見た目も夢も 大きいゴマ
皆さんこんにちは! 魔法学院のレッスン2は、ゴマから作るプラスチックの話だって聞いたんですが……。
はじめまして。ユニチカトレーディング・マテリアル営業部の畑中大毅といいます。
うわ! 浮いてる? いや投げただけ?? 今日こそ本物の魔法使いっぽいですね!
手に持っているのが、プラスチックの原料のゴマですか? ゴマにしては大きいですね。
これが私の魔法の種である「トゥーゴマー」です。
トゥーゴマー?また不思議な名前ですね。
えぇ。大切なことは魔法っぽく呼ぶのが魔法学院のしきたりでして……。
あー、そうなんですね。そういえば前回も……。
ま、一般的には「トウゴマ(唐胡麻)」ですね!
ヒマとも呼ばれるので、これを搾った油は「ひまし油」といいます。聞いたことありませんか?
ひまし油……なんとなーく名前だけは聞いたことがあるような。でも、何に使うのかは知らないです。
ひまし油は、機械を滑らかに動かすための潤滑油などに、かなり昔から使われているんです。かつては下剤として使っていたこともあるようです。
バイオ由来なのに 強くて軽い
そして私たちは、このひまし油から最強のバイオマスプラスチック繊維「キャストロン」を誕生させました。
最強? そんなに強い繊維なんですか?
繊維の強さには様々な指標がありますが、「キャストロン」の場合は
・すり切れにくい(摩耗に強い)
・軽い
というのが特徴です。
すり切れにくいってことは、長持ちするんですよね?
それに軽いっていうのは嬉しいですね。
軽いことは皆さん喜ばれますね。
普通、動植物由来の繊維といったら綿やウールですよね? これらは繊維を「より合わせて」糸にしなければいけません。だからどうしても糸が太くなる。糸が太いと生地も厚くなって軽くなりません。
一方、ひまし油は植物由来でありながら、石油で作るポリエステルのように極細の糸を作ることができます。細い糸ができれば、薄い生地ができる。薄い生地は当然とても軽く、しなやかになるんです。
なるほどー。でも薄かったら破れてしまいそうですが。
それが、ポリエステルやナイロンといった石油由来の生地よりも、摩擦に強くて長持ちするんです。
また、寒いところでも硬くなりませんし、繊維が水を含みにくいので、しなやかな着心地を保てます。
いいことずくめですね。強くて、軽くて、水も含まないなら、アウトドアウェアとかに良さそう。
そうなんです。性能はもちろんですが、原料のトウゴマは畑で育つ時に二酸化炭素(CO2)を吸収します。廃棄時にCO2が出たとしても気候変動への影響が小さいので、自然、アウトドアを愛する皆さんにぴったりの素材です。
なるほどー。そういえば、原料のひまし油はかなり昔から使われてたって言ってましたよね?今まではなぜこういう素材ができなかったのですか?
繊維が繊細すぎて糸にするのがとにかく難しかったんです。ユニチカでは2007年から研究してきましたが、困難の連続で世に出すのに時間がかかりました。
まだ量産が難しいので、どうしても単価が高めになってしまいます。それでもアパレルメーカーさんからは、かなりの引き合いがあるんです。
高価でも期待されるって、本当に希少な存在なんですね。
完成した生地の性能ももちろんですが、CO2を出さない「トウゴマ」でその性能を実現したということが、期待をいただける一番の理由だと思います。
畑で継続的に育ててくださっている農家の皆さんには、本当に感謝したいです。
インドの荒野を潤すトウゴマ
なるほど。偉いのはこのトウゴマなんですね。農家が作るプラスチック繊維か。不思議な響きだけど、新しい感じがします。
ところで、このトウゴマ、どちらで栽培されているんですか?
ひまし油の原料になるトウゴマの8割は、インド西部にあるグジャラート州というところで栽培されています。やせた荒野が広がる地域で、短い雨季以外はほぼ雨が降らない、非常に過酷な地域です。
えー、インドの、それもそんなに厳しい気候のところで育てているんですか。短い雨季しか雨が降らないって、日本に住んでいると想像できないですね。
グジャラート州は8月前後のモンスーン期にだけ大量の雨が降ります。頻繁に洪水が起きるほどですが、それ以外の時期はほとんど雨が降らない乾燥地帯です。
そういうところで生活するのは大変そうですね……。
人々は乾燥に強いキビを主食にしていましたが、現金収入が得られる作物がないため、貧困が問題でした。そこで徐々に栽培が広がっていったのがトウゴマです。
トウゴマは乾燥していても育つのですか?
トウゴマは乾燥に強く、やせた土地でも育ちます。多くの農家は比較的良質な土地で食用作物を栽培し、最もやせた土地でトウゴマを栽培するようになりました。
なるほどー。食べ物を育てるのが難しい土地でも育つんですね。
そうなんです。だから、食料生産を邪魔しにくいという特徴があります。
トウゴマ自体、人も家畜も食べられないため栄養価値はありません。これは一般に「食料競合しない」と言われる特徴です。人口が増え続け、食糧増産が必要な現代では、重視されつつあるポイントですね。
確かに、食べ物は一番重要ですものね。それを邪魔しないっていうのは大切ですね。
貧困の改善に貢献
もう一つ、現地の農家の皆さんが進んでトウゴマを栽培してくれるポイントは、栽培に手間がかからず「高く売れる」ということです。トウゴマは、古くは医薬品や潤滑油、その後はプラスチックなど高付加価値品に使われるため、需要も価値も高かったんです。
それに加え、トウゴマは長期保存もできるので、85%の農家は倉庫に保管して、取引価格が高い時に売ったりしています。
倉庫を作って高いときに売るなんて、皆さん賢いですね。でも、それだけのことをする価値が、トウゴマにあるということかな。
実際、グジャラート州の換金作物の作付面積・第4位が、このトウゴマになっています。
このゴマ、そんなにたくさん作られているんですか?
生産農家は70万件にもなります。多くは4〜5人の小規模農家。つまり家族経営です。そういった皆さんの現金収入を増やし、貧困を改善するのに貢献しています。
うーん、70万人ともなると、地域を支える一大産業って感じですね。
そう言えると思います。最近は、現地のトウゴマ買い付け業者やフランスの化学メーカー・アルケマ社など3社が欧州の支援団体に協力を呼びかけ、農家の暮らしのさらなる改善をお手伝いする活動を始めました。
どんな活動なのですか?
トウゴマ生産とそれを支える地域を、もっと持続可能にしていこうという取り組みです。
「プラガティ(発展)プロジェクト」と呼ばれています。農家に肥料や農薬の適切な使い方や廃棄物の管理方法、農地に水を供給する灌漑(かんがい)技術などを学んでもらいます。これは、水使用量や廃棄物の削減はもちろん、50%もの収穫量の増加につながっています。
50%アップというのはすごいですね。
収穫量が上がるだけでなく、様々なことを学んで審査をパスした農家は「認証農家」となることができます。
審査項目は76もあって、栽培方法だけではなく「児童労働をさせない」「女性の参画を進める」などといったことまで含まれています。はれて認証農家となれば、収穫物への信頼を高めることができます。
すごい。トウゴマは貧困の解決だけではなく、女性差別や児童労働の解決にも一役買ってるんですね。
プロジェクトは2016年にスタートしましたが、認証農家は約4年で4500人を達成しました。2022年までに7000人を目指しています。
皆さん嬉しそうですね。うーん、すごい。トウゴマからできる「キャストロン」の価値が分かってきた気がします。
もう一つ付け加えると、元々が砂漠に近い荒れ地ですので、森林破壊を招きません。そこも大切なポイントですね。
なるほどー。こうして教えてもらわなかったら分かりませんでしたが「キャストロン」は、着る私達にも、地球にも、荒野に暮らすインドのみなさんにも優しい繊維なんですね!
まだまだ課題はありますが、この繊維が持つ優しさ、素晴らしさをアパレルメーカーさんと共有し、その先にいらっしゃる消費者の皆さんに届けられたらと思っています。
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