TCFD提言に基づいた開示
ガバナンス
ユニチカの取締役会は、気候変動対応を含むサステナビリティに関する事項について、サステナビリティ委員会より年1回以上の報告を受けています。また、ユニチカグループの優先課題に対する指標(KPI)の進捗状況を監督し、中期経営計画の策定時に反映しています。
サステナビリティ委員会の委員長には、代表取締役社長執行役員が就任しています。取締役会は、サステナビリティ委員会から報告を受けた気候関連課題に関する課題への取り組みについて、指示・承認をしています。また、サステナビリティ委員会の下に、TCFD提言に基づく開示を進めるTCFD部会を設け、開示の充実を図っています。
戦 略
ユニチカグループでは気候変動に関する重要なリスク・機会として、下表の項目を認識しています。ユニチカグループでは今後、対象事業や用途領域を選定しながらシナリオ分析を深め、随時リスクと機会を見直しながら、段階的に開示情報を拡充していく予定です。
(1)リスク・機会の特定
ユニチカグループにおける気候変動に関連する主なリスク・機会について、短期・中期・長期の観点で特定し、下表のように整理しました。なお、今年度は、全事業に共通して関連するリスク・機会を特定したほか、ユニチカグループの3つのセグメントの一つである「高分子セグメント」における製品の主要な用途である「生活・安全領域」を対象に固有のリスク・機会についても特定しました。
分 類 | 要因 | 事業影響 | 財務影響 | 主な対応 | 時間軸※1 | 全※2 | 生※3 | モ※4 | |
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移行 リスク |
規制 | GHG排出規制強化 | 炭素価格導入によるエネルギー・原材料の価格上昇 | 操業コストの増加 調達コストの増加 |
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中期 | ● | ||
廃棄物処理規制の 強化 |
ラミネート製品の減少 | 売上の減少 |
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中期 | ● | ||||
市場 | 循環経済、脱炭素 社会の進展 |
環境負荷の大きい素材の需要減少、低炭素な消費方式(リターナブル容器など)への切り替えによる自社製品の需要減少 | 売上の減少 |
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中期 | ● | |||
技術 | 循環経済、脱炭素 社会の進展 |
環境対応(サーキュラーエコノミー)への技術開発負担の増加 | 研究開発コストの増加 |
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中期 | ● | |||
評判 | 市場での評判の 変化 |
ブランドイメージ悪化による企業価値の低下、投資対象からの除外 | 資金コストの増加 |
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長期 | ● | |||
物理的 リスク |
急性 | 気象災害の増加 (洪水や干ばつ等) |
自社グループ工場の被災 | 復旧コスト等の増加 売上の減少 |
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短期 | ● | ||
気象災害の増加 (洪水や干ばつ等) |
取引先工場の被災に伴う原材料・部品等の入荷停止 | 売上の減少 | 短期 | ● | |||||
慢性 | 気象災害の増加 | 保険事故の世界的な増加に伴う保険料の上昇 | 保険コストの増加 | 長期 | ● | ||||
機会 | 製品・ サービス |
循環経済、脱炭素 社会の進展 |
リサイクル素材・バイオマス由来素材の需要の増加 | 売上の増加 |
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中期 | ● | ||
循環経済、脱炭素 社会の進展 |
食品ロス・廃棄削減に寄与する製品(ガスバリアフィルム等)の需要の増加 | 売上の増加 | 中期 | ● | |||||
循環経済、脱炭素 社会の進展 |
EVシフトの進展における車両軽量化・バッテリー向け関連製品の増加 | 売上の増加 | 中期 | ● | |||||
循環経済、脱炭素 社会の進展 |
環境対応素材の開発や実装に関する助成事業の強化 | 資金コストの低下 |
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短期 | ● |
※1 時間軸(リスク・機会発現までの期間) 短期:2025年頃、中期:2030年頃、長期:2050年頃
※2 全(全事業共通のリスク・機会)
※3 生(フィルム事業/樹脂事業 生活・安全領域固有のリスク・機会)
※4 モ(フィルム事業/樹脂事業/不織布事業 自動車・モビリティ領域固有のリスク・機会)
(2)シナリオ分析の実施
整理した気候関連リスク・機会のうち、事業への影響度、事業戦略との関連性、ステークホルダーの関心度等を勘案し、ユニチカグループとして重要度が高いと評価したテーマについて、「2℃未満シナリオ」「4℃シナリオ」を設定しシナリオ分析を実施しています。以下に、シナリオ分析の検討結果を記載します。また、「4℃シナリオ」での物理リスクについては、主として洪水や干ばつなどを認識しており、今後も検証・評価を進めていきます。
2℃未満シナリオ | 4℃シナリオ | |
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設定したシナリオ |
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IEA : International Energy Agency (国際エネルギー機関)
WEO : World Energy Outlook
APS : Announced Pledges Scenario (発表誓約シナリオ)
STEPS : Stated Policies Scenario (公表政策シナリオ)
SSP : Shared Socio-economic Pathways(共通社会経済経路)
RCP : Representative Concentration Pathways (代表的濃度経路)
シナリオ分析①(機会)
リサイクルプラスチックの需要増加
<影響評価>
化学セクターにおいて、2℃未満シナリオでの石油使用量は、燃料用は減少が想定されていますが、プラスチック原料用は、4℃シナリオと同様に、増加が想定されており、いずれのシナリオでも化石資源由来プラスチックの需要が今後も見込まれます。その中で、リサイクルプラスチックの使用量は、2℃未満シナリオと4℃シナリオのいずれにおいても増加が想定されていますが、2℃未満シナリオで特に大きな増加が想定され、循環経済・脱炭素社会の進展に伴い、リサイクルプラスチックの需要増加が見込まれます。
リサイクルプラスチックについては、従来の繊維や樹脂に加え、ケミカルリサイクル・マテリアルリサイクルによる再生材料を使用した食品包装用フィルム「エンブレムCE」「エンブレットCE」を強化していきます。
シナリオ分析②(機会)
食品ロス・廃棄削減に寄与する製品の需要の増加
<影響評価>
世界全体の食料需要量については、今後も増加が想定されることから、食品ロス・廃棄の課題の重要性は今後も高まると考えられます。
食品ロス・廃棄削減の動向については、FAO(国連食糧農業機関)において世界全体の食品ロスの割合がモニタリングされているほか、SDGs目標12.1「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」において、ターゲット12.3「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品の損失を減少させる。」が掲げられており、SDGsの実現を目指す社会の中で、食品ロス・廃棄削減に寄与する製品の需要の増加は、今後も進むと想定されます。
今後、バリアナイロンフィルム「エンブレムHG」等の高付加価値品の展開を加速するとともに、より食品ロス・廃棄の課題の重要性が高まると考えられる海外市場への拡販を強化していきます。
シナリオ分析③(機会)
EVシフトの進展における車両軽量化・バッテリー向け関連製品の増加
<影響評価>
4℃シナリオと2℃未満シナリオ共にEV新車販売台数は増加することが見込まれますが、特に2℃未満シナリオの場合は2050年のEVの販売比率が大幅に増加すると推計されます。
当社グループにおける主なEV向け関連製品はEVの車両軽量化に寄与する製品として「ナイロン6樹脂(自動車用途)」、「不織布(自動車用途)」があり、EVバッテリー向け関連製品として「LIB用フィルム(EV用バッテリー用途)」があります。
いずれの用途の市場もEV市場に比例した成長が見込めますが、車両軽量化に寄与する製品は現在販売しているガソリン車に適した製品からEVに適した製品への切り替えが必要になります。EVシフトの進展によりEV用LIBの市場は今後拡大し、それに伴いフィルムを使用したパウチタイプの需要も増加が見込めます。
ナイロン6樹脂(自動車用途)については、EVシフトを進める顧客への営業を強化し、軽量化が求められる車両部材への採用拡大を目指します。不織布(自動車用途)については、EVシフトの進展に伴い、車両軽量化に資する材料の提案を進め、かつ、EVの居住性を向上させる内装材用途の拡販を進めます。
LIB用フィルムについては、顧客の新規設備の立ち上げに素早く対応してシェア拡大を狙います。
リスク管理
ユニチカグループでは、2020年にサステナブル推進プロジェクトを立ち上げ、各セグメント担当などの部門のトップ全員から構成されるメンバーが、ステークホルダーにとっての重要性とユニチカグループにとっての重要性の2軸で評価し、優先課題を特定すると共に、リスクと機会に分類しました。これら優先課題の中には、「環境と共生する企業活動の推進」があり、この中には気候変動の関連リスクが含まれています。サステナビリティ委員会は、必要に応じて、このリスクの妥当性を評価していき、気候関連を含む新たに特定したリスクについては、重要と判断するものを取締役会に報告していきます。
指標と目標
ユニチカグループは、2021年に優先課題に対する指標と目標を策定しました。ユニチカグループでは、CO2排出を気候変動の関連リスクと認識しており、これに対する指標として、国内全事業所からのCO2排出量(Scope1+Scope2)を用いています。2030年度に46%削減(2013年度比)を目標とし、2050年度カーボンニュートラルを目指しています。今後は海外事業所やScope3の算定にも着手し、更なるCO2排出量削減を目指します。