トップメッセージ

上埜修司上埜修司

収益力を強化して成長軌道に乗せることが私の使命。
強みである高機能・環境配慮型の製品を軸に、
より良い未来社会に貢献する企業を目指す。

代表取締役社長執行役員 上埜 修司

何としても営業利益の本年度黒字化を実現。

 私たちユニチカグループは、2030年を見据えた長期ビジョン「G-STEP30」※1を掲げていますが、2023年度はそのセカンドステップとして事業強化へのシフトチェンジを目指した中期経営計画「G-STEP30 2nd」の1年目が終わりました。ビジネス環境が引き続き不安定なこともあり、業績としては非常に厳しいもの※2になりましたが、その中でサステナビリティに関する取り組みについては、2030年に向けてブレることなく前進しており、苦戦する部分がありつつも、プロセスとしては着実に歩んでいます。サステナビリティは企業として活動を続けるためには、必須中の必須課題で、グローバルマーケットでビジネスを展開するには、当たり前の取り組みと捉えています。
 2024年度について、私が組織のトップとして特に申し上げたいのは、収益基盤を立て直して営業利益を重視した結果を出すことです。何としてもこれにこだわって、2024年度末(2025年3月期)には営業利益黒字化を実現することを私の公約にしたいと考えています。そのために当社グループの収益力を回復、強化させて成長軌道に再び乗せることが、私が果たすべき使命であると考えています。

※1 2020年5月にユニチカグループのあるべき姿を見直し、2030年近傍を見据えて3か年の中期経営計画を3段階で設定した長期ビジョン。
※2 2023年度の業績は2022年度比で売上高は4億円増収の1,183億、営業利益は38億円の大幅減益により25億円の赤字となりました。

「暮らしと技術を結ぶ」の理念に基づく経営方針を全社に共有。

 当社グループの経営理念は「暮らしと技術を結ぶことによって社会に貢献する」です。歴代の社長も中長期の経営計画を策定する際には、これを必ず念頭に置き、その上で一つひとつの施策をさまざまな角度から考えてきました。私の代になって、G-STEP30という長期の経営計画を立てたのですが、これももちろん経営理念をスタートラインにしました。では理念にある私たちの技術が貢献するべき暮らしとは何か。それを当社グループが提供する価値として3つの暮らし「安全で安心な暮らし」「便利で快適な暮らし」「環境と共生する暮らし」と定めています。
 さらには昨年度からスタートしたサステナビリティプラン※3も合わせてグループミッションとすることで、「お客様から選ばれ続ける企業」を目指し、持続可能な社会の実現に貢献するという長期ビジョンへの流れができており、発表資料などを通じて社内外への理解を促しています。社内報の表紙に従業員のコメントを掲載しているのですが、営業、経理、工場勤務などをはじめ、いろいろな立場の従業員が「暮らしと技術を結ぶ」について言及しているのをよく見かけます。経営理念が社内にダイレクトに浸透していることを実感します。
 私自身はもともと技術畑の人間で、開発の現場で長く働いてきたのですが、悩んだとき、壁にぶつかったときなどは、経営理念に何度も助けられてきました。困難に直面したときに、この技術は何のためにあるのか、暮らしに結びつかないといけないのだと基本に立ち返ることのできる、励みになっていた言葉です。おそらく私以外の開発に携わる人たちも同じようなことを感じていたのではないでしょうか。
 海外拠点においては言語の壁もあり、現地の従業員とダイレクトに話す機会がなかなかないとはいえ、お話をする機会があれば、そのときは必ず経営理念を念頭に置き、その次に、提供価値である3つの暮らし、といったように順序立てて当社グループの社会的な役割の理解と浸透を促すよう努めています。

※3 前中期経営計画の期間中に優先課題とKPIを策定。SDGsの考え方にある「Prosperity」「Planet」「People」の3つに分類して施策を推進。

「お客様から選ばれ続ける」ために、事業強化へのシフトチェンジに注力。

 長期ビジョンである「お客様に選ばれ続ける企業となる」を実現するために、各3年単位の3つのステップで経営計画を進めており、現在は2ステップ目に差し掛かっています。3つのステップの中での一貫したテーマとして3つのG、「Growth」「Global」「Governance」を設定しており、その進捗を管理しています。
 「G-STEP30 2nd」の進捗についてですが、業績面で苦戦していることもありますが、その中でもさまざまな課題に手を打っています。具体的には、サステナビリティプランという形で8つの優先課題※4とそのKPIを、2025年度に中間目標、2030年に長期目標として設定しています。2023年度で特に進んだものとしては、人材に関することです。当社グループのように技術を核とする企業の重要課題は人材の育成です。技術や営業のノウハウをいかに育成して伝承していくか、そして当社グループの次世代を担う中核人材の育成、これらに関して着実に進めることができたと感じています。
 現在、注力しているのが3つの暮らしに貢献する製品の販売拡大ですが、これを収益の向上につなげたいというのを1つの大きな柱としています。「安全で安心」「便利で快適」「環境と共生する」、そういう製品を世に送り出すことで社会に貢献できれば、自然とお客様に選んでいただける。お客様に選んでいただけたら収益につながる。こうしたストーリーにこだわっており、ビジネス環境が必ずしも良くはなかったのですが、23年度はこの3つの暮らしへの貢献については、さまざまな商材を通じて一定の進捗があったと考えています。
 一方で長期ビジョンの実現に向けた施策を進めるに当たってのリスクについてですが、G-STEP30を発表した直後にコロナが始まったように、急激なビジネス環境の変化が挙げられます。またグローバル市場もかなり変化しており、ビジネス環境におけるこうした不確実性が顕在化する傾向が昨今多く、柔軟に計画を変更、改善する体制が重要だと感じています。
 そしてグローバル化の推進についてですが、ここ数年の海外売り上げ比率は23~24%と大きく変わりませんが、これを早く30%まで引き上げたいというのが2030年に向けての目標です。当社グループは東南アジアを成長のキーポイントとなる市場として見ていますが、2023年度は中国の供給過多の製品が東南アジア市場に流入して、想定を超えて競争が激化しました。2024年度からは戦い方を変えるための対策を講じています。東南アジア市場の競合環境が厳しいとはいえ、売り上げを伸ばすだけならそれほど難しくはないのですが、きちんと収益が伴うかを判断しながら販売先の選定を行っているところです。

※4 8つの優先課題とは3つの暮らしに「環境と共生する企業活動の推進」「人権の尊重」「働きがいのある会社づくり」「ダイバーシティの推進」「サプライチェーンマネジメントの強化」を加えたもの。

強みであるニッチ市場への対応力を、より強めるための多角的な成長戦略。

 当社グループの競合優位性としては「多様なニーズへの対応力」「グローバルニッチな技術と製品」「国内・世界トップシェア製品」「コア技術」の4つを挙げていますが、やはりメーカーですのでものづくりの技術に強みがあると私は考えています。具体的に言えば、1つは高分子ポリマーの技術、もう1つはユニチカの祖業である繊維とその加工技術です。私たちはこれまで高分子材料にとどまらず金属材料やセラミック材料までも繊維に加工してきましたし、現在でも無機ガラス材料や活性炭を繊維に加工しています。これらの技術を組み合わせて特徴のあるものを生み出していく。つまり商品開発の切り口に応用して自社の独自性が出せるニッチな市場の開拓に活かし、お客様の求める半歩先のニーズを捉えることができれば、自社のターゲット市場にできると考えています。
 そのために重要なのが「製・販・開」の一体化です。これはメーカーでよく使われる言葉で、製造、販売、開発がしっかりと結びついていないと、お客様やニーズなどの情報が生きてこないと言われています。当社グループの営業部門には、営業企画などに技術部門出身者がおり、営業担当者と一緒にお客様対応するなど、多様で専門的なニーズへの的確で細やかな対応を目指して、つくる人、売る人のコンビネーションを高めています。
 技術を強みとする企業として競合優位性を強化するためには、知的財産も重要なポイントです。成長戦略の大きなポジションを占めるようになっており、今後も力を入れていきます。特許の数は当社グループより売上規模の大きい企業と比較しても決して引けをとらないと自負していますので、引き続き知的財産を守る体制の維持・向上に努めます。
 競争力強化を進める上での優先順位としては、先ほど申しました「製・販・開」のコンビネーションの強化に加えて、強い事業、いわゆる稼ぐ力のある事業に人、物、金といった資本を投下していく。そのために、中期経営計画の思惑の大中小で選択的に資本を振り分けていこうと考えています。
 財務指標で重要視しているのはやはり収益力の代表選手となる営業利益です。
 当社グループは借入金の多い会社ですから、営業キャッシュフローがどうしても必要となります。借入金には当然ですが金利負担が、老朽化した設備への対応には維持更新のための設備投資が常に生じます。だからこそ営業利益にこだわることが重要ですし、自己資本利益率を上げていくことにつながると絶えず意識しています。借入金を減らしてもっとスリムな財務を目指すのが本来の姿だと思いますが、借入金を返すのもキャッシュフローですので、やはり営業利益の向上が最重要課題だと認識しています。
繰り返しになりますが、最もこだわりたいのは営業利益です。2024年度はなんとしても営業利益を黒字化する、これを公約に掲げ、全ての利益を底上げしていく姿を社内外に見せたいというのが私の強い思いです。そのためには採算事業の見極め、不採算事業の是正が必要で、その事業の営業利益が赤字かどうかが判断基準になりますが、そこは今だけを見るのではなく2年後、3年後の当社グループのあるべき姿を議論しながら、事業構造の改善を進めています。
 設備投資の計画については、過去3年は年間50~70億円、トータルで200億円規模を、収益を高めるための投資と、製造設備の機能維持のための投資に費やしてきました。しかしながら2024年度は厳しいビジネス環境も鑑みて、投資効率も含め見直して投資額を従来の半分程度に抑えようと計画しています。8つある事業分野については、相互に関係している部分もありますので、全体のバランスを見ながら構造改善も必要だと考えており、現在作戦を練っているところです。

全ての委員会が取締役会に直接報告するガバナンス体制が完成。

 次に当社のガバナンス体制の整備状況について、ご説明したいと思います。まずは品質保証体制についてですが、2019年度に品質不適切事案を発生させ、お客様にご迷惑をおかけしました。この反省に基づき、2020年度に私が委員長となり品質保証委員会を設置し、品質保証室が品質保証活動を統括する体制を整えました。2023年度(2024年3月期)には海外拠点にも活動を広げることができ、海外を含め目が行き届くようになり、国内外で品質保証の体制が整備できたと感じています。
 経営体制については、社外取締役や社外監査役の方にも経営会議に出席していただいており、課題を共有しています。社外の役員だと事業分野や現場をあまりご存知ないところもありますが、ご存知ないからこそのシンプルで率直な質問や意見もあり、議論が活発になります。社内の人間に新しい視点をもたらしてくれて、いいガバナンスになっていると実感しています。
 また、品質保証委員会はもちろん、サステナビリティ委員会、リスクマネジメント委員会、コンプライアンス委員会など、全ての委員会が取締役会へ直接かつ定期的に報告するシステムの整備を進めていたのですが、これが2023年度で完成しました。
 社内外の取締役の議論が活発になっていると申しましたが、特に人材に関する議題は社外の役員の方々も専門的な意見を述べられることがあり、白熱します。ご自身の経営者としての経験に基づく方法論をお持ちの方や、大学関係でしたら若い世代とのコミュニケーション方法に精通している方などから、有意義なヒントやご意見、ご指摘をいただいています。また、月例の報告の中では、社外の役員の方々から前月に出た課題の進捗を問われますので、当然それに対する返答が求められるという、いい緊張感が取締役会に生まれています。報告体制に関しては、重要事項、特にマイナスの情報ほど早く共有しないといけない、これはビジネスの鉄則だと思います。そうした情報が上がって来たら、取締役会の開催を待たずに役員ミーティングを臨時で開催するなど情報共有のスピードアップを図っています。

サステナビリティも成長の原動力と捉え、収益力強化に邁進。

 先日、化学繊維の国際会議に出席したのですが、環境と共生するというサステナビリティの観点はもう避けて通れない動きになっていると肌で感じました。
 特にヨーロッパの方々はCO2>の削減に関してはゼロエミッションにするくらいの強い意志がありました。また、CO2だけでなく、危険で有害な化学物質を使っていないか、サプライチェーンを含めて人権を守った企業活動を行っているかなど、そういう価値観が世界で当たり前のように求められる時代になっていると強く感じました。その中で、当社グループがサステナビリティプランで掲げている目標は間違いないとも思いました。ただ、一方で2030年目標に囚われず、世の中の変化に合わせて、私たちも変化を恐れずその都度適応していく柔軟性が必要だと考えています。サステナビリティは企業経営の中心的な課題であり、企業として生き残るためには必須中の必須ですが、現状の計画は進めるにしても、もっと別次元の捉え方をしてより積極的に取り組んでいかなければ、グローバルマーケットの経済活動に参加できなくなると感じています。世界の市場で戦うための競争優位性というよりは、標準装備として必要なものだと捉えています。
 改めて2023年度の振り返りをしますと、業績面では、東南アジアでの成長が思うように実現できず、また、繊維事業は赤字幅が縮小※5してきましたが、高分子事業で持つ強みを十分に伸ばせているとは言えません。※6この海外展開、高収益事業の立て直しを今後の課題として早急に進めていきます。
 続いて2024年度の展望ですが、原燃料高の価格転嫁が遅れている部分を、ご承諾いただいているお客様から順次進めていきます。今年の中頃から実現していく予定です。人材投資も積極的に推進していきます。人的資本は経営の重要な基盤です。人なくして企業経営は成り立たないという考えですので、ここはしっかりと時間をかけてでも、グローバルな人材育成、そしてスタートした中核人材の育成をさらに強力に推進していきます。また、サステナビリティは今後の大きなスタンダードになるのは間違いありません。ということはビジネスのチャンスも当然あると考え、そのチャンスをしっかりと見据えて取り組んでいきます。
 冒頭でも申しましたように、収益基盤、事業基盤を整備して、企業としての収益力を回復、強化して成長軌道に乗せることがトップに立つ今の私の使命です。そのために必要な施策をあらゆる角度から検討して、全力で取り組んでいきます。そして目指す姿である「お客様から選ばれ続ける企業」「持続可能な社会への貢献」に向かってグループ一丸となって挑んでいきますので、ステークホルダーの皆様におかれましては、当社グループの活動へのご理解とご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

※5 価格改定やコストダウンの効果により収益改善が進み、営業赤字は前期から縮小。
※6 川下における需要低迷とサプライチェーン内の在庫調整の影響を受け、販売量が減少。


上埜修司