大魔法使いが登場!?

玉田

ユニチカ魔法学院の4回目のレッスンは、いよいよレジェンド級の大魔法使いが登場するそうです。どんな先生なのでしょうか。

二科

ようこそ玉田さん。ユニチカフィルム営業部の二科昌文です。
では、伝説の魔法使いのところにご案内します。こちらです。

玉田

あれ? パソコンがあるだけですよ。

オンライン講義
坪内

よく来たね。話は聞いているよ。

玉田

あれ? 今日はリモート講義なんですね。

坪内

そこにおる二科くんは教え子じゃ。わしらが作った製品を広めるために世界を飛び回っておる。

二科

こちらが伝説の魔法使い、坪内健二さんです。
先生、今日はぜひ玉田さんに、ユニチカが誇る魔法の素材「ナイローン・フィルーム」のお話をしてあげてください。

ツボウチ・ケンジ
坪内

なんか妙な発音しとるのぉ。ナイロンフィルムのことか?

二科

そうです……。

玉田

それが伝説の魔法なんですか?

坪内

伝説? んーまあそうなのかもしれんなぁ。玉田さんはお餅は好きかな。スーパーで買った時、餅は何に入っとる?

玉田

透明な袋に入ってますね。

坪内

じゃあ、レトルトカレーの封を切ったら、内側はどうなっとるか覚えてるかい?

玉田

外側は銀色ですが……内側には透明な膜があったような。

ナイロンフィルムの開発者

坪内

その透明なやつを50年前に開発したんだよ。

玉田

えっ?! それを坪内さんが?

坪内

いやいや、わしだけやないよ。
入社した1968年に当時、ユニチカの「プラスチック研究所」で世界初の工場を作ろうとしていたんだ。ナイロンという丈夫なプラスチックを薄く延ばしてフィルムにする工場さ。そこに新人として加えてもらったんだ。

二科

玉田さん、50年前は液状のものや生ものはどんな容器で売られていたと思いますか?

玉田

うーん……。ガラス瓶ですか?

坪内

そう。瓶や缶が中心だったんだ。そこにプラスチックの袋が出てきて飛躍的に軽くなった。運送するトラックの燃費は上がったろうな。
でも、当時はまだポリエチレンという素材の袋が主流だった。スーパーの会計後に肉や魚のパックを入れる半透明な袋のことだよ。薄くて軽いけど、とがったものが当たるとすぐに破れてしまっていたんだ。

ポリエチレンのビニール袋
スーパーでよく目にするポリエチレンのビニール袋。とがったものには弱い
玉田

あー、あのとても柔らかい袋ですね。確かにすぐに破れてしまいますね。

坪内

そうなんだよ。当時は高度成長期。経済の発展と共に、冷凍やレトルトの食品がたくさん生まれたんだ。
商品開発に不可欠なのが袋だよ。腐らせず、湿気を防ぎ、酸化もさせずにおいしさを保つ包装素材を、どのメーカーも探し回っていたんだ。

玉田

確かに、あの柔らかい袋だけでは心許ないですよね。もっと丈夫なものがないと……。

坪内

冷凍食品はカチコチに凍っとるから硬いやろ? それをトラックで運んでいると、袋同士がこすれて穴が空いたり破れたりしてしまっていた。
それを解決しようと我々は「破れにくいナイロンフィルムの袋」を作って売り込んだんだ。

冷凍食品は硬いため、特に丈夫な袋が必要とされていた
冷凍食品は硬いため、特に丈夫な袋が必要とされていた

1800キロ走って実証

玉田

みんなが欲しがっていたのなら、飛ぶように売れたんじゃないですか?

坪内

そうだったら良かったんだがなぁ……。なにせ、ナイロンフィルムを使った袋は従来の包材より値段が5倍も高かったんだ。いくら性能がいい!と言ったって、使ってもらえなかった。
結局「百の理屈より一つの事実だ!」ということになって、ユニチカのトラックにメーカーの冷凍食品を乗せて、北海道から大阪まで1800キロを走る実験をやって見せたんだよ。

雪道を走るトラック ※写真はイメージです
玉田

トラックに商品を載せて、北海道から大阪まで? わざわざそんなことしたんですね。
袋は耐えられたのですか?

坪内

高速道路もほとんどない時代だったから大変だった。でも、袋は大丈夫だったよ。
やっぱり論より証拠。それで北海道の大手メーカーの「冷凍栗かぼちゃ」に採用が決まった。かち割り氷やインスタントラーメンとかでも同じ実験をして、いずれも好成績だった。

ナイロンフィルムは強度が高いので、硬く・とがった氷でも破れにくい
ナイロンフィルムは強度が高いので、硬く・とがった氷でも破れにくい
二科

自社の製品で輸送テストをしたから、メーカーの担当者さんも上司を説得できたんですね。

坪内

大手に採用されたおかげで中小企業も耳を傾けてくれるようになった。スイートコーンやミックスベジタブル、冷凍ピザにも使われて、市場はあっと言う間に広がったよ。

〝レジェンド〟と呼ぶ理由

玉田

いやー、苦労のかいがありましたね。その50年前に開発したフィルムは、今も作り続けているんですか?

二科

それが、ナイロンフィルムの生産は、開発から半世紀たっても弊社がトップシェアです。

玉田

えー、それは結構すごいことですよね?

坪内

うちのフィルムはコシが強くて均一なんだよ。食品の製造現場は自動化と高速化が進んだ。すると、機械トラブルが少なくなるフィルムが求められる。
うちのは均一でよれが少ないから、機械で扱うときにトラブルが出にくい。結果としてお客さんの不良品が少なくなるな。だから、特許期間が切れても国内シェアがまだ3割を超えているんだと思うよ。

二科

これが坪内さんたちが「大魔法使い」と言われる理由なんですよ。
今ではこんなに広い用途でナイローン・フィルームが使われています。

ナイロンフィルムの利用例。硬いもののほか、液体への利用例も多い
ナイロンフィルムの利用例。硬いもののほか、液体への適用も多い
玉田

すごいたくさんですね。あれ?
この中には冷凍じゃないスープやオイルなんかも入ってますね?

二科

そうなんです。ナイロンフィルムは液体の保存性も飛躍的に高めたので、冷凍品以外にもたくさん使われています。
さらに熱にも強いんです。袋ごと熱湯で殺菌すれば賞味期限が一気に伸びます。例えばタケノコの水煮は6カ月から1年になりました。

坪内

あと、空気が入るのを防いで酸化から守る袋も作れるようになったな。味噌も色が変わらずおいしさが保てるようにできたし、ソーセージの袋は酸素バリアのおかげで数週間たっても大丈夫。小売店からの返品がほとんどなくなったんだ。

真空パックされたトウモロコシを手に話す二科さん
特殊加工したナイロンフィルムを他の素材と重ね合わせ、真空パック後に加熱殺菌することでトウモロコシは常温で1年の賞味期限を実現している
玉田

賞味期限って、袋の違いでそんなに伸びるんですか?
そういえばレトルトカレーは1年以上も美味しく食べられますよね。すごいことだと思うんですが、あれはどうしてなのですか?

二科

レトルトパックの表側の銀色はアルミ箔。アルミ箔は食べ物を酸素や紫外線から守れるけれど薄くて破れやすいんです。
だから、破れにくくて熱に強いナイロンフィルムなどを内側に張り付けて、それを補っています。色々な素材の欠点を互いに補い合ってるんです。袋は機能の足し算でできています

レトルトカレー用フィルムの構造
玉田

一枚の袋で何枚ものフィルムが連携プレーをしているんですね。

坪内

そう。こういう技術の積み重ねで、プラスチックの袋ってのはわしらの生活を変えてきたんだ。
豆腐なんか、わしらが子どもの時は近所の豆腐屋でボウルに入れてもらったもんだ。コンニャクは塩ビのトレイで売られていたな。腐りやすいから買い物は毎日するのが当たり前だったよ。

玉田

毎日買い物ですか。それは大変ですね。

坪内

でも、様々な袋ができたおかげで賞味期限が飛躍的に伸びて毎日買い物しなくて良くなった。もちろん冷蔵庫や色々な保存技術の開発も大きく貢献しとるがな。

坪内さんの話を聞く玉田さんと二科さん
玉田

私達が「まとめ買い」なんてことができるのも袋のおかげかも知れません。

坪内

そうだね。ただ、今はプラスチックに対する風当たりはとても厳しい。色々な問題があるからな。
でも今日話したように、プラスチックフィルムが食品の劣化を防ぎ、食品ロスを減らしてきたという側面も見てほしいんだ。そして、プラスチックフィルムに変わるものは、まだ世の中にはないんだよ。

2つのリサイクルでCO2削減

二科

ただ、私達だって今のままでいいとは思っていないんです。気候変動が深刻化する中でCO2排出を少しでも減らさなければなりませんから。

玉田

どうすればCO2を減らせるんですか?

二科

フィルムは石油由来ですから、石油の使用量を減らせばCO2の発生を抑えることができます。そこでユニチカではフィルムの製造工程の廃棄物を原料にリサイクルしているんです。

坪内

ナイロンやポリエステルのフィルムを作る時には切れ端が出る。これを砕いて溶かして原料にするんだ。これはマテリアルリサイクルと呼ぶよ。

二科

もう一つは、廃棄物を、再び分子レベルまでバラバラに分解して、もう一度原料にする方法です。これをケミカルリサイクルと言います。

ユニチカが進めるケミカル&マテリアルリサイクル
ユニチカが進めるケミカル&マテリアルリサイクル
玉田

捨てずにぐるぐる回す技術なんですね!

二科

ちなみにケミカルリサイクルは、最初の原料とまったく同じ分子にまで分解されるから品質は変わりません。これにマテリアルリサイクル側の再生原料も溶かし合わせて、食品衛生法の基準をクリアしています。

玉田

再生原料でも衛生上の問題はないんですね。

二科

ユニチカでは、ナイロンフィルムは「エンブレム」、PETフィルムは「エンブレット」と呼んでいますが、再生原料を使う製品は語尾にサーキュラーエコノミーという意味の「CE」がつきます。

二科さんの話を聞く玉田さん
坪内

ちょっと高くても、この価値を分かってもらえるようにしたいところやなぁ。

玉田

値段が高めなんですか?

二科

できるだけ抑えていますが、やっぱり少し高めです。リサイクル品だから安くなると思われるので、この技術と手間を理解してもらうのが大変で……。
でも、大手の食品や化粧品、ペットフードメーカーなどからの関心が高まってますよ。

玉田

気候変動の影響では?と思うことが増えてきていますし、私達消費者の意識も変わってきていますものね。

二科

メーカーさんからは従来よりCO2をどれだけ出さなくなったか数字で求められます。弊社のCEタイプは石油原料100%の従来品と比べてナイロンフィルムは38%、PETフィルムは27%のCO2を減らす効果があります。

エンブレムCE・エンブレットCEのCO2排出削減効果
玉田

ずいぶん減るんですねー。

坪内

そうだろう? 今日はプラスチックフィルム、特にナイロンフィルムの話をしてきたが、どんなものかわかってもらえたかな?

玉田

はい、よくわかりました。
ナイロンフィルムが私たちの暮らしを変えたこと、食べものを守り続けてきたこと。そして現代に適合しようとしていることも。

二科

ありがとうございます。私たちも50年の歴史にあぐらをかかず、現代の皆様に喜んでいただけるように日々改良していきたいと思います。

4回目のレッスンを終えた玉田さん、坪内さんと、二科さん