感からして、プラグよりもずっと生き物らしい。なので、どんな文句をぶつけて来たとしても不思議はない。
「日本は民主主義国家だろ。やい! 平等、平等、平等にあつかえ!」
そんなふうに声を荒げられてはうるさくて堪らない。
なので、五月一日にプラグとワームと両方使ってバスを狙うことを決断した。
でも、まぁ、五月一日にバスを釣りに行かなければ何の意味もないけれど。(笑)
天気よし。腕もまあまあ。あとはバスの機嫌次第
白いたんぽぽを見つけた
群れ咲くたんぽぽ。黄は幸福の色と聞くが・・・
えっ、「それでバスは釣れたのか?」ですって!?
もちろん、よくよくバスの動きを見て間合いを取り直し、必殺お助けプラグのピーナッツⅡを投げたら、上のバスも下のバスも池の底へと沈んでいき、二度と姿を現さなかったぜ。
ちくしょう!
用事のついでにちょいと竿を出したくらいでは、やはり、そう簡単にバスは釣れないということか。
だが、こういう日もあっていい。そう思ったので、ボウズのレポートを一編さしはさんでおくことにした。
仕事の打ち合わせが長引いて、とても間に合いそうにない。ちょっと時間遅らせてくれないか、そうSから連絡が来た。
わかったよ、と二つ返事で了解した。
夕方、野池で私はバスを釣っていた。ところがいつになく虫を食いに水面へとあがって来るバスやブルーギルの姿がまったく見られない。それどころか餌の羽虫の数もこれっぽっちしか確認できなかった。
水面を自由気ままに滑っていくのはアメンボウばかりである。どうやら、バスに食われる心配がないとわかって、わがもの顔を決め込んでいるようにも見えた。
山麓に位置する野池だけに、水は澄んでいた。しかも、底にはびっしり水草が繁茂している。
今日だって、きっと時間がくれば水生昆虫が少なからず羽化するにちがいなかった。ただ少しその時間が後にずれ込んでしまっただけなのかもしれなかった。もしそうだとしても、それでは遅すぎる。こちらにも都合というものがあった。
羽化の見られない理由は判然としない。スーパーハッチを促す条件がそろわないからにちがいないが、それではそれを当てにしてわざわざやって来た私からするとがっかりのほか何とも言いようがなかった。
「B級グルメのアメンボウじゃ不満か? 口に合わないってことかよ」
そうバスに言ってみたところではじまらない。
じっさい、羽虫もアメンボウも似たようなものとしか思えないが、バスからするとそういうわけにもいかないらしかった。
それでも、まぁ、Sとの待ち合わせ時刻が後ろにずれ込んだことで、皮一枚首がつながった。
まだ何かやるべきことがあるはずだ。打つべき手があるはずだ。チャンスはある。なので、どうにかして一匹でいいからバスを仕留めたかった。
常から数色準備しているピーナッツとバスハンター
底から立ちあがる藻場の上を丁寧に探る
ところが、水面へとバスをおびき寄せるべくあれこれ自分なりに工夫してみるも、けっきょくトップウォータープラグの釣りは無駄骨に終わってしまった。
どこかで聞いた。「釣りは忍耐の芸術だ」そうかもな
こうなると、もうあれを使うしか手はない。あれとは、わが相棒のピーナッツⅡである。もし、こいつにお出ましいただいて、それでもダメだったら潔く納竿しよう。そう腹を括った。
Sのおかげで、釣り場に居られる時間が増えたのだ。相棒にちょっぴり手助けしてもらえば何とかなるかもしれない。釣果につながるかもしれない。私は祈るような思いだった。
だいいち、手狭なケースのなかで窮屈に過ごさせてばかりでは相棒に気の毒である。運動不足で太ってしまっては大変だ。そうでなくても相棒のピーナッツⅡは太鼓腹である。人間に例えるなら肥満体である。なので、健康に気をつけてもらうという意味合いからも思いっきり暮れ方の野池で泳いでもらわなくてはならなかった。
で、どうなったか。
はい、このとおり!
たった一回投げただけでバスが釣れてしまった。
アンブッシュ6lbを使用した
このサイズでも釣れたら文句なし!
よっ、相棒。仕事するねぇ!
サイズはともかくバスが釣れた。
釣れると、ちょっと嬉しい。すると、欲が出て、もう一匹釣れたらいいなとなる。さらに大きいバスをものにしたくも思う。それが人情であろう。
時計を見ると、さいわいなことにまだ少しくらい釣りに費やすだけの時間的余裕があった。
だいいち、待ち合わせの時刻を遅らせてほしいと連絡して来たのはSのほうだ。
Sだって時間ぎりぎりか、少し遅れて店に現れるかもしれない。
しかし、釣りに夢中になって遅刻でもしたら様にならないのはこちらのほうだ。
奢られる方が遅刻しては、やはり格好つかないと思った。
なので、今が潮時と決めて竿を納めることにした。
昼食のあとバス釣りに出かけた。
午後から二時間ほど時間が出来たので、野池へと車で向かった。家から二十分ほどで行ける里山の麓に位置する双子の池である。香川の野池にありがちな土を固めた土手が上の池と下の池を分けている。下の池が大きい。
バス釣りの人らでにぎわうのは下の池である。
この下側の池。地形がやや複雑で、コンクリート護岸の場所とそうでない場所があり、小さなワンドの奥は葦や茅の水漬く泥底の浅場となっている。ほかにも雑木の枝葉が水面を覆う場所、水生植物が水ぎわを縁取っている場所、菱藻の絨毯の敷かれた場所、等々、とにかくバス釣り師の目から見れば変化に富んでいて魅力的というほかない。じみちに足を使って当たっていけば、めぐる先々でいろんな釣り方が楽しめそうである。
とりあえず、やったぜ、baby!
相棒ピーナッツ㈼はライギョにも効くのだ
しかし、私がバス釣りをおこなったのは下の池ではない。ここまで宣伝しておきながら上の小さい方の池が釣り場だというのも困った話だが、まあ、偏屈な爺ぃのやることなので大目に見てほしい。
上の池だが、夏場は分厚いカバーに覆われて釣りづらい。釣りのしやすいカバーの少ない年は嫌な濁り方をする。どっちもどっちだが、今年はカバーの多い夏になるか、少ない夏になるか、まぁ、どちらにせよ今はまだ水質の悪くない時期だけに躊躇なく仕掛けを投入できた。
今回は上の池と下の池を分ける土手から釣りをした。護岸を少しずつ横に移動しながら仕掛けを投げたり巻いたりしてバスを狙った。ほぼ四角いかたちをした池で、左右は雑木林である。対岸は水辺を葦が縁取る荒れた草の土手で、人の手によって成ったものとも思われない自然味あふれる景観がワイルドだ。さらに、その上は畑のようだが、今は、作物は植えられていないようだった。
いきなり、左の雑木林の奥から捕食音が聞こえた。水面近くまで垂れた枝葉の奥なので直接目で見ることはできないが、生じた波紋のひろがり方から察するに大型のバスのように思われた。
胸が騒いだ。
斜めに狙えばどうにか届く距離なので何度か仕掛けを垂れた枝葉の下へと滑り込ませてみたがアタリはなかった。
その後は、右へ右へと少しずつ居場所を移しながら投げては巻き、巻いてはまた投げるという釣りに徹した。土手はさほど長くはないので、休まず当たっていくと端っこまで釣りきるのに苦もなかった。右の端には水の落とし口が設けてある。狭い水路が下の池までつづいている。水は枯れていたが、たとえ流れていたとしてもその勾配の急さゆえにバスがフィーディングするには適さなかった。
アンブッシュ10lbを使用
今回はライギョの三連発でしたぁ〜
今回はスピナーベイトを投げ倒すと決めて来た。池の底は金魚藻か何かのきれいな水草がびっしり生え揃っている。その上っ面を底だと見立てるなら、水深は一メートル程度の深さである。プラグで水中の水草の上っ面を引くとなると、その種類によってはフックに水草が引っ掛かって釣りにくい。なので、スピナーベイトが釣りやすくていいと考えた。
しかし、こういうシュチエーションならこれ以上最強のルアーはないと思われたスピナーベイトが空振りに終わった。
と、なると、もうあとは非常手段に訴えかけるしか手はないではないか。ここはひとつピーナッツ様にお出ましいただくしかあるまい。
「よう、相棒。出番だぜ!」
水の落とし口付近は木の葉が浮いて水面下の様子がわからない。それでも水の落とし口のある池の角付近ということでポイント的には有望と思われた。
さっそく、投げてみた。水の落とし口めがけて浅い角度で仕掛けを投入すると、落とし口のコンクリートにぶつかって、カチッと音がした。むろん、ピーナッツ様が鼻の頭をぶつけた音だ。ピーナッツ様には申し訳ないが、このカチッという音がバスの気を引くのだと先達から聞いていたので期待した。
しかし、何の音沙汰もなかった。
さらに、そのあとがいけなかった。
第二投目はいい場所に仕掛けを落とせた。すると、いきなりガブッと何かが食いついた。うまくフッキングさせたが、明らかにバスとちがう引きである。バスよりシャープなキレのある身の振りと素早い走りをみせた。水面に浮かせてからも派手に暴れた。食いついたのはライギョであった。手ごろなサイズだったので引きあげて写真を撮った。
ゆっくりしている暇はなかったがファーストフィッシュである。記念に一枚手持ちの写真が欲しかったので撮影した。
時間を確かめると早いもので、もう既に帰る時間が差し迫っていた。気が少し急いた。
「なんだよォ、ライギョかよ」
バスを釣りに来たのだから、この嘆息は心底のものであった。
何だか釣れる気がしない。もう帰ろうかとも思った。
しかし、ボイルがあった左側の雑木林の際を攻めずに帰るのは惜しかったので、もういちど最初の場所へ大急ぎで戻っていった。
すると、また二投目にライギョが食いついた。一匹目よりも大きい。このライギョは早々にお帰りいただいたが、池の真ん中に近い方で何かがボイルした。正確にはボイルしそうになった。水面が静かに盛りあがりその後炸裂は見なかったが、大きなバスにちがいないと私は睨んだ。それは、私の願いでもあったが、その精いっぱいの願いが通じたか仕掛けを投入すると明確なアタリが来た。バスでないとすぐわかった。^^;(汗)
この闘い方は三匹目のライギョ、しかも巨大なライギョだと推察できた。引きが半端ではない。しかし、その暴力的なまでに半端ない引きも時間が経つにつれおとなしくなっていった。既に引き倒される感のない、今はただ重く、息切れしたような引きに変わった。
それはまさに、息切れだった。ライギョは空気中からの酸素補給が欠かせない。逆に体表が湿っているかぎりは陸にあげておいても平気である。それが、ライギョである。
「降参や、降参するから、はよう鈎はずして逃がしてくれ」
水面に浮きあがったライギョの口からは、そんな声が聞こえてきそうだった。
その証拠に足元まで寄せても、されるがままおとなしかった。
ただ、今はぐったりしている様子だが、空気を吸ったら逆に元気になるにちがいない。そうならぬうちにお帰りいただこう。
私はペンチで口に掛った鈎を丁寧にはずしてやり、その大きなライギョを手早く水にもどした。すると、奴はヨタヨタと深みへ泳ぎ去って行ったが、その姿が年寄りじみて見えたので、なんだか後味が悪かった。
けっきょく、バスを釣りに来てライギョしか釣れなかった。
しかも、ライギョの三連発。
初めての経験だが、むろん嬉しくはなかった。がっかりもしなかったが、喜ぶには心のうちに納得できない何かが残った。
夕方に時間が出来たのでダム湖にバスを釣りに行った。このダム湖はボート釣りが禁止になっていない。
私が岸からルアーを投げたり巻いたりしていると、「前を通ります。すみません」と礼儀正しい若者が声をかけて来た。なるほど、ボートは今、釣りをする私の前を横切ろうとしているわけだが、べつに釣りの邪魔になるほど距離を詰めて来ているわけでもない。
もともと焦らず力まず釣るタイプなので遠投もしないし、若者のボートなど気にもとめていなかったが、なるほど釣る手を休めてよくよくみると意外に近いようでもあった。
「釣れた?」と私は若者に声をかけた。
「すれていてダメですねぇ。ボートが近づくと音と気配で警戒されちゃうみたいで」
逆に釣れたかと問い返されたので、こっちも全然釣れないと明るく答えた。
静かな湖面を滑るように移動していくボートに向かって手を振ると、若者も手を振って応えてくれた。
その少し後のこと、岸からは攻められない湖上に張り出した樹の下辺りを狙っていた若者の竿が綺麗な弧を描いて撓った。浮かせようとするほどバスは潜行しながら抵抗の手を緩めない。それでも、若者の腕が勝ったようで、ついにはボートぎわへと寄せられてしまった。
ランカーではないが、良型にはちがいなかった。
「やるなぁ!」
私が声をあげると、
「ありがとうございます」
そう言って若者はバスを掲げて見せた。
アンブッシュ10lbを使用
壁ぎわに落としては、丁寧に引く
私は夕暮れ迫るダム湖のほとりで、次また仕掛けに結ぶべきルアーを決めかねていた。最初のルアーもその次のルアーも不発に終わってしまったので交換しなくてはならないのだが、どれにするか迷っていた。
すると、私から遠くない沖の方で派手なボイルが起きた。鯉がもじったのかもしれないが、バスなら相当大きい。静かな湖上に大きな水の輪がひろがった。その波が岸で釣りをする私の足元まで届くことはなかったが、少なからず気持ちがざわついた。その後しばらくのあいだ湖上のあちこちに水の輪が生れ、消えていった。
ボイルは派手なものから魚が水面の虫を吸い込みに浮上してきたと思われる控えめなものまで様々だった。
私は気が急いた。
じつはいろいろ考えたあげく深く潜るプラグを投げて、ボトムノックという釣法を試してみようとしていたところだったのだ。
なのに、水面が騒がしくなってきた。
急遽、私は手にしていたクランクベイトをケースのなかへともどし、新たにトップウォータープラグを指につまみあげた。つい手が伸びた。もし誰かに、「なぜそれを?」と問われたら実績のあるルアーだからと答えるだろう。
しかし、このときは殆んど無意識だった。
やや図体の大きいダブルスイッシャータイプのトップウォータープラグで、たしかメガバス社の製品だったと記憶している。前後に金属製のプロペラが取り付けられているが、取り付けの精度が高いせいか前後ともスムースによくまわる。水面を攪拌してバスの気を引くほか、回転するプロペラ自体の音もバスを寄せる効果が高いとされている。
じっさい、私はこのタイプのトップウォータープラグが好きでよく使う。たしかに釣れるし、食いつくさまがばっちり見えるというのは釣りの醍醐味という点からも言うことなしだ。竿先で短く強く引き動かしてみると、ジュッ、ジュッと水を小気味よいくらいに攪拌する。次またジュッとやろうとして、そのつもりでタイミングを計っているとき、水面が盛りあがりざまに割れてバスがくわえ込むということがこれまでにも少なからずあった。食いつくバスのサイズは選べないが、まぁ、小さいのはあまり釣れない。
私は、これと同じトップウォータープラグの色ちがいを数個所有しているが、こちらは低打率に甘んじている。どこがどうちがうのかわからないが、よく魚を連れてくるルアーとそうでもないルアーがあることを読者諸君も釣り師ならよくご存じだろう。当然、釣り談議の席でも話題となるが能書きを言い合ったところでこれだという答えを導き出せるわけでもない。釣れるからよく使う、よく使うから釣れるということだけでは済まされない何かがあるように思われるが、そう実感してはいても本当のところは誰にもわからない。
考えても無駄なら投げて誘ってみるほか手はない。投げて、釣れたら儲けもの。また実際よく釣れるから頼りにしてしまう。
ほんとうは羽根物系と称されるルアーのなかから気に入ったやつを起用したかったが、気がつくと、このスイッシャーを手にしていた。
ピックアップするまで気が抜けない!
ずっしり重い、値千金の一匹<
思えばこいつ、いいバスばかり連れてくる
ボイルはあっという間に静まって、もう今はダムサイトの際で散発的にみられるだけである。ダムサイトの巨大な壁を斜に見る位置に私はポジションを定めた。壁ぎわに沿って引いて来るのがいちばん手っ取り早かったが、それは最後の手段である。そんなのはつまらないと思った。
壁ぎわに落として、二度ほどジュッ、ジュッと強く短く誘う。その後はプロペラがいい感じに回転するような速度でタダ巻きをする。岸寄りの側から順に、投げては引く。もう少し沖側にずらして投げて引いてもみる。そのたびに期待に胸が膨らむ。同じ立ち位置から扇状に投げて引くというのは悪くない手である。しかし、それが唯一無二の方法というわけでもなかった。それはたしかにそうだが、今日はこの手でいくと決めた。決めたら、もうやり抜くしかない。
すると、何投目かにバスがいきなり食いついた。真下から突き上げてきた感があったが、じっさいはどういうふうに食いついたかはっきりとはわからなかった。
手応えから大きいようだと感じた。ロッドを引き絞ってみて、それは確信に変わった。とにかく引きが重かった。石組み護岸が斜めに沖の方までつづいているが、水が澄んでいるにもかかわらず先の方は底の様子をうかがい知ることができなかった。なにせ、ダムサイト側を釣っているのである。水深があるのは当然のことであった。深いとバスもぐんぐんよく潜る。すると、引きが重くなる。手元に堪えた。ところどころ金魚藻が生えているほかはこちらの不利になるようなストラクチャーは見当たらなかった。時間をかければ捕れる魚だと確信した。一度こちらに頭を向けさせたときにフックがしっかり掛っているのを確認済みである。なので、落ち着いてやり取りすれば大丈夫だと踏んだ。とはいえ、何が起こるかわからないのが自然相手の釣りである。相手が小さくないだけに敗北の憂き目だけは見たくなかった。
よく闘ったせいか、水ぎわへと寄せられて来たバスはおとなしかった。ラインを緩めないよう慎重にバスに近づいて口の端を指につまんだとき、「やった!」という言葉が自然と口を突いて出た。
まさしく胸を張ってよいサイズのバスであった。
よく闘い、疲れ果てた様子のバス
この立派な尾鰭。道理で引くはずだ
トップでこのサイズなら、文句なし
よく行く野池だが、減水していた。水の落とし口付近はとくに浅く、水面に覆い被さる青葉の下は薄暗くて陰気な感じがした。夏なら涼を求める魚たちにとって最適な木陰ということになるが、今はそういう季節ではない。むしろ、ブロック護岸の傾斜部を丁寧に攻めた方がバスを手に入れやすいにちがいなかった。とはいえ、こういう樹の下でバスがヒットすることは稀ではなく、そういう経験が身にしみついているせいか、今日は出そうにないぞと頭で思っても、つい仕掛けを投げ入れてしまいがちだ。
なので、今回もダメ元でトップウォータープラグを試してみることにした。まずチョイスしたのはアメリカ製。へドンというメーカーのトーピードというルアーである。後尾に金属製のプロペラが一つだけ付いているスイッシャータイプのトップウォータープラグで、これまでに何度もいい目をさせてもらっていることから最初に試すことが少なくない。
水面を覆う樹の下は空間が広くて仕掛けを投入しやすいのが嬉しかった。が、しかし、バスが居るかまた別の話である。
私は仕掛けを結びながらも水のなかの様子が気になった。水は澄んでいたし、様子は手に取るようにわかった。にもかかわらず魚の影ひとつ認められない。これには些か気落ちした。
トップも選択肢の一つではあるが、クランクをセット
バス見っけ! トップに変えるかのっ
ところが、仕掛けを投入し、巻いては止め、ゆっくり巻いては止め、あるいは竿先で短く強く誘っては止めしていると、あるとき追従してくる魚影らしきものが目に飛び込んできた。手を休め仕掛けを動かさずにいると、そいつも動かなくなった。そのうち水面下の影が手ごろなサイズのバスであるとわかった。おそらく四十センチはない。しかし、そいつがトップウォータープラグに食いついたなら、さぞかし楽しいだろうなと私は思った。
もしこいつをものにできたら・・・、と私は甘い考えに酔いそうだった。ありがちなことだが、そういうふうには考えるべきではない。あんのじょう、取らぬ狸の皮算用というわけで、先走る気持ちについ手元がおろそかになって、そのぶんだけ誘いが雑になってしまったようだ。
バスの方でも、「こいつは何か怪しいぞ」と勘付いたのだろう。せっかく寄って来たというのに、ついには見切って姿をくらましてしまった。
「なんだよォ、気を持たせやがって。けっきょく食わないのか」
私は吐き捨てるように言った。
その後、何度か似たような攻め方をしてみたが、バスが姿を現すことはついになかった。
それなら少し場を休ませてやるしか手はない。そう考えた。
そこで、ブロック護岸の傾斜部に着くバスがいるかもしれないと思って斜め打ちしながら歩いてみたが、残念なことに水面を割って出るバスはいなかった。
私は最初に釣りをはじめた場所が気になった。少し場を休ませたことが功を奏してもうそろそろバスが食いついて来るかもしれないと思ったからだ。
しかし、ミスキャストもなく何度か狙いどおりいいところに仕掛けを投入するも、やはりバスが姿を現すことはなかった。
これにはかなりがっかりした。一匹も釣れないのに時間ばかりが過ぎていく。
なんとか気分を一新しようと、こんどは水の落とし口のある側へ場所を移してみた。この辺りはちょっとしたワンドになっている。ワンドの出入口を正面に見て立つと、右が雑木林、左がブロック護岸である。ブロック護岸側と雑木林の側と、ちょうどその真ん中辺りの底がうんと盛りあがって山なりに浅くなっている。その浅場は、私の居る水の流れていない水の落とし口側から対岸の方角に向かって馬の背を成している。つまりそれは池の底につづく山脈のようなものだが、その両肩の傾斜部にもしバスがフィーディングしていてくれたなら勝負は早いにちがいなかった。プラグを投げて引けば食うだろうし、トップで狙ってみても面白いにちがいないと思われた。
しかし、水はよく澄んで、底が丸見えである。おまけにバスの姿はない。これでは仕掛けを投げ入れたところでしょうがないように思えた。
そこで、右側の樹の下をプラグで狙ってみることにした。浅くもないようなので、プラグで攻めてもじゅうぶん期待できそうだった。
プラグといえばピーナッツⅡである。
よっしゃ、バレんなよ!
「相棒、頼んだぜ!」というわけで、さっそく投げて巻いてみた。
すると、コツンとアタリが来た。
最初のアタリだけに大事にいこうと、その後も足元まできっちり丁寧に探ってみたが、幸運の女神がほほ笑むことはなかった。その後、数回投げてみたがアタリもない。次投げてダメならあきらめようと思った。
ところが、投げて、巻きはじめるとすぐに抜き打ち強盗的にバスが食いついた。水面に近いところでヒットしたせいか沖へと一目散にバスは猛ダッシュした。
おぉっ、元気いいなぁ〜
やったぜ、まあまあのサイズ!
それでも、危機感はなかった。
このバスは無事にランデインングすることができたが、メジャーを当ててみるまでもなくたいしたサイズではない。
アンブッシュ6lbを使用した
もちろんルアーはピーナッツⅢ
今日も楽しんでます!
写真を撮ったあと無罪放免してやったが、バスは恩に着るそぶりも見せずにゆっくりと水の深みへと姿を消した。
それっきり、アタリが遠のいた。
その後は、バスの姿も見ないまま時間だけが過ぎていった。
早起きは三文の徳という諺があるが、まぁ、早起きして来たところで、このざまである。たしかにボウズでなくてよかったといえば、まぁ、そのとおりだが、心の隅にくすぶりやまぬものがあった。
夕方また出向いて来ようかどうしようかと思案していると、腹の虫がグウと鳴いた。
確かに腹が減ってきた。なので、帰って飯を食うことにした。
一日かけていくつか野池を巡ってみた。
春は大型のバスを比較的イージーに釣ることができる季節なので、野池へ出かけていく回数も増えがちである
今朝はヤル気で来ています
今回は、大好きな巻き物のなかでもスピナーベイトを多用してバスを狙ってみた。
釣り仲間から貰ったDVDを観て、スピナーベイトの有効性を再認識したので、ちょっとばかりかぶれてみることにしたのである。貰ったDVDというのは並木敏成出演の力作で、ボートからスピナーベイトで大きなバスを連発させていた。このDVDではスピナーベイトの有効性について持論を展開しながらバスを釣りあげていたが、あとに尾崎晴之から貰ったテレビ番組の録画では、太いバスをヒットさせて、「スピナーベイト! スピナーベイト!」と語気を荒げながらファイトするシーンが印象的だったので、私もまず一匹バスの顎に鈎を掛けたなら、その口真似をしてやろうとチャンスを狙っていた。
なんかちがうよなぁ、食わない
ところが、最初に出かけた神内池ではアタリすら拾えず、おまけに根掛りでプラグを一個なくしてしまい、それこそ泣き面にハチであった。スピナーベイトオンリーでやりきると決めて始めたのに、途中でプラグに浮気したため罰が当たったのだろう。そのプラグは新品で、少し前に購入したものだった。それを、たった二回投げただけでなくしてしまうとは全くもってついてない。
釣りにはメンタル的なことも影響するので、これを引きずっていては今日の釣果に暗い影を落としかねないと危惧した。ほんとうにそうなってしまってからでは元も子もないので、テンションを下げないよう気持ちだけでも明るく振る舞うよう心して努めた。
すると、そうしているさかなに鵜が水中から浮きあがって来て、私を見るや小馬鹿にしたような喚き声をあげながら飛び去った。もしかするアタリがないのは、この鵜が水中を泳ぎまわってバスを脅したからかもしれなかった。
しかし、腹を立ててみたところで、文句を言うべき相手の鵜の姿はもうどこにもない。罵ってみたところであとの祭りであった。
今回も途中行きつけのコンビニに寄って朝食を買って来ていた。なので、時を盗み車のなかで少しずつ食べた。じっさい、食べるほどに、よしやってやろうという気持ちになった。
フナもいい引きしますよ、このサイズになると
野性味あふれるフナが釣れた
しかし、気合を入れてスピナーベイトを引いてはみたものの午前中はおろか午後になってもアタリひとつ拾うことはできなかった。めぐる池めぐる池、バスからの音沙汰がない。べつのスピナーベイトに交換しても同じであった。緩急つけた巻きと、層を変えて引くというセオリーどおりの攻め方のほか、斜向かい対岸にキャストして岸際のかけさがりに仕掛けを添わせながらカーブフォールさせるというボートフィッシングさながらの釣法も試してみたが、けっきょく納得のいく結果は得られなかった。
ただ時間だけが無情にも過ぎていく。
早くも夕暮れの気配が野といわず山といわず染み出るように辺りにひろがって、その後次第に景色は色を失っていった。
私は気持ちを暗くした。少々焦ってもいた。
ちょうどそのとき、池に付属する水路に何やら魚が群れてバシャバシャやっているのを目撃した。大半は鯉だが、ライギョの姿もあった。ブルーギルも居た。バスだけは見当たらなかったが、居ないはずはないと思われた。とにかく魚が気を上ずらせているのは確かだった。
下に降りていけば釣りはしやすいが、底が浅いだけに魚を脅かしてしまいかねない。しかしながらガードレール越しに釣るには足場が高すぎた。そこで、ルアーをスピナーベイトからプラグに交換した。ふつうに釣ると深く潜り過ぎるプラグもその足場の高さゆえに表層をヨタヨタといい感じに泳いでくれた。
すると、二回投げただけで答えが出た。
私はファイトしながら右にまわり込んでスロープから水際へと小走りに降りていった。バスじゃないなと薄々勘づいてはいたが、「このさい釣れたら何でもいいや」と思って真剣にやり取りした。しかし、寄せ切ると、そいつが大きなヘラブナであると知って些か気落ちした。
それでも、立派なヘラブナだったので写真を撮った。
アンブッシュ12lbを使用
ヘイ、ヘイ、ヘイ、T並木〜ぃ!
もう暗くなるのも時間の問題だった。
そこで、先日、尾崎晴之が四十センチ級を二匹仕留めた里山の麓にある野池を車でめざした。移動距離はたかが知れている。缶コーヒーを飲み終わる前に釣り場に到着した。
車を降りて、土手の上に立つと、バスを大きく育む条件の揃った釣り甲斐のある野池だけにいやがうえにも期待が高まった。
水の落とし口に近い方は菱藻が水面を覆っている。底には全体的に金魚藻などの水草が生え揃っているにちがいなかった。勢い余って水草が水面まで伸びあがっているところも見うけられる。水中の藻は同一種か、あるいは多種混合かは土手から観察する程度ではよくわからないが、仕掛けを引っ掛けてもルアーを取られてしまう心配がないので、きわどい攻めをするにも気楽にやれた。
水中の藻場の上っ面を引くのにスピナーベイトは最適であった。もし事前に尾崎から詳細を聞かされていなかったとしても、やはりスピナーベイトを迷わず使ったにちがいなかった。
ブロック護岸のあるところにユル抜きの装置が設けてあった。コンクリートの階段が水のなかまでつづいている。その階段から池の真ん中辺りへとキャストすると足元まで何事もなくスピナーベイトを引くことができた。少し沈めてゆっくり引いてみると、水中の藻の上っ面をかすめるように仕掛けを通すことができるが、そうしはじめて数投目にバスが食いついた。手元にズシッと重みが来た。アタリらしいアタリはなく、いきなり重たくなった。仕掛けを引き絞ると、グイグイ引いた。それで、魚が食いついたと知った。バス以外の魚も居るには居るがバスにちがいなかった。手応えからも、まずバスであろう。
さぁ、帰ろうか、欲張らずに
スピナーベイトで釣れました
しばしのやり取りのあとに手にしたのは、やはりバスだった。それもいいサイズのバスだ。さっそく写真を撮った。
しかし、同時に間抜けなこともやらかした。
逃がしてやってから、そのことに思い当った。
「バカだな、俺」
バスがヒットしたら、「スピナーベイト、スピナーベイト!」と並木敏成を気取って連呼する手筈ではなかったか。
先日、尾崎がいいサイズのサイズを二匹もやっつけているのだ。私にも一匹くらいヒットして不思議はない。そう釣る前から思っていた。
状況的にも期待が持てた。仕掛けの準備をしているときから、菱藻の下辺りにバスの気配が感じ取れた。そのあと間を置かず、水面のあちらこちらに水の輪が生れては消えていくようになった。水生昆虫の羽化が始まったらしく、そいつを食おうとして魚の気が水面に集中するらしかった。なかには勢い余って水面を割って出る魚もいた。
これは願ってもない状況だった。
そして、読みどおりに良型のバスを仕留めた。
なのに、釣ったバスを水にもどしてやってから、ものまねし忘れたことに気がついた。なんとも間抜けな話である。
たしかに私はT並木にあやかってバスを仕留めた。スピナーベイトの使い方の幅を広げる手助けをしてくれたのはT並木のDVDであることもまちがいない。
なので、並木先生の真似をして、もしサイズのいいバスがヒットしたら「スピナーベイト、スピナーベイト!」と叫んでやろう、そう決めていた。
なのに、これでは素直に喜べない。
けっきょく、このバス以外にアタリはなかったので、並木先生の口真似は次回に持ち越しとなった。
残念だが仕方ない。
残念だが、そういうことである。
元号が平成から令和に変わった。
だからといって何がどう変わるわけでもない。
生き方を考え直すとか、終活に力を入れるとか、菜食主義者になるとか等々を真面目に考えたこともなければ人に説いてまわるようなこともしてない。
今日は近日オープンすると噂されている大型釣り具店を見に行こうと車で出かけたのはよいが、うっかりして前を通り過ぎてしまった。引き返すのも面倒なので、ちょっと先にある野池に寄ってバスでも釣って帰ろうと考えた。この野池はバス釣りをしてないころから知っていて、飲食のついでに覗いてみたことがあった。じつは土手の下にたまに食事をする老舗のレストランがある。
その店の駐車場の横に住宅地へとつづく狭い坂道が通っており、その片側が池の土手になっている。
最初に覗いたときはスポーニングの時期だったようで、日当りの好い浅場に大きなバスの姿があった。コイも居たが、バスの方が多かった。大きいバスがけっこう目についた。私はフライでバスを釣って遊ぶことはあってもルアーで本格的に狙ったことはなかったので、「いっぱいバスが居るなぁ」という感想を持ったにすぎなかった。
その後も、会食のときなど土手を登ってみることがあった。季節もまちまちなのでバスが泳いでいないこともあったが、最初に覗いた春に見たバスがどれも大きかったので、五月上旬ならあのようなバスを手にすることも難しくないのではないか、そう安易に考えての寄り道だった。
車に道具を積んでいたのはオープン間近の釣具店に立ち寄ってたたずまい等を外からじっくり見物したのちに府中湖でバスを釣って帰ろうと思っていたからで、むろんそのつもりでいたのだが、私の好きなポイントへはウェーダーを履かないと入釣できないほど増水していると連絡が来たので、それでは竿を出してもしょうがないと諦めた。
そういういきさつから、急遽、この野池でバスを狙うことになった。
投げては巻く。釣れても釣れなくても
とりあえず釣れましたぁ
さて、いよいよ釣りのはじまりである。
土手にはカヤが立ち枯れ、カヤのないところは草が萌えだしていた。道路の側は一部分だけ雑木の林になっており、枝葉が水面に濃い影を落とす辺りは如何にもバスがひそんでいそうだった。道路に土手が接すちょうどそこのところに水の落とし口がある。道路と土手が接するもう一方の側には流れ込み口を設けてある。雑木林は水の流れ込み口に近く緑を繁らせており、その辺りは水深が浅くて大きなバスをよく見かける場所でもあった。
しかし、今回はバスの姿がなかった。そのかわりにコイが数匹泳いでいた。
コイでは仕掛けを投げても仕方がないので様子を見るだけにしておいた。
そのあと、雑木の影の映る水深のそう深くない辺りに何度か仕掛けを投げてみたが、出そうでバスは出なかった。
私は舗装路を歩いて水の落とし口のある側へと移動した。
場所替えしてすぐ結果が出た。小型ながらバスが連発した。
この頃はDVDの影響でスピナーベイトに凝っていた。前にも話したが、並木敏成のDVDを観てからスピナーベイトが多彩な使い方の出来る優れたルアーだと改めて認識したこともあって、もし大きいバスがヒットしたら、「スピナーベイト!」とか「ヘイ、ヘイ、ヘイ、T並木ぃ」とか口真似しながら並木敏成を気取っていい気になってみたいものだと真面目に考えていたのだ。
それで、たしかにバスは釣れた。しかも連発だ。もしサイズがよければ、「いよいよT並木劇場が始まりかけているねぇ~」と真似てみることになったであろう。
ところが、いかんせんバスが小さい。小さすぎた。
第一、自分しか竿を出していない昼下りの野池で、T並木の真似ごとをしてみたところでまったくのアホである。
アンブッシュ10lbを使用
無事、ランディング
サイズアップしたものの、これにて打ち止め!
このあと、少しサイズのましなバスが釣れたが、慌てず騒がず取り込んで、写真を撮ってから水にもどしてやった。令和最初のまあまあサイズのバスがこいつ、つまり写真のバスである。
じっと観察してみることも大事だ
寄せても安心できないのがバス。バレませんように!
狙えばまだまだ釣れそうな気がしたが、並木敏成先生の声色を真似て「スピナーベイト!」と意気込み叫ぶことのできるほど立派なサイズのバスが食いつきそうにはなかったので、この辺で納竿することにした。
いはら釣り具松茂本店で買い物をした後、近くの農業用水路で一時間ほどバスを釣ってみたがアタリもなかった。
最近、用事で徳島北東部に出かけたときには、その帰りに農業用の水路でバスを狙ってみるようにしている。
二十年、三十年前なら香川の農業用水路にも大きなバスがふつうに泳いでいたが、今は見る影もない。ミキカツさんの話によると外来害魚として駆除が進んだことで野池のバスが激減。そのあおりで農業用水路からバスの姿が消えた。
そういういきさつから狭い水路で大型のバスを狙おうとするなら、どうしても今は徳島まで足を運ばざるを得ない。
この話は、別枠でレポートにして発表しようと現在写真を撮りためているところなので、これ以上は書かないが水路の釣りもなかなか楽しいのである。
この瞬間がたまらない!
トップウォータープラグで
ナマズの猛攻にもめげずに
フロッグを投げ倒して
やったぜ!
広大な蓮畑のなかの水路で
松茂地区の水路で
蓮の花咲く季節に
さて、いはら釣り具を出た私は、前述のように店の近くの水路でバスを狙ってボウズを食らったわけだが、完膚なきまで打ちのめされたというほどやり込められたわけではなかった。
当日は汗ばむ陽気で、まだ暑さに慣れていない私は怠けて途中で釣りを諦めてしまった。もし、使える時間いっぱい精を出して釣っていたら、ひょっとしてバスを手にできていたかもしれないのだ。
まぁ、それはそれとして、そのような経緯から釣りに費やさなかった時間の余裕を利用して、その足で友人の会社に立ち寄った。前回、前々回は留守だったので、今回も留守かもしれないと思ったが、少しまわり道すれば寄れるということで気安く足が向いた。
いつものように女子社員に面会を申し入れると、珍しく野郎は自室に居て、難しそうな顔で書類に目をとおしていた。
「あきれられなかったか?」と渋い表情のままこちらを見ずに問うので、「もちろん」と私は即答した。
その間髪を入れぬ歯切れのよい声の発し方がわれながら素晴らしいと感じたので、私としてもまんざらではなかった。
ふらっと気が向いたらアポなしで顔を出す私のことを、その女子社員は「またか」と呆れているかもしれなかった。それが以心伝心ということで何となく野郎にも伝わって、それであんな言い方をしたのかもしれない。
「俺に直接連絡をしてから来ればいいじゃないか」と野郎はこちらに向き直って言った。
「おまえ、スマホだろ」と私は知っていて訊いた。
「ああ。それがどうした?」
「俺はガラケーだ。つながるか?」
すると、野郎は鼻で笑って、「それで、用件は?」と訊ねた。
「ないね、そんなものは」
一瞬の沈黙があった。
「だろうな。ちょっと訊いてみたまでだ」と野郎が言った。
それには答えず、私は言った。
「いはらに立ち寄ったその足で、近くの水路でバスを狙ってみたがスカを食らった」
そのとき、ノックの音が聞こえ、ドアが開いて、女社員がコーヒーを運んで来た。
「いつもすまんのう」と半分ふざけた調子で礼を言うと、彼女はくすっと笑ってから、丁寧にお辞儀をして退出した。
そのあと、野郎まで何か言いたげな顔で笑うので、「コーヒー一杯でそんなに笑われちゃあ情けないよ」と私はわざとバツ悪がってみせた。
すると、野郎が言った。
「古くからの腐れ縁だと、おまえが帰ったあと、おまえのことを彼女に話した」
「そしたら、偏屈そうなジジイだとでも感想を漏らしたか?」
私の皮肉に、野郎は笑って取り合わなかった。
「偏屈にはちがいない」と野郎が言った。
「早いものだな。三年か」と訊くともなく私は言った。
「いや、入社五年になる」
歳を取ると一年が早い。彼女が入社して、はや五年になるという。
「おまえが帰ったあと、飲み物は何が好きか、今後何を出せばいいかと訊いて来た。いい子が入って来たと思ったよ」
「ほう。そいつは感心だな。まさか隠し子じゃ?」
「バカ言え」と野郎は笑った。
「ほんとうかな」
私も笑った。
ジグヘッドワッキーリグでゲット。ワームはカットテールワーム
最近、(釣りのレポート等で)男爵の姿を見かけないが元気かと訊くので、仕事が忙しすぎてなかなか一緒に釣りに行けないのだと野郎に説明すると、「けっこうなことだが、気晴らしも必要だ」みたいなことを口にした。
「ちょっと前に会社へ顔を出したら見かけたことのある銀行員が来ていた。うちから金を借りてくれみたいな話をしていたよ」
私がそう言うと、「そいつは、けっこう」と野郎は安心したように頷いた。
ゲーリーヤマモトのワームだけ使ってバスを狙った
スピニングタックルを使用した
その後も小一時間ほど世間話をして過ごした。
帰り際に、「これ、もっていけよ」と手土産をくれた。野郎はそれをデスクの抽斗から取り出して私に手渡した。何かと思ったら紙袋の中身はゲーリーヤマモトのワームであった。パッケージのデザインが現行品とはちがっていたが、どれもみな新品だった。保管状態がすこぶるよく、中身そのものに劣化は見られなかった。
「ガブッと来るぜ」と野郎が言った。
「ガブッとね」
「そう、デカイのが」
ゲーリーヤマモトのワームと私は相性がいいので有難く頂戴しておくことにした。
後日、そのワームを試しに近所の野池に出かけてみた。テールがカールしている四インチのワームをまず試してみようと思って袋から取り出しオフセットフックにセットした。そして、手始めに表層をゆっくり、ごくゆっくり慎重に引いてみた。ゲーリーヤマモトのワームはソルト含有率が高く重たいため、ノーシンカーでも遠投が効く。竿を立て気味にしてリールを巻くと、引き波を立てながら水面すれすれの深さをこちらに向かって泳いできた。カールした尻尾がくねくねとよく動くので、いかにも釣れそうだった。
「こいつはいいや」
上機嫌で尚も引きつづけると、波ひとつない沖の方でいきなりバスが私のゲーリーにバイトして来た。
不意をつかれて、アワセが遅れた。それでも手応えじゅうぶんだった。仕掛けを引き絞ると、バスが水面を割って宙に躍り出た。そのときワームがフックからはずれて飛ばされるのを私はこの目に見た。それでもフックは外れることなくバスの口をとらえて離さなかった。スピニングタックルでやっていたので竿がしなやかなぶんやり取りしやすく、仕掛けの扱いも楽だったので気持ちに焦りはなかった。バスのサイズも中くらいだったので尚のこと落ち着いてやり取りできた。
このバスを手にした直後に、すぐまた似たサイズのバスをキャッチした。バスのうわずった感はありがたかったが、次また投げても同クラスのバスしか食いついてこないような気がしてモチベーションがあがらない。
それで、釣り場を移ることにした。
さっそく、すぐ上にある野池に場所替えした。上の野池と下の野池は水路でつながっている。上の野池が増水すると下の野池へと水路を通って水が流れ込む。このほか、ユル抜きの方式によっても下の野池に水を落とすことが可能である。
傾斜の急な草の斜面を登って上の池へと向かう。少し息が切れた。
土手の上に出ると、火口湖を見るような眺めが眼下にひろがった。水面が低い。やや減水気味とはいえ、そのような眺めは土手が強固に高く作られているせいでもあった。コンクリートの階段を降りきると薄濁りの水は陽の匂いがした。午後から雲が南西の空に湧いて、薄日が漏れたり曇ったりの天気となったが、晩春の陽ざしにあたためられて水はいいぐいあに温んでいた。護岸のコンクリートに手を触れてみるとあたたかかった。天気も水温もまずまずである。そのことが私を元気づけた。
「ここなら期待できそうだ」と、内心思った。
ワームは池の四隅を釣るのにうってつけだと聞かされていたので、ちょっと試してみる気になった。野池の四隅はどれも魅力的に見えた。
ただし、対岸の左右は釣りにくかった。私の立つ側の岸の左右は傾斜がやや緩くコンクリートで護岸されている。とくに左側はスロープを設けてあり、足がかりに不安がなかった。対岸側は、垂直に近い壁で、両隅とも足がかりが全くない。空気抵抗の少ない重量のある仕掛けをスピニングタックルでキャストすれば何とか届くが、そういう仕掛けを組むのにじゅうぶんな準備をして来なかったのであきらめるしかなかった。
まず、こちら岸の右側の隅に仕掛けを入れてみる。何度かワッキーリグでいい目をしたことがあるので、それに向くワームをチョイスして、さっそく釣ってみることにした。葦の緑がみずみずしい。その水漬く葦の間際を狙ってキャストすると、その葉にワームが命中してチャポンと水に落ちた。やや間を置いてからちょいと誘ってみる。すると、明確なアタリが手元に来た。アワセを入れると、若いバスらしい元気のいい引きが手元に伝わってきた。正直、もう少しサイズが欲しかったが、一匹は一匹である。下の野池で釣れたバスよりも小さいが、ワッキーリグで釣ったバスだったので思わず顔がほころんだ。
私は状況を睨んで仕掛けを変更した。センコウ四インチのノーシンカーオフセットフックリグに組み替えて左の隅を狙ってみることにした。その辺りは風に吹き寄せられたゴミに水面が覆い尽くされていた。ゴミの大半は枯れて折れた植物の茎や木の葉で、近づいてよく見ると水面を覆うゴミのカバーには薄いところとそうでないところが見てとれた。
さっそく、カバーの上に仕掛けを落してみた。少し誘ってみる。しかし、アタリはなかった。その後もセンコウ四インチをゴミの上に放置したままにしたり、ちょいと仕掛けを動かせ誘ってみたりした。すると、止めたワームが動き出す寸でのところで狙い澄ましたようにカバーの下からバスが襲いかかって来た。一目で大きいバスだと知れた。その手応えからもナイスサイズのバスだと確信した。口にフックを刺されたバスは怒りと怯えからかよく暴れた。カバーの下から引きずり出したあとも力強い引きをみせた。
センコウにヒットした良型
このバスは四十センチオーバーで、今日一番の大物だった。
前から相性のいいセンコウだが、今回も例に漏れずナイスなバスを呼び込んだ。それはじつに素晴らしいことだった。そう思う一方、ゴミの上を這うセンコウ四インチは、ゴミの上を這っているというだけのことで、水中のバスの目にそいつが見えているわけではなかった。
「バスから見えないのに、センコウである必要はないでしょ」
そう言われてしまえば返す言葉もないが、やはり相性のよさが引き寄せた一匹にはちがいなかった。
しかし、いただけないことに、その後、アタリは遠のいてしまった。移動しながら気が向くと仕掛けを入れてもみたが、底の物陰にじっとして動こうとしないのかバスからの音沙汰はなかった。
そうこうするうちに、そろそろ帰らなくてはならぬ時刻となった。
ちょうど腹も減って来たところだったので、きりよくストップフィッシングとした。
五月が来た。
そろそろフロッグでバスを狙いに出かけてもいい頃だ。
「まだ早いのでは?」
という声が聞こえてきそうだが、野池に菱藻のまばらなこの時期だからこそフロッグを投げてみたい。
菱藻にかぎらず、野池の水面が水草で覆われる夏場は、同じ目的から同じような道具を手に大型のバスをやっつけてやろうと、どこからともなく釣り師がぞろぞろ集まって来て、ちっとも気が休まらない。だいいち早朝は釣りに行けないことが多い。なので、どうにか時間に都合をつけて遅ればせながらと釣り場へ出かけて行っても、すでにフロッグを引き倒した痕跡が菱藻の上にくっきりと残っていたりする。評判の池ほどそういうありさまだからこっちとしては頭が痛い。
あるところを起点に放射線状に延びる直線に、また別の場所から放射線状に延びる何本もの直線が交差し、そこに規則性を伴わない直線が思いついたように描き加えられているのを目の当たりにすると、もうそれだけで釣りをする気が失せてしまう。
フロッグで先を越されたのなら、仕掛けを沈めて狙えばよい。やりようなら他にいくらだってある。しかし、そう口で言うのは簡単だが、フロッグを投げたくて来たのだからフロッグでバスと勝負したい。そう思うのが人情だろう。
投げる。そして、誘う
でも、まだ今の季節は心配ない。五月上旬から野池でフロッグを投げてバスを狙っている釣り師などこれっぽっちしかいない。なので、やりたい放題である。
今回は珍しく早朝に近場の野池を訪れた。
平日ということもあって釣り師の姿はなかった。
ただ、この野池はヘラブナを放しているのでヘラ釣り師に人気がある。岸辺にはヘラ台が設置されており、それは鉄筋と木材でしっかり組み上げられているが、クラブの所有か個人の所有かは別にして、この日は早朝から弱った個所の修理に年配の男性が二人やって来ていた。二人は私の三倍も早起きして来たらしく、私が道具を準備しているあいだに修理を終え、片づけしはじめた。二人のうちの一人が軽ワゴン車をまわしてくると、運転手が降りて来るのを待つこともなく、もう一人がせわしなげに工具や板きれを積み込みはじめた。後始末はあっという間に終わって軽ワゴン車は土手から公道へと出て走り去った。
このサイズなら文句なし
よし、捕ったぁ、いいサイズ!
救命具装着!ジジイは足がもろく落水しがちなので
釣行当日の早朝は相当冷えた。近年ささやかれる温暖化とやらが嘘のようである。五月がこんなふうだから今年の夏は比較的すごしやすのではないかという見方をする人もいる。気温が低めに推移すれば台風も少ないか、来たとしても勢力の弱いものになるはずだと楽観視する人さえ少なからずいる。だが、明日のことは誰にもわからない。明日どころか、今日これからフロッグでバスが釣れるかどうかも私には自信が持てなかった。
野池は靄がかっていた。
ちょっと前からウグイスが鳴いている。若鳥らしく、声量任せに囀っては、少しのあいだ黙った。沈黙は雌からの色よい返事を待つ雄なのか。あるいは雌が雄に恋をしかけるのか。想像してみたところでウグイスの色恋のことなど無粋な私にわかるはずもなかった。
護岸を足元に注意しながら降りて水辺に立つと、雑木が水面に濃い影を落としている左側の岸沿いが気になった。水が澄んでいるせいで、底が丸見えである。覆いかぶさる枝葉と水面との距離がわずかしかないところもあって、そういう場所は仕掛けを入れるにも難儀しそうだった。バスはそういう下陰にひそんでいる。そう思えた。シェードは夏の日中にバスが避暑のため身を寄せるので狙い目であると先達から教わっていた。それならこの季節はどうか。そこまで聞いていたわけではなかった。
けれども、バスは物に就く傾向が強い。休息の場としても、そこはもってこいの居場所だと信じてチャレンジしてみることにした。
これから夏に向け出番の多くなるフロッグたち
バスを水にもどした後、やったぁ感がさらに増大!
本来そこはワームをスキッピングさせて覆い被さる枝葉の奥の奥まで滑り込ませるのが最善の策にちがいないのはまずまちがいなかった。
けれども、今更仕掛けを組み替える気はさらさらないので、フロッグで勝負に出た。
水面上で誘ったりタダ巻きしたりするタイプのルアーのなかでもフロッグは特別であり、ほかのトップウォータープラグとはちがって障害物にフックを引っ掛けて釣りを台無しにするリスクが極めて低い。おまけにスキッピングもお手のものである。ワームのばあいは覆い被さる枝葉と水面のわずかな空間の奥へと滑り込ませたとしても、そのまま水面に浮かべておくことはできない。もちろん、沈んでいくからこそバスがそれに気づいて、もし餌だと認識したなら食いつくわけで、それも優れた戦略だといえなくはないが、物陰に滑り込ませたフロッグは沈まないからうまくやればオーバーハングの奥の奥に浮かべたまま長く放置しておくことができる。また、こちらの気分次第でじっくり時間をかけて細かく誘うことも可能である。
ワームを使ったスキッピングは普通におこなわれるがこういうシュチエーションでフロッグを使う人はごく少ないにちがいない。じっさい、五月にフロッグを使ってこういう釣りをする人を私は数えるばかりしか見たことがない。
結果から先に書くと、この釣り方が的を射て、いい体格のバスを手中に収めることができた。オーバーハングの奥の奥にフロッグを滑り込ませ、しつこく攻めつづけることで、まんまとバスをものにした。ちょっと誘ってから放置。これをくり返すうちに、「ガボッ!」という音が確かに聞えた。ちょっと気押されてアワセが少々遅れたが、どうにか間に合った。仕掛けを引き絞るとバスは何を思ったか、沖方向へといきなりダッシュした。フロッグの仕掛けは強く、タックルもそれ用に強いものを用いていたにもかかわらずバスは水中を突き進むかまえを崩さなかった。
私は落ち着いて、柔軟に対処した。
バスの力にかげりが見えはじめまでにそう時間はかからなかった。
仕掛けの強さからしてフックアウトしないかぎりこちらの勝ちと最初から決まっていた。
そのとおり、こちらが勝った。
いいサイズのバスを手にした私は、二匹目を期待して、その後一時間半ほどフロッグを投げ倒してみた。が、しかし、どうにもタックルがごつすぎて、体力、気力がもうそれ以上ついていけなかった。
バスには、勝った。
けれども、歳には勝てなかった。
ちょっと情けないが、そういうことである。
工芸作品のようなリアルで美しいルアーも好きだが、「ちょっと間に合わせで作ってみました、たぶんバスにも気に入ってもらえると思います」みたいな思いつきで拵えたとしか思えないへんてこりんなルアーも好きである。
しかも、そのちんちくりんなアメリカ製をじっさい野池で使ってみると、「なるほど、じつによく考えてある」と唸らせられる優れ物が少なくない。
そのなかでも、羽根物系とスイッシャー系の二つを私はおもしろがって最近よく使う。
クレイジークローラーでまず一匹!
ヨタヨタと岸に沿って水面を引いて来ると沖側から飛んできて食った
羽根物とスイッシャー系の代表選手
低弾道で雑木の奥の岸際に仕掛けを落とす。さぁ、来るか?
つい先日も、用事の途中に立ち寄った野池のワンドの浅場に小バスが群れているのを見つけて、ちょっと竿を出してみようかなという気になった。
山間の道を、地図を頼りに奥へ奥へと車で向かうと、大きな野池の土手に出た。始めて通る道だが、地図で見るかぎり目的地へ行くのに一番の近道だったので、どんなものだろうかと思って走ってみたら思いがけず素敵な野池と出くわした。
野池に沿う道は舗装されてはいるが狭くて対向車が来ないかドキドキしながらの走行を余儀なくされた。池にたどり着くまで一台の車ともすれちがわなかった。なので、この先も大丈夫だろうと勝手に考え走っていくと郵便配達のバイクに行き合った。バイクから降りて一服している中年の局員とばったり出会ってしまったのだ。郵便局員と野猿。どちらかを選べと言われたら郵便局員と行き合う方がいいに決まっている。
なので、こっちから声をかけてみた。
「この池、ブラックバスは釣れますか?」
「さぁ、どうでしょう。釣り人は見ますが、何を釣っているかまでは」
口ぶりからして郵便屋さんは釣りをしないのだろう。一服し終えると、配達の赤いバイクに跨り、私の来た方角へと走り去っていった。
少し進むと、道幅に余裕が出た。ほんの少しそれよりも先は、また狭くなる。
広まった道端に車を寄せて、さっそく池を覗いてみた。
雑木の幹のあいだからは小さなワンドが見えた。そのワンドの奥からせせらぎが聞こえた。雑木に隠れて見えないが、流れ込みがある。その細い流れを慕ってか、最初に述べたように小バスが集まって来ていた。
一見、止水のようだが、これっぽっちの流れ込みでもワンドの規模からして水に動きの出ないはずはないと思われた。よく見ていると岸寄りに浮かぶ木端がほんのわずかではあるがワンドの出口方向へと移っていく。やはり、水はわずかなりとも動いていた。
「悪くないな」と私は気持ちを明るくした。
このぶんだと、小バス以外に、もっと大きなバスがどこかにひそんでいそうだった。
むろん、一口サイズのプラグやワームを投げて誘えば見えている小バスが口を使わないはずはないものと思われた。所詮、相手は小バスだ。その方が騙しやすいにちがいなかった。長居できない以上は手堅くやるにかぎる。しかし、水面に浮かぶ微細な羽虫か何かを食いに浮上してくる小バスの姿を目にしてしまっては気持ちがそれを許さなかった。
スイッシャー系トップも大好きな筆者。釣れて満足!
トーピードに食いついた小バス
トップ本番の夏が楽しみだ
バッグのなかにはトップウォータープラグやフロッグがぎっしり
さっそく、私は車から道具を取り出して仕掛けを組んだ。
時間に余裕があればポッパーや虫系トップも試してみたかったが、とりあえず小型のクレージークローラーと小型のトーピードを用いて何とか最初の一匹、次の二匹をものにしたいともくろんだ。
仕掛けをゆっくり巻き始めると金属の羽根を左右に張りひろげ素晴らしい泳ぎを披露するクレージークローラーと後尾に取り付けられた金属のプロペラで水を掻き乱しながら前進するトーピードは、どっちがどっちと甲乙つけがたい愛着のあるルアーであることはべつのレポートでも以前触れた。
しかし、今は「動かすときは動かす、止めるときはきっちり止める」というメリハリをつけた攻めができるようになったので、引いてばかりいた最初のころにくらべると二倍も三倍も面白みが増した。
羽根物ものに小バスが連発
正面の雑木の下にトップを投げて誘う
大好きな羽根物を使って仕留めた一匹
今回は、小バスばかりを十ほど釣って満足した。時間にして一時間足らずのあいだにトップウォータープラグだけでこの数のバスがヒットしたのであるからサイズはともかく楽しくないはずがない。
リトルコスモスとはよく耳にするが、まさにこういう小場所をさすのではあるまいか。場の規模もコンパクトなら、釣れるバスもリトルである。使ったルアーも小粒。自分の背恰好だけがいつもどおりそのままに実寸大の人間様である。
そう考えると、どこか滑稽で、その反面、少し自身が偉くなったような気さえした。
よりいっそうバス釣りが好きになった。
寄り合いが早く終わったので日が暮れきるまでのあいだ野池でバスを狙ってみた。もしかするとこういうこともあるかと思って簡単な仕掛けと道具を車に積んでおいた。おそらく暗くなるまでに一時間以上時間がある。けれども、ちょっと寄り道しただけなので、自分なりにルールを決めてバスを相手に遊んでみることにした。
三十分以内に三十センチ以上のバスを一匹釣ったら私の勝ち。むろんボウズなら私の負けである。もし釣れても三十センチ以下のばあいは引き分けという取り決めにした。
私はハードルアーが好きなので、表層から中層を楽に引けるプラグで勝負しようかと考えたが、三十分では分が悪すぎる。
夕どきの水面はひろく凪いで波ひとつなかった。虫の羽化も認められず、魚の気配もなかった。見るかぎり野池は隅という隅まで静まり返っていた。いい季節になったし、夕方なので期待して寄り道をしたのにあてがはずれた。
そうは言っても敗者になりさがるのだけは避けたかった。勝利をもくろみながら最低でも引き分けで気分よく釣り場をあとにしたい。それが本音だった。
なので、ワーム仕掛けで釣ることにした。用いたワームはボウズ逃れの定番ともいうべきゲーリーヤマモトのイモである。このワームはノーシンカーで使うとトップウォータープラグと同じように水面を釣ることもできるし、表層から底までの各層をスピーディーに攻め分けることも可能である。自重があって沈みがよく、そのくせ投げて放っておくと見てくれからは想像もしがたい魅力的なアクションでもってバスの目を引きながら底へ底へと向かっていく。また、すでに述べたように竿を立て気味に水面でチョンチョンと誘いつづけると今度は有能なトップウォータープラグの代用品として活躍してくれるのだから重宝することこの上なしといったところだ。
なので、今回も期待して使ってみたのだが、二度、三度と散らして投げて誘ってみるも、なぜかバイトを得ることはできなかった。
あれこれ手を尽くしてやっていくうちに、二十分が経過しようとしていた。
釣りができるのはブロック護岸の一面だけなので横へ横へと居場所を移しながら淡々と攻めていくしか手はないのだが、それにしてもアタリひとつよこさない。これには少々参ってしまった。
メイサイ4lbを使用
ちっちゃくても正真正銘バスです!
「敗色濃厚だな」という言葉が私の口を突いて出た。
私は左の端付近まで釣り探って来た。左サイドは岸際ぎりぎりまで雑木と竹と草が生い茂り、人を寄せつけない。
朽ち木が沈んでいる辺りは、オーバーハングした雑木の枝葉が空を覆い隠しており、一目で一級のポイントと知れた。こういう場所は夏の日中ならあとから来た者に先を越されないよう真っ先に仕掛けを入れるべきところであるが、今日だって期待していいはずのシュチエーションである。ただ、思いきって攻めたばあい根掛りが心配だった。いま使っているのが根掛りしにくい仕掛けだとはいえ、もしトラブルに見舞われたらなけなしの時間を無駄に消費することになりかねない。それだけは避けたかったので、朽ち木の沈む辺りから少し離して仕掛けを投入した。リールからラインを出してフリーで底へと落としていく。
すると、まだ着底までには間があると思われるのに仕掛けが不意に止まった。沈んでいかなくなった。それどころか朽ち木の沈む左の岸側へとゆっくり動いていく。仕掛けを引いて泳ぐのがコイなのかバスなのかライギョなのかナマズなのかはわからない。以前、ここで中くらいの黒鯉を釣ったことがあるのでコイということも考えられた。
あまり鋭くアワセを入れるとボリュームのあるワームだけに口からすっぽ抜けないともかぎらない。鈎先がワーム本体のなかに眠っているため、バスの口のなかにうまく刺さらないということも考えられた。なので、じわじわ力を加えていく感じにフックセットした。
大物であることを期待したが、残念ながら引き分けサイズのバスだとヒットした直後にわかった。手元にズシッと堪えるあの大型のバス特有の重みがまるで感じられない。
けっきょく、一級と目される場所を攻めて、引き分けサイズのバスしか手にできなかった。
その後、ヒットした付近をもうしばらくのあいだ丁寧に攻めてみたが、残念なことにアタリすら拾えなかった。
そうこうしているうちに、タイムオーバーとなってしまった。
残念ながら、本日はここまでである。
敗戦こそ免れたが、悔しい引き分けに終わった。
いきなりバイトを得た。スピナーベイトはフッキングが甘いとバスの口から鈎がはずれて万事休すということになりかねない。肝に銘じてはいても、遠くでヒットするとアワセの力そのままに決めきることが難しい。
「こんにゃく掛けは禁物よォ」と誰かが説いていた。
うまい表現だと感心したものだが、たしかに、そんな手応えだった。
こんにゃくを掛けたような手応えというのは釣り師の側からすると不安のほかなんでもない。
大型のバスは口もバカでかいので、ブレードごと丸呑みしてしまうことがある。針金状の金属軸に間隔をあけて取り付けてある二枚のブレードが回転することでバスの気を引く仕組みになっているが、シンカーと鈎は下側の金属軸の先端に付いている。これが一般的なスピナーベイトの形状である。なので、バスに丸呑みされると上側のブレードとその取り付け軸の針金が邪魔をして鈎掛かりしにくい。たとえ運よく口のなかのどこかに鈎が掛ったとしても、アワセが甘いと深くは刺さり込まないのでファイトの途中でフックアウトしてしまいかねない。これにはじゅうぶん注意が必要だった。
これじゃT並木にはなれんな!
プラグ各種、スピナーベイト、バズベイトを用意した
「今のって、こんにゃくっぽかったな」
さっそく、そんな不安を覚えた。
じつは、スピナーベイトを投げたら、すぐにバスが食いついた。
しかし、不安が現実となって、ファイト半ばでフックアウトした。やり取りにはじゅうぶん気を使ったが、あるとき不意に手元が軽くなった。こんにゃくは豆腐ではないが、所詮こんにゃくはこんにゃくに過ぎないのだから安心できない。と、自分でもよくわからない言葉がバスを取り逃がした頭に浮かんで来た。
むろん、こんにゃくだろうが豆腐だろうが、せっかく掛けたのだから本音を言えばものにしたかった。
「なんだよぉ、持ってねえなぁ~」と私は並木敏成の口真似をして言った。
逃がした魚は大きいというが、たしかに小さくはなかった。
もしキャッチしていたら、これまたT並木を真似て、「ヘイ、ヘイ! どうだぁ。参ったか!」なんていい気になっていたにちがいない。だが、取り逃がしてしまっては、もう黙るしかなかった。
しかし、そう弱音ばかり吐いてはいられなかった。
このままだとT並木になり損ねてしまう。スピナーベイトは並木敏成の真骨頂である。諦めることなく、私はすぐさま仕掛けを投げ入れた。
すると、さっそくアタリが来た。
しかし、食いが浅いのか、鈎掛かりするまでには至らない。
少し移動して同じように投げてみたが、こんどは音沙汰もなかった。
私は元の場所が気になって仕方なかったので、そこへもどって取り逃がしたときと同じ辺りを丹念に探ってみた。すると何投目かに、同じ辺りでバスが口を使って来た。今度こそきっちりフッキングした。ただ、重量感が前のとはまるでちがった。寄せるだけバスはこちらに寄って来て、抜きあげると宙づりのまま悪あがきをした。
その後も、私は釣果を重ね合計五匹のバスを手にした。が、いかんせんどのバスも判で捺したように皆似たサイズだった。もうこうなると引き抜いて宙づり状態のまま容易く胴を鷲掴みできるサイズのバスはどうでもよくなった。岸際に寄せ、しっかりその大きな口の端を指につまんで持ち上げないと危ないくらいのビッグサイズを、正直、私は手にしたかった。
アンブッシュ12lbを使用
とりあえずやりましたぁ!
自分にアタリが遠のくと、対岸の兄ちゃんの動向が気になった。兄ちゃんは私に少し遅れて対岸側にやって来た。しかし、現れたとき同様、その兄ちゃんに主だった動きは見られなかった。どうやら向こうも釣りあぐねているみたいだった。
ここからだと遠くて、どういうやり方で釣っているのかまではよくわからないが、巻き物でバスを狙っているのは確かなようであった。
このまま私がその場を去るまで何事も起こらなければ、小僧のバスばかりだとはいえ短時間に五匹も釣ったのだからある程度は納得して帰路に就くことが出来たにちがいない。
ところが、私の去り際に、ドラマが用意されていた。もちろん、主役は対岸の兄ちゃんである。
私が場を去る直前に、大きな魚が兄ちゃんの仕掛けに食いついた。
じっさい、バスか、ライギョか、ナマズか、コイか、そいつはまだわからないが、兄ちゃんは大きくて釣り甲斐のある魚の顎に鈎を掛けた。そのことだけは動かぬ事実であった。
私は老眼だが、目はいい。なので、対岸に目を凝らし、バスかどうか、そいつを見極めようとした。
どうやら兄ちゃんは魚を岸際へと寄せきったようだ。しゃがんで獲物に手を伸ばす仕草が板についていた。魚の口の端をつかもうとして手を伸ばしたのなら釣れたのはバスにちがいなかった。
兄ちゃんは魚を手に立ち上がると、一度は手に掲げ、落ち着かない様子だった。
「やったぜ、やってやったぜ!」というところだろうか。
明るさを増しつつある空に、今朝は珍しく鷺の飛んでいくのが見えた。
三十分しかなくても投げてみる。投げたら釣れるかもしれない。投げないと釣れない。
だから、投げてみた。
雑木の下は薄暗く、茨の絶え間から、その奥の石積みの壁が垣間見えた。その壁に添わせるかたちに、仕掛けを底へと沈めてみる。そうすれば、壁に着くバスが口を使ってくれるかもしれない。大きいか小さいか、中くらいかは運だが、もし居たら食いつくにちがいない。
むろん、デカバスが釣れたら嬉しいが、まず一匹釣れたら来た甲斐があったというもの。
小さくても納得のいく釣れ方で手に出来たバスならその後の励みにもなるはずだ。
変てこだが不思議とよく釣れるイモ
スキッピングはベイトタックルよりもスピニングタックルの方がやりやすそうだった。チョイスしたワームのサイズがサイズなのでスピニングタックルでやる方がトラブルも少なくて釣果を得やすそうだ。
釣り開始早々、雑木の下でブルーギルが釣れた。
ゲーリーヤマモトのイモはボリューム満点のワームなので、二十センチくらいのブルーギルの口に収まるものではない。ところが、はずがないはずのワームにブルーギルが食いついた。オフセットフックの鈎先が口にがっちり掛っていた。
「おまえ、食えると思ったのか?」
そうブルーギルに訊いてみたが、バツ悪げに目を丸く見ひらくばかりで、答えてはくれなかった。
ブルーギルを無罪放免してやって、さぁ、仕切り直しだとばかりに茨の抜け落ちたところを丁寧に打っていくと、底でバスが拾い食いをした。
さらに、それからどれほども経たないうちに着底したイモにまたバスが食いついて来た。
サイズはともかく嬉しい一匹
たいしたサイズではないが、大暴れした二匹目のバスはオフセットフックが口の蝶番のところにがっちり掛っていた。
ゲーリーヤマモトのイモは自重があってノーシンカーでも遠投が効く。沈んでいくときも、投げっぱなしにしておくだけで魅力的な動きをする。そのためバスの側からすると口を使わないではいられない。
たしかにイモは、一個当たりの単価が高く、しかも強度的に脆い。しかし、それを深刻な問題だと釣り師に思わせないだけの働きをみせるので、ハードルアー好きの私もバッグのなかに必ずといってよいほど入れて持ち歩いている。
今回もいい働きをしてくれた。
セミの夏にはまだ早いが、セミを模したトップウォータープラグを使って、さっそくバスを狙ってみた。
午前中いっぱい書き物をして、昼食後、車で家を出て野池へと向かった。
じっさいは一時間ばかり早く釣り場に到着するはずだったが、忘れ物に気がついて取りに帰ったので、そのぶんだけ遅くなってしまった。
当日の午後は、暖かく晴れて、朝の肌寒さが嘘のようだった。
水面に浮かぶ羽虫を食いに野池の生き物らが浮上してくるのだろう、広い池のおもてのあちらこちらに水の輪が生れては消えていくのが見てとれた。そのなかにバスらしきライズも認められた。
ちょっと早いが、セミでいこか
もうじきこいつの季節。期待してまっせ!
水の上へと傾いた朽ち木の先に止まって注意深げに水面を睨んでいるのは色彩の美しいことで知られるカワセミだった。水中の小魚を捕えては山林の奥へと飛び去り、また舞い戻って来ては漁をする。矢のような速さで水中に突っ込むと、すぐまた水面へと浮上して飛び去るのだが、きっちりその嘴に小魚をくわえて離さない。朽ち木に来るカワセミは同じカワセミなのか何羽か交替でやって来るのか、注意深く観察しても見分けがつかなかった。
セミ系トップはスピニングタックルの方が扱いやすい
ユル抜きの水門付近はプラグでのヒットが多い
リリーパットの浮かぶ池畔の浅場にひそむバスは少なくない
カワセミの餌場のある付近は、主に雑木と竹の林で、ところどころ青葉が水面を覆っていたり、折れた竹が水中に頭から突っ込んでいたりした。そういうところはバスが身をひそめやすい場所なのでどうしても目がいく。菱藻がひろがりを見せはじめているところ、ガガブタがハート形の葉を寄せ合って浮かぶところは、さらに魅力的に見えた。
水中にはブルーギルや小魚の姿があった。
アメンボウも多く浮かんでいた。針金のような細長い四本の足で高く水面に乗るその姿は、まるで水上をいく忍者のようである。昆虫なのでアメンボウとて脚は六本あるはずだが、残り二本はどうなってしまったのだろう。まさか退化してしまったわけではないであろうから、普段は仕舞っておいて餌を食うとき使うのかもしれなかった。虫好きだが、虫博士ではないので、それについて調べたことはいまだない。
それはそうとアメンボウも小魚同様バスの餌食となるようだ。バスにちょっかいを出され、水の上を逃げ惑うアメンボウたちを、この日私はしばしば目にした。羽虫に対してはおとなしい出方をするバスもアメンボウ相手だとむきになってしまい、ガボッと水面を割って出ることさえある。勢い余って宙に姿をさらすことさえ珍しくなかった。
それほどアメンボウは逃げ足が速いのか、癇に障るから向きになるのか。それとも美味いので必死に追いまわすのか。まぁ、その大きさからして栄養価が高そうには見えないが、それでも数を食べるとけっこう食べ甲斐があるのかもしれなかった。
あっち側も攻めてみるか
いい眺めだ。ぜんぶ撃ちたいが陸っぱりでは無理
今日は、水面にぽつりぽつりと水の輪がひろがってはすぐまた消えていくばかりで、しゃにむにアメンボウ相手を追いまわすほかに派手なボイルをみせてくれるバスの姿はなかった。
しかし、それは到着間もないときのことで、仕掛けの準備を終えて釣りはじめるころになると、小魚を追ってバスが狂喜しはじめた。追われた小魚はしばしば食われまいとして水上に跳ねあがって逃げた。食う方も必死なら食われまいと逃げる方も必死である。
むろん、小魚を追うバスを騙して釣ってやろうとたくらむ私も必死だった。
ただ、カワセミだけが「営業妨害だ!」とばかりにふて腐れて姿を見せなくなってしまった。小魚に逃げまわられては商売にならない。そうでなくても獰猛なバスの待つ水のなかに一瞬たりといえども飛び込むというのは危険極まりない行為にちがいなかった。
食いが立つとバスは動くものなら何にでも飛びつく。小魚もカワセミもあったものではない。もちろんバスは陸生の昆虫もよく食べるので、もし誤って池に落ちたら最後、カメムシだろうがイモムシだろうが命の保証はない。
しかし、いくら美味そうでも私の投げた贋物のセミに食いついてしまったら、その先は一転、バスの方が地獄である。贋のセミには先の尖った鈎が一個ぶら下がっている。そいつに口のどこかをがっちり捕らえられてしまったらバスからすると万事休すである。
ただ一言。「やりましたぁ!」
なぜか、こいつにデカイのがよく食いつく
じっさい、そうなってしまった。
ブロック護岸の水辺を釣り歩いていくうち、ユルの開け閉めのためのハンドルを設置してある付近からキャストとした仕掛けに、バスが食いついた。タダ巻きに巻いていたところ、左右の羽根をばたつかせながら軽快に泳ぐ贋のセミに誘惑されてしまったようだ。出方はおとなしかったが、手元に来る手応えから大型のバスだと知れた。軟らかめのスピニングタックルでやっていたので、宙に跳ねさせないよう、なだめすかしながら上手にあしらうことができた。
それでも、足元まできっちり寄せて、バスの口の端を指でつまみあげるまでは気を抜けないと慎重になった。
なにしろ五十センチに迫る大型のバスである。取り逃がさぬようじっくりとやり取りする必要があった。
しばらくいなしたりとったりのやり取りがつづいた。
岸寄りにガガブタがハート形の葉を水に浮かべていたりもしたが、カバーは全体に薄く、もし仕掛けを巻かれても支障があるようには思えなかった。なので、ここぞという局面では強気に打って出た。
ついに、私はバスを岸際まで寄せきった。
がっちり口に鈎が掛っていたので、ためらうことなく一気にずりあげて上から押さえつけた。
それにしても、最初に釣れたのがこいつである(写真参照)。嬉しくないはずはなかった。
まだ日没まで間があったので、セミを使ってもう一匹デカバスを仕留めたい。それが本心だった。
しかし、そう思って竿を手にふたたび水辺へ降りると様子が変わっていた。水面から魚の気配が消えてしまった。せっかくなので、辺りをひととおり丁寧に釣り探ってみたが、やはりアタリがない。この先バスが釣れるとはとても思えなかったので、少し早いが納竿することにした。
今朝は口の部分がカップ状にえぐれているポッパーというタイプのトップウォータープラグだけを数種類準備して馴染みの野池にやってきた。
野池の周囲は雑木林のところが多く、護岸されている西面以外は容易に人を寄せつけない。
ただ、ボート釣り禁止なのと岸からバスを狙う人自体少ないので、もしバスがブロック護岸の側へと回遊して来ていたら勝負は早いように思われた。
結果から先に書くと複数のバスが釣れた。
アンブッシュ6lbを使用
しかし、頭のなかで思い描いていたサイズの大型は一匹も釣れず、その姿さえ目にすることはなかった。
バスは大きいものでも三十センチ前後。その多くは小型ばかりであった。
先に述べたとおり、左右両岸とも雑木が鬱蒼と繁っている。しかし、護岸から攻められる雑木の下というのは、べつに今回にかぎったことではないが、そのうちの一部分にすぎなかった。このあたりがボートフィッシングとはちがって岸釣りの辛いところである。が、しかし、今朝はそうした樹などの物陰よりもオープンウォーターでのバイトが多かったので小さいながらも数を稼ぐことができてわりと楽しかった。
朝の空を映す水面に仕掛けを投入すると、さっそく忍び寄るバスの姿があった。放っておいても食うかと見ていると水に浮かぶポッパーのすぐそばまでやって来て止まった。カップ状の口で水を飛ばしてバスの気を引いてみる。あるいは、甘いポップ音でその気にさせるべく弱めに誘ってみたりもしたが、そう簡単に口を使ってはくれなかった。
その後も、何度か似たようなことが起きた。
「食え。食いつけ!」
あの手この手でやっていくうち、小ぶりなバスが水面のポッパーめがけて食い上げて来た。その後も、飽きない程度に同クラスのバスが食って来たが出方の派手なわりにサイズはふるわなかった。小バスほどやんちゃである。それでも、釣れると悪い気はしなかった。
少し飽きられて来ているなと感じたら手間を惜しまずべつのルアーに交換した。とはいえ、ポッパーから別のポッパーに交換するだけのことだ。
それでもダメなら移動するしか手はなかった。場を移してからも誘い方を工夫して少しでもバスに気に入ってもらえるよう努めた。
やぁ、バスさん、こんにちは
よしゃ、捕った!
用意したタックル
けれども、どう攻め方を変えようとも納得のいくサイズのバスが口を使ってくれることはなかった。
そうは言っても、その後、バイトが五回か六回あって、三匹のバスが釣れた。それが、一時間半ほどのあいだの出来事だったので悪い気はしなかった。
もう望みといってはサイズアップだけである。大型のバスはともかく、せめて三十センチオーバーを一匹でもいいから釣りたいと願った。
「ポッパーで一匹お願いします!」
それは、祈りにも似た気持だった。
ここぞという場所は念入りに攻めた。しかし、状況に好転は見られない。なおも釣りつづけるか迷ったが、少し場を休ませるほうがよいと判断して少しのあいだ静かにしていることにした。
水面に近いところからでは水中の様子を見づらかった。なので、少しでも水のなかの様子を知りたいと思って土手の上から魚影を探してみた。土手の上は遊歩道になっているが誰も散歩してはいなかった。
ただ、あるところにさしかかると丈の低い草の陰からイタチが出て来て私の少し前を横切った。ずいぶん落ち着いていた。こちらを気にするそぶりは見られない。
それもそのはず。土手の斜面はイタチが身を隠すにはじゅうぶん過ぎる丈の草に覆われていたし、それは隣接する山林へと切れ目なくつづいていた。イタチからすれば動作の緩慢な爺ぃの私を煙に巻くなど造作もなかったろう。
こっちはこっちで魂胆があった。納得のいくサイズのバスをやっつけないことにはここから去りづらかった。
イタチが横切った辺りから池のなかを覗いてみると、バスが群れで泳いでいくのが見えた。右から左へと護岸に沿って泳いでいく。止まることなくゆっくりと泳ぐその群のなかに見映えのするバスが一匹混じっていた。
バスの泳ぎに合わせて私も土手の上を歩いていった。バスの行く手に三匹のバスが居た。三匹と五匹は自然と合流してひとつの群れとなった。仕掛けを軽く投げれば届く位置に群れたまま、バスらはやがて動かなくなった。
私はバスたちに気づかれぬよう水ぎわまで降りていった。バスの真上にポッパーを落とすとびっくりして逃げてしまわないともかぎらないのでキャストには細心の注意を払った。投げてからしばらくのあいだは静かにしていた。バスに動きは見られない。仕掛けの着水による波紋が消えきったのを確認してから私は最初の誘いを入れた。その後もバスとルアーの間を詰めるべく、誘っては止め、またしばらくすると軽めに誘いを入れてみたりもした。
カポッ、コポッ!
徐々に間を詰めていく。
カポッ、コポッ!
それにしてもいい音を出すものだ。その音とともにポッパーの口から遠慮がちに水が吐き散らされた。
肝心なのは慌てないことである。あるところまでポッパーが近づくと、バスらがそわそわしはじめた。わずかな鰭の動きにそれが表れていた。食う気のありそうなバスのなかに、かねてより目をつけていたあの見映えのするバスもいた。
カポッ、コポッ・・・
すでにポッパーはバスらの真上に近づきつつあった。
すると、鰭をそよそよさせていたバスのなかの一匹がポッパーに忍び寄って来た。しかし、食うそぶりこそ見せはしたが、やがて、プイと横を向くと、そのままどこかへ泳ぎ去ってしまった。
ついに私の方が根負けしてしまった。
いつしか、残りのバスらも姿を消してしまった。辺りが明るくなるにつれ、それを嫌がって水の深みへと沈んでいってしまったのかもしれない。もうこうなるとトップウォータープラグで狙うのは無理なように思われた。
まったく、朝の時合いは過ぎ去ったと見なくてはなるまい。このへんが潮時かもしれなかった。
どうだぁ!
トップで釣ると嬉しさ倍増!
ポッパーだけを使用した
「まっ、仕方ないか」
小さいながらも既にバスを何匹か手にしていたので、正直、深刻ぶることもなかった。
時間的にも、退くなら今だと思われた。私は最後の最後にリールのなかの緩んだラインをきっちり巻き直そうと思って沖へと仕掛けをフルキャストした。すると、その仕掛けにいきなりバスが飛びついた。慌てるも何も体が勝手に反応した。遠くで掛けたのでラインのふけが気になったが手応えはじゅうぶんだ。フックがバスの口か口の付近にどういう状態で掛っているかまでは判然としなかったが、ラッキーなヒットである。
サイズ的にはたいしたことなさそうだが、それでも今日一番のサイズなのはまずまちがいなかったので、いやがうえにも慎重になった。
どうやら鈎の掛かりぐあいは悪くなさそうだった。私は水面近くまで竿を倒すなどして応戦した。水を脱いで高く跳ねあがるバスの姿だけは見たくなかった。もし宙でかぶりを強く振られでもしたら最悪の事態を招きかねない。なので、バスを怒らせないよう宥めすかしながら時間をかけて岸まで寄せきった。
やはりサイズ的には今日一番。コンディション抜群のきれいなバスだった。
【今日の使用タックル】
ロッド:ノリーズ・ロードランナー630バキュームPグラス
ノリーズ・ロードランナーボイスHB680L
ノリーズ・ロードランナーボイス680LS
ノリーズ・ロードランナーボイス630MLS
ノリーズ・ロードランナーボイス630LS
ノリーズ・ロードランナーボイスHV610LLS
メガバス・パガーニF2-66XP
メガバス・パガーニF1-63XP 盟撃
メガバス・パガーニF0-60XP
メガバス・デストロイヤートマホークF3-63 GT3
メガバス・デストロイヤーオロチF3-65 DG
メガバス・デストロイヤーオロチF4-71X
メガバス・デストロイヤーオロチF5-70DG
バレーヒル・ブラックスケールBKHC610MX
リール:シマノ・メタニュームXG
シマノ・アルデバラン50
シマノ・スコーピオンDC7
シマノ・スコーピオンメタニュームXT
シマノ・カルカッター101XT
ダイワ・タトゥーラSV TW
ダイワ・ルビアス2004H
ダイワ・トーナメントZ2500C
ライン:ユニチカ・シルバースレッドアンブッシュ8lb、10lb、12lb
ユニチカ・シルバースレッドトップウォーターゲームPE 40lb
ユニチカ・ユニベンチャージギングX4 2号
ユニチカ・ショアゲームPE X8 1号
ユニチカ・ナイトゲームTHEスーパーPE SP 0.4号
ユニチカ・シルバースレッドS.A.R 8lb、10lb
リーダー:ユニチカ・シルバースレッドminiショックリーダーN 12lb、 20lb
ユニチカ・シルバースレッドminiショックリーダーFC 12lb
ユニチカ・エギングリーダーⅡ 2号
ユニチカ・スタークU2 1号、2号