プラゴミ問題の救世主

玉田

ユニチカ魔法学院のレッスンも5回目になりました。最初は難しいかなと思いましたが、やさしい言葉でお話してくれる先生たちのおかげで、私もだいぶ詳しくなってきた気がします。
今回はどんな先生なんでしょうか?

岡本

玉田さん、今回は植物からできるプラスチックの魔法のお話をしましょう。サステナブル推進室の岡本昌司です。
私はずっと次世代素材の開発をしておりましたが、ここ15年ほどはバイオマスプラスチックを世の中に広める仕事をしています。

オカモト・ショウジ
玉田

バイオマスプラスチック?

岡本

ええ。飼料用のトウモロコシ、サトウキビやイモなどの糖分が原料なんです。

プラスチックの材料になる(左から)サトウキビ、トウモロコシ、キャッサバ
プラスチックの材料になる(左から)サトウキビ、トウモロコシ、キャッサバ
玉田

へー、そんなものがプラスチックになるんですか。

岡本

それがなるんですよ。植物から作られたのがこの粒です。

ポリ乳酸
ポリ乳酸の粒を覗き込む玉田さん
玉田

米粒みたいですねー。

岡本

まず、植物から採れる糖を発酵させて「乳酸」という小さい物質を作ります。それを、数珠つなぎにつなげてできたものがこの粒々です。我々が扱う魔法の素材「ポリ~・ニューサン」です!

玉田

出ましたね……。いつもの魔法風(笑)

岡本

正しくはポリ乳酸と言います……。
この素材は80年以上も前の1932(昭和7)年に発見されました。その後、1994(平成6)年になって米国の会社が大量生産の手法を確立したことで、市場に広がりました。

玉田

80年以上前からあったんですか?

玉田さんに挨拶する岡本さん
岡本

そうなんですけど、原料としては石油の方が安いので伸び悩んでいました。注目されだしたのは量産が始まってからです。
環境問題としてプラスチックごみへの対策が求められるようになる中でポリ乳酸は解決策の一つとして脚光を浴び、世界中の素材メーカーが革新的な技術を競い合うようになりました。そこにユニチカも挑戦して「テラマック」という素材を生み出したんです。

分解のスイッチとは?

玉田

どうして注目されたんですか?

岡本

ポリ乳酸から作る「テラマック」には一つ大きな強みがあるからです。何だと思いますか?

玉田

うーん、植物から作られると、なんとなく良さそうというぐらいしか……。

岡本

難しいですよね。「テラマック」の秘密、それは「微生物によって分解される」ということです。

玉田

分解されるって、どういうことですか?

微生物の働きによって温度が上がり、湯気をあげるコンポスト
微生物の働きによって温度が上がり、湯気をあげるコンポスト
岡本

微生物に食べられて、最終的には土に還るということです。

玉田

あー、森にたまった落ち葉みたいに、時間が経つと土に還ってしまうということですか?それってすごいですね。プラスチックなのに。

「テラマック」の物質循環システム
岡本

おっしゃるとおりです。玉田さん、コンポストって知ってますか?

玉田

生ゴミを処理する装置のことですか?聞いたことはあるような。

岡本

よくご存知ですね。コンポストなんていう聞き慣れない名前がついていますが、日本語にすると堆肥(たいひ)です。
微生物がたくさんいる土に生ゴミを加えると微生物は勝手に生ゴミを食べ始める=分解をはじめます。すると、土の温度が上がり60度を超え、湿度も高まります。

玉田

へー、土に生ゴミを入れるだけで、そんなに高い温度になるんですね。

岡本

そうなんです。そこで「テラマック」の登場です。
普段はごく普通のプラスチックですが、「高温・高湿度」な環境になると急速に分解されます。「分解のスイッチが入る」という言い方がいいかもしれません。実際に実験をすると、こんな風に2週間ほどでほぼ分解されてしまいます。

ポリ乳酸
玉田

すごい。プラスチックなのに、コットンやウールよりも早く消えてますね。うーん、ということは、生ゴミを入れる袋とかにすると良いのでしょうか?

岡本

そのとおり。実際に生ゴミの水切りネットになりました。コンポストでごみ処理をしている自治体のごみ回収袋にもなっています。面白いところだとティーバッグにも採用されています。

「テラマック」を利用した水切りネット(右)とティーバッグ。そのままコンポストに捨てると分解される
「テラマック」を利用した水切りネット(右)とティーバッグ。そのままコンポストに捨てると分解される
玉田

あのメッシュの、ティーバッグにも使っているんですか?

コンポストにそのままポイ!

岡本

世界で最初にティーバッグ用のポリ乳酸繊維を提供したのはユニチカなんですよ。
紅茶をよく飲む欧州では「テラマック」のティーバッグがよく使われています。一般家庭でもコンポストが普及しているから、茶葉と一緒に堆肥にすることができるんです。

欧州で普及している家庭用コンポスト。ゴミの減量に大きく貢献できるため、日本でも徐々に広がっている
欧州で普及している家庭用コンポスト。ゴミの減量に大きく貢献できるため、日本でも徐々に広がっている
岡本

ナイロンやポリエステル製のバッグよりも形が崩れにくくて熱湯を注いだ時に茶葉がよく踊っておいしくなると評価をいただいています。

玉田

紅茶が美味しくなって、土に還るエコティーバッグですか。おしゃれですね。

岡本

お! 奥義の名前が浮かびました。「ツチニ・カエール」。「ウメルト・キエール」がいいかな?

玉田

……どっちでもいいです。

岡本

この特徴をどうやって生かそうかと我々もいろいろ考えました。そこで開発されたのが植樹ポットや雑草を抑えるシート。土のう袋としても活躍しています。

玉田

なるほどー。どれもしばらくしたら分解してくれたほうがよさそうなものばかりですね!

「テラマック」で作られた(左から)土のう袋、植樹ポット、防草シート。どれも一定期間で分解されるため回収の必要がない
「テラマック」で作られた(左から)土のう袋、植樹ポット、防草シート。どれも一定期間で分解されるため回収の必要がない
岡本

「テラマック」が製品化された20年ほど前は「環境にやさしい」という理由だけで採用されることもありましたが、それだけだとしばらくしたら石油由来の材料に戻されるお客様もおられました。当時はまだ環境よりもコストを優先されるお客様が多かったんですね。

玉田

環境にやさしい以外に「テラマックのここがいい」というところが必要なんですね。

岡本

こんなふうに、食器にもなりましたよ。これは分解させるというよりも、逆に食器洗浄機のお湯にも耐えられる機能を加えました

赤ちゃん向けの食器。食器洗浄機にかけることも可能
赤ちゃん向けの食器。食器洗浄機にかけることも可能
玉田

赤ちゃん用の器ですね。形がかわいいですね。

絹のような肌触り

岡本

それと、「テラマック」が持つもう一つの特徴に目をつけて作ったのがこちらです。

玉田

あら、お風呂で使うボディタオル。

「テラマック」の肌触りの良さを生かしたボディタオル
「テラマック」の肌触りの良さを生かしたボディタオル
玉田

布地が立体的でよく泡立ちそうなのに、手触りがなめらかで気持ちがいいです。へー、「テラマック」ってシルクみたいな感触なんですね。

岡本

このボディタオルは質感が良くて、泡立ててこすっても肌に優しいと評判なんですよ。ほとんどのボディタオルは中国など海外で生産されていますが、「テラマック」繊維で作るものは日本製です。

玉田

どうしてなのですか?

岡本

これ、簡単に作れそうに見えて、実はすごく難しいんですよ。ポリ乳酸繊維はきちんと作らないと耐熱性が低くなってお湯の温度でも変形してしまいますから。さらに染色から加工、織りや編みまで高い技術が必要です。このボディタオルも織物メーカーと大変な苦労をして商品化しました。

玉田

真似したくてもなかなかできない技なんですねー。

岡本

こんなバッグにもなってます。

「テラマック」を使用したエコバッグ。ここでも肌触りの良さが生きている
「テラマック」を使用したエコバッグ。ここでも肌触りの良さが生きている
玉田

これ、かわいいですね!色も自然だし、おしゃれです!

岡本

あ、もう一つ面白いものがありました。このシルクのような質感を生かした特別な服なのですが……。

玉田

特別な服?

岡本

ウエディングドレスです。

玉田

えー!そんなものもできるんですか。

岡本

「テラマック」は手触りだけじゃなくて光沢もシルクみたいなので、そんなお話もあるんです。
予約しときますか?

玉田

いえ、まだ予定ないですから(笑)

玉田さんに説明する岡本さん

リサイクルも目指す

岡本

プラスチックが世の中に普及して約70年になります。軽いし強くて複雑な加工もできるし、これからも手放すことはできないでしょう。一方で世界の人口は増えていきます。気候変動によって世界各地で災害が頻発しています。

玉田

本当に。1年中、災害のニュースばかりですよね。

岡本

人類の活動が気候変動に影響しているとすれば、それを抑えるには何かを変えなきゃいけない。何を変えたら豊かな暮らしを続けていけるのか。答えの一つがポリ乳酸。「テラマック」だと思います。

玉田

技術の真価が問われているってことですね。

岡本

ただ、ポリ乳酸の原料には飼料用のトウモロコシやサトウキビが使われています。人口増加と食料不足が懸念されていますから、できるなら食べない部分を使おうという研究はすごく進展しています。草や木、サトウキビの搾りかすを原料にする研究は世界中で行われています。

玉田

そうなれば植物を無駄なく利用できますね。

赤ちゃん向けの食器。食器洗浄機にかけることも可能
新たな原料とするための研究が進む(左から)サトウキビの絞りかす、木くず、草
岡本

さらに、製品になったポリ乳酸を化学的に分解して、もう一度原料にする技術も実験室レベルでは確立されています。そうなると、植物が空気中から取り込んだCO2をポリ乳酸として固定化し、形を変えてぐるぐる循環させることができるようになります。

玉田

そんな技術があるのですか。

岡本

製品をゴミとして燃やさずに原料として使い続けられたら、製品が増えるほどに空気中からCO2が減ることになります。コストの壁はありますが、技術者が目指すゴールはそこにあると思っています。実用化されるのを信じて、私たちは「テラマック」の使い道をたくさん作り出しておきたいと思っています。

玉田

そうですね。もっとぐるぐる回せるようになったらいいですね。夢が実現したら、お話の続きをまた聞かせてもらえますか?

岡本

もちろんです。いつでもお待ちしています。